宇宙悪夢的神話の魔術実験に関する真実   作:海野波香

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謝辞

本稿執筆にあたって、カメラマンであるデニス・クリービー氏に多くの資料提供を得た。安全確保のために協力してくれた元闇祓い局局長ガウェイン・ロバーズ氏にも感謝を申し上げたい。勇敢にも取材を担当してくれたリータ・スキーター女史、刊行にあたってあらゆる手を尽くしてくれたゼノフィリウス・ラブグッド氏には頭が上がらない。


献辞

親友であり同胞であるランドルフ・カーター氏にこの本を捧ぐ。君の手元に届くのかすらわからないが、少なくとも我らの目的は達せられた。
「リップタイド」ことハーヴェイ・ウォルターズ
ポーツマスの安宿にて
2020年7月18日


序文

 これは、魔法生物学の権威であるニュート・スキャマンダー氏が「口にするも憚られる」と形容したその宇宙悪夢的実験、あるいは神話の再現についての現在発見されている唯一の文書である。これらは『ネクロノミコン』と同様に暗号化されており(現在、『ネクロノミコン』の一冊がマサチューセッツ州のミスカトニック大学付属図書館に保管されているが、閲覧は禁止されている)、そのため、厳密に言えば本稿は暗号文書を複合化した上で翻訳し、さらに体裁を整えて注釈を加えたものということになる。信頼性については諸氏の見識と良識に則った判断に委ねる。

 我々の知るところにおいては、著述家の故ハワード・フィリップス・ラブクラフト氏が関連する記録を遺している。宇宙的恐怖を扱ったフィクションとしてマグルの愛好家に知られる一連の「神話体系」はマグル界に根ざした出版社から刊行された。この経緯が原因かは定かではないが、魔法族の諸氏にはあまり馴染みがないらしい。『マッドなマグル、マーチン・ミグズの冒険』や『吟遊詩人ビードルの物語』、もしくはギルデロイ・ロックハート氏の著書で青少年時代の娯楽的読書が終了した者も多いだろう。幸いにして彼の「物語」は(その独特な文体を除けば)ここで説明するのに膨大な文量を割かねばならないほど難解なものではない。魔法魔術や怪奇を信じない頑迷な人物(おおむねマグルである)が、なんらかの形で超自然の脅威に晒され、命を失うか、生きていても狂気に苛まれる。多くの「作品」はこの形式に沿って描かれている。

 問題はそこに登場する超自然の脅威だ。外なる神、あるいは旧支配者、あるいは悪夢、すなわち宇宙的恐怖。秘匿されたそれらが蝕んでいるのは「物語」の登場人物だけではない。諸氏も一度は疑問に思ったことがあるだろう。カッサンドラ・トレローニー女史のような予言者がもたらす予言は、なぜ不可避であったのか。なぜハリー・ポッター氏の戦いは運命であったのか。我々の走る道がすでに定められているのなら、その道を定めたのは何者なのか。

 

 この「物語」が、かつて英国の地方都市ヤーナムで密かに興ったカルト集団ビルゲンワースの血脈、すなわちホグワーツの秘匿された側面と強く繋がりを持ち、さらにはイルヴァーモーニーの主席、とりわけ天文学において類い希なる成績を遺しながらもマグル界で著述家として活動することを選んだラブクラフト氏にとっての挑戦状であったことはほとんど知られていない。

 挑戦状を受け取ったとある魔術結社(名は伏せるが、1910年代に合衆国で活発であり、かつ世界各地に支部を持つ現代でも有名な魔術結社であるとだけ述べれば、賢明な読者諸氏は答えに行き着くだろう)の呪詛が原因でラブクラフト氏は他界した。事実、かの魔術結社にとって彼が公表した「神話」は不都合でしかなかったのだ。この呪詛は本来であればマクーザや国際魔法使い連盟がなんらかの法的措置を取るべきものであった。しかし、それがなされた記録が残っていないのを考えるにあたって、ラブクラフト氏の勇気ある(蛮勇であったかもしれないが)行動が国際機密保持法に抵触していたからというだけのことを理由とするのは不自然だ。そして、その情報が「オカルト趣味のあるマグルが楽しむ娯楽」としてしか残っていないことも。

 

 幸いにして、勇気あるマグルの有識者にしてラブクラフト氏の友人である故オーガスト・ダーレス氏が、この凄惨極まりない研究について、彼の広い人脈を駆使して情報を収集し、ラブクラフト氏にやがて降りかかるであろう悲劇的結末を回避させようとしていた。多くのマグルがそうであるように彼もまた魔法族の呪詛に対する効果的な対抗策を取ることはできなかったが、少なくとも秘密裏に書き留められた膨大な記録はコリン・ウィルソン氏やデイヴィット・ラングフォード氏といった賢明かつ真実を知る者たちによって保存され続け、そして今、日の目を浴びようとしている。

 見方を変えれば、これは告発である。冒涜的殺戮者ビルゲンワース、冷徹な後継者ホグワーツ、残酷な探求者イルヴァーモーニー、そして悪辣な秘匿者ミスカトニック。それらすべてがまるで正された星辰のように連関し、そして産声を上げた悪夢を、知るときが来たのだ。

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