雪が溶け、細く繋がった紐は結ばれ、色彩豊かな春は来る。   作:佐倉彩羽

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こんばんは、佐倉彩羽です。
4月になりました。俺ガイル放送まであと一週間ですね。
原作ファンとしてはもう結末等は分かってはいるのですが、最後までしっかり見届ける所存であります。
というわけでおうちデート回。
では、本編へどうぞ。


比企谷小町はお義姉ちゃんに兄を託す(ことを決める)。

「……い、……ぱい」

 

上の方で、甘ったるくて、あざとい声が聞こえる。

 

「せんぱい、起きてください」

 

目を開けると、亜麻色の髪に薄い化粧、小顔の美少女が俺の顔を覗く。

彼女は悪戯っぽく笑う。

 

「起きないなら、イタズラしちゃいますよ?」

 

そういい、俺の身体に手を当てる。そのまますーっと手の位置を下げていき……

 

「おい、何してんだ」

 

俺は全力で起き上がり、彼女の手を払い飛ばす。

きゃっ、と言って、頬をぷくーっと膨らませる。

 

「なんですかー、可愛い後輩が起こしに来てあげたのにその態度は」

「はいはいあざといあざとい。つか、なんで入ってきてんだ」

「小町ちゃんがお兄ちゃん起こしに行ってもらってもいいですか?

 って言われたので」

「ん、あぁ、すまん、悪かったな。もうご飯なのか?」

「いや、まだご飯作り始めてないですし、まだ早いですから」

「なんだよ……。

 ならまだ寝てるから、小町とガールズトーク(笑)でもしとけ」

「それはそれで楽しんだんですけど、小町ちゃんが

『どうせ兄が寝てるので起こしに行ってもらってもいいですか?

 あのごみいちゃん、寝ることとゲームすることくらいしかしてないですし、

 台所の準備終わるまでは兄の相手してもらってもいいですか……?』

 って、上目遣いでお願いしてくるんですもん」

「なに、俺ってそんなにダメ人間だったっけ?」

「今更何行ってるんですか、せんぱい、お話しましょうよ」

「話すことなんてないだろ」

「それを言ったら終わりじゃないですかー」

 

 と、一色は手をバタバタさせながらブーブー文句を言う。

 

「いやー、それにしてもせんぱいの部屋って本だらけですね」

「まぁな、本は読んでいて飽きないし時間潰せるし色々といいんだよ」

「せんぱいの本読んでる姿って結構似合うんですよねー」

 

なに、俺に地味だって言ってるの?

確かにこいつ本は読まなさそうだな。

アホそうだし。頭の中男子にモテることしか考えてなさそう。

まぁ実際はそこそこ要領が出来て結構クレバーなんだが。

 

「今失礼なこと思いませんでしたかー?」

 

 なんでわかったの? エスパーなの?

 

「別に。適当に本でも読んで時間潰せよ」

「そこまで言うならそうしますよ、何がオススメです?」

 

おすすめか……。

人に本などを勧めたことは、雪ノ下に普段読んでいる本を教えたくらいか。

「そこら辺にあるライトノベルも面白いけどお前はそうだな……、

 こっちの一般文庫とかどうだ?

 男女問わず読める不朽の名作揃いだぞ、例えば……こいつとかな」

「へー、なら読んでみます」

 

そうして一色は俺が取った本を読み始める。

俺もその近くにある一般文庫を読み始めた。

不意に横を見ると、一色は食い入ったように本に目を落としていた。

普段家族以外入ってこないこの空間に、

年下の可愛い後輩が入ってきたら?

普通の男性諸君なら理性諸々が大変なことだろう。

沈黙することを嫌って、他愛のない話をし、また沈黙する。

そんな気まずい空間が流れるだろう。

 

 しかし、俺は今、この空間が嫌いじゃなかった。

 この沈黙が心地よいと、そう感じていた。

 少しだけ、自分の鼓動が速くなるのを感じた。

 心臓を刻む律動が秒針の速度を追い越して、

 もっと先に進みたいと、そう言っている気がした。

 

この雰囲気は雪ノ下雪乃と二人で過ごしていた奉仕部の、

あの瞬間と似ている。

そんな心地良さを、俺は体感していた。

 

×××

 

小町に呼ばれて一色が降りたあとも、俺は本を読んでいたが、

またしても一色いろはが俺の部屋にやってきた。

「せんぱい、ご飯できたので降りてきてください」

「ん、分かった。今行くから待っててくれ」

「りょうかいでーす」

 

一色は扉を閉めて、先に下へと降りていった。

俺も続けて下へと降り、

ドアノブを開けるとそこにはカレーや野菜など、

普段よりも豪華な食事がテーブルに並ぶ。

 

「うお……すげえな、よくできてるわ」

「いやぁー小町頑張ったんだよ? お姉ちゃんと」

「ハイハイお疲れ様お疲れ様、じゃあ早速食べようぜ」

「はい、そうですねー」

「「「いただきます」」」

 

まずはカレーから。見た目からしてビーフカレーだ。

ジャガイモやニンジンなど、野菜もしっかり入っている。

味の方はどうだろうか、一口、口にする。

 

……

……美味い。

小町の愛情+一色の料理スキルの足し算がベストマッチングしている。

 

「……うめえ」

「そ、そうですか、ありがとうございます…」

「あお姉ちゃん照れてます! やっぱ可愛いなぁ……」

「ほら小町ちゃん、揚げ足とらない!」

「怒ったお姉ちゃんも可愛いなぁ……」

「もーっ……」

 

ほんとこの二人、仲いいよな。

けど一色が天然キャラ作ってるのうちの妹にバレてますけどね。

あらヤダ女子って怖い。

 

「いや、普通に美味いぞ。小町の愛情+一色の料理スキルの足し算は

1+1が2にはならなくて3にも4にもなってる。」

「は?」

「何言ってんの、お兄ちゃん……」

 

変なこと言いましたかね?

というか今日小町ちゃん俺に冷たい。これが兄離れ……?

 

「まぁなんだ、美味いってことだ。一色、小町、ありがとな」

「お兄ちゃんがありがとうって言った! 

 明日は雪が降りますよ、お姉ちゃん!」

「……せんぱい、ずるいです」

「ん、一色、なんか言ったか?」

「お姉ちゃん、顔真っ赤ですよっ」

「……っ、さ、さっさと食べちゃいましょう」

 

俺達はそのまま色々と話しつつ、ご飯を済ませた。

 

「ふぅ……、ごっそさん」

「「お粗末さまでした」」

「あ、お風呂どうしましょうか」

 

小町がふとそういうと、俺と一色が固まる。

 

「……俺から先に入るわ」

「あ、はい……」

「あ、じゃあお兄ちゃんお風呂洗ってきて、小町片付けしてるから! 

 お姉ちゃんはリビングでかーくんと遊んであげてください!」

「私も手伝うよ小町ちゃん!」

「いえ、お姉ちゃんはお客さんですしゆっくりしててください」

「いいよ、お姉ちゃんなんだし、せんぱいだもん、手伝うよ!」

「うぅ……、小町はなんて良い先輩を持ったんだろう……

 あ、お兄ちゃんさっさと行ってきて、邪魔。

 ついでに入ってきていいよ」

 

ねえ小町ちゃん、今日俺に冷たすぎない?

邪魔っていわないであげてよぉ!

俺は小町に言われるがまま、

部屋を追い出されて風呂の掃除を済ませることにした。

 

 

---------------------------

 

 

横にいるいろは先輩が、鼻歌を歌いながらお皿を洗っている。

うん、とても絵になるなぁ……。いろは先輩、やっぱ可愛いんだよね。

 

「すいません、わざわざ手伝って貰って」

「ううん、いいよ! 年上に頼れる時は頼った方がいいし! 

私もせんぱいに頼りっぱなしだし……」

 

最後の方は聞き取れないくらい小さな声だったけど、

小町は聞き取りましたよ、お姉ちゃん。

こういうのはちゃんと改まって聞くべきだよね。

 

「いろは先輩」

「なにかな?」

「いろは先輩は、ぶっちゃけお兄ちゃんのこと、どう思ってますか?

 ただの先輩ですか?それとも……」

 

どう反応する、いろは先輩!

……

……

 

 

「好き、だよ?」

 

何だこのどストレート且つ単純なんだけど

顔を真っ赤にしていうその感じ!

普段のいろは先輩はよく分からないけど、

お兄ちゃんが言うあざといとはかけ離れている。

雪乃さんや結衣さん、陽乃さんや川崎さんなど、

お嫁さん候補がいっぱいいたけどここにきてか……

小町的にはこの表情を見せられるとダメなのです……。

そして家事も出来るし、

お兄ちゃんの事も分かっているのもポイント高いんですよね! 

お兄ちゃんも一色さんの裏の性格気付いてますし、

くっつけてもいいのでは!?

今日はお泊まりしていく訳ですから、既成事実既成事実!

これは小町、人肌脱がないとですね! 

 

「いろは先輩、小町、いろは先輩の事手伝います! 

 小町に任せてください!」

「え、本当にいいの? 雪ノ下先輩や結衣先輩を差し置いて……。」

「確かに、雪乃さんや結衣さんも小町は好きですし、

 お二人を応援したいのは山々なんですが……、

 この一年間、お兄ちゃんが理性の化け物過ぎて、

 進展が見受けられなかったんですよ!

 けれどいろは先輩はお泊まりまで来ちゃったんですから。

 もうこれはいろは先輩の勝ちですよ!」

「やっぱせんぱい、年下好きなんだ〜」

「確かに年下は好きですね……。

 小町のことが好きなだけでしょうけど

 小町もお兄ちゃん好きですけど、流石にあれはやばいです」

「あはは……、確かにせんぱい、小町ちゃんのこと大好きだよね」

 

ちょっと話が逸れてしまった。

小町の大事なお兄ちゃんをこの人に渡すには、

ちゃんと言っておかないと。

 

「いろは先輩、お兄ちゃん、めんどくさいですよ?」

「知ってる」

「時々、というか常にウザイですよ?」

「分かってるよ」

「マックスコーヒー飲みすぎて、糖尿病になるかもですよ?」

「そんなに飲んでるの……?」

「シスコン入りすぎてて、

 先輩よりも小町のこと優先するかもですよ?」

「分かってる」

「そんな兄でも、いろは先輩は大事にしてくれますか?

 大切にしてくれますか?兄の事、面倒見てくれますか?」

「うん、任せてよ、小町ちゃん」

 

 うん、と頷くと、最後にこれだけ。

 

「それと、いろは先輩、小町はお兄ちゃんが大好きです。

 あんなダメでヘタレでごみいちゃんですが、

 十五年間ずっと愛情を注いできました。

 もし、先輩が兄を傷つけたら、小町は先輩を絶対に許しません。

 だから……、だから……」

「……小町ちゃん」

「兄を、どうかよろしくお願いします……」

「……うん、私、せんぱいを大切にする。

 私もせんぱいのこと、小町ちゃんに負けないくらい好きだから」

「うぐっ……うぅ……いろは先輩ぃぃい……」

 

 

 ----------------

泣きながら私の胸に抱きついてきた小町ちゃんは、

本当に可愛くて、強くて、そしてお兄ちゃん想いのいい子だった。

本当に敵わないな、と思う。

こんなにも真っ直ぐで、いい子から、

彼女の大切な人を独り占めしようと、

奪ってしまおうとしているのだ。

 

「小町、ダメな子ですね、こういう時は笑って言うべきなのに」

「……ううん、全然、小町ちゃん、いい子すぎるよ」

「ありがとう、小町ちゃん。私頑張るよ!」

「はい、いろは先輩!

 いつか、せんぱいのことを本当にお姉ちゃんって

 呼べる日を待ってますから!」

「それはちょっと気が早いかな小町ちゃん!?」

 

そう言って二人で笑い合いながら、

私はせんぱいがお風呂に上がってくるのを待った。

 

 

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風呂から上がり、着替えを済ませると、

一色と小町が話しているのが見えた。

あの二人ほんとに気が合いますね……。

というか、一色が完全に馴染んでいる。

俺の部屋で本を読んでいる時も薄々感じていたが、

一色は基本的に俺のプライベートをあまり侵害しないでくれている。

小町ともそれなりに……、というかかなり気が合うようだし、

小町も明日の面接前の気晴らしにもなるだろう。

もしかしたら圧迫面接を受けるかもしれないと、

不安だったかもしれない。

小町の面倒を見てくれているので母も大助かりだろう。

 

「あ、お兄ちゃん出てきてたんだ、お風呂の水抜いた?」

「え? 抜くの?」

「当たり前じゃん、

 小町はともかくいろは先輩にお兄ちゃんが入ったお湯入れさせる訳ないでしょ?」

 

言われてみればそうだ。俺は健全な高校二年生。

相手は高校一年のJKである。

「あぁ、じゃあ抜いてくる。ついでに洗っとくわ」

「あーうん、それは小町がやっとくよ」

「おい、明日面接あるの忘れてんのか? 

 お前は早く寝ろ、体調崩したら元も子もないぞ。

 一色と話したいなら俺が今やっとくから、

 早く寝る分話したいことは話しとけ」

「せんぱい気が利く〜」

「当たり前だろ、じゃあ悪いが小町の事頼んだ」

「りょうかいでーす」

 そして俺はまた、風呂場へと戻るのであった……。

 




いかがだったでしょうか。
執筆中に「あれ?私こんなラブコメ書いてたっけ? もっとドロドロした感じの書いてなかったっけ?」って思うくらい純粋なラブコメでしたね。読んでて顔が真っ赤になりかけましたよ。ほんとに。
では早速次回予告。比企谷小町ちゃん!
「はいはーい! 小町明日面接ですが一肌脱ぎますよ!
 お風呂上がりの先輩とお兄ちゃん……。ふふふ、既成事実既成事実……」
一般向けだからね!? というわけでお風呂上がりのいろはと先輩のやり取りからです!
ではお楽しみに。このあたりで筆を置かせていただきます。
4月某日、俺ガイル放送までの日数をかみ締めつつ甘いコーヒーを啜りながら。
佐倉彩羽

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