鋼の錬金術師Reverse 蒼氷の錬金術師   作:弥勒雷電

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第6話『黒曜の砦』part 3

「彼、従軍したいって言うんだけどね。元国家錬金術師だとは言え、今は一般人だし、錬金術使えないなんて使えないやつだからね」

 

そう言って笑うイライザをエドが睨む。確かに軍に所属していない者が従軍するなんて前代未聞である。それこそ非常事態で猫の手も借りたい時か、大総統勅命があった時かである。

 

今はそのどちらでもなく、エドはただ自分の為にイライザに頼み込んだのだと察する。そう思うとエリシアはイライザには悪いがエドの肩を持ちたくなった。

 

「俺は大総統からの勅命でこいつらの護衛兼案内役なんだ!最後まで行く末を見届けるのは当たり前だろ」

 

エドから出た大総統という言葉に言葉に一同顔をしかめる。そしてその視線は2人の国家錬金術師に向けられた。

 

 

「確かに正式な命令書は頂いていませんが、大総統から任務を直接言い渡された時はそのようなお話でした」

 

エリシアは精一杯の援護射撃を試みる。そしてスヴァンに目配せをする。突然のエリシアからの振りにスヴァンは戸惑いながらも「そうです」とだけ答えた。

 

2人の様子にイライザが困ったように眉を潜める。確かに一般市民の従軍をいち駐屯部隊の指揮官が許可できる立場にはないのは確かである。

 

「まぁ、2人がそこまで言うならねぇ…」

 

イライザが思案顔のままそう呟いた時、入口の扉が勢いよく開いた。そして緑色の髪をゆらゆらと揺らしながらライオネットが入ってきた。

 

「おいおい、揉め事か?」

 

ライオネットの言葉に一同が静まり返る。カウンターを介して正面に向き合うイライザとエド、そしてその脇で困り果てている彼女の部下とエリシア、スヴァンの姿を一瞥し状況を理解する。

 

「貴方がエドワード・エルリックさんですね?元国家錬金術師の。何やらヴァーツタイン少佐とやり合っていたようで。すみません。彼女、なかなか熱くなりやすい太刀でして」

 

そう低姿勢に出たライオネットの様子にエリシアは違和感を感じる。それはイライザも同じだったようで、彼に反論することなく、事の行く末を見守る。

 

「ヴァーツタイン少佐。先ほどマスタング大総統から通達がありました。彼を今回の作戦に従軍させるようにと。正式な文書通達は追って行うとの事だ。」

 

ライオネットの言葉に皆一様にどよめく。大総統勅命で従軍など本来はあり得ないのだ。鋼の錬金術師のかつての威光を知らぬ者達にとってエドは今興味の的となっていた。

 

「そう言う事ですので、エドワードさんは私の第2連隊に同行してください」

 

ライオネットの言葉にエドの顔が輝く。そしてほら見たことかとイライザを見る彼の視線にイライザは不服そうにエドを睨む。だが、大総統勅命とあってはこれ以上文句も言えない。

 

「ですが、一つだけ忠告しておきます。私は一般人の従軍など認めた訳ではありませんからあしからず。我々の作戦の邪魔だけはしないで頂きたい」

 

ライオネットはそう一言付け加えた。ご丁寧にその高圧的な笑みも添えて。思わずエリシアはエドの顔を見る。

 

「それも大総統からの命令か?」

 

だがエドはエリシアの心配とは裏腹に冷静に言葉を選び、ライオネットに尋ねる。するとライオネットは爽やかな笑みを浮かべる。そこに卑しさを感じさせないのは流石だとエリシアは思う。

 

 

「いえ、私の個人的お願いです。一般人を従軍させて怪我でもされたら困りますし、貴方を守るために大事な部下を割くこともしませんので」

 

その爽やかな笑顔とは裏腹なライオネットの言いようにエリシアはまたエドを見る。今度は流石に不機嫌さを前面に押し出しているエドは大きくため息を吐くと「嫌なやつ」と最大限の抵抗をライオネットに向けた。

 

エドもよく理解しているのである。ここで変ににライオネットに突っかかり従軍自体を取り消されてはままならない。将軍の立場にはあるライオネットにはそれくらいの権限は元より持っているのだ。

 

「分かったよ。お前らの邪魔はしないようにするさ。だが、この2人に危害が及びそうになったら好きにやらせてもらうからな」

 

エドはそう啖呵を切ると踵を返し、司令部から出て行こうとする。その様子にライオネットは口元を緩め、声をかけた。

 

「今から作戦会議ですが、参加されますか?」

 

その呼びかけに扉に手をかけたエドは立ち止まる。

 

「いや、遠慮しとくよ。どうせ俺はあんた達について行くだけだからな。少し敷地内を見て回ってくる。作戦はエリシアとスヴァンから内容は聞けば十分だろ?」

 

エドはそう答えてライオネットを振り返る。

 

「まぁ、そういう事にしておきます」

 

ライオネットはふっと笑うとそう答える。その返答を合意と取ったエドはエリシアとスヴァンに目配せををすると扉を開け、外に出て行った。

 

エリシアはエドが外に出て行くのを見送ると心の中で緊張の糸が切れたのを感じた。おもむろに近くの椅子に座り込む。そして2人の言葉以上の圧力に少し圧倒されていた自分に気がつく。

 

 

「さすが将軍」

 

一方のイライザは結果的にエドを追い払ったライオネットを賞賛する。エリシアは複雑な気持ちになる。おそらくエドも昨日の事がなかったらこうまで意地を張らなかったはずだ。

 

改めてエリシアはエドの存在と行動に感謝していた。そして誰かに頼りっぱなしの自分にも改めて気がつく。

 

「エリシア・ヒューズ少佐」

 

そのエリシアの思考を遮るかのようにライオネットが声をかけてきた。はっと顔を上げたエリシアにライオネットの翠緑の珠のような瞳が飛び込んでくる。

 

「悪かったね」

 

そうまたも下手に出てきたライオネットの様子にエリシアの心に再度警戒心が蘇ってくる。

 

「いえ、私達こそ将軍にあらぬ気遣いをさせてしまいました」

 

エリシアは少し皮肉を込めてそう答える。だが、ライオネットは意に介した様子もなく淡々と口を開く

 

「さっきも言ったが今から作戦会議だ。スヴァンには伝えていたが、君たちから事前の調査結果を報告してもらう手はずになってる。よろしく頼むぞ」

 

そう言ってライオネットはイライザの元に戻ると何やら耳打ちをする。すると2人は連れ立って司令部の奥へと消えていった。

 

「はい、これ目を通しておいて」

 

そんな中、スヴァンはそう言い紙の束を渡してくる。彼が作ったのだろうか、昨日自分とエドの2人で解読した調査報告書を元に作られただろうレポートがそこにはあった。

 

「ちょっと!報告ってどう言うこと?」

 

エリシアは問いにスヴァン申し訳なさそうに首を縦に振る。察してくれと言わんばかりのその仕草にエリシアはため息を吐く事しか出来なかった。

 

3時間後、作戦会議を終えたエリシアはぐったりと疲れた体を司令部外のベンチで休めていた。陽は少しだけ傾き始め、オレンジ色の陽光が黒曜石の柱と壁面に反射し、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

既に辺りは明日の作戦準備を終え帰路につく駐屯軍兵士の姿がちらほらと見え始める。エリシアは呆然と道行く人の流れに目を向けていた。

 

「これは反則よね?」

 

その時後ろから声をかけられる。

ハッとして振り返るとそこにはイライザの姿があった。その手には紙コップを二つ持っている。

 

「反則…ですか?」

 

不思議そうに問いかけたエリシアにイライザはニコリと笑うと紙コップを一つ彼女に渡す。中ならは珈琲の香りがする。

 

「ありがとうございます」

 

エリシアはそう呟くと陽の光を浴び幻想的な輝きを見せる司令部棟を見上げるイライザに視線を戻した。

 

「えぇ。こんな幻想的な風景の中で演説とエセ錬金術を見せられたら誰だって奇跡を信じるわよね」

 

イライザの言葉には妙に説得力があり、その言葉にエリシアは興味を持つ。当のイライザはエリシアの視線に気がつくと影のある笑みを浮かべ、下を向いた。

 

「私の両親はレト教の信者だった」

 

突然の告白にエリシアは驚く。だが、イライザの瞳に憂いに帯びた表情を見とり息を呑む。

 

「リオールの暴動もね。もちろん参加したわ。まだ子どもだった私を置いてね」

 

ふとイライザが見上げていた視線を落とす。彼女の話の結末が予想できたエリシアはぐっと胸にこみ上げる何かを感じる。

 

「それは…大変でしたね」

 

エリシアはそのような表面的な言葉しか見つからない自分に嫌気が差す。だが、それ以上にイライザほど有能な人がこの駐屯軍にこだわり続ける理由と彼女の強さの理由を知った気がした。

 

「私は明日、レト教を壊滅させるわ。それができないと私は前には進めないの」

 

イライザはそう決意の一端をエリシアに告げると視線を彼女に向ける。エリシアはその真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる自分を抑えながら今度は自分からその右手を差し出した。

 

「期待してるわよ。ヒューズ少佐」

 

イライザは満足げにエリシアの握手に応じると笑みを浮かべた。

 

「ごめんなさい。初対面の人にこんな話をして。でも同じ戦場を駆ける貴方には私の想いを何故か知っておいて欲しくて」

 

イライザはそう言うと頬を少しだけ赤らめる。

 

彼女のそんな想いに自分を認めてくれていると感じ、エリシアは素直に嬉しいと思った。

 

エリシアはイライザの手を握る右手に力を込める。

 

「私も全力で少佐をサポートします」

 

エリシアはそう言うと司令部に視線を移す。

 

太陽の傾きとともにその光を増す黒曜はまるでイライザの決意を表すかのように紅く燃えたぎるような輝きを放っていた。

 

そしてそれはエリシアにとっても同じである。彼女もまたイライザの決意に触れ、また自分だけが過酷な運命を背負っているわけではないという現実を知ったことで少し前を向けた気がしていた。

 

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