雪が溶け、細く繋がった紐は結ばれ、色彩豊かな春は来る。   作:佐倉彩羽

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こんばんは、佐倉彩羽です!
今週からゴールデンウィークですね、ここ数日ほとんど変わらないような気もしますが、ここはまだ辛抱です。そして医療従事者の皆様を始めとする命懸けで我々の安全を保ってくださる方々、本当にありがとうございます。
さて、今回は雪ノ下雪乃と別れたあとからです。少し長くなってしまいましたが、ぜひお楽しみいただければ幸いです。では、どうぞ。


比企谷小町はやっぱりお節介。

駅から離れるとその騒々しさは消え失せ、

ただ静かな閑静な住宅街が並ぶ。

いつもの道を通って、自宅へと向かうと、

見知った背中を三つ見つける。

真ん中の小さなやつはピンとアホ毛が生えていて、

後ろからでも美少女だと分かる。もうまじ美少女。

近づく男はみんなレーザーポインター当てちゃうゾ!

両端の二人はその親だろうか、というか俺の親なんだけど。

俺は前の三人に追いつこうと、少し自転車のスピードをあげる。

 

「おう」

 

親が後ろから声をかけると、美少女で日本人の心、

そして世界の妹こと小町がびくっとして、くるっと後ろを振り返る。

 

「うっわびっくりしたぁ……、なんだ、お兄ちゃんか。

 不審者かと思った」

 

ハイハイそうですね目が腐ってて深夜急に声掛けたら

不審者に見えますよね分かってますよ。

 

「で、どこ行ってたの」

「お兄ちゃんこそ! ゆ、き、のさんとどこへ言ったのかな?

 小町の受験終わりより優先したんだから、

 デートなんだよねデート! で、結局どうだったの?

 ねえお兄ちゃん!

 あ、お父さんとお母さんがいると言いずらかったりする? 

 じゃあお父さんとお母さん、先戻ってて!

 お兄ちゃんとゆっくり帰る!」

 

うわぁ……、親父達可哀想。

母親はため息ついてるけど、

親父の俺に対するその憎悪が見て取れる目つき、

本当になんなの? 小町好きすぎだろ。

俺も皆も好きだけど。世界の妹、KOMACHI。

 

親父達は先に帰っていき、俺と小町は近くの公園に向かった。

既に夜は深い。しかも雪ノ下との話はデートでもなんでもないので、

さっさと終わらせたいところだ。

自動販売機でマッ缶を購入。

小町には紅茶を購入し、ベンチに座っている小町に渡す。

 

「ほらよ」

「ん、ありがと」

「それと、とりあえずお疲れ様。良く、頑張ったな」

「うん、ありがと、小町、受かってるといいな」

「受かってるだろ、だって俺の妹だもん」

「お兄ちゃんの妹だから怖いんだよ」

 

そう笑っていうと、俺もつられて笑ってしまう。

本当に、本当によく頑張ったと思う。

余計なお世話もかけてしまったし。後でゆっくりお祝いしたいところ。

 

「でさ、お兄ちゃん」

 

 いつもより普段より少し大人びたような小町は言う。

 

「なんだよ」

「いつもお兄ちゃんはさ、

 なんだかんだ言って小町のこと優先してきたじゃん?」

「そりゃあそうだな。小町だし」

「でも、今日は雪乃さんの方行ったってことはさ、

 雪乃さんに、なんかあったの?」

 

この子のかんの鋭さはえげつないと思う。

というか、俺の態度が分かりやすいのだろう。

小町は優しい顔つきが少し奥歯を噛むような表情へ変わっていく。

かつてもこんなことがあった。あの時の一件で、小町も聞きづらいのだろう。

 

「別に、なんもねえよ」

「ダウト」

「……なぜ分かったし」

「え? お兄ちゃんの事はなんでも分かるよ?

 あ、今の小町的にポイントたっかーい!」

「はいはいわかったよ……、でも大した事じゃない」

「ん、なら大丈夫か。じゃあもうひとつ聞くね」

 

すぅー、はぁ、とゆっくり深呼吸する。え、何。そんなおおそれたことやめてね? 例えば『もし小町に彼氏が出来たらお兄さんどう思う?』とか。想像しただけでもう気が狂いそうになる。

 

「お兄ちゃん、雪乃さんの事、どう思ってるの」

 「どうってなんだよ」

 

ふと、そんな言葉を口にした。

嘘や欺瞞で答えていいものではないと、彼女の目から理解出来る。

暫く答えに悩み、黙っていると、小町がため息をついて口を開いた。

 

「はぁ……、言われないと分からないのかなぁこのごみぃちゃんは。

お兄ちゃんに取って雪乃さんはなんなの?」

 

最終審判。

あるいはファイナル・ジャッチメントと言った方がいいだろうか。

恐らく、いや、ほぼ確実と言っていいが、

小町は一色の気持ちを知っているはずだ。

けれどそれ以前に、雪ノ下雪乃は「比企谷小町」の友達であり、

一色いろはは友達じゃなくて、せんぱい(仮)なはずだ。

小町が雪ノ下と由比ヶ浜を大切に思うことも俺は知っているし、

昨日一日しか見ていないが、

一色と小町の関係も良好を通り越してもはや百合なのではと言えるくらい、

かなり仲はよさげであることも自分自身理解しているだろう。

 

だけれど、俺たち三人、

そして一色はそんなラブコメみたいな関係ではないと、

お前が望んでいるような、

そんな甘酸っぱいものでは無いと小町は知らない。

 

誰かがそんな妄想や幻想を抱いた瞬間、崩れてしまうような脆い関係。

その思考をもう既に一色いろはが持っているのだとすれば、

その思考を断固絶たなければいけない。

断ち切ることは出来る。けれど、その後の関係はどうなるだろうか。

紛れもなく崩壊するだろう。それは俺と一色だけかもしれない。

けれど、それが周囲に与える影響は大きい。

特に由比ヶ浜は、空気を読んで行動する子だ。

最近はしっかり自分の意見をいう子になってきたが、

俺達を見てまた、嫌悪な雰囲気が流れる。

嫌悪な雰囲気が流れるから、また対立が起きる。

修学旅行から生徒会選挙の流れと変わらない。

なんの為に俺はあの部活を、あの空間を守ったのか。

欲しいものがあったからだ。

その欲しいものが、同じ空間に存在できなかったら? 

それはもう有象無象で、

俺の手元に残るのは小さなダイアモンドと、大きな後悔だ。

 

小町は「ゆっくりでいいよ」と優しく諭すように言う。

長い息を吐き、一つ一つ昔を懐かしむように口を開く。

 

「俺にとって雪ノ下は……なんなんだろうな、

 もうわかんなくなってきた。

 最初の印象は、嫌な奴だった。

 学校ので噂とは違って、罵倒してくるわ上から目線だわで、

 この世界を変えるだの、

 努力の方向が明後日に向いちゃってる、嫌な奴。

 けれど、真面目で正しくて、顔だけは良い奴。

 そんな雪ノ下に憧れてたんだろうな」

 

俺が小さな溜息とともにはにかんだ表情で小町に伝える。

小町はゆっくりと頷きながら、俺の次の言葉を待ってくれる。

 

「けれど、真面目で正しくて、そして凛として強い。

 そんな雪ノ下でも、嘘をつくっていうことを知って

 自分が嫌いになったことがある。そういう意味では余程あいつに強い幻想と、憧れと、彼女の風格を押し付けていたんだろうな。」

 

強く正しく往々にして凛としている。

そんな彼女に理想や幻想を押し付け、満足し、その理想から逸れていたと知ったら自分に深く失望する。なんて気持ち悪いのだろう。

 

「けれど、雪ノ下雪乃と言うやつは……、パンさんが好きで、絶叫系のアトラクションが苦手で、体力がなくて、上級階級育ちだからか一般常識と少しかけ離れてて、猫が好きで……

 本気で向き合ってくれる奴だ。

 文化祭の時も自分一人で何とかしようとした。

 修学旅行の件もそうだ。

 生徒会長の件も、自分が生徒会長になろうとしたの、覚えてるだろ。

 そんな馬鹿真面目で、

 常に正しい方向を向きながら、向き合ってくれる奴だ。

 ……だから、友達って訳じゃないしただの部員って訳でもない、

 大切な、仲間ってやつ、だと思う。

 今まで仲間とかいなかったから知らんけど」

 

本当にいい仲間。

そんな彼女の初めての依頼を、破るわけにはいかない。

見守る。それが正しい選択ではなくても。

 

「最後で台無しだよ……。

 けれど、雪乃さんもそう思ってるんじゃないかな」

「……そうだといいけどな」

 

俺はわかりたいのだ。わかりたい。知っていたい。知って安心したい。

安らぎを得ていたい。わからないことはひどく怖いことだから。

自分がかつて、あの部室で感じたことが頭の中で蘇る。

きっと、俺が欲しかったものはこういうものなんだろう。

お互いがお互いのことを分かり合える関係。

でも、それは違うかもしれない。

的外れかもしれない。

ならば、また計算をし直して、答えを出せばいい。

あの先生から学んだことだ。

 

小町はもう一度口を開く。

 

「……じゃあさ、いろは先輩のことは?」

 

一色いろは。俺が後輩と呼べる唯一の後輩。

恋愛脳に見せかけて結構クレバーで、

自分でキャラクターをしっかり作ってそれを演じている、

俗にいう女子高生という生き物だ。

けれど、彼女なりに相当な苦労と犠牲を伴っているのも知っている。

葉山隼人の隣にいる為、俺が知っていた彼女の行動原理だ。

彼女は言ったのだ。この敗北は、布石だと。次を有効にするためだと。

この次を、俺は勘違いしていたと思われる。

けれどこれは仮定にすぎない。

自意識過剰でも、あんな黒歴史を作らないと、

作らないとしていたのに。

また俺は勘違いをしてしまうのだろうか。

未だに彼女の想いが確証が持てない。

どう思ってる? と聞かれても、

俺が後輩と呼べるただの後輩としか、今は言うことが出来ない。

俺はそのまま、小町に伝えた。

 

「俺が後輩と呼べる唯一の後輩だ」

「……じゃあそれってさ、いろは先輩じゃなくてもいいの?」

「いや、別にそういう訳では無いが、一色と俺はただの先輩後輩だよ、

 それ以上でもそれ以下でもない」

 

小町は俺がそう言うと、深く、そして呆れたようなため息をつく。

 

「ねぇお兄ちゃん、本当にそうなのかな。

 お兄ちゃんが思ってるような関係なのかな」

「何が言いたい」

 

少し語調が強くなってしまったが、俺は小町に問いかける。

 

「いろは先輩ってさ、求められている自分っていうか、

 自分のことをきちんと理解して自分を演じているじゃん? 

 でも、お兄ちゃんには素というか、ホントの自分を見せてるからさ、

 小町が思うにはね、いろは先輩にとってお兄ちゃんは特別なんだよ」

「別に特別とかじゃねえだろ。

 無理して俺に可愛い自分見せる必要ねぇっつーか、

 そういう事なんじゃねえの」

 

俺がそう言うと、

小町が呆れ顔というか、少し怒ったような顔をして言う。

俺の悪い癖だ。そういう色物めいたものとは一線の距離を取る。

しかしこれまでの経験上、こうやってくることは間違いではなかったはずだ。

 

「はぁ……、これだからごみぃちゃんは、

 だからいろは先輩だけじゃなくて雪乃さんと結衣さんともいざこざが起きるんだよ? 

 もう少し、自分の事、周りの事理解してよ、

 小町の大事な友達と、大事な先輩の事、ちゃんと考えてよ」

 

 

同じようなことを由比ヶ浜からも言われた気がする。

どんなに考えても人の気持ちなど理解することは出来ない。

相手から伝えてくれても分からないものなのだから。

感情と心理は常にイコールではない。

けれども、俺はあの奉仕部の空間で、

二人のことを分かり合いたいと思ったのだ。

相手の事を知りたいと思ったのだ。

でも、未だにあの二人の事は分からない。

一色いろはに関して、正直何も分からない。

彼女たちよりも付き合いが短いのだから。

いくら考えて結論を出しても、それは全て正しい答えじゃない。

正しい答えを知っているのは当の本人のみである。

 

「どんなに考えても、分からないものだってあるんだよ、

 この世界には。

 相手の気持ちなんて、きっと本人にならないと理解できない」

「……そんな、難しい事なのかな、もっと簡単な事だと思うよ、

 ……まぁお兄ちゃんだから仕方ないか、

 小町からしか愛情注いでもらえてなかったし」

 

それはそれで悲しいなぁ……。

人が悲しむような事実を簡単に述べちゃいけないんだよ?

しかし、小町の笑う姿を見るのはやはり心が落ち着く。

この妹、やはりどんな時でも可愛いのである。

 

「お兄ちゃんは、いろは先輩とどう過ごしたい?」

「これまで通りでいいんじゃねえの、

 奉仕部に一色が来て、仕事に駆り出されて、

 休日もまた駆り出されて、っていう無限ループ」

「……お兄ちゃんが仕事をすることを肯定的に捉えてるなんて、

 頭打ったの?」

「ちげえよ、仕事なんてしたくはないが一色を生徒会長に推薦したのは

 俺だしそれの責任は取るっていう事だ」

「へぇ……、責任取るかぁ」

 

小町が意味ありげな視線を投げてくる。

男子の視線、スカート注意!人生の基本でしょう?と言われてますよ!女子のみんなは気をつけようネ!

 

「なんだよ」

「いやぁ? なんでもないよ?

 お兄ちゃんがそんな意味深な言葉を投げてくることも関係ないよ? 

 でもねお兄ちゃん、小町嬉しいよ」

「はぁ? 何がだよ」

「えへへ、お兄ちゃんには内緒っ!」

 

少しあざとくて、けれども可愛いマイスウィートエンジェル小町はそう満開な笑顔を見せる。

 

「ここは教えるべきだろ」

「じゃあヒントだけだよ?」

 

 

「お兄ちゃんってさ、いろは先輩のこと、

 とっても大切に思ってるんだって」

 

「はぁ?」

「だってさ、

 お兄ちゃん生徒会長推薦したとしてもその後の仕事が嫌だから逃げるじゃん」

 

さすが小町。略してさすこま。どっかの妖怪みたいだな。

可愛げ0だし。やめとこう。

 

「でもお兄ちゃんは逃げてないし、

 現にこれまで通りいろは先輩に振り回されてもいいというか振り回されたいんでしょ?」

「いや別に振り回されたいとか頼られたいとかそういう物じゃない、後々の仕事回ってくるのがめんどくさいし生徒会長になったせいで一色に負荷がかかってしまうならその責任を取らなきゃおかしいだろ」

「やっぱいろは先輩しかないよね、もうフラグ立ってるよね? 後はひたすら押し切るだけ、いやもう小町の出番要らない? 

 とりあえずいろは先輩に後で連絡入れて……」

 

もう夜は深いし、こんな時間帯まで起きていたら明日の学校寝坊して、

平塚先生に抹殺のラストブリットを打ち込まれる所まで見えている。

 

「おい小町、もういいか、行くぞ」 

「あいあいさー!」

 

責任。そう自分で口にした言葉が、再び頭の中に巡っていった。




いかがだったでしょうか。
や、なんでこんなにめんどくさいのだろう……。笑
一応このシリーズは原作再構成のような形をとっているのですが、ものすごくめんどくさいんですよ、彼ら。だけどそれが面白い。さすが原作者渡航先生の文章力ですよね……。
さて、次回予告です!
ようやく、というか久々にあの子が登場します。超絶久々。そんな、メインキャラ一人を除け者にするわけないですよ。もちろんちゃんとここから登場します!
では、次回もお楽しみに。更新頑張ります!なぁに、余裕ですよ!ガハハ!
さて、このあたりで筆を置かせていただきます。
4月某日、バンドリ三昧のラジオを流しつつ。
佐倉彩羽

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