~聖界ファバーナ・聖立混成集団【リアデルハイト】~
流されるがままに行き着いてしまった……。
俺は今から聖界ファバーナの『リアデルハイト』と呼ばれる軍に入ろうとしている。
周囲からはいわくつきだとか、腫れ物に触るように煙たがられている。
「トムスケ、いい加減そのフード外したらとうだ?素顔を隠してちゃ周りから目を付けられるぜ」
「フードを被ってたら人を寄せ付けなくて済むかなって……やっぱり逆効果?」
「まあ、上官に挨拶する時以外なら構いやしねぇと思うけどよ」
親友のギャレは面倒見の良い兄貴のような存在。頭の中身は俺と大して変わらないけど、力比べなら負け知らずだ。
そして俺のことをトムスケと呼ぶのもコイツだけ。
「さて、どんなゴロツキが待っているんだ?楽しみでしょうがないぜ!」
俺たちは意気揚々と大仰な扉を押した。
「おいトムスケ、ホントにこの場所で合ってるんだよな?」
「指定場所は第六小会議室になってるから、この部屋で間違いないはず」
「誰もいねぇじゃねぇか!日付が間違ってたりしてねぇか?」
「ちゃんと確認した。ていうか少しはギャレも確認しろよ」
俺がギャレに集合場所が書かれた用紙を突きつけようとした瞬間、背中にナイフを突き立てられるような感覚に思わず腕を引っ込めた。
人影が会議室を舞う。長い髪を靡かせ華麗に着地した。
速すぎて目で追うのに精一杯だ。
「お、おい……なんだよ今の……」
「紙が……!?」
俺が持っていた一枚の用紙が斬られている。長髪を靡かせ優雅に佇む女の人が目にも止まらぬ速さで切りつけたのだろう。
「クク、また詰まるものを斬ってしまった」
(シュレッダーのことか?)
「テ、テメェ!いきなり何しやがる!」
「それが目上の人間にする態度か?」
「……!?」
目上の人間?この人は俺たちの上官ということか。第一印象は最悪だ。ここからどう挽回するか。
とりあえずフードを外そう。
「お初にお目にかかります――」
「君がトム・シェマーゼだな?」
「は、はい(改めて見ると綺麗な人だなぁ)」
「そして無礼を働いた貴様がギャレ・ボマードか」
「アンタはもしかしてオレたちの上官なのか?」
「いかにもそうだが苦情があれば今のうちに聞いておく。私の名はマシリア・ヴィルヌーヴだ」
俺とギャレは黙ってしまった。だけど、ギャレの言いたいことはわかった。
「一つ聞いてもいいでしょうか?」
「そんな畏まらなくてもいい。どうせここに来たら身分なんて関係なくなる」
それならお言葉に甘えて――
「どうしてここには誰もいないんだ?他の人はどこに行った?」
「そんな訝しげに聞くことでもない。他の者もすでに班を作っているというだけだ。集合場所も時間も各々指定している」
「既に訓練は始まってるってことか」
ギャレが意味深に呟く。俺はどうしても腑に落ちないことがあった。
「俺たちの班って三人だけなのか?」
「いや、もう一人来る予定なのだが訳あって後日合流すると今さっき聞かされたのだ」
「それでオレたちはこれから何をすればいいんだ?」
「早速で悪いが君たちの実力を確かめたい。今から私についてきてくれ」
班長のマシリアに連れられて訓練場へ向かう。訓練場には俺たち以外に誰もいないようだ。
傷だらけの石畳の床が辺り一面に広がる。中央には人の形をした透明な何かがこちらを伺っている。
「班長、あれって思念体ってヤツだよな?」
ギャレがヴィルヌーヴ班長の顔色を伺うように聞いた。
「班長はよせ。マシリアでいい」
「訓練用の思念体まで生み出せるなんて知らなかった……」
「トム、君は聖剣術『グランソルダ』と我が国では聖式授術と呼ばれている『オルデリクス』を扱えると聞いている。思念体の特徴は把握しているか?」
「それなら簡単だ。思念体には二種類ある。善意の思念体と悪意の思念体があって、善意の思念体は敵意や憎悪を持たず生者に危害を加えない存在のこと」
「ギャレ、悪意の思念体とは何だ?」
「マシリアはオレを見くびり過ぎだぜ!悪意の思念体は善意の思念体以外の思念体のことさぁ!」
ギャレは得意気に言ったけど説明になってない。マシリアの目が鋭くなった。
「ならば話は早い。二人で協力してあの思念体を打ち破れ」
「よっしゃあ!オレの
「
「じれったいぜ、トムスケ。お前は二刀流だろ?ちゃちゃっとやっちまおうぜ!」
ギャレは
「まず思念体の種類を見極めないと迂闊に動けない」
俺が言い終わる前にギャレは走り出していた。思念体はゆらゆらとこちらに向かってくる。
「オレのソルダをくらえっ!」
ギャレの聖剣は思念体を通り抜けた。
「げっ!?マジかよ!?」
「あの思念体は悪意の思念体!ギャレ、すぐ離れろ!」
「悪意の思念体は好戦的なものもいれば、様々な手段と方法で反撃するものもいる。例えばその思念体はソルダを透明な弾丸のようにして放つ」
マシリアの説明が終わると同時に、悪意の思念体は体から透明の剣を無数に放ってきた。刃がギャレの体を掠める。
「イテテ……」
「ギャレ、剣をこっちに向けて!」
「あ、ああ」
「
ギャレのソルダが仄かに光を帯びる。それ以上の変化はない。
「これで大丈夫なんだろ?」
「その状態ならあの思念を斬りつけられる」
ギャレはゆっくり動く思念体の背後に回り剣を頭に振り落とす。思念体は背景に溶け込むように消えていった。
「二人ともよくやった。及第点だ」
マシリアは笑顔で言い放った。
「はぁ、疲れた」
「何で見てただけのお前が疲れてんだよ!」
「ギャレが闇雲に突っ込むから余計に時間がかかったんだぞ」
「な、なにぃ~!?」
「今日はそれぐらいにしろ。明日から実戦に基づいたら訓練を行う。しっかり休息を取るように」
マシリアは俺たちのことを気にも止めず訓練場から出ていってしまった。
いがみ合っていた俺とギャレは朝まで口を聞かなかった。