機動戦士ガンダム チャイルドソルジャーズグリーフ   作:照宮 駿

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人は何故、戦うのか。
人は何故、命あるものを護るのか。
腐敗した時代の中で何故、奪い合うのか。
『共生』という言葉が失われた時代の、哀しい物語である。


1 パスト

 マフティー動乱から五年、連邦軍からの辞退をしたブライト・ノア大佐とケネス・スレッグ准将。彼らが居なくなった連邦軍は依然として腐敗を続けていった。

 そんな中で開発が進められていたスティクスガンダム 。それにはNT(ニュータイプ)の脳波ではなくCSの脳波によって稼働する自動追尾型の操縦兵器が備蓄されている。

 しかし、CSとは一体何なのかを連邦軍はまだ世間へと知らさずに隠蔽している。少なくとも、NTが減少した事によるサイコミュ兵器の廃棄や旧型モビルスーツの廃棄は免れる事が出来ない事実と化していた。時代が進むとともに小型モビルスーツの実現化がされ続け、かつての戦火は“廃棄”という言葉と行動により今ここに埋もれようとしていた。

 UC0083年にスペースサイド2内のソロモンが滅亡し、その戦火の激しさから人々は住みどころを失ってしまった。徐々に復興はされてはいるものの、宇宙都市への移住を100年も前から余儀なくされていた元地球人のスペースノイド(宇宙市民)にとって苦痛ゆえに苦悩な事だった。UC0079年の一年戦争以来から戦地にMSなどの兵器で出向くといえば20歳以上の大人が基本であった。しかし時代は変わり、連邦軍はある事を基準にした兵士を養おうと考えていた。それは10歳以下の子供をMSの操縦者とする事であった。

 子供一人一人に3DCGのようなやわな映像では無く、本物の内臓や眼球が銃弾や爆撃によって吹き飛ぶという妙に脳裏へと焼き尽く映像を見せてCS(チャイルドソルジャー)として叩きこませるのである。

 

 全面白色の4平方メートルほどある殺風景な部屋の中で残酷な映像がブラウン管テレビのサイズとほぼ同じ四角型のモニターを通して映されていた。

 内容はごく単純なもので、銃弾や血漿が飛び交う戦地の中を戦場カメラマンが撮影した映像である。銃弾が脳部を直撃し、その直撃した部分に手を添える余裕も無く筋肉が硬直して前方にのめり込んでバッタリと倒れていく迷彩柄の服の兵士の姿や、倍率をアップし画面一杯に映したウジの沸いている兵士の死体などのワンシーンで10秒ほどの短い動画が次々と流れた。そのモニターの傍らで何やら指揮官のような人物と、熱心にその映像を見入っている幼い子供がいた。

「どうだ?もう飽きたろ?」

「いいや。むしろ現実を突き止められて良い方だよ。下手なB級映画よりマシさ。」

淡々とその子供は茶髪で小鼻の指揮官の男に対して応えた。

「大抵、こういう映像をあんたと同じ歳頃の奴に見せれば泣き叫びながら腹一杯のゲロ吐いて終わるんだけどよ。あんたみたいな最後まで“現実を突き止められて良い”なんて言って見入ってる奴なんて初めてだ。」

「褒めか?」

指揮官を見つめる。

「褒めだ。ベリーグッド。」

「ハァ…褒められるためにこんなチンケな映像見てんじゃねぇんだよビッグボーイ。」

「素晴らしい回答ありがとさん。クソガキデア。」

 モニターの映像を見ていたその少年キデアはモニターから目を離して腰掛けていた椅子から立ち上がり、その室内から出た左手にすぐある待合用のソファにボフンと音を立てて座った。

 キデアはまだ10歳の身長145弱の端正な顔つきをした少年であり、同時にCS-01としての役割を持っていた。01というのは番号としての呼称であり、キデアは自分の他に何人同胞が居るのかは解らなかった。

『しかし…本当に大したもんだ。普通、あそこまであんなちっこいガキがまるでコメディ番組見てるみたいなノリで居られるか?だとしたら、言わずとも賜物(たまもん)だよ。』

 室内に一人残ったその男は何らかのメモを記入していた紙を丁重に所持していたバッグへとしまい込んだ。

「よお、お前も一緒?」

「だれ?あんた。」

 ソファに座っていたキデアの寝巻きのような姿を一目見てその少年は気安く話しかけてきた。

「お前01だろ?俺は02のアヴィ。今日からCSの仲間入りさ。」

「そりゃごもっとも。俺は01のキデアさ。両親失っちまってさ、いつものように逃亡生活している時に連邦の奴らにとっ捕まえられたんだ。今ちょうどヘンチクリンな映像見せられてよ。何であんな物を見せるのか俺には到底理解出来ねえ。」

「へえ。キデアっていうんだ。映像を見てた真っ最中だったんだ。」

「お前も見せられると思うぜ。ここには俺みたいな連中が何十人と居るかもしれない。」

「確かに言われてみれば俺もここに入る前に“02”という番号をつけられた。お前も“01”という番号がつけられたのなら、その次の“03”だって“10”以降の番号だって居るはずなんだよ。」

「ったく。連邦の連中は何を考えているのか。」

 アヴィが少し焦る一方、キデアは呑気でいた。見たことも行ったことも無いこの場所に連邦の連中に捕まってきたというのにも関わらず、依然として緊迫する事や冷や汗の一つもかかずにいた。

 当然先程の指揮官の男にもそれを感じざるを得なかったであろう。まさにその姿は『異端』であったのだ。しかしその異端さは逆を言えば彼らにとってみれば好都合だったのかもしれない。

 むしろここまで呑気で居るのならば才能があるのかもしれないとみなす事も出来ればその残酷さにもう既に慣れていて、なんとも感じなくなったという推察だって出来なくは無い。その異端さを知らしめるために指揮官の男はその異端さを見たがためにメモを取ったのかもしれない。キデアに限った事ではないかもしれないが。

『02(ゼロツー)!所内二階の視聴覚室に来い!』

 恐らく若年の連邦軍の兵士であろう。若々しい声で視聴覚室へと来るように所内放送で呼びかけた。02というのはアヴィの事で、視聴覚室はついさっきまでキデアがモニター映像を見ていた場所であった。

「といってもすぐ目の前だけどな。」

 アヴィは少しにんまりとしながらキデアに言った。

「じゃあなアヴィ。俺はもう自室へと向かう。運が良ければまた会おうぜ。」

「おうよゼロワン。」

 アヴィはソファ横の視聴覚室へと自動ドアを開けて入っていった。

「アヴィ…か。」

 キデアはポケットに両手を突っ込み、考え事をしながら歩いて行った。

『番号で気安く呼ぶんじゃねぇよ…』

 キデアは内心嬉しそうにしていた。そして戻る途中に一人の連邦軍の兵士とすれ違った

後にキデアはようやく自室に入った。

 自室はワンルームで6平方メートルとなっており、一食分の食器が置けるデスク、洋式トイレ、洗面器、戦争に関しての本やかつて兵士が余暇として書いていた書き始めから死ぬ前日までの日記の復刻、週に一回電源がつきテレビ番組を見ることが許されるデジタルテレビ、そして部屋を照らす上で欠かせない天井のLEDライトがあった。部屋の中は生活をする上で何一つ不自由は無い。一日三食は必ず食事はあり、暇さえあれば本だって読める。それも戦争の本は山ほどあるため月に一回は違う本に更新されるのは非常に有難い。週に一回金曜日にテレビ番組を見れるのもここのCS(チャイルドソルジャー)達にとっては心をくすぶらせる。が、キデアはキデアと同じ10歳くらいの子供が見るようなカートゥーンキャラクター番組などには興味が無かった。たしかに、子供向けの番組や玩具を好む戦争の風景を普段から見ないここのCSを含む子供にとってみれば、指揮官の男が“ゲロを吐くだろう”と言うのは辻褄の合うことだ。

 キデアは既に両親を失っており、戦争孤児としてここ連邦軍の組織に連れてこられた。そしてたった今CS化計画としての一歩を辿ったのだ。トラウマになり頭に焼き付くような残酷無慈悲な映像を見せる事により特殊な人間へと覚醒させていく。そして“大量に子供を集められる”という利点を活かして幼き兵士として扱う。その光景はまさに『子ども兵士(チャイルドソルジャー)』である。MS(モビルスーツ)の小型化による安価な量産機の生産、戦争孤児や幼児を誘拐する事で集めた兵士の数々。それはまさしく、この腐敗した連邦軍だから為せる史上最悪の計画であった。

 

「オエッ!!ウエッ!!」

 キデアが見たのと同じ映像を見た長髪の少女が涙を流しながらビチャビチャと足元に音を立てながら嘔吐していた。

「やっぱり01と02のようにはいかなかったか。ほら03ちゃん…ゲロばっか吐いてないで画面を見ろォ!!」

「いやぁぁっ!!」

 少女は口元に嘔吐物を残しながら指揮官の男に必死に抵抗する。しかしその抵抗は虚しく、男は少女の髪を引っ張り画面の目の前に押し寄せた。

「よく見るんだっ!お前は…両親をこんな事にした奴ら、つまり敵が両親を殺したんだ。こんな風に。」

「パパと…ママを…?」

少女は震えながらさっきまでの抵抗した時のような暴れた様子は無く静かに応えた。

「そうだ。モビルスーツ、解るだろう?奴らはその兵器を使い何の罪も無い人間を!お前のパパとママも!殺したんだ!!」

「こいつらが…パパ…ママを!」

「憎いと思うだろう?03、もしお前がここに来なければこんな事実は知れなかったんだ。そして我々はお前にモビルスーツに乗ってこいつらに復讐するチャンスをあげたんだ!」

少女は歯を噛み合わせながら握り拳を作り震えながら力を入れた。

「殺すっ…殺してやるっ!!こんなやつら!こんなやつら!!!」

「それでいいんだ…おいペトル!CS-03をMS格納庫へ案内しろ。」

『はっ!了解です!トルディ少将!』

 指揮官の男トルディは無線機でペトルという男へ03という少女を案内するように仕向けた。

 

 所内の移動は基本的には自由となっている。しかし、MSでの訓練などの特定の時間以外は他人とのコミュニケーションが許されていない。そんな初日で本当は全面禁止ではあるのだが唯一コミュニケーションを取れる場所を発見した。全4階建ての所内の屋上だった。人が10数人以上居れる空間は十分にあり、深夜になった今そこでキデアは近代化の進む都市部の風景を眺めていた。部屋での生活に不自由はないものの暇というのは付き物である。蛍の光のような車のライトが移動して建物の死角に隠れては消え、隠れては消えを繰り返しており、高層ビルが明かりを灯していた。

「よっ!また会ったな。」

「うわっ!お前は…ゼロツーじゃねぇか。」

 突如屋上を出入りする扉が開いた音とスッと現れたアヴィにキデアはびっくりしていた。そこの部分はまだまだ子供らしい面識はあったのかもしれない。

「なんで屋上に?」

「暇でね。ここだとあいつらは来ないだろ。」

「そうか。俺もなんとなくここが過ごしやすいと思ってな。なにせ皆と仲良くしたかったのに全面会話禁止だからよ。」

「同意見だ。まぁ、少し規制が緩和されたとしても仲良くするつもりはねぇけど。」

「お前も今日初めてここにきたのか?」

「そうだ。ゼロワンなんて番号で呼ばれて。でも良かったよ。ああいうお前も含む生活が富裕な奴らに比べれば俺なんてここは天国みたいなもんさ。タダで飯食わせてタダでモビルスーツ乗れるんだ。」

「飯は解るが、モビルスーツって…どういう事なんだ?」

「それはな…」

 

 UC0105年、その年にアデレードを中心にマフティー動乱が起こった。アデレードの周辺地域に居た俺は、マフティーのガンダムとガンダムもどきの格闘を見たんだ。そりゃ凄かったさ。強風が街を襲い、モビルスーツが空中を飛び交い、光という光が炸裂していたんだ。そしてビームの剣と剣による火花が散ったのを俺は見たんだ。ガンダムの姿を見て思った。俺は私かにあのかの英雄、アムロ・レイ大佐の姿が頭に浮かんだ。

 モビルスーツの操縦者、ガンダムの操縦者として世界だけでなくスペースコロニーに知らしめたパイロットだ。世の中を変えるために、護りたい人が居るから戦うその姿に心の底から当時5歳だった俺は童心ながら憧れていたのだ。俺にとってヒーローはキャラクター番組に登場するような正義を淡々と語るスーパーマンには興味がない。義理心情を語り、慈悲を思うからこそ誰も解り得ない本当のヒーローに俺は強く憧れるのだ。それがテロリスト組織のトップリーダー、旧名ハサウェイ・ノアの

「マフティー・ナビーユ・エリン…俺が認めるヒーローさ。」

「それで憧れたって訳か。でももっと正当な理由があるんだろ?」

「あるさ。両親の復讐のためだ。その点でも俺はこの所内に入る事に都合が良かったのさ。だから捕まっても抵抗はしなかったさ。一切な。」

「なるほどな。」

「嫌というほど見たさ、だからさっきのなんとも無かった俺の顔だって合点がいくだろ?」

「辛くないのか?」

「全く。というより、ウズウズしてるのさ。」

「えっ?」

 アヴィは耳を疑った。

 

「俺はもう…覚悟は出来てる。」

 

 覚悟は出来ているだと?とアヴィは内心疑惑だらけだった。それは当然の事だろう。連邦軍に捕らえられたのにも関わらず、そんな事はお構い無しと思っている。なんという奇抜な冷静さを保っているのだろうとアヴィはますますキデアと居るのが気まずくなった。というのも、アヴィはキデアがここの事について何か知っているのでは無いかと思ったからだ。しかし、演技だとしても子供のふりをしないというのは不自然では無いだろうか?普通演技としてここの事を何か知っているのであれば子供らしく振る舞うのがセオリーな筈だ。だがキデアはズバ抜けて他の子供とは違う大人らしい冷静さや頭のキレの良さを兼ね備えていたのだ。ならばこの屋上が唯一の会話スペースとして利用できる事が解ったのもキデアの頭の回転の速さがあったからこそであろう。そんなキデアをアヴィは少し不気味に思っていたのだ。

「覚悟って…もしかして、モビルスーツに乗るのか?」

「乗るのかって、いずれはお前だって乗るんだぞ。この所内に入る前にお前見ただろ?デッカい格納庫が設備されてんのをよ。」

「きっと量産機だろうな。」

 そう切なそうにアヴィは言ったものの表情自体は変わらなかった。

「ジェガンみたいなのか?」

 ジェガンとは、UC0093年の第二次ネオ・ジオン抗争時に量産されたあのハサウェイ・ノアが搭乗したともされるモビルスーツである。

「でももう、旧時代モビルスーツはきっと無いだろうな。皆スクラップになってレアメタルみたいに利用されて。」

「時代が時代だ。どんなのだって良いだろ。」

 キデアはそうは思っていたものの本音はガンダムに乗りたかったのだ。親が買ってきた玩具を子供が気に入らず、自分が欲しい物を再度ねだるようなわがままと同じだった。だからこそキデアはわざとらしくという訳でも無いが、冷静に振る舞ったのかもしれない。その方が特別的な扱いを受ける確率がきっと高くなるからだ。

「ガンダムに、乗りたいのか?」

「俺の夢だ。そして、俺自身の復讐のためだ。」

 キデアは立ち上がってそう言った。

「あそこまで特別視されるなら、心配はねぇだろ。きっとお前なら乗れる。」

「やってやるよ。」

 キデアは既に暗くなった空の上に向かって決意を固めた。

 

 UC0109年6月、紛争勃発。当時9歳であったキデアはその戦火の中、両親と共に逃げている最中であった。街は火が重なったように燃え、火災により黒焦げになった人間、阿鼻叫喚の悲鳴、地獄だった。空中には敵軍であるネオ・ジオン軍の残党兵士が搭乗しているであろうギラ・ドーガなどのモビルスーツが散乱しており、街をビーム・マシンガンで襲撃していた。

「ああぁっ!!」

「母さんっ!」

 キデア達が街の中を逃げ惑う際、キデアの母親が重い瓦礫の下敷きとなる。それにキデアの父親も気付き、母親を救おうとする。

「お前!今助けるからな!キデア、父さんはこっちを持ち上げる!そっちを持ち上げてくれ!」

 父親が左側の瓦礫を持ち上げる一方、キデアは右側の瓦礫を持ち上げる。しかし、とてつもなく重いその瓦礫にキデアと父親は応える事が出来なかった。

「くっ!」

「母さん!今助けるからね!」

 とてつもなく重く、既に助ける事は高確率で不可能だとは解っていた。しかし、キデアと父親は諦めなかったのだ。大切な家族を最期まで守るために。

「キデア…あなた…!」

 火は収まる勢いもなく、やがては母親のいる瓦礫にまで広がっていった。

「母さんっ…!」

「諦めるな!ふんばれェ!」

 それでも諦める素振りを見せないキデアと父親に遂に母親から口出しをされた。

「キデア…あなた…もう良いのよ…」

「母さんっ!馬鹿な事言ってんな!」

「見れば…解るでしょ…火に囲まれて…逃げられなくなるわ…」

「でもっ!」

 母親はグッドサインをキデアに送る。

「母さん…」

「大丈夫…!」

 火は母親を直撃した。その瞬間どれだけ言葉に言い表せないほど目の前の情景がスローモーションになったか。俺は人生で初めて大切な人やモノを失った気持ちになりきれる事ができた。

「アァァァァァァァァァッ!!」

「かあさぁぁぁんっ!!!」

 父親はキデアの腕を引っ張る。

「お前も火に巻き込まれるぞ!こっちに来るんだ!」

 ここで俺は立ち止まる訳にはいかなかった。いつかこの手で復讐するまで死ねないと突発的に思ったのだ。大切な人を失うという思いを味わせてやるんだ。殺害という手で。

ビビビビビッ!

「アッ…!」

「父さん!?」

 一瞬何が起きたのかキデアには解らなかった。が、すぐに状況を把握できた。敵軍のモビルスーツのビーム・マシンガンが父親を直撃したのだ。父親の服は染め物のように赤色に染まり、額からも波状に血がダラダラと流れ出た。

「父さんっ!!」

「キデア…」

 キデアは応急的に父親を担ごうとする。

「父さん!俺の背中に…!」

「良いんだキデア…父さん達は戦争に負けたんだ。負けたから、こんなに無残な死に方になるんだ。」

「バカっ!!戦争なんて…!戦争なんて!どうでもいいだろ!」

「キデアの言う通りだ…だからだキデア!お前が!父さんと母さんの分まで…生きろっ!!お前の意志で、生き延びろっ!!」

 父親の体温は下がり、遂に絶命した。

「とうさぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 そこからだ。俺は僅か9歳という若年ながらも、食糧を盗み調達し、夜になれば火を灯すなどの行動をして生活をした。誰の手も借りず、周囲に媚びずに。だからこそ、現実(リアル)を感じられたのだ。それに対して、今まで親や友人任せの豊富に生活していた俺と同じ歳頃の人間になんて現実を感じられる事がある訳無いのだ。優越感に浸れるとかそんな事を言っている訳ではない。いかに戦争や死という悲惨な光景を体験したかしないかの差に過ぎないのだ。そして早くからこういった自分一人の力で生活する事で、自尊心や自立心を高める事も出来る。すなわち、俺にとって一人というのはメリットだらけなのだ。そして、戦争や死を知るという事は現にチャイルドソルジャーとしての役目を担ったとしても、それだけ他の奴らに比べれば尚更耐久力がついているという事にもなる。なんとメリットだらけなのだろうと、思わず俺は童心ながらそのメリットの多さに恍惚したくなる。確かにメリットといえども、周囲の人にとってはメリットなんてどこにもないじゃないかと当然思うだろう。そして『異端』と呼ばれても違和感の無い事だ。しかし、それは現実を実感していないからこそ偉そうに言えるのだ。食品が良い例だろう。最初はまるで食品の独特な匂いや見た目を評論家のように嫌っていた癖に、いざ試食するとなると目の色が変わったようにベタ褒めし始める。俺が感じた現実(リアル)だって同じ事だ。両親が居なくなって初めて一人になったからこそ、今までに感じられなかったこの気持ちや高揚心を味わえたのだ。だから俺はそんな俺と同じ歳の奴らに堂々と言えるさ。『戦争を知らないお前らがいけないんだ』と。この時代背景を見れば『子供が戦争で狩り出されるのなんて容易いもんだ』と大人が口を揃えて言うのはハズレでは無い。マフティーが世を変えるために戦地に赴き、残党軍による紛争が勃発する。これだけ5年もの間に様々な事が起こって、小学校では何を学ばせているんだろうと思う。どうせ学ぶとしたら廃棄物が何処へ行くのか?みたいなつまらない授業だろう。いずれにしても俺にとってこの格納庫付きの連邦軍施設は楽園みたいなもんだ。ま、そいつらにしてみれば『家畜小屋』だがな。

 

「どうだ、広いだろう?ここには我々連邦軍のNGM(新世代モビルスーツ)シリーズの機体が並んでいる。そしてお前が今日から訓練を行ってもらう機体が、このEMPS(脳波操縦追撃システム)という最新鋭の兵器が搭載されているモビルスーツ、『NGM100-01ソルジャーガンダム』だ。」

 トルディの部下、ペトルが03に手の仕草をしながら自軍の新型モビルスーツの説明をする。03はさっきの面持ちとは違い、まるで好奇心旺盛な雰囲気に変わっていた。先程のトルディ少尉とのやり取りがあったからだろう。

「えぇ!すごい!これに私が乗れるの?」

「あぁ。そうさ。操縦方法もちゃんと教えてやる。そう後ろめ堅くする事はない。」

 ペトルはまるで父親のように優しく擁護するように囁いた。それに安心するかのように03の表情も和らいでいた。

「これって私だけの機体なの?」

「いいや、違うさ。これに他の君の仲間も含めて10人以上は乗るさ。“一人”を除いてな。」

「一人って?」

 03はその『一人』というワードが酷く気になった。

「ここだけの話だが、さっきトルディ少尉との話でお前らの仲間の中にズバ抜けて呑気な奴が居てな。あのグロ映像見ただろ?あれを見てもビクともしねぇんだ。初見の俺ですら少し気分を害したくらいの物なのに、挙げ句の果て『現実を突き止められて良い』なんてキチガイ染みた事を言い出すんだ。まったく、たまげたもんだよ。」

「それって本当に私達の仲間?ペトルさんと同じ大人じゃないの?」

 ペトルは内心この短時間で自分の名前を覚えてくれた事に少し喜んだが、続けた。

「いいや、正真正銘のガキさ。まるで獣みたいなハンターみたいな目つきで見てきたさ。さっき俺と廊下ですれ違った時にな。外見自体は他の奴らとどこも変わらないのに、その目つきは本物さ。あいつは俺の予見からすると相当な修羅場をくぐっていると言える。」

「会ってみたいな。その子と。」

「食事の時のブリーフィングルームで会えるぜ。そして何しろそいつは俺達がこの施設へ連れて行く時抵抗一つもしなかった。君は抵抗してたみたいだけどね。」

「でも、良いの。私には目的が出来たから。」

「これで許してくれ。イリア。」

 ペトルはこっそりと100ドル札を03に渡す。

「こんな事…本当に良いの?」

「良いさ。こっちは連邦軍、金なんてお安い御用だ。」

「ありがとう…!私の名前を呼んでくれたのもあなただけよ…」

 03ことイリアは涙を流し始める。

「君とはどこかで会ったような気がしてさ。」

「ペトルさん?」

「なんだ?」

「目、閉じて。」

「ん、ああ。」

 ペトルは目を閉じる。その隙にイリアはペトルの口元に顔を近づけて接吻する。

「!」

 ペトルは驚いて目を見開く。しかしイリアは口づけしたままであった。

「リーゼル…大好き。会いたかった。」

 リーゼル、おそらくペトルの本名なのであろう。

「やっぱり…イリアだったか…大丈夫、もう心配しないで。」

 ペトルことリーゼルはイリアを優しく抱擁した。

「うん…」

 深夜の格納庫の中、ペトルとイリアは共に喜びを味わったまま少しの間眠りについてしまった。周りから漂った金属の匂いが、二人の鼻を突いた。

 

 

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