雪が溶け、細く繋がった紐は結ばれ、色彩豊かな春は来る。 作:佐倉彩羽
さて、もうすぐゴールデンウィークが近づいていますが、ステイホーム週間とも言われていますね……。早く落ち着いてくれることを願うばかりです。そして、日々我々のために働いてくださるドラッグストアをはじめとした店員の皆様、命懸けで治療にあたる医療従事者の皆様、皆様がいるからこの世の中は回っています。本当にありがとうございます。
皆様に少しでもお楽しみいただき、日々のストレスから解放されてもらえるよう、私も頑張って更新していきますので、是非ご覧下さい。
さて、本編へ移りましょう。雪ノ下雪乃編最終回。
どうぞ!
俺たちはそのまま待機し、
プロジェクションマッピングを見ることにした。
ユキペディアさんによると、このプロジェクションマッピングは、
本場ディスティニィーで行われているものを、
ここ舞浜でも行っているものらしい。
ちなみにここは舞浜な。東京じゃないからな!
ディスティニィーは千葉だ!
そう心の中で日本国民たちに訴えていると、雪ノ下は言う。
「で、これは一体どう言う風の吹き回し?」
なんの事かわからないが、まぁある程度のことは俺も察しているが、
確信を持つまで質問をする。
「なんの事だよ、行きたかったから呼んだだけだ」
「とぼけないで」
そうピシャリと言われると、もう何も言い返せない。
こいつ真っ直ぐすぎるんだよ。
俺たちの間には沈黙ができ、
仕方なく口を開くことにした。
「……雪ノ下さんとの話、どうなったんだ」
「まさか、それを聞き出す為にわざわざディスティニィーまで?
馬鹿なの?」
「別にそうじゃない。まぁそれもあるんだが……、どうせあの人だ。
また面倒なこと、言ったんじゃねえの」
「……由比ヶ浜さんが昨日、付いてきてくれたの。」
雪ノ下は白亜の城の方に向き向き、ゆっくりと話し始めた。
「そこで姉さんに、私と姉さん、それと母さんの話をしたの。」
「じゃあ、俺があんまり首突っ込む必要は無い……、
というか、突っ込める話じゃねえな」
「ええ。……それで姉さんは、協力、してくれると言った。」
「え、まじ? あの人が?」
「そう、姉さんは、少しはマシになったって……。」
マシ。それは一体何を指すのであろうか。
雪ノ下陽乃から見てマシになった。
あの人は雪ノ下のことを自分のことを追いかけている、
自分なんて無い子だと言った。
つまり、雪ノ下雪乃という自分が見つかったということで
良いのだろう。
彼女の『自分』。
それは陽乃さんのような強化外骨格のような外面のうちに秘められたものとは違う。
雪ノ下雪乃は彼女を見て育ったから。
そんな彼女を追うことを辞め、新たな一歩を踏み出そうとする彼女を。
俺は。
「お前がどんな解を出したか知らねえけど、
……お前が出した答えは、それでいいのか」
「ええ。……ねぇ、比企谷くん」
雪ノ下が俺の方に向き合ってそう言う。
その表情は穏やかで、
かつてのジェットコースターの時のことを思い起こす。
そっと、俺の袖口を握り込む。
「私のことを……、見守っていてほしいの」
雪ノ下は握っていたその手を胸にやり、瞼を閉じる。
訥々と、一言一言を丁寧に、
まるで神前にでも誓うように彼女は言う。
その一瞬だけ、あれほど騒がしかった周りの喧騒が全て止んだ気がした。
それが彼女の望んだ結末なら、俺に言うべきことは無い。
俺がこだわっていいのは一点だけだ。
雪ノ下雪乃が自分で選んで、自分で決めること。
誰かの意志や思惑や、
同調圧力や空気や雰囲気で決められていいことでは無い。
それがたとえ、何かを崩すことであったとしても、
彼女の尊さや気高さを奪っていい理由にはならない。
誰かの求めに応じるのではなく、心からの言葉をこそ、望む。
「分かったよ」
どこか自信がなさそうな眼差しに、軽く顎を引いてそう言った。
すると雪ノ下は、ほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとう……」
静かに呟いて、雪ノ下は頭を下げる。
だから、彼女がどんな表情だったかは分からない。
おそらくはずっと分からないままだ。
例えそれを目に捉えていたとしても、
きっとすぐに忘れてしまっただろう。
それくらいに、
再び顔を上げた雪ノ下の表情は晴れ晴れとしていたから。
「そろそろ……、始まるわね」
「そうだな」
人の数が増えてきた。
正面のスペースは抽選で、抽選で当たった人しかスペースには座れないらしく、
それ以外の人が周りに群がっているようだ。
少し場所も狭くなったので、シートの一部を畳んで少し狭くなった。
その分、雪ノ下との距離感がかなり近くなるのだが、
こいつやけにいい匂いがする。なんなの? 存在が香水?
プロジェクションマッピングが始まると、
周りの騒々しい奴らはシャッターを切っていたり、
静かにその演出を楽しんだりと、静寂な時間が訪れる。
ふと、俺の手の上に小さな手が乗せられる。
細くしなやかな指、不思議なくらい柔らかい肌の感触と、
気温のせいか、少し冷たくなったその手の感触にドキリとしてしまう。
彼女の方を見ると、
その横顔は恍惚としてしまうほど、とても綺麗な横顔。
崖の上に咲く、一輪の花。
その婉容の穏やかな感じは、周囲の気を引く程だろう。
俺は結局、自分の理性と手汗との戦いで、
プロジェクションマッピングには集中出来なかった。
プロジェクションマッピング終了後は花火が始まるらしい。
「ごめんなさい、もう、そろそろ……」
荷物を片付けている際、雪ノ下が話を切り出す。
「なんか用事でも入ってるのか、じゃあ帰る準備をするか」
俺はそう言うと、レジャーシートを畳んで、雪ノ下へ返す。
雪ノ下はそれを受け取ると、鞄から小さな袋を取り出す。
チェック柄のその袋は、何やら小さなお菓子でも入っているのだろうか。しかしそれは、どこか見覚えがあった。
雪ノ下は顔を少し赤らめて顔を少し斜め下に逸らす。
「……あ、あの」
雪ノ下が切り出す。
俺は気が動転している事を知られないように、少し低い声を出し答える。
「な、なんでしゅか」
うっわ噛んだ。死にたい。
「き、今日は、あり……がとう……、後、これ……」
「お、おう、な、なんだ、あ、ありがとな」
その小さな小包を受け取る。
中身がなんなのかくらい、もう察しがついている。
覇気がない、というか、
少しおどおどした雪ノ下を見たのはいつぶりだろうか。
常に雪ノ下雪乃は真っ直ぐな少女で、
自分の信念を貫いてきた奴であり、
よく言えば芯がある。悪く言えば我が強い、と言えると思う。
けれど今この瞬間の雪ノ下雪乃は、
どこかおどおどしていて、
彼女の誇り高き信念よりも、彼女の人間らしさがより際立っている。
それはそれで雪ノ下の人間らしさ、
普段とのギャップで刺さらないこともないのだが、
やはり違和感を感じる。雪ノ下雪乃は強い女の子なのだ。
容姿端麗品行方正成績優秀文武両道の絶対正義。
これに匹敵する存在は彼女の母と姉くらいしか存在しない。
違和感を抱えながら、
俺と雪ノ下はメインストリートに並ぶお土産店に来ていた。
ここに某大佐がいたら、まるで人がゴミのようだ、
とでも言うくらいこの狭い空間の中に人がいる。
なんなの? 人口密度おかしいんじゃないの? ここ千葉県?
雪ノ下は元々買うものを決めていたらしく、
チョコレートクランチが入った缶を二つ購入。
俺は小町のためのプレゼントは買ったので、
自分でも使えるようにシャーペンの五本セットを購入。
レジ待ちに十分近くかかったが、
バンブーファイトでも使用したぼーっとすることにより、
対して苦ではなかった。
隣の雪ノ下は商品棚に並ぶパンさんのぬいぐるみをじっと見つめていた。なんなのこの子? パンさん大好きフリスキーかよ。
購入を済ませると、明るく輝き、メインストリートの象徴とも言えるツリーの方には目もくれず出口に向かい、そのまま京葉線に乗り込む。
ディスティニィー帰りの学生が多いのか、
車内は所々で話し声が聞こえたり、
通信ゲームをして遊ぶ様子が見受けられる。
友達と遊ぶことを前提としたゲームはぼっちには厳しく、
すれ違い通信や進化条件に通信交換しろなど、
何度も断念してきたものが大半だ。
進化できずに未だにパソコンのボックスの中にいるんだろうな……。
すまねえ。
四駅程で俺たちの最寄り、海浜幕張駅に着く。
新習志野駅辺まで着いた時、
今日一日疲れていたのかうとうとしている雪ノ下に声をかける。
午後だけとは言っても、急に誘って申し訳なさもある。
「おい、次だぞ」
雪ノ下はビクッとなると、
俺に向かって冷たい目で咎めるような視線を投げてくる。
あれ? 俺そんな悪いことしたかなぁ……?
教えてねこえもん。タヌキだったわ。
雪ノ下は電光掲示板を見る
と、一つ息をついて、
少し言いずらそうに言う。
「私、これから実家に戻るから、まだ……」
そう下を俯きながら言う。
実家、という事はあの天下無双のははのんがいるはずだ。
少し気になったので少し間をあけた後、俺は彼女に問う。
「あの人に話にいくのか」
「ええ……、どうなるかは、分からないけれど」
確かにあの雪ノ下母だ。陽乃さん曰く彼女より怖い。
その事は俺も、そして由比ヶ浜も知っている。
だけれど、これは雪ノ下雪乃の試練だ。
雪ノ下雪乃が決めること。俺はそれを見守ると彼女の前で誓った。
車内から海浜幕張の街がはっきりと見えてくる頃に、
俺は雪ノ下に声をかける。
―どうか、彼女の為に。
「さしもの雪ノ下雪乃でも、恐れるものはあるんだな」
「まもなくー、海浜幕張ー、海浜幕張駅ー、お出口は―」
車内アナウンスが響き渡り、俺は席を立つ。
雪ノ下は一瞬下を俯き、ぎゅっと拳を握る。
しかしその手はすぐに緩み、ゆっくりと顔を上げる。
―不覚にも、見惚れてしまった。
座っていながらも美しく強調されるボディラインだけではなく、
その立ち振る舞いに。その姿に。
長くて美しい髪を小さく靡かせ、
はっきりとした笑顔で雪ノ下は口を開く。
「知ってる? 私、負けず嫌いなの」
この鳥籠から放たれ一羽の鳥のような強くて、
美しい笑顔を見れただけ充分だ。
俺はホームドアから降り、彼女の方に向き合う。
「……頑張れよ」
この騒々しい中で、この呟きが聞こえたかはわからない。
ドアが閉まる瞬間、彼女は小さく微笑んで、
小さな柔らかい手を振って、海浜幕張の駅から離れていった。
ドアが閉まる際、彼女がなにか言ったように聞こえたが、
騒音のせいで聞こえなかった。
だが。
―ただ、心に一つ、小さな疑念が残っていた。
いかがだったでしょうか。
雪乃の可愛さを美しさ正しさを表現出来る語彙力が皆無のせいであんまり上手く伝えられていないと思います……。申し訳ない……。
さて、八幡は雪乃を見守ると決めましたが、これが何を指すかはお考えいただくとして。
少しだけ宣伝させてください!
Twitterやってます!@Iroha_Sicily という名前で作品の更新等呟いてます!LINE風ssは別垢で呟いたので引用ツイートで引っ張っておくので、良ければ是非ご覧下さい!
次回は雪乃と別れてからの八幡です。どこで切ろうか迷う……。誰が登場するかは、この描かれている日が何の日か分かれば分かると思います!是非お楽しみに。
さて、いつもより長くなってしまったのでこの辺で筆を置かせていただきます。皆様健康にはお気をつけください。
4月某日、LINE風ssのネタを考えつつ。
佐倉彩羽
投稿頻度なんですけどどれがいいですかね?
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