スーパーロボット大戦Z 辺獄編   作:レゴシティの猫

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 皆さんこんにちは(?)
 アサキムの出番は今回の終盤です、気になる方は読んでください。


第二十五話 変わるもの、変わらないもの

リトを追いかけた先にシロを待っていたのは墓地だった、おそらくリトは美柑の墓に行こうとしていたのだろう

 気がつけば雨水を吸って泥と化した土が靴につき、そして衣類全てが雨水に濡れその分身体が重くなっていた

 降り始めていくらかの時間が経ったため…もしくは雨が掻き消しているのかもう雨の降り始めに匂う独特の匂いはしない

 今のシロの目的は結城リトをあの部屋に連れ戻す事

 進んでいくと美柑の墓の前でリトは立ち止まっていた、立って頭を垂れた状態でしばらく動いていなかった

 「おい」

 シロは淡々とした口調でリトに呼びかける事にした

 「……ああ、シロか」

 振り返ってシロに気づいたのは少し間があってからだった

 「…ああじゃない、戻るぞ」

 「俺は大丈夫、だから」

 「大丈夫じゃないだろう?それに大丈夫だって言葉を伝えるべき人間はオレじゃない」

 大丈夫じゃないからこそ…彼は今ここにいる、そうシロは感じ取れた

 自責の念にでも駆られているのだろう

 自分の妹が、自分達の前からいなくなるという選択肢を選ぶ程何かに悩んでいたのかもしれなくて、それが何だろうとそれに気づいてやれなかった自分を恥じているのだと彼の雰囲気が語っていた

 「それとさっきは悪かった」

 シロは先ほどリトに放った言葉についていくらかの罪悪感を感じていた、リトが今ここで悩むのはけっこうな割合でその言葉のせいだと

 「俺も急につかみかかって悪かった、だからおあいこ」

 リトは傘を高く上げて来いという合図を送った

 「ん?」

 「これ以上濡れない方が良い」

 シロはリトの言葉に甘え傘に入れさせてもらった、少し雨に打たれすぎて肌寒くなってきたのもあった

 それから少し沈黙

 勢いで飛び出して来たのはいいがシロはもう何を言えばいいのか分からなくなってきた、気の利いた言葉なんて一つも考えついていない

 言えるのは、彼女の名前のみで体の一辺すらないこの墓碑を見つめてただ思いを巡らせてもどうにもならない事だけ。だが悩む自由というのも人にはあっていいと思えるしシロはもう少しぐらいなら良いかと思った

 「お前の言うとおりだったのかもしれない」

 沈黙を破ったのはリトからだった

 「何がだ」

 「俺は美柑の事を分かりきっていなかったのかもしれない、少なくとも俺達や親父の前からいなくなるような悩みに俺は気づけなかった…」

 「…………」

 「これでも二十年は美柑の兄をやってたんだけどな」

 「年月経ったってわかんないものはわかんないさ、そういうのはフィルターにすらなると思うんだが」

 年月をかけて相手を見てきたという自負は驕りに繋がり目を曇らせる、ものすごくというわけではないが少しでも曇りさえすれば…見えてない部分が生まれたりする

 「俺、間違ってたのかな…?」

 「何をだよ」

 「ララや春奈ちゃんと他のみんなとも一緒になって、デビルーク王になってから今まで俺は俺なりに王様を頑張ってきたつもりだった」

 「王妃と結婚したことを後悔してるのか?」

 「そんなんじゃない、そんな気持ちは持ってないし持ってはいけないと俺は思う。ただ俺に何か足りない物があって、だから…」

 美柑とガーランドを失ってしまったとリトは呟いた

 「ガーランド君の事か。昨日ぐらいに噂で聞いた、王子や王女が騒いでたらしい、オレも悲しい」

 「理由までは知らないんだろう?聞かせてやるよ、お前がどんな顔をするのか見てみたい」

 リトはシロにガーランドの死因を話した

 「嘘だろ…」

 「嘘ついて何があるってんだよ」

 何もない、むしろ…

 「本当なのか…」

 「お前はどう思う?」

 「どうって?」

 「お前はヤミを逮捕しようとしていた、俺達は当然それを受け入れる気は無かった」

 シロはそれでデビルーク王達と一触即発になりかけた、それが原因で銀河警察をやめる羽目になった、気にはしてないつもりだったが改めて言われるとあまり触れたくない話題だった

 「だからどうしたんだ?」

 「……お前は思ってないのか?確かに犠牲者はいて、その事で誰かは苦しんでた。自分が正しかったんだって」

 だからあの時…という言葉を考えたり自分はその結果が見えていたという優越感をシロは抱く心の隙間は無かった、妻を庇う選択は何ら間違ってない。証拠はもう過去の物でもあったわけでありどうしようもない

 「思えねーよ、すぐ引き下がったオレがそう思う資格なんてない。他に間違いがあったとすればその後貴方達は何もせずにそれっきりだった事だと思う」

 「そうでもない、あれからヤミは自分の生き方について考えてたんだ」

 自分の手が血に汚れてた事をシロの一件で思い出させられたヤミはどうすれば良いのか分からなくなっていた、だが答えは出た

 「『ここにいていい』と言ってくれる人達、思ってくれる人達の力になる事…それが私のこれからの道標だと思います。リトさん、私は命を護るためにも戦います。兵器としてではありません、それが私に人としてできる事だと思うからです、だってさ」

 「だから内乱の鎮圧に加わったのか」

 「あの時は要請があって…」

 彼女の行く道に死者は出なかったと噂にはあった、元々王様が殺すなと言っていたのもあり当然ではあるかもしれないが

 「だが…」

 築いた伝説が何で、どんな人間で出来ているかを知って欲しかった。賞金首もいたかもしれない、誰かにとって邪魔な人間もいたのかもしれない、中には…何も知らない無垢な人間もいたはずだ。明日への糧が欲しいだけの子供もそうだ

 惑星を両断したという事はそういう物だとシロは思う

 シロははっと息を呑んだ

 ひょっとしたら自分は忘れて欲しくなかっただけなのかもしれない、自らの刻んだ伝説を贖う道のりはまだ終わりではないという事を

 「シロ?」

 「…嫌、デビルーク王。一つだけ良いか?」

 「何だよ?」

 「貴方は自分の命を狙った彼女を許せても他の奴らはそうとは限らない、貴方がもし殺されでもすれば周りの人間は」

 「俺はやられなかった、だから良いという訳じゃないかもしれないな…俺も善処するよ、もう少し他の人達の事分からなきゃいけないな…俺からも一つ良いか?」

 「ええ…まあいい」

 「俺さ…ナナから聞いたり頭に浮かぶ何かしらの映像でしか美柑やガーランドの死を知らされてないんだ、自分の目で直接見たって訳じゃない。だから…」

 雨粒に隠れない程の滴が嗚咽と入り混じってリトの両目から垂れ、こぼれだした

 「まだ俺はひょっとしたら目の前にさ…ひょっこり出てくるんじゃねえかって思ってしまうんだ、そしておはようって言って」

 まだ認めたくはなさそうだった、もう会う事は出来ないという事、その手、その髪に触れるのはかなわないのだという事

 「………………………………(難易度高いな)」

 「お前はどうすればいいと思う?」

 「………………………………」

 ありきたりの答えでは足りない気がする、それだけでは相手の心にも響かない

 相手の死を受け入れるべきと言うのはあまりに陳腐に思えてならなかった

 「前を向いたとしても下を向いたとしても上を向いたとしても時は進む。貴方がここにいる間も、あそこにいる貴方のお嫁さん達が貴方を待っている間も、絶え間なく」

 「……」

 「貴方は今まで通りでいれば良いと思う、オレと言い争った時のような…王妃や他の女性達が認めて一緒に生きようとした貴方のままで…だがどうするかは貴方の自由、だけどここで嘆いてもどうにもならない」

 「分かってはいる…けど、俺はこのままじゃまた…」

 「貴方はどう変わりたい?」

 リトはシロの顔を見てきた

 「どう変わるにしても失ってから変わるものに良いイメージはない」

 「…そう言われればそんな気もする」

 「という訳で貴方の嫁さん達の所に戻ろう」

 「おい待てよ」

 リトは笑顔でシロの肩に手を置いた

 「話畳むの急過ぎないか?」

 「他人分は喋った、続きは向こうで身近な人達とどうぞ」

 「俺は…どんな顔して春菜ちゃん達の所に行けば…」

 「それは…ハッ」

 シロは何かの気配に気づき後ろを振り向くと教会を中にいたデビルーク王の嫁達がやってきていた

 「デビルーク王…後ろ」

 「え?あ…」

 リトは彼女たちを見て目を色々な方向に動かしていた、あの飛び出し方のためいささか気まずくなっているのだろうと容易に推測できた

 「シロ…人一人説得するのに時間かけすぎですよ、貸しましょう」

 ヤミはシロに傘を渡した、受け取ったシロはすぐにリトの傘からでて傘を差しリトにぺこりと頭を下げた

 「悪いな、だが代わりは」

 ヤミの方を見るとヤミは手を傘に変身させてそれで雨をやり過ごしていた

 「心配しなくても良いですよ」

 「あ、ああ…」

 「それより…」

 「リト君…」

 「(あれ…いつの間に?)」

 春菜がリトに歩み寄って来た、あまりの速さにシロは少しだけ冷や汗を流さざるを得なかった

 「春菜ちゃん…」

 お互いがお互いを見つめ合うようになりまた沈黙状態となった

 不意にその場にいることがひどく間違いに思えてたまらなくなりシロは気がつくと足が教会の方へ動き出していた

 その時教会の二階の一室から光と誰かがこちらを覗いてる姿が見えた

 「(誰かいるのか…?)」

 よく見ると顔全体に包帯を巻いたあからさまに怪しい男が部屋の窓から望遠鏡で覗いていた、だが望遠鏡で覗く分視野を狭くしているせいかシロが窓を見ても何も気づいていなかった

 「ごめん…」

 リトが何か喋っていたので振り返って見るとリトが春菜を抱きしめていた

 「もう少し…色々言って欲しいな…リト君の今つらい事とか悲しい事とか」

 「うん…」

 「私も加えろ」

 凛は後ろからリトに抱きついた

 「一人にはさせないからな」

 「ああ…」

 「頭ががら空きですよ」

 「ほぶっ」

 ヤミはリトの頭だった

 「私もまだまだ…色々ありますから、一緒にいてくださいよ」

 「ああ、ああ…」

 シロは自分が蚊帳の外のように感じ苦笑いをしつつ空を見上げて思いを馳せる

 「(犯人がいるとすればそれはどんな奴なんだろうか?)」

 話から察するに彼女のみを狙った犯行のように思えた、何故?何のために?王への人質ならまだしも(ただし相手が痛い目を見る)彼女の命が狙われるのは?分からない、分からない事だらけだ。彼らも話が済みそうだし一旦戻ろうとシロは考えた

         ~教会の二階~

 青年は望遠鏡を置いた、口元に笑みが浮かんでいた事に気づいてその表情を指で拭った。そして青年は床に座り込んだ

 笑うのは随分と久しぶりのように思えた

 あの二人が甘くまばゆいものに見えた、無論他の人達も

 羨ましいと思ったが青年は遠くで眺める気しか起きなかった、そこに自分はいられない事は分かりきっていた

 自分は汚れている、その言葉が頭を横切る、横切った言葉は埃のように頭の隅にこびりつく

 先程リトの流した涙を思い出しつつ

 「泣いたって何も変わらない、変われはしないんだ」

と呟いた

 どれだけ泣いても運命というものは何一つ変わらなかった

 もしそれを変えられるならどれだけ泣いても構わないとさえ思えた、枯れようと絞り出す勢いで流してもいいと

 「変わるさ…」

 突如男の声が聞こえた。たった数秒だけだが若く、耳心地の良い声である事は分かった

 振り返れば男が一人、雨に濡れたような状態でこの部屋に立っていた、爛々と輝く赤い瞳と整った美麗な顔立ちと顔以外全て黒いローブやクロークのような衣装で覆っているのが目立った、

 こいつは何者だろうとかどうやってここに入ってきたのだろうと勘ぐる間を挟ませずに男は青年を見据えて語りかけるように先程の言葉の続きのようなものを述べた

 「涙が変えるもの…それはいつだって心だよ」

 知らない人間からそのように言われて青年は気味が悪くなり、問いかけた

 「誰だ!?」

 「君の罪を知る者と言えば良いのかな?」

 「俺を罪を知っている!?」

 青年の顔から冷や汗が流れた、こいつは俺の事を知っている。赤の他人のはずだがどこまで知っているのだろうか?神父は口外しないと約束してくれたはずだしオーナーも言いふらす事はしないと言った

 「誰から聞いた?」

 疑うのは、疲れるから青年は聞いた。分かってしまえば誰だ?という疑いによる負荷を自分にかけずに済む

 「黒咲芽亜」

 青年にとってみれば意外と言えば意外な解答だった

 「いたな、そんな名前の人」

 「使わせて欲しいんだ、僕の望みのために君を過去へと誘ったデンライナーを、君自身の罪を形作った力を」




 皆さんいかがでしたか?今回の話を面白いと思ってくれたら幸いです。

堕ちた果実編、もう少し続けるかやめとこうか決めたいと思います

  • 来夢君の変身する所見たい
  • シロがアイスで尋問される所が見たい
  • 美奈子と美柑の絡み見たかった
  • 犯人の事はっきりさせろ
  • もういい、もうたくさんだ
  • 察したのでもう結構

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