私こと音海繭良には、ちょっと人と違うところがある。それは私が実は陰陽師であるだとか、そういうことではない。
それは前世の記憶とでも言うべきものを抱えているということだ。陰陽師もケガレも存在しない、
しかし生まれたときからそれを持っていたわけでなく、二年前ーーー『雛月の悲劇』が起きたときにそれを思い出した。
母が学校から帰ってきた私に「雛月が大変なことに……」と言った途端ひどい頭痛がしたと思ったら、頭の中に人一人が過ごした人生の記憶が流れ込んできたのだ。
(あの時は本当に驚いたなぁ。お母さんは『雛月の悲劇』にショックを受けたって思ったんだろうけど……)
そう思ってくれて助かった。正直あの時の私は控えめに言って混乱してたし、頭もおかしくなっていた。
前世の記憶を思い出しても、これまで音海繭良として生きていた記憶もある訳で………うん、誰だって混乱くらいすると思う。
そして私は『雛月の悲劇』をきっかけに陰陽師を志した。
勿論そんなことがあったばかりだから反対された。お爺ちゃんやお母さんまでは予想してたけど、まさかお父さんまで一緒になって反対するとは思わなかった。あの人なら何だかんだで本人の意志を尊重すると思ってたのだけど………。
(それだけ心配してくれてたんだよね)
素直とは程遠い自身の父親を思い浮かべ頬を緩め、私は鳴神神社を目指して少し早足で歩いた。
「ふぅん。あの娘が化野紅緒さん、かぁ」
鳴神神社の地下にある巨大シェルター型訓練施設用地下大講堂、五鏡止水の間。
私はそこの一角でお偉いさんの人たちが頭を下げている少女を見ていた。
スラリとした体つきに長い黒い髪。着ているのは多分、引っ越してくる前の制服だろう。凛とした雰囲気を纏う彼女は、美少女と形容するに相応しい容姿だ。
化野紅緒。京都を拠点にする名家化野家の出身。私やろくと同じ齢14の身でありながら、既に歴戦の猛者として数えられる実力者。
「あれ?亮悟さんはともかく、ろくも来てたんだ。久しぶり」
「繭良っ!?え、何で繭良がここにいんの?」
何気ない風を装って私はろく達に近づいた。
「お爺ちゃんから急に電話がきて、ここに来なさいって言われてね。それで、これってば何の集まりなの?」
「いや、俺らも詳しいことは何も……」
焔魔堂ろくろ。アホ毛とギザ歯が特徴的な私の幼なじみ。
そしてこの物語の主人公。化野紅緒と共に双星と謳われる、最強の陰陽師の夫婦の片割れ。
「やぁ諸君、お待たせっ!!」
その時講堂に大きな声が響いた。
声がした方に顔を向けるとそこにはお爺ちゃんと小柄な老婆、そして神主のような服装の男性がいた。
総覇陰陽連のトップ、全ての陰陽師を統べる陰陽頭ーーー土御門有馬。
まぁ何というか………非常にテンションの高い人であることは分かった。