大陸暦1930年11月20日
アメストリス東方地区 リオールプラザホテル
エリシアは自室のベッドの中にいた。
結局昨晩は一睡もできなかった。
昨日のエドの言葉が頭の中をぐるぐると回る。
『お前は彼らのおかげで無事戻ってこれたんだ』
エドの言葉が胸を抉るように痛い。
《私の体と魂が無事なのは私を信頼してくれたみんなのおかげ。私は今彼らの魂の上で生きている》
そう考えると身を投げ出したい自分と彼らの魂の分強く生きなければという想いが交錯する。
《どうにかして彼らを助けられないだろうか。エドワードさんはアルフォンスさんの魂と体を助けたと言ってた。だったら私も自分を代価に彼らを戻せるはず》
そこまで考えた時にエリシアは自分の考えを即座に否定する。
《エドワードさんも言っていた。将兵全員分なんて私1人じゃ足りない。足りない?》
そこまで考えた時、
エリシアの脳裏におぞましい考えが浮かぶ。
だが、それは考えたくもない結論であった。
それは錬金術師における禁忌。
《私があのパパ瓜二つな男性を錬成…した?》
人体錬成…
そのおぞましいその思考に胸が押し潰されそうになる。だが、一転それは彼女の中に一筋の光を差し込んだ。
エリシアはベッドから飛び起きると着の身着のまま部屋を飛び出す。そして隣のエドの部屋をノックする。
「はい。っとエリシア」
昨日のことで彼なりに気を使っているのだろうか。エドのエリシアを見る顔もさえない。
「お話があります。失礼します」
エリシアはそうエドに告げると部屋の中に入る。
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「人体錬成?人間の体と魂で他の人間を錬成した?確かに等価交換の理論上は可能だが、死者の錬成はできない。それが真理。だから俺たちは代償を払った」
エリシアは自分の仮説をエドにぶつけた。
だが、彼の見解を聞き、またも打ちのめされる。
それでもエリシアには確信に似た仮説があった。
だからどんなに先輩錬金術師に否定をされても食い下がる。
「あれは父ではありませんでした。父の器に別の人が入り込んでいるような感覚でした。だから父と瓜二つのあの男を見つけて…もう一度…真理の扉を開いたら…みんなを…みんなを助けられるんじゃないかと…」
半ば涙声になりながら問いかけるエリシアにエドはかける言葉を失う。錬金術師として彼女が積み上げた理論には一抹の可能性があることも事実とエドも感じたからである。
「もう誰かが目の前からいなくなるのは嫌なんです。もしどこかに可能性があるなら、私は…私は諦めたくない」
エリシアの言葉にエドはもう返す言葉がなかった。
「分かったよ。俺はもう錬金術は使えないし、西に戻らないといけないけど、お前の力になってやる。今回の任務が終わったら俺は俺でその新手の人体錬成について調べてみるよ。だから気を確かにもて!強い意思さえあれば、必ず道が拓ける。お前にはあのヒューズさんの血が通ってるんだ。だから自身を持て。」
エドはそう言うとエリシアの頭を撫でる。
エリシアは涙が溢れ頬を伝っていくのを止める事ができない。
そしてエリシアはエドに抱きついた。
「ありがとう」
か細い声でお礼を言う彼女の背中をエドは優しく撫でる。
「まずはグラマンのじじいの所へ行こうぜ!そのヒューズさんによく似た男の情報を昨日は聞きそびれたからな」
声を押し殺して泣くエリシアはエドの胸に顔を埋めたまま小さく2度頷く。一方のエドは思わず天井を見上げた。
《これは予想以上に闇が深いぜ。大総統さんよ》
エドは心の中で自分に密かにこの大役を任せようとしたのだろう仕掛け人の男に悪態をつく。
そして胸の中で泣きじゃくる少女と彼女が背負った十字架、そしてその未来に一抹の不安を覚えていた。
第3話『東方の闇』 完
【 次回予告 】
グラマンとエドから告げられた事実に
エリシアとスヴァンは自身のあり方に想いを馳せる
2人の出す決意には何れにしても
嶮しき道が待っていることは紛れも無い事実であった。
そんな中、スヴァンはとある少女と出会い、エリシアは謎の男を見つけるためにエドとともに行動を起こす。
次回、鋼の錬金術師Reverse -蒼氷の錬金術師
第4話 『嶮しき茨の道』
闇に紛れしものも密かに行動を開始する。