鋼の錬金術師Reverse 蒼氷の錬金術師   作:弥勒雷電

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第1話『真理の扉』part 3

スム・ダム遺跡 最下層

 

エリシア達が敵の首魁を捉えるべく突入した最下層。

彼女の隊が突入した部屋には東方司令部の中央広場ほどの大きさ、2万人は収容できるであろう広大な部屋があった。

 

殺風景な石畳調の床と中央にある祭壇以外は何もない。

 

その中心部に今や六芒星の光が現れ、エリシア達を今にも飲み込もうとしていた。

 

「エリシア戻れ!全て持っていかれるぞ」

 

スヴァンの声にエリシアが振り返ったその時、目に飛び込んできた光景にエリシアは絶句した。

 

「「「うわぁぁぁぁぁ!!」」」

 

部下達の叫び声が部屋中にこだまする。

それはまさに異形の境地であった。

 

「え?うそ?何これ」

 

エリシアは声にならない声を絞り出す。

なんと広大な錬成陣から真っ黒な手が生え、部下の手足首に巻きつき、彼らを宙に押し上げていた。

 

エリシアは足が固まり動けない。

咄嗟に錬金術で部下を助けることもできないほど目の前の光景は混沌を極めていた。

 

「少佐……助け…て」

 

先ほど足を治療した将兵が恐怖に満ちた表情でエリシアを見る。

その声にエリシアは我に返り、彼に手を伸ばそうと足を一歩進める。

 

その刹那、何かが弾けるように彼の姿はそこからなくなり、

どす黒い灰となてしまった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ」

 

エリシアは悲鳴をあげた。

逃げようにも恐怖で足が動かない。

 

次々と将兵達がどす黒い灰に変わっていく。

部下が命を落としていく瞬間をただ見るしかできない彼女はその場に膝をついた。

 

「エリシア!早く逃げろ!」

 

スヴァンの言葉にも体が恐怖と後悔で身体が動かない。

 

同じだった。

あの時、土に埋められていく父の棺を見て何もできなかったあの時と。

人を守るために錬金術師になった。

あらぬ罵声も、最年少という肩書きに対する嫉妬の目も我慢した。

 

でも今目の前の部下1人として助けられない。

エリシアは絶望の淵に立ちかけていた。

 

すると今度はエリシアにその触手に似た黒い手が無数に忍び寄る。

 

「え?いや、いやぁぁぁぁ」

 

エリシアの首、腕、手、胸、腰、足にそれらは巻きつき彼女を宙に押しやる。今度は自分の番?死の恐怖が彼女の身体を駆け巡る。

ふとその時、今にも部屋に飛び込み自分を助けようとしているスヴァンと目が合う。

 

「エリシア!!」

 

「ダメ!!」

 

エリシアは咄嗟に彼を強く制止する。

 

「貴方にはこの場所のことをマイルズ司令や大総統に報告する義務があるわ!私は大丈夫だから先に逃げて!」

 

「バカ!お前を置いて逃げられるか!」

 

「バカはあんたよ!一緒に死ぬ気?さっさと逃げないとそこに氷漬けにするわよ!早く行って」

 

スヴァンはエリシアの気迫と彼女の言いたいことを理解し、「くそっ!」と叫ぶとその場から離れた。

 

彼の気配がなくなったことを確認するとエリシアはホッと胸を撫で下ろす。これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない。死ぬのはもう自分だけでいい。

 

エリシアは死を覚悟した。

 

《こんなところで私は死ぬの?》

 

そう直感したその時、何やら巻きついている手足から何かが入り込んでくる感覚に陥る。

 

《何これ?力が湧いてくる》

 

次の瞬間、彼女は腹部から胸部にかけて激しい痛みに襲われる。そしてその力の正体に検討がつく。

 

《これは地脈。これは錬金術を増幅させる錬成陣》

 

そう達観した時、エリシアはなぜ小隊メンバーが消滅したのか合点がいく。錬金術の素養を持たないものに地脈のパワーを大量に注入した結果、暴走し、弾け飛んだ。

 

こう考えるのが正しいだろう。

 

《だったら錬金術を使い続ければ時間が稼げるかも》

 

エリシアは指を数回鳴らす。周囲にいくつもの氷の造形が並ぶも地脈の力は衰える事を知らない。むしろ体内に地脈が注ぎ込まれている事が分かるほど、その流れは強く、そして速さを増す。

 

《もうキリがない!どうすれば…》

 

と考えていた刹那、ドクンと彼女の体の中で何が脈を打つ。身体中が何かに満たされていく感覚。

 

《やばい。錬成が間に合……》

 

体の中が満たされて、その何かが、外へ出よう出ようと自分の体を押し広げている。

 

ふとエリシアの脳裏に亡き父の姿が浮かんだ。

 

《やばい。まじでやばい。ババ…助けて。私はこんなところで死ねない》

 

父の名を心の中で呼んだその刹那、眼前の天井に黒い楕円形の影が浮かび中央に亀裂が入る。

 

亀裂が左右にゆっくりと開き、そこから現れたのはなんと大きな眼球…

 

 

 

「ひぃぃ!化け物?」

 

 

 

その一つ目と目を合わせた時彼女は意識を失った。

 

————————————

 

「え?ここは……」

 

あたり一面真っ白な世界。

 

《これが死後の世界?》

 

ふと後ろを振り返る。

 

「これは…何?」

 

そこには自分の身長の三倍もありそうな長大な鉄の扉が聳え立っていた。扉に昔どこかで見たような複雑怪奇な紋様が刻まれている。

 

「君は何を信じて生きる?」

 

突如聞こえた無機質な声にエリシアははっとし後ろを振り返る。そこには全身真っ白の顔もない誰かが立っている。

 

「君は何を差し出す?全身?心?声?それとも命?さてどれがいいだろうね?」

 

その物体の言葉を理解する事が出来ずエリシアは恐怖に口を開けない。

 

その時背後の扉で気配がする。

 

「なーんだ。もうお迎えが来ちゃったか!ねーちゃんの通行料はすでにもらってるからもう帰りな!また会えるのを楽しみにしてるさ」

 

その訳のわからない物体はそういうとその場から姿を消した。そして後ろを振り返ると扉の間から手だけが見えている。

 

元の世界に帰りたければ

 

これを掴めと言わんばかりに。

 

エリシアは咄嗟にその手を掴んだ。

だがその時、ごつごつとしたその手の感触に驚く。

 

「これ…って?」

 

懐かしいその感触は幼き頃の記憶を思い出される。だが、エリシアはその扉の中に吸い込まれたその時、再び意識を失った。

 

——————————

 

「んっ……っつ」

 

気だるさとともに目が覚めた。

エリシアは体を起こすと周囲を見渡す。

 

先程の祭壇の間で間違いない。

 

だが、錬成陣もあの黒い無数の手足も、天井に浮かんだ黒い影と眼球もなく、再び殺風景なそれに戻っている。

 

《夢…だったの?》

 

いや違うとエリシアは達観する。

周囲に主人を失った軍服や銃が落ちている。あの時消滅した小隊メンバーのみんながここに居た証。

 

《あれは一体なんだったの?》

 

再び恐怖が心の中を支配しようとしたその時、背後に気配を感じた。エリシアは咄嗟に前転し、距離を取ると振り返り、銃を構える。

 

「なっ……」

 

そして眼前に現れた人物の姿に言葉を失った。

 

「おいおい、物騒だな。せっかく真理から助けてやったっていうのに」

 

《何これ?どういうこと?どうして…》

 

エリシアは気が動転していた。

なぜあの人がここにいるのか。

 

短髪黒髪に無精髭の目立つ顔、

 

中肉中背の肉体にトレードマークの眼鏡

 

そして人を食ったような人懐っこい笑顔に喋り方。

 

その全てが記憶の中のあの人にダブる。

 

「ちょっとおーい?大丈夫か?あーこれは意識を混濁しちゃってるなー」

 

その男はそうエリシアの前にしゃがみ込むと視線を扉の方に向けた。扉の外が何やら騒がしい。

 

「ちぇ!お客さんが来たみたいだな。嬢ちゃん!また今度真理の話でも聞かせてくれや!じゃあな」

 

男はそういうと立ち上がる。

 

「ちょっ……待って!」

 

彼をよびとめようとエリシアが顔をあげた時、そこにはもう彼の姿はなかった。

 

「エリシア!!」

 

スヴァンが部屋の中に飛び込んで来た。

そしてエリシアを抱きしめる。

 

「大丈夫か?どこもやられてないか?」

 

「多分大丈夫…変な夢を見てたみたい」

 

エリシアの言葉にもスヴァンは首を傾げながらも医療班を呼ぶ。担架に乗せられたエリシアは祭壇を再び見る。

 

《夢…じゃないよね。でもなんで?どうして?あなたは生きているの?生きているならどうして私達の前に帰って来てくれなかったの?今私の名前を呼んでくれなかったの?》

 

エリシアは再び薄れゆく意識の中でそうたずねる。

 

「パパ……」

 

最後にそうとだけ細く呟くと彼女の意識は再び遠く彼方へと飛ばされた。

 

 

第1話『真理の扉』 完

——————————————————




【 次回予告 】

微睡みの中でエリシアは父との思い出に浸る。


彼女の父親かわりの男は


この国に不穏な動きがあると悟り


闇に紛れる謎の男の存在に想いを馳せる。


次回、鋼の錬金術師Reverse-蒼氷の錬金術師-


第2話『謎の男』


闇に紛れし男の真意は
虚空の空へと消えていく
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