大幹部、田中一郎の喜劇   作:アズッサ

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正義の影より蠢くもの

 田中一郎が、大使が敵連合と手を結んだのと同時期。

 一人の少年が伝説のヒーローと出会った。

 少年の名は緑谷出久、通称デク。ヒーローの名はオールマイト。

 オールマイト。正体不明、年齢不明、個性不明、しかしてナンバーワンのヒーローとして君臨する平和の象徴。そんな彼とデクの関係は一言でいえば師弟関係である。

 だがこれは秘密。オールマイトの個性『ワン・フォー・オール』を受け継ぐために、デクは日夜体を鍛えていた。その方法の一つとして、彼はごみで埋め尽くされた海岸線を自力で撤去しているのである。

 それは過酷の一言であり、中学三年生の少年の体力を鑑みればその訓練プラスして日々の日常、そして受験勉強すらもこなさないといけないのは並大抵のことではない。

 

「ヘイヘイヘーイ! 昨日よりペースが落ちてるぜぇ! ペースを乱せば余計に疲れるだけだ、呼吸を整えて、無駄な力を使わずに効率よくゴミ掃除だ!」

 

 顔を青くして、息も絶え絶えなデクを鼓舞する男。オールマイト。

 だがその姿はオールマイトを知るすべての人々が見れば衝撃かもしれない。筋骨隆々、鍛え上げられた肉体、鋼の男、そう称するべき無敵のヒーローは今、枯れ木のようにやせ細っていたからだ。

 それがオールマイトの正体。今の姿。だがこれを知るのは一部のもののみ、知られてはいけない秘密であった。

 彼が無敵のヒーローとしての肉体を保てるのはせいぜい三時間。それもいつまで続くのかはわからない、日に日に寿命を削っている状態であった。

 過去、因縁の敵との闘いの際に負った負傷。致命傷ともいえるその傷を負って、死の淵をさまよったが、それでも彼はこうして生きていた。

 なぜなら自分は平和の象徴、膝をつくわけにはいかないのだから。

 しかし、それも永遠ではない。ゆえにオールマイトは自分の後継者を育てるべくこうして動いていた。その後継者こそが緑谷出久、デク少年であった。

 なので、今日も今日とてその作業を続けていたのであるが……。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 海岸線のごみ山の中、デクの悲鳴が上がった。

 

「おおおおおオールマイトぉぉぉぉぉ! 大変、大変なんです、死体がバラバラで、バラバラの死体が捨てられてて転がってて!」

 

 疲労困憊のはずなのにデクは大声をあげ、涙と鼻水をまき散らしながらオールマイトのもとへと逃げてくる。

 

「オイオイ? 死体? それはちょっときついジョークだぜ少年」

「嘘じゃないんです! 本当にあるんです、あっちに女の人の死体が、生首……う、おぇ……」

「チョイチョイチョイ! その反応、嘘じゃないな!」

 

 その瞬間、枯れ木のような男は一瞬にして肉体を膨張させ、無敵の男へと変身する。

 オールマイトとて歴戦のヒーロー。デクの必至の形相を見ればそれが嘘ではないということぐらい判断できる。

 それにこのごみ山と化した海岸線。確かに死体を放棄することもあるかもしれない。事実、彼らはここで動物の死骸なども見てきた。

 一応、青少年の教育も踏まえて、オールマイトは事前にそういうえぐいものは自分で処理しておいたがそれもさすがにすべてではない。

 ヒーローという仕事をする以上、そういったものとは絶対に向き合うことになる。ゆえに、あえて残してるものもあった。

 だが、同じ人間の死体ともなると話は大きく変わる。心構えができていないうちにそのようなものを見ると、最悪トラウマになることもあるからだ。ヒーローデビューを果たしても、傷ついた人々、息絶えた人々を見てしまったがゆえに引退をするヒーローも少なくはない。

 

「ムッ!?」

 

 そう考えつつ、オールマイトはデクが作業をしていた区画までやってくると、件のものを発見した。

 

「これは……」

 

 そこにあったのは確かに女性二人のバラバラ死体だ。

 しかし、それは人間ではない。機械、ロボットだ。その証拠に血は流れず、金属部品が見えていた。

 だがあまりにもリアルなその見た目はパッと見では確かに死体にしか見えないだろう。かくいうオールマイトも一瞬だけ、そう見えてしまった。

 

「緑谷少年! 大丈夫だ、これは死体なんかじゃない。マネキン……のようなものだ」

「えぇぇぇぇぇ! マネキンって、でも、やたらとリアルというか、そんなそれロボットじゃないですかぁ!」

「うむ、非常によくできている。君が勘違いするのも無理はないな。ふーむ、これは恐らくヒーロー教習所当たりで使われるリアルテイストの要救助対象ロボットかもしれん」

「な、なんですかそれ?」

「あぁ、レスキュー系のヒーローを対象にした講習とかがあってね。そのさいにこうして、本物そっくりのマネキンやロボットを用意して臨場感を出すことがあるんだ。さすがに趣味が悪いということで一部からは反対の声も出ているのだが、かといって当然だが本物を使うわけにいかない」

「は、はぁ……ということはこれ……」

 

 オールマイトの本物ではないという言葉にデクは多少、安堵を示した。

 それでもあまりにもリアルな見た目からは目をそらしていた。

 

「だろうね。しかし、嘆かわしいな、そして趣味が悪い。悪質な悪戯にもほどがある。緑谷少年、これは私が処理しよう。さすがに、これは一人のヒーローとして、大人として文句を言ってやらないといけない。どこの教習所が捨てたのかはわからないが、ヒーローの施設としてこのような行為はナンセンス!」

 

 そのように少年に説明するオールマイトであったが、その実、内心では別の事を考えていた。

 

(ヘイヘイ……なんだこれは……こんな高性能な、人間そっくりすぎるロボットが不法投棄なんてありえないぜ。それに、これは……母と娘?)

 

 残骸を見ながら、オールマイトは薄気味の悪さを感じた。

 

(少年にはあぁして説明したが……いくら何でも不自然だ。それに、こいつはつい最近捨てられている。本当に教習所のものが不法投棄したのなら、それはそれで問題だが説明はつく。だが……もしそうでないなら)

 

 近年の技術力の向上は確かに目覚ましい。個性の中には身体能力だけではなく知能的なものを向上させるものもある。

 彼らの尽力によって人々の生活には大きなゆとりができたのもある。

 それを踏まえてなお、オールマイトは首を傾げた。こんなロボット、果たしていまの技術で作れるのだろうかと。

 いや、そもそも、作ったとして、なぜ捨てるのか。壊れたから捨てる。それはその通りかもしれないが、これは粗大ごみにするにしてはいささかハイテクすぎる。古い機種のスマートフォンが手元に残ったけど邪魔だから捨てるというような気軽さでできるものではない。

 

(確かに教習所などに設置される要救助者型ロボットは人に似ている。だが、『近年』ではあまりにも人に近い姿は悪影響ということでよく見れば違うと分かるようにしてあった。だが問題はそこではない。これは、どこからどうみても人間だ。肌の感触もソフトでなめらか……特有の硬質感がない。確かにロボットを使うところは多いが、ここまでのものは……)

 

 オールマイトはデクに続きをするように指示を与えつつ、残骸をまとめる。

 見れば見るほど、人間そっくりなロボットだった。中年の女性と、中学生ぐらいの少女の形をしている。

 いやそれだけではない。デクは気が付かなかったのかもしれないが、よく見ればこのロボットの残骸の周囲に捨てられているのは女性ものの服やバッグ、指輪なども無造作に捨てられている。勉強机、ぬいぐるみ、そして……粉々に粉砕されたスマートフォン。

 

(SHIT……これは本当に趣味が悪い)

 

 オールマイトはなるべくデクにはそれらを見せないようにする。

 これはまるで、一件の家から家族がまるごと捨てられているような気分だ。

 

(こいつは、尋常じゃないぜ。技術の拡散防止という側面もあるが、ヒーロー側の技術は極力民間には下りないように厳重な取り締まりがある。古くなったものは回収業者がくるし、それらも政府の直轄。処理にせよなんにせよ二重、三重のチェックは必ず行われる)

 

 全く、絶対に、不法投棄が行われないかと言われればイエスとは言えない。だが、不自然であった。なぜこの二体だけが捨てられていたのかである。

 わざわざこの二体のロボットだけを捨てるのに不法投棄などという手段に出るかという疑問が彼の中にはあった。

 第一、このような場所に捨てる方がリスキーである。それに、こういったものにはどこの所有物かを示すIDナンバーなどがどこかに記載されているはずだった。

 それらをたどれば製造場所が判明し、そこから遠回りにはなるだろうが所有者へとたどり着くこともある。

 

(やはり、ないか……IDナンバー)

 

 つまり、未登録である。

 

(だとすればこれは……まさか……)

 

 オールマイトの脳裏に一つの懸念が浮かび上がった。

 未登録のロボット。そのようなものは即裏社会というものに繋がる。登録がなされていない時点で不正であることは間違いないのだが、問題はその不正を行っている者である。大企業であれば、なおさらたちが悪いがその手の連中は用心深く、できるだけ足をつかないようにする。

 ではヴィランはどうか。ありえないと断定はできない。ヴィランとて馬鹿ばかりではない狡猾で頭脳明晰なヴィランは数えるほどいる。だが、このような高性能なロボットを運用できるようなヴィラン、ヴィラン組織はどこか。

 

(奴、AFOか?)

 

 その一瞬だけ、オールマイトは顔を強張らせた。それは一秒にも満たない。他人が見ても、彼の表情の変化に気が付くものなどいないだろう。

 

「お、オールマイト? どうしたんですか、顔色が……まさか傷が痛むんですか!」

「ん? いや、違うとも緑谷少年! さぁさぁ、私の心配よりも自分の心配だぜ! 今日の分のノルマが達成できないようじゃ雄英合格は夢のまた夢だぜ!」

 

 デクにそういいながらオールマイトは内心焦っていた。

 

(いかん、いかん。まさか彼に悟られるとはね。私も、気負いすぎてるようだ。だが……)

 

 オールマイトはデクの姿を眺めながら、それでもこびりついた疑念を払しょくできないでいた。

 

(こんなものを持っていられるのは、あの男とその関係者ぐらいだ……オール・フォー・ワン……いや、だが奴はあの時間違いなく、倒した。ならば……)

 

 なんにせよ、この事は報告せねばなるまいとオールマイトは考える。

 考えすぎであっても、平和のためならそれぐらいがちょうどいい。

 

(それとも、奴らか……?)

 

 胸騒ぎは、決して嘘ではないのだから。

 

 

 

 それから程なくして、四国地方のとある山間で山崩れが起こった。

 幸い、人の集まる場所でもなく、山奥であったために人的な被害はなかったものの、山崩れの勢いは大きかったらしく、小さな名もなき山が一つ消えていた。そこはかつて鉄道網計画がなされていた区画であり、工事半ばで中止されたためにさび付いたレールなどが残っているだけ、あとは途中で行き止まりになった洞窟が数個あるだけの場所だった。もはや責任者が誰であったのかは不明なほどに古いもので、現政府とてこの事実を知ったところで正確に状況を把握できるものはいない。

 工事を担当していた企業もとうの昔に倒産しており、利権書類もバラバラでどこの誰が所有しているかもわからないままだった。

 だが、しかし。その未完成の鉄道の真下に、秘密基地と呼ばれるものがあったことを知るものはいない。

 そこは基地とは銘打っても、実態は倉庫のようなもので、設備機能の大半が未整備のまま役目を終えていた。だが、知識のあるものが見ればその設備の完成度に目をむくことだろう。

 そして基地内部に並べられた無数の人型。むき出しの金属装甲と骨格を思わせる鉄の顔。それはロボットだった。そこはロボット、アンドロイドの製作工場も兼ねていた。人間そっくりのアンドロイドの工場。

 そこが、爆破されたのだ。機密保持のための高性能爆薬はいまだ機能を失っていなかった。それが起動、爆発を起こし、基地を地中深くに埋め込んでいった。

 そんな事実を知る由もない世間はただの山崩れとして小さなニュースに報道程度で終わった。

 

「まぁつまるところ、ショッカーの遺産というのはいたるところにあるというわけですな。もちろん、わしはその全ての場所を把握している。どこが、どう生き残っているかまでは知らんが、君たちの玩具を用意してやるぐらいはできるというわけだ」

 

 田中一郎。

 否、大使は携帯電話越しに大きな笑い声をぶつけていた。

 すっかりと広くなった自宅。いやもはや家と呼ぶべきかも疑わしい。テレビ、ソファー、テーブルなどの必要最低限の家財しかなく、それ以外の不必要なものが一切なくなった空間。

 かつてはかりそめの妻と娘の小道具もあったが、それすらもすべて捨てた大使は悠々と殺風景なリビングで楽しそうにテレビを眺め、電話をしていた。

 

「そう、だから派手に壊してくれ。欲しいものがあれば勝手に持って行っても構わんが、とにかく基地施設は全て爆破だ。なに、君たち敵連合に足がつくことはない。ヒーローたちも首をかしげるさ。これは何だろうとね」

 

 大使は楽しそうに語る。

 

「こちらの技術を苦渋の決断で手渡すのだ。君たちの、脳無という改造人間も、それで多少は安定するだろうさ。うん? なぜ基地を破壊するのかだって? そりゃ死柄木君、簡単だよ。古くなった施設は危ないだろう? 誰かが迷い込んだりしたら大変だ。それに……色々と厄介なものもあってね。不発弾のようなものさ。臭いものには蓋。それが一番なのだよ。政治の世界もそういうものさ。うん? そんな話は聞いていない? あぁ、そうだったね」

 

 大使は缶ビールをあけて半分ほど飲み干して、続けた。

 

「とにかく、これは必要なことさ」

 

 そういって、大使は電話を切る。

 

「さて、私からのメッセージ、受け取ってくれるかな?」

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