序章
事の始まりを尋ねられると僕は決まって
「みんなで外に行った日」
だったと答える。
みんなというのは、僕と友人二人のことだ最初に外に行こうと言い出して仲間を誘ったのは誰だっただろう?
僕はいつも覚えていないと答える。
それは暴かれることのない嘘だ真実を突き止める術はない…一緒に行った二人はすでに死んでいる、きしみを上げながらゆっくりと開いた巨大なエアロックの扉はミュータントにとってはメトロへの入り口、我々にとっては地獄の入り口となった。
もしかしたらもっと昔に始まったのかもしれない、地下鉄に乗って植物園に行こうと母さんが言ったあの日…
短いエスカレーターに乗って地表にでて目に飛び込んできたガラスのパビリオンや緑に覆われた景色に興奮したのを覚えている。
果てしない空には小さな雲が流れ、優しく涼やかな風が頬を撫でた。
母さんがアイスクリームを買ってくれて…アイスクリームを食べたのはあれが最後だ、あの日人類に審判が下された、善人も悪人も平等に地獄の業火によって裁かれた。
我々は神の怒りから逃れてメトロに身を潜めた、そしてどうやら神は我々など探し出す程の価値もないと考えたようだった、そして神はどこかに消えたあるいは死んだのかもしれない、荒廃して見捨てられた星に残った我々は行くあてもないままに…今も生き続けている。
どうでもいいことは幾らでも覚えているのに僕は一番大切なことをどうしても思い出すことができない、母さんの顔だ…母さんは戦争が勃発してすぐに亡くなった…あの植物園の日の記憶だけが唯一の思い出だ、母さんの顔を思い出したいとどれだけ強く願ったことか!
僕を見つめる目優しくささやく声、もし思い出すことができるならこの魂を差し出しても構わない…母さん
僕たちは、あの戦いを戦い抜いた後、D6発見の功績やダークワンの殲滅の功績を買われオーダーの一員となった。
今ではトンネルの警備や探索色々な仕事をして暮らしている、2012とは暫く会っていない気がする…
そのようなことを考えつつ隣に座り共に焚き火を囲む兵士たちと会話をする。
「そうだな…戦争が始まる前俺は近くに住んでた。あの時列車に乗っていたんだ、家族に連絡を取ろうとしたが通じなかった…」
他愛もない会話を続けているとトンネルに仕掛けていた鳴子が音を立てる、音に反応した僕たちは音のする方を向く
「あああああ!!!!死にたくない!!」
トンネルの向こうから誰かの絶叫が木霊し、声がした方のトンネルの明かりが消える。
「何が起こった…クソッ!」
トンネルの暗闇から現れるのは黒い人影…何体もいる
「一体何が起こってる!!!」
誰かが叫ぶ、その瞬間突然目の前に現れた怪物を見て僕は驚く
「ダークワン!何故…」
そう呟いた瞬間ダークワンは消え、気が付くと僕は周囲をミュータントに囲まれていることに気付く
「うわぁぁぁ!!!」
僕は驚きのままミュータントに向けて手に持っていた銃を乱射する。
「ぐわぁ!」
銃弾を受けたミュータントは仰け反るとその姿を今まで隣で会話をしていた兵士へと変える…僕がその光景に唖然とした瞬間…横腹に飛び込んできたミュータントに押し倒され、ミュータントはその鋭い牙を僕に突き立てようとする。
僕はミュータントの顔を左手で抑えつつ右手に持つナイフをミュータントの横顔に突き立てた…その瞬間またしてもミュータントは兵士へと姿を変える。
血を流し僕の周囲に倒れている兵士たち…僕は血溜まりの中に膝を付き自身の血に染まった手を見る…誰かが僕の前に立っている…顔を上げたその瞬間、黒く大きいそして因縁深いあの生き物が僕の肩を掴んだ。
「アルチョム!起きろ!アルチョム!私だ、カーンだ!」
気が付くと僕はD6の基地のベッドにおりカーンに起こされていた。
「悪い夢を見たのか?あんなことの後では無理もない」
僕は冷や汗を拭いカーンの方を見やる。
「聞いてくれ…凄いニュースだ植物園の近くで生存しているダークワンを一人発見した!私はすぐに君を探した、彼らが接触しようとしていたのは君だったからだ…あぁ彼らにミサイルを発射する前の話だが…」
カーンの話を驚きを持って聞いているとウルマンが僕に話しかけるカーンを見つけ怒鳴り始める。
「カーン!どうやってここに?早く出ていけ!」
「あぁウルマンすまんな…ダークワンが生存しているなら意思の疎通を試みることが不可欠だアルチョム、ミラーへの報告義務がある分かっている、だが彼を説得して任務を許可してもらわねばならない」
カーンの長話に痺れを切らしたウルマンは再度カーンを怒鳴りつける。
「カーン!出て行けといっただろ!ここは秘密基地だ!お前の来るところじゃない!」
そう言い放つと僕に向きかえる
「ミラー大佐に会わせてやる、来いアルチョム」
ミラーの話しが終わるとカーンが再度話しかける
「準備をしておけアルチョム、先で待ってる」
そう言うとカーンはウルマンに連れられて部屋を出る。
それを見届け僕は机の上にある装備を取り部屋をあとにした。
ドルフロ要素ゼロw