鋼の錬金術師Reverse 蒼氷の錬金術師   作:弥勒雷電

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第5話『未知なるもの』part 3

 

「エリシア!貴様ぁ!」

 

エリシアが倒れたのを見てスヴァンが怒りの声をあげるが体は動かない。

 

「そこのイシュヴァール人の小僧、お前これ以上この子を巻き込んだらまずお前から殺すからな。いいな!それがこの娘のためだ」

 

はたから見れば子どもじみた脅しだっただろう。だが、スヴァンは何も反論できない。彼としてもこの未知なるものとの遭遇はヴァルニスと同意見を導き出すには容易い。

 

そしてヴァルニスは最後にエドの方を向く。

 

「お前はさっさとリゼンブールへ帰れ」

 

エドはヴァルニスのその言葉にハッとする。

 

刹那、ヴァルニスはエドにニヤリと笑いかけると屋根の上に飛び上がった。

 

「ちょ、待て!お前なぜ?」

 

エドがそう問いかけた時、そこにはもうヴァルニスとニールの姿はなく、雲間から3人を嘲笑うかのように満月が顔を出した。

 

「あ、動ける」

 

スヴァンは自分が動けるようになった事を確認するとエリシアに駆け寄った。ただ気を失っているだけのエリシアの様子にほっと息を吐く。

 

「スヴァン、エリシアを担げるか?」

 

エドの言葉にスヴァンは首を縦に振る。先ほど金髪の女性に刺された右肩はエリシアが治療してくれていた。

 

生体錬成と呼ばれる医療錬金術で、血管と血管、神経と神経、皮膚と皮膚をつなぎ、細胞を再生させる。今はそこまで医療錬金術は進歩していた。

 

「あいつらは一体…」

 

スヴァンの問いにもエドは答えない。一点にヴァルニスという名の男が去っていった虚空を見上げている。

 

「帰るぞ!いろいろと大総統にも報告しないといけないからな。それから…」

 

エドは苦虫を噛みしめるようにエリシアを見る。

 

「あの男の言う通りだ。この件は危険すぎる。お前達は一度セントラルとイーストシティに戻った方がいい」

 

エドの言葉にスヴァンは少し考える。

 

「いえ、それはエリシア次第だと思います」

 

その言葉にエドはかつての自分の姿をスヴァンに重ねた。

 

「だから、危険だって言ってるだろ?」

 

少し怒気を強めたエドの言葉にもスヴァンは怯まない。エリシアを肩に担ぐとエドと向き直った。

 

「でもそれだったらエリシアも俺も納得できません。あんな異形なものを見せられて、はいそうですかって帰れません!」

 

スヴァンはグラマンに言われた言葉を思い出していた。

 

真実を見て世界を知る。

 

彼は確かにそう言った。

 

それがエリシアの為になると…

 

ようやく彼に言われた意味の一端を掴めた気がした。なのに今更退く訳にはいかない。

 

そんな想いがスヴァンの中で芽生え始めていた。

 

 

——————————

 

 

同刻

リオールの街 某所

 

「お前は一体何を考えているんだ?」

 

ヴァルニスからの叱責にアメンダとニールは肩を竦める。ヴァルニスは苛立っていた。いつも以上に不快感がこみ上げてくる。

 

「あの3人に俺たちの存在が知られた。それだけでも由々しき事態だ。その上、アメンダは能力までみせてしまった。どうするつもりだ?」

 

ヴァルニスにとって怒る相手、内容はどうでも良かった。心の奥底から湧き上がる激情を誰かにぶつけられれば良かったのだ。

 

「それはニールが悪い。それに私はまだ奥の手までは出していない」

 

「当たり前だ!そういう事を言ってるんじゃない」

 

アメンダは借りてきた猫のように大人しい。激情に駆られてあそこまでしてしまった事の罪深さを彼女は十分理解している。

 

「俺はこの街を出る」

 

ヴァルニスの言葉にアメンダは驚きの声をあげる。

 

「出るってどこに行くのさ?」

 

アメンダの問いにもヴァルニスは答えない。

 

「ニールも連れていく」

 

するとアメンダは顔面蒼白になる。

 

「作戦は?」

 

そう問うアメンダの顔をヴァルニスは見ていない。ニールに目配せをすると自分の荷物を片付けはじめた。

 

「ちょっと待ちなよって!何も今夜出ていくことはないだろ?一晩一緒に…」

 

そこまで言ったアメンダはぎょっと目を見開く。ヴァルニスの瞳が彼女を捉えていた。燃えるように鋭いその瞳に睨まれただけで何も言えなくなってしまう。

 

「もう時間がない。あとはお前1人でも大丈夫だろ?仕込みは終わってるんだから」

 

そう言うとヴァルニスは扉に手をかけた。

そして何かを思い出したかのように振り返る。

 

「あの3人は絶対に殺すなよ。殺したら俺がお前を殺す」

 

また子どもじみた脅しだとアメンダは思う。だが、ヴァルニスの場合は確実に本気だった。

 

あの娘の事になると人が変わってしまう。

 

「そんなにあの娘がいいのかねー」

 

ふとアメンダはニールの気配もなくなっている事に気がつく。

 

「はぁ…」

 

アメンダは小さく溜息を吐くと電球が切れかかっているのか小刻みに点滅している部屋の天井をしばらく見つめていた。

 

 

————————

 

 

「ヴァルニス…どこにいく」

 

ニールが闇にに紛れるヴァルニスに尋ねる。だが、ヴァルニスは答えることをしない。

 

「ヴァルニス」

 

ニールにしては執拗にヴァルニスに尋ねる。

だが、ヴァルニスは答えない。

 

彼はマントで顔を隠しながら、足早に歩を進める

 

「西に向かう」

 

ヴァルニスはそう呟くと静まり返った街を出る。

 

 

もう2度とあの娘に会うことはない。

 

 

そう心に誓いながら…

 

 

 

第5話『未知なるもの』 完




【 次回予告 】

未知なるものとの遭遇は


若き錬金術師の心に一粒の波紋を落とす


そして彼らは新たなる戦場に


その身を投じようとしていた


次回、鋼の錬金術師Reverse -蒼氷の錬金術師

第6話『黒曜の砦』

緑の剣風が戦場を駆け抜ける
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