いつもと変わらない晴天の日だった。
雲一つない青空、
そよぐ風に揺れる木々…
平地を静かに流れる川のせせらぎ…
そこに群がり魚を捕る鳥達
全てがいつもと変わらない、普通の風景に見える。
でもなんか違うと少女は幼いながらに感じていた。
その日、黒づくめの衣装を着た二列の行列は小高い丘陵をゆっくりと登っている。
一角にその少女は居た。
齢3歳、この行列の意味もまだ介してない少女の瞳はその日の晴天のように真っ直ぐで希望に満ちていた。
まるでピクニックに出かけているかのように。
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その日、1914年某日、
志半ばでこの世を去った1人の軍人の葬儀が執り行われようとしていた。行列の中には生前の彼をよく知る同僚、上司、ライバル、友人と沢山の人間が参列している。
この人の多さだけで生前の彼の人望を手に取るように理解することができる。
その行列の一角、棺のすぐ後ろを母親らしき女性に手を引かれて歩く少女はまだ今日の日という意味を理解できないでいる。
「ねぇ!どうしてパパを埋めちゃうの?もうお仕事できなくなっちゃうでしょ?やめてよ?ねぇってば!!」
丘陵の頂上、墓地が広がる場所に着いた時、
少女はようやく違和感が現実だと理解した。
父が入っている棺が地中に埋められていくのだ。
少女は母親や父の友人の男性に棺を埋めるのをやめるよう懇願する。
彼女の父が入っている棺は丁寧に土の中に置かれ、同じく黒い礼服を見にまとった若い男達がそこへ土をかけていく。
もちろん少女の叫びは止まらない。埋められていく父を助けようと泣き叫ぶ。
もちろんそこにいる大人達は答える事はできない。
その少女にとって残酷以外の何物でもない現実だからだ。
その時彼女の母親らしき人物が今にも飛び出そうとする少女を抱きしめる。だが、少女の瞳はじっと土をかけられ、見えなくなっていく棺に向けられている。
「エリシアやめなさい!」
母親の腕を制して棺に向かおうする少女。
母親は彼女をを強く抱きしめながら嗜める。
周囲は健気な少女の言葉とそれを取り成す母親の言葉に胸を打たれる。
「でも…パパが…パパが…」
それでも少女は母親の制止を振り切ろうとする。
その様子に母親は大粒の涙を流しながら声を絞り出すように叫ぶ。
「パパは…死んじゃったのよ」
母親から聞かされた瞬間、
少女の中で何が弾け、
そして周囲が暗闇に満たされる。
そして自分から背を向け去っていく父親の姿が浮かんだ。
振り向きざまに見たその笑顔は彼女が知っている自分の父のそれ、そのものだった。
「パパまって!ねぇ!まってってばーーー」
少女の叫びだけが暗闇にこだましていた。