僕と彼女の出会いは本当に偶然で、まるで物語の一ページのようなありきたりな出会いだった。けど、そんな出会いも今となっては必然だったのだろう。
僕は元々孤児院で育てられた身で、ある時とある家族に引き取られた。
「榊白(さかきしろ)……」
引き取られた家には僕と同い年の女の子が居た。
「湊友希那……」
透き通るような白い肌と、輝くような銀色の髪、そして綺麗な瞳を持った女の子が……。
この家に引き取られた理由は分からない。けど、分かることはあった。僕を引き取った張本人である『父親』は何故か”友希那”との距離を置き、『母親』の方は僕達に優しかった。
お父さんが……、知らない子を連れてきた。そして、『この子を家で引き取る』とお母さんと話していた。
私は怖かった…、知らない子が私の家族になることが。それに、榊白と名乗った彼の目には……、何も映っていなかったから……。
あれから僕たちは同じ屋根の下で暮らし始めた。最初の頃はお互いに距離感がつかめなくて、『観察』と称してただ見ているだけだった。けれど、ある事を気に僕と友希那の距離は近づいた。
「白、お弁当、忘れてるわよ」
昼休み、友達の居ない僕はどこか静かな場所で昼食を取ろうと、鞄に入れて置いた弁当を探す。鞄の中身を見渡すも入れておいたはずの弁当が無いため、購買で何か買って済ませようとしたところを。
「ありがとう、姉さん」
同い年ながら、誕生日が僕より早く、引き取った家の娘さんという理由から、血のつながりも何もない彼女を『姉』と呼ぶ。
姉さんから弁当を受け取り、教室を出る。体育館の裏へつながる道に足を向かわせると、姉さんもついて来た。
「どうしたの、姉さん?リサ姉さんと食べないの?」
僕と姉さんの幼馴染のリサ姉さんと姉さんは何時も一緒にお昼を食べている。
「リサ、今日は先生に用事を頼まれているようで。だから一緒にと思って」
今日はリサ姉さん居ないのか……。少し悩んだ末に、
「良いよ、姉さんが良いなら一緒に食べよう」
姉と二人で昼食を取ることになった。
「ねぇ、白?」
「何、姉さん?」
体育館の裏の階段に並んで座りながら、お弁当のご飯を食べていると姉さんがふいに質問してきた。
「白って、友達居るの?」
「居ないよ?別に居ても、居なくてもどうでも良い……」
質問の意図は読めなかったけど、特に考えることもせずに答える。
「そうなの……」
自分で質問をしておいて、答えを聞くと何故か気まずそうにする姉さん。本当に、そんな顔をするなら最初から聞かないでよ。
「僕には音楽があるし、目標がある。だから、友達なんていても、きっと目標の邪魔になると思う」
透き通る雲ひとつ無い空を見ながら、消え入りそうな声で。
「白は本当にそれで良いの……?」
食べかけのお弁当を膝にのせ、僕と同じように空を見つめる姉さん。
「良いのかは理解らない……」
ぎゅっと唇を噛み締めて、
「でも、僕は叶えたいから……。だから、叶えた時に考えるよ……」
隣に座る姉さんの横顔を少し見てそう言った。
「あれ?白?お〜い、白〜」
下駄箱で靴を履き変え学校を出ようとしていると、姉さんとリサ姉さんが僕の名前を呼んでいた。名前を呼んで僕が立ち止まったのをみて、歩き進めてきた。
「今帰り?」
「うん、今から帰り。姉さん達はバンドの練習でしょ?」
「えぇ」
リサ姉さんの背中には大きなケースが背をわれていたので、練習があるのはすぐに分かった。
「白って今日はバイト?」
「そうだよ、一応時間通りに終われば姉さんたちと帰れるかも」
「そっか、じゃあ早めに終わらせてよね」
「リサ、そんなに急かさないの」
あはは、ごめんと謝りながらも楽しそうなリサ姉さん。この場は二人の和やかな空気のままにしておこう、そうと決まれば僕は……。
「何で先に行こうとしてるの〜」
後ろからタッタッ、と小刻みに地を蹴る音がする。その音に気づいて後ろに振り返るも、既に迫ってきたので、
「二人の雰囲気が良いから、邪魔にならないように先に行っただけだよ」
理由を説明しながらも、首に腕をマフラーのように巻き付けられ後ろから抱きしめられていた。
「でもさ〜、だからって置いていくのは無いでしょ〜」
抱きしめてくるリサ姉の声が、吐息が耳元に掛かる。それと……、コメントは控えさせてもらう……。
「悪かったよ、謝るよ」
「謝るくらいなら最初からしないでよね」
「はい……」
素直に謝るとリサ姉さんの抱きしめが終わり離れる。少しだけ、離れてしまったのが物寂しいと感じてしまう自分がいた……。
「白、行くわよ……」
先を歩いて行くリサ姉さんを追うように僕と姉さんも歩き出したのだが、その時に姉さんが僕の手を自然に握ってくれていた。
「うん……」
久しぶりにつないだ姉さんの手。あの頃とは違うんだ……、姉さんの手温かい……。
バイト先兼姉さんのバンド練習で使うスタジオ『Circle』に着いた。
「あ、白君。それに友希那ちゃんに、リサちゃん」
バイト先の先輩、月島まりなさん。まりな先輩が僕達に挨拶してくれた。名前呼びは先輩からの権限によるもの。
挨拶をして姉さんたちはスタジオの鍵を受け取り練習に入り、僕はまりなさんと仕事に着いた。
高校の入学と同時にこの『Circle』で働いて居るので、大抵の仕事はこなせるように成った。
「まりな先輩。掃除と機材の準備は終わりました」
「ありがとう、助かるよ」
嬉しそうに笑みを浮かべるまりなさん。
「じゃあしばらくお客さん来なさそうだから、良いよ」
親指を立てて、オッケーサインがもらえたので、
「ありがとうございます」
スタジオの鍵を手に握りしめ、スタッフルームに置いてある荷物を取りに行く。荷物を持ってスタジオに入る。
「始めますか……」
荷物としてもってきた大きなケースから、真っ黒な一本のギターを取り出しアンプにつなぐ。音のチューニングを済ませた後に、パソコンに繋いだヘッドホンを耳に着け、流れ出る曲に合わせて……。
「今日も凄いね、白君……」
防音のスタジオをとはいえ、わずかながらに音は漏れる。カラオケでも、ドリンクバーを取りに廊下に出ると他の部屋で歌っている人の声が聞こえるのと同じこと。
おと
ただ、彼の使っている部屋から漏れ出る音は声ではない、音だ。『音』であり、『叫び』だ。
一曲弾き終わり、録音して音を聞いて反省点を洗い出そうとしていると、スタジオ備え付けの電話が鳴る。慌てて受話器を取り声に耳を傾ける、
『白君、ごめん!ちょっとまた忙しくなってきちゃったから』
どうやら仕事でのSOS信号だった。
「分かりました、今行きます」
簡単に荷物をまとめて、スタッフルームに置いていきフロアに向かう。
「まりなさん、遅くなり……」
慌ててフロアにやって来たものの、人はまりなさんととあるバンドのメンバーしか居なかった。
「あ、しろくんだ〜。やっほ〜」
フロアに置かれた椅子の背もたれに、大きく背中を仰け反らせるふわふわとした口調の女子。
「白先輩、やっほ〜」
スマホから顔を上げ、こちらを見るやいなや手を振るあるとことが兵器的な女子。
「白先輩、悪いな」
顔の前で手を合せて謝る、姉御肌漂う女子。
「白先輩、こんにちは」
こちらを確認して、優しげな微笑みを浮かべる女子。
「意外と早かった……」
多分、今の発言からして一番の要因であろう赤髪メッシュの女子。
が、全員が僕と同じ羽丘高等学校の制服を着ていた。いわば、僕の後輩だ。
「それで何のよう?バイトの休憩中に呼び出しておいて」
この子達は、同じ高校の後輩であり、姉さんと同じようにバンド活動している。名前はAfterglow。
ふわふわしているのが、ギター担当青葉モカ。スマホを見ていたのが、リーダーでベース担当の上原ひまり。姉御肌漂うのが、ドラム担当宇田川巴。ちなみに妹さんが、姉さんのバンドのドラムをしている。笑みを浮かべていたのが、キーボード担当の羽沢つぐみ。そして最後に、赤メッシュがトレードマークのギター・ボーカル担当美竹蘭。
ここでのバイトで知り合い、何気に話すようには成ったが……。
「じつは〜、きょうはしろくんに〜頼みごとがあるんです〜」
青葉がゆったりとしゃべる。というか先輩を付けろ、先輩を。
「で、何だ頼みごとっていうのは?」
言いたいことはあるが、一旦話を聞く。
「ふっふっふ〜、それはですね〜」
「勿体ぶるな、早くしろ」
正直、まりな先輩に仕事のことで呼ばれたから練習を中止して来たのに……、嘘だと分かった時点で割とイライラしているのだ。
「モカちゃん、先輩怒ってるよ……」
僕の表情を見て、怯えてモカを揺さぶる上原。
「ひ〜ちゃん揺らしすぎ〜、えっとですね」
揺さぶりから開放されようやく本題に入る。
「モカちゃんと蘭に、ギターを教えて欲しいんです」
僕を呼び出したのはそういう事か……。答えを出すのに一秒も掛からず、
「断る、僕とお前たちじゃ奏でるものが違う」
きっぱりと断る。
「そ、即答かよ」
宇田川が驚き、
「そこを何とか……」
と再び頼み込んでくるが答えは変わらない。
「断るって言ったはずだ。大体、何で僕に頼のむ?今まで自分たちだけでやって来ただろうが?」
「……」
真っ先に思った疑問をぶつけると、全員が口を閉じた。その光景が、あまりにも簡単に黙ってしまった彼女たちを見て……。
「そうやって、一回頼んで『無理です』って断れたくらいで、黙り込むなら……」
ゆっくりと背を向けてスタッフルームに向かっていき、
「最初から頼まないでくれ。まりな先輩、僕もう一度スタジオの掃除行ってきます」
扉を押し開け、道具を取ってその場を離れた。
「ねぇ、白君」
先程、自分が使っていたスタジオに入り掃除を始めようとした時、まりな先輩が追いかけてきた。
「今の流石に酷くない、あんなに言う必要は」
「ありますよ」
まりな先輩の言葉を遮るようにして、
「僕は彼女たちみたいに『楽しさを求めて』、『繋がりを求めて』、弾いているわけじゃないんですよ」
言葉を紡ぐたび、握った拳に爪が食い込む。
「僕は……、『変える』為に弾くんです。アイツらを……、アイツらを『ぶっ潰す』為に……」
「白君……」
「だから、目的の邪魔になるものは早めに消すのが一番です」
「邪魔になるって、そんな……」
次第に顔色が暗くなるまりな先輩。まりな先輩に何かしたわけでは無いが、罪悪感なのか心が締め付けられるような気がした。
「はぁ……、もしもですよ……」
溜め息混じりに、罪悪感を消すために、
「もしも今日の一件で諦めずに来るなら……考えます……」
自分でも分かるくらいに上から目線の物言いだが、今はこの言葉しか見つからなかった。
「なら……、その時はちゃんと受けてあげなよ……」
僕の顔を見ることなく、肩をそっと叩きまりな先輩はスタジオを後にした。
「ねぇ……、白?」
バイトの疲れを癒やすために、お風呂上がりにリビングでテレビを見ていると、先程お風呂から上がってきた姉さんが話しかけてきた。姉さんの声は、何時もよりワントーン低かったので……。
「もしかして、『ギターを教えることを断った』件について?」
考えられる中で、一番当たりそうな物を言ってみた。
「そう……、分かってはいるのね」
僕の隣に静かに座る姉さん。
「ねぇ、白。ずっと一人で弾いて楽しい……?」
テレビに目をやりながら、ふと聞いてきた。
「楽しいとか…、楽しくないとか二の次だから…」
同じようにテレビに目をやりながら、淡々とした口調で答える。
「じゃあ、私と合わせるのはどうなの?」
視線は変わらずテレビを見つめたまま、その質問に姉さんの方を向く。
「それは……」
口籠る僕。
「姉さんと合わせるのは……、訳が違うよ……」
遅れて答えると、座っていたソファーから立ち上がり自室に向かった。
白が出ていき、一人に成ってしまった私。白が見ていたテレビは、私が見ているのだと思っていたようで点けたまま。けど、白の気遣いは今は無用だった。私もすぐに部屋を後にし、自室に向かう。
「はぁ……」
溜め息を深く着きながら、ベッドに横たわる。今日は何時にも増して疲れた気がする。
「白……」
きっと今も、今日の演奏を聞いて反省点を洗い出しているであろう義弟の名前を呼ぶ。白は『夢を叶える』、ただそれだけしか目に入っていない。だからこそ、どこまでも他人に対して厳しい。
私やリサは今まで側に居たから、Roseliaの方は私が居るから多少は愛想が良いけど……。
「貴方が夢を叶えたとして、その先に何を求めるの……」
代わり映えのしない、見上げた天井に手を翳して呟いた。
短編のヤンデレで書こうと思っていたのですが、連載にしてみました。
作者が今現在、悩み事が多くて…。そんな中で、書いたので割と暗いです。
ヤンデレでは無いですが、主人公の性格はRoseliaを結成したての友希那さんに近いです。
感想、ご意見をお待ちしております。
ご閲覧していただきありがとうございました。