雪が溶け、細く繋がった紐は結ばれ、色彩豊かな春は来る。   作:佐倉彩羽

12 / 20
こんばんは、佐倉彩羽です。
ついに緊急事態宣言が出されましたね……。
そして、俺ガイル3期も延期になりました。悔しくて悲しくて辛くて泣きたい気持ちも山々なのですが、ここはぐっと堪えていい作品が生まれてくるのを期待しています。
早速本編に移りましょう。デート回クライマックス!
では、どうぞ!


結局、彼女の気持ちはどの方向に向いているか分からない。

 

俺が戻ると、一色は小町と面接練習をしていた。

小町はええと……や、んーなど、少し回答するのに時間があったりと、まだ問題はあるようだが、

一色がその度にしっかりと指導をしていた。いろはす偉いナイス。

 

「おう、やってるか」

「あ、せんぱい戻ってきた。

 じゃあ小町ちゃんどっちからお風呂行く?」

「お姉ちゃん、一緒に入りませんか?」

「え? 小町ちゃん正気? 恥ずかしいよ……」

 

いろはすその恥ずかしいアピールあざとい! 

赤面させて言うのもあざとい可愛い!

何こいつ、今日変なの? 大丈夫? 

 

「いいじゃないですか〜、さ、こっちですよこっち〜」

 

小町はそのまま一色をリビングから追い出し、

自分もリビングから出ていった。

すると小町が扉から顔を覗かせる。

 

「お兄ちゃん、覗いたらダメだよ!」

「何言ってんだ、覗く訳ないだろ」

 俺がそう言うと、奥の方から意地悪そうな声が聞こえてくる。

「まぁせんぱいはヘタレですしね〜、覗けるわけが無いですよっ。

 私はやぶさかでは無いですけどね〜

 さ、さっさと入っちゃいましょう小町ちゃん」

 

そうですよヘタレですよ、理性の化け物ですよ。

俺は誰もいなくなった空間で、テレビをつけてゆっくりすることにした。

ふぅ……。ようやくの安堵だ。ぼっち最高!

 

×××

 

数十分経った頃だろうか、俺がソファに座ってくつろいでいると、

ふいに扉が開く音がする。出てきたのだろうか。

音がした方向を向くと、風呂上がりの小町と一色が部屋に入ってきている。

まだ若干濡れている亜麻色の髪、

薄い化粧を落としても化粧時とは変わらない顔、

そして、離れているにもかかわらずシャンプーのいい匂いがする。

小町のサイズに入っちゃうってことは

着痩せしてたとかじゃなくてそういうことなんですね……。

風呂上がりの女の子ってなんなの?

こんなの中学生の頃の俺なら告白して振られている気がする。

いや振られちゃうのかよ。頑張れよ比企谷八幡。

 

「あ、いませんぱい、変なこと考えてませんでしたー?」

「べ、べちゅにへんなことなんて考えてましぇんよ?」

「はぁ……。すいません、いろは先輩」

 

すると、小町が何かを思い出したように言う。

 

「あ、やっばーい小町明日の準備して寝なくちゃ!」

「そうだよ小町、お前は早く寝ろ。まだ受験は終わってないからな。」

 

「あーじゃあさ、小町、

 このあと早く寝ちゃっていろは先輩暇しちゃうだろうからさ、

 いろは先輩、お兄ちゃんの部屋に泊まってもらえますか?」

 

 

「「は?」」

 

 

「あ、あのさ、小町ちゃん? 自分が何言ってるか分かる?」

 

さすがに一色も困惑している。確かに小町が泊まっていきませんか? と言っているのに、

俺の部屋に泊まることになるだろうとは思ってもいなかったのだろう。すると、小町は一色の耳になにか囁くと、

一色は何度か頷くように聞き、その後すぐに離れた。

 

「ま、まぁせんぱいヘタレですし、仕方ないですね」

 

若干と戸惑いと困惑が目に取れるんですが……。

小町ちゃん何を吹き込んだの? 

 

「じゃ、そういうことで!

 いろは先輩、お兄ちゃん、おやすみなさい!」

「おいちょっ……はぁ、小町、応援してるからな」

「小町ちゃん、準備は今日中に終わらせてゆっくりお休んでください!」

 

 小町は俺たちの言葉を聞き終わると、自分の部屋へと駆け上がって行った。

 

「さて……、本当に一色、いいのか?」

「いや、せんぱいヘタレじゃないですか?」

「まぁそうなんだけどね一色さん?

 これでも俺は健全な高校二年生だよ? 

 もう少し自己保身について考えた方が……」

 

すると、一色が俺の近くまでくる。

その距離わずか五十センチメートル。近い! 

いろはす近いいい匂い! 

 

「せんぱいだから、いいんですよ」

 

そう耳元で囁くと、こちらを向いて小悪魔めいた表情で笑う。

それあざといっつーの……。

 

「いいじゃないですか。

 こんなに可愛い後輩とひとつ屋根の下で、同じベッドですよ!?

  せんぱい明日雪降ってもおかしくないですからね? 

 奇跡ですよ?」

「はいはいそうですね、で、どうするよこれから」

 

そう言うと、一瞬の沈黙が生まれる。

突然に、一色は体をぎゅっと反り、両手を突き出す。

「なんですかもしかして私のこと口説いてましたか?

 同じベッドで寝るくらいで特に行為や告白などされていないのに

 これからの関係を決めちゃうのはちょっと気が早いです色々と終わらせてからにしてくださいごめんなさい」

「いや、口説いてないから……。俺何回振られるの?」

「せんぱいが口説いてきた分ですかね」

 

きょとんと首を傾げながらこちらを向くいろはす。

可愛げがあるなぁ……。おっといけない。

 

「つーかそんな事じゃなくてだな、

 まだそこまで遅くない時間だし、その……」

「なんですかもしかして私のこと口説いてましたか?

 何度も口説いて落とそうとする作戦が見え見えですし

 もっと具体的な言葉でちゃんと伝えて欲しいですごめんなさい」

「だから口説いてないから……。

 まだ時間あるけどどうするのってことだよ」

「あーそうですね、各々自由でいいんじゃないですか?

 あ、あとせんぱいの部屋に荷物運びますね」

 

 そう言って立ち上がり、リビングの隅に置かれていた荷物を持つ。

 俺もそのまま立ち上がると、手を前に出す。

 

「あ、すいません」

「いいんだよ」

「でもせんぱいのそれ、結構あざといと思うんですけど」

「お前に言われたくはないわ」

 

 俺がそう言うと、一色はふと笑い出す。

 

「ありましたね、こんなの前に」

「あったか?」

「コミュニティーセンターの前のコンビニで、お菓子買ってたじゃないですか」

「あー、あれか。懐かしいなぁ……。」

「いうて二ヶ月前とかでしたけど、なんか懐かしい感じしますね」

「そうだな……あのときは色々あったよ」

 

そう二人で階段をのぼりながら歩き、

俺の部屋に入ると、隅っこに荷物を置いておく。

 

「ありがとうございます」

「ん、気にすんな」

 

 俺はベッドに腰掛けて、一色は床にちょこんと座っている。

……ここ俺の部屋だよね? ちょっと夜この感じは気まずくない?

 昼間の本読んでる時は心地よかったけどやっぱ雰囲気が違う。

 

「あー、その、なんだ、なんか飲むか?」

「あ、はい」

「紅茶かお茶かマックスコーヒーかコーヒーがあるけど」

「マックスコーヒーとコーヒーは別なんですね……。紅茶で」

「ん、了解」

 

あれ? 千葉県人思ったよりマックスコーヒー飲まない説。

俺は下に降りてマッ缶を取り出し、来客用のコップを出して紅茶を注ぐ。

そのまま自分の部屋に運び込もうと、

扉を開けると、一色は俺のベッドの下を漁っていた。

 

「……一色さん? 何してるの?」

「そりゃあ、恒例のベッドの下チェックを……」

「おいやめろ、今すぐやめてくださいお願いします」

「へぇ〜」

 

 一色はニヤリとしてこちらを見る。だからその手を止めてくれ……。

 

「あ、でもないじゃないですか」

「ま、まぁな。俺持ってないから。うん。俺は悪くない。」

 

なぜなら全てデータをパソコンに移したから。

一色はじーっとこっちを見ると、俺が手に持っているものを見つめる。

 

「あ、紅茶ありがとうございます」

「ほい」

「ふぅ……温かいですね」

「だろ? わざわざ入れ直したからな」

「それはどうも」

「ねえせんぱい」

「なんだよ」

「今年度ももう終わりますね」

「そうだな。正しくは今年度だけどな」

「面倒くさっ……。……色々、ありましたね」

「そうだな……今年一年は本当に長かった。

 平塚先生に言われるがまま謎の部活に入らされて、

 雪ノ下と出会って、由比ヶ浜の初めての依頼を受けて……

 林間学校や、修学旅行、そして生徒会長選挙……。」

「私とせんぱいが初めて出会ったイベントですね」

「柔道部のイベントお前来てただろ?

 俺葉山のチームだったんだけど」

「へー」

「興味無さそうだなぁ……」

「それからせんぱいに乗せられて生徒会長になって、

 初めての仕事が海浜総合高校とのクリスマス合同イベント……」

「思い出したくないなぁあの会議。ロジカルシンキングやなんやら意識高い系は意味わからんかった」

「せんぱいもそんなこと言ってましたよ?

 シナジーとかパートナーシップとか」

「あぁ、言ったな……。でも勘違いしないでよね!

 俺は自意識高い系だから!」

「うわキッも」

「ちょっとー? 一色さん?」

「いや正直言って本当に気持ち悪かったですし

 二度と近づきたくないって思いましたよ」

 

 そこまで言わなくても良くない?

 八幡メンタルボロボロになっちゃうよ? 

 

「でも」

「なんだよ」

「せんぱいのおかげで上手くできました」

 

 押し黙ってしまった。そんな大それたこと、俺はやっていない。

 

「せんぱいは多分、

 自分はそんな大きなことやってないつもりでいると思います。

 確かに雪ノ下先輩と結衣先輩が参加してくれた最初の会議では

 雰囲気ぶち壊してくれましたけど」

「いや、あれは俺は悪くない。向こうが悪い。」

「はいはい……。でも、せんぱいは私の心の支えになったというか、

 せんぱいがいると安心したんですよねー、なんか楽だなーって」

「ねえそれただ俺仕事させられてお前サボってただけじゃないの?

 ねえ?」

「いやそういう意味じゃなくてですね、

 ほんとに気持ち的に楽だったんですよ。

 せんぱいといると、素の自分が見せられるんです」

 

さっきまでのテンションとは打って変わり、

一色の表情は段々と真剣になっていく。

俺を見るそのまっすぐな目は、

とても普段の"女子高校生"一色いろはとは、かけ離れたものだった。

 

「せんぱいといると、

 素の自分が見せられて、なんだか気が楽というか、心地いいんです。

 私の表も裏も、せんぱいはずっと傍で見ててくれました。」

 

一色は手元に鞄を持ってくると、

ガサゴソと荷物を漁りだし、綺麗にラッピングされた、

小さな袋を取り出す。

 

「せんぱい、今日何の目的でせんぱいと過ごしたか、覚えてます?」

「えっと……あぁ、そうだったな、完全に忘れてた」

「酷くないですか!?ま、いいんですけど……」

 

 すーはー、と深呼吸をして、一色はこちらを向く。

 

「せんぱい、今までのお礼と……、これからもよろしくです」

「……お、おう、その、なんだ、ありがとな」

 

 その俺に向けられた笑顔はとても柔らかく、優しい笑顔。

―なんだよ、そっちの方が可愛いじゃねえか。

 

×××

 

「せんぱ〜い、もう寝るんですか〜?」

「眠いんだよ……、今日は疲れたしな」

「私はまだ全然元気なんですけど、もっとお話しましょうよ……って、

 もう寝てるんですか……、早いなぁ、この人は」

 

 寝ているふりをして、数分後、部屋の電気が消えた。

 おそらく一色も寝るのだろう。安心して眠りにつこうとした。

 すると、俺の布団からゴソゴソと音がする。

 

「起きないなら、イタズラしちゃいますからね、せんぱい」

 

まだ起きているらしい。

仕方ない、起きるか……と、思ったその矢先である。

一色が俺の顔の正面に回ってきたのである。

これは今起きたらまずいのではと、

八幡センサーが呼びかけている。もう一度寝たフリだな……。

しかし、目の前に一色からはとてもいい匂いがする。

これが女子高生か、なんなのこの生き物。

 

「せんぱいの寝顔、思ったより可愛いじゃないですか」

 

何言ってるんだこいつ、正気か?

ここで目を覚ましてびっくりさせようとも思ったが、

俺にはそんな根性がない。結局そのままでいることにした。

一色はその後、何をしでかすのだろうかと不安に思いながら、

そのまま目を瞑っていたら、

俺の頬あたりに何やら柔らかく、湿った感触がした。

危うく目を開けそうになったがじっと堪える。

いいか比企谷八幡、これは幻覚だ。俺は夢を見ているんだ。

今一色の唇らしきものが触れたかもしれないがこれは夢だ。 

 

 

 

「私は誰よりもせんぱいのことが大切です。

 ……だからずっと、私の傍にいて下さい。甘えさせて下さい。

 ……大好きです」

 

最後の声は、まるで消えてしまいそうなほど小さい。

 

 

……あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ!

俺は寝ているふりをしていたら、いつの間にか一色が目の前にいて、

何かとても甘い言葉を囁かれ、甘い一瞬を過ごしたのだ。

 な、何を言っているのかどうか、わからないと思うが

俺も何をされたか、分からなかった……。

頭がどうにかなりそうだった……。ツンデレとかあざといとか、

そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

もっと甘いものの片鱗を味わったぜ……。

 

ジ〇ジ〇のポルナ〇フの気持ちがよくわかった。うん。

そんなことよりも、俺はこれを目を覚ます訳にはいかなかった。

これで目を覚ましたら

「あわわわ! せ、せんぱい起きてたんですか!?」

 

みたいな空間になってちょっぴり気まずくなる可能性がある。

 れど、俺は最後の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった後、

クエスチョンマークが沢山できたのも間違いない。

一色は葉山の事が好きだったはずだ。例のディスティニーの帰りで、

次を有効に進めるための布石だ、といい、

彼女の強さ、頑張りを見せられた。

葉山を諦めた、とは思えないような普段の態度、

けれど最近は俺と過ごす時間が長いのも事実だ。

現に今泊まってるわけだし。

俺は女の子を家に泊めてるという事実と向き合う。

いや俺どうしちゃったの?

ついにハーレムものの主人公にでも目覚めたの? 

 

閑話休題。

物音がしないので、俺はそっと目を開けると、

一色は俺の布団の中でゆったりと眠っていた。

その無防備な姿は女子高生としてはあるまじき姿であるが、

女の子らしいピンクのパジャマ、綺麗に整っている亜麻色の髪、

手を軽く握っている姿、

可愛らしい寝顔を見ていると、まだ幼さを感じ、

この女の子の可愛さを改めて実感する。

 

「こうしていれば、まだ可愛げがあるんだけどなぁ……」

 

俺は彼女の美しい髪をそっと撫でる。

 

「なんだこれ……、超サラサラだしいい匂いじゃん、

 なんていう生き物だよ……」

 

 妹専用コマンドが発動してしまっている。

 

「まぁ、今日一日くらいはいいだろ、別に悪い気もしなかったしな」

 

一色が好意を持ってくれている。

普段の俺なら周囲百メートルは誰もいないか確認し、

その上本人を疑うのが俺の告白された時のルーティーンなんだが、

その前の一色から受け取ったチョコレート、

その時の真剣な眼差し、そして何よりも、

一色いろはという女の子と過ごしてきて、

彼女はあざといものの、下手な嘘はつかない。

これで一色に対して俺は答えを出すべきなのか。

一応寝たふりをしていたから聞いていないことにすることも出来る。

しかし、聞いてしまったからには答えを出したい。

しかしその答えによって、関係が崩れてしまう可能性もある。

考えろ、比企谷八幡。

計算しか出来ないなら計算し尽くせ。

全部の答えを出して消去法で一つずつ潰せ。残ったものが君の答えだ。

恩師の言葉が蘇る。全ての脳細胞が活性化させて弄れているちょっと良さげな頭を振り絞れ。

自分の答えを出すのだ。

 

 ―俺が欲しいのは、本物だけなのだから。

 




いかがだったでしょうか。今回長くね?すいません……。
八幡の思考のモノローグがやはりあんまり上手く表現出来ていないのが私の文章力の無さですね……。どんどん拗れる青春模様をお楽しみいただけるよう努力します。
次回予告です。
次回はデート回の最後をちょこっとだけ描ければと思ってます。次回もお楽しみに。
四月某日、3期延期を悔しがりつつ甘いジュースをのみながら。
佐倉彩羽

投稿頻度なんですけどどれがいいですかね?

  • 毎日更新
  • 3日に1本
  • 1週間に2本(不定期)
  • 1週間に1本
  • 2週間に4本(不定期)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。