ゴリラが好きな俺だが、ゴリラを見に動物園に行くことはない。
だからといえ、アフリカだかのジャングルに潜る訳でもない。
「何で俺ってゴリラが好きなんだろ?」
やはり人型でありながら、全身を筋肉と剛毛で覆っているからだろうか?
実際、体脂肪率がどれくらいか、毛が強靭なのか、そんなのはわからない。
確かにゴリラは好きだ。だが、ゴリラに恋している訳ではないからネットですら調べる気にもならない。ゴリラだし。
「あれ? 恋してないどころか、好きじゃないのでは?」
だとしたらどうして俺はゴリラを好きと思い込んでしまっていたのか。
「……小学生が糞好きなのと同レベルだろうな、俺がゴリラ好きなの」
ゴリラの事など、どうでも良かった。
今の目の前の状況からしたら。
「誰がゴリラだとコラァ!!」
誰もお前の事をゴリラとは呼んでいない。お前はどちらかというとオラウータンだ。
ずっと気になっていたがオラウータンってオラ、ウータンって言ってるみたいだよな。
「うん、やっぱり小学生レベルだわ」
自身の思考が小学生通り越して幼稚レベルで泣きたくなるわ。
「あぁん!? 誰が小学生のゴリラや! 我は17歳じゃ! 高1じゃ!!」
そういえば、目の前のコイツは誰なのだろう。留年してるという事はもしかしたらあの時の先輩かもしれない。
「確かあれは……」
小2の時、公園で一人遊んでいたら急にサッカーやろうぜとか言ってきた猿野先輩。
猿に絡まれたのが初めてだったものだから仕方なく付き合う事にしたが、ボールを両膝の間に挟んで木をひょいひょいと登ってそのまま何処かに行ってしまった猿野先輩。
「一応警察に通報したな」
もしかしたら野生の猿に猿と間違われて連れて行かれてしまったのではないかと心配になったので。
「お、おい!? 嘘だろ!? 何で警察に通報するだよ!? ……クソっ!! 今度補導されたらまた留年になっちまうんだよ!!」
目の前のオラウータンが猿野先輩だという確証はない。直接聞いてみよう。
「あれ? ……また居なくなった。やはり、猿野先輩だったか」
そういえば、猿野先輩というのは実名ではなかったな。俺が勝手にそう名付けたのだった。
ならば今のオラウータンみたいな猿野先輩を猿野と呼ぶのはおかしいだろう。オラ、ウータン。よし、これからはウータン先輩と呼ぶ事にしよう。
まあ、もうウータン先輩に会うことはないだろう。
手の内に握られた肉饅に齧り付きながら、ウータン先輩の事を上の空と消し去った。