雪が溶け、細く繋がった紐は結ばれ、色彩豊かな春は来る。   作:佐倉彩羽

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こんばんは、佐倉彩羽です。
まずはUA4500越え、ありがとうございます!
この作品の目標は合計10000越えです。まぁいけばいいんですけどね……
今回は前回の続きと、2月14日の出来事を数回に分けて描いていきます。
ぜひ、ゆっくりとお付き合い下さい。
では、どうぞ!


ただ一つ、小さな嘘をつく。

ふと、雪ノ下達のことが頭によぎる。

由比ヶ浜の家に泊まると言っていたが大丈夫だろうか。

由比ヶ浜なりの考えはあるだろうが、それが空回りしていないか。

 

彼女は空気を読んで行動するのがとても上手い。

コミュニケーション能力も高く、人に合わせて行動する。

 

かつて雪ノ下雪乃は、その行動を不愉快だと言った。

自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの原因を、

他人に求めるのは恥ずかしくないのか、とまで言った。

そして彼女の事を、少し苦手と言った。

 

しかし今はどうであろうか。

この一年間過ごしてきて、雪ノ下も、そして俺も、

由比ヶ浜にかなり支えられてきた部分もある。

 

由比ヶ浜は雪ノ下の事をちゃんと考えているだろうし、

雪ノ下も彼女の大切にしてくれている気持ちを踏みにじることなく、

雪ノ下なりに由比ヶ浜を大切に思っているのだと思う。

 

文化祭の時、雪ノ下のことを助けろと言ったのは由比ヶ浜だ。

生徒会長選挙の時も、この部活が無くなるのは嫌だと言って、

雪ノ下が生徒会長になるならと、自らが立候補しようとした。

 

崩れかけてしまったこの関係性を、また建て直そうとした。

 

そんな由比ヶ浜なら、雪ノ下の事を家族除いて、

最も理解している人物だろう。

 

そんな彼女なら、なんとかしてくれる気がする。

しかしそんな関係も、いずれが終わりを迎えるのだろう。

 

そんなことを考えると、小町が風呂から出てきて、

パジャマに着替え終えていた。

 

「あ、お兄ちゃん」

「ん」

「ほい」

 

小町から綺麗にラッピングされたチョコレートを渡された。

「……なに、くれるの?」

「うん、簡単なやつだけどね」

 俺はその貰ったチョコレートを抱きしめながら、

「ありがてぇありがてぇ……」と呪文を唱えるように繰り返した。

なんて出来た妹なんだ……

 

「チョコくれって言われてたしね、

そのわがままが他の人にも言えるようになるといいんだけどねっ」

「こんな恥ずかしいこと他の人には言えるかよ。小町最高超可愛い」

「うわぁ……最後の方超適当だなぁこのごみぃちゃん」

 

 うわぁとうんざりした表情で深いため息をつく。

「……でもそうやって、自分に誤魔化さない人に受け取って貰えたら、ちょっと嬉しいもんだけどね」

 そう言って小町は普段より大人びた顔で微笑む。

その優しい視線が気恥ずかしく、俺は鼻息を吐いて目を逸らす。

小町も照れくさくなったのか、にしっとわざとらしく笑った。

 

「なーんて、今の小町的にポイント高い?」

「そういうとこがポイント低いんだよ……」

「んじゃ、そろそろ寝るね、カー君、一緒に寝るかい?」

 

カマクラはひょこっと炬燵から体を出し、小町の足に体を擦り付ける。

小町は満足そうに微笑むと、

カマクラを抱き上げ、ドアノブに手をかける。

 

「小町」

「何?」

「応援してる。おやすみ。」

「うん、ありがと、おやすみ」

 

 言葉数は少ないが、小町の顔は落ち着いている。

小町はカマクラを抱き抱え直し、自室へと戻っていった。

 

「誤魔化さない、か……」

 意識して明確に線を引き、はっきり蓋をしいつもより鈍らせ、

もの思わぬようにして賢しらな観察者たらんと極めて、

自覚的に卑怯な位置を取り続けた。

 

そんな俺も、いつかは選択をしなくてはいけない時が来るのだろう。

しかし、その選択肢は二択ではない。

三択にも、『逃げる』という選択肢を取ると四択にもなる。

 

ここまで妹にお膳立てされて、色々と声をかけてもらって、

気づかない者がいるのだろうか。

 

 俺は気づいていた。気付かないふりをしていた。

決してそんなわけは無いと、自分に言い聞かせていた。

 

 比企谷八幡よ、これがお前が願ったものか?

自分の中で誰かが苛む声がする。

 

うるせえ。

俺のことを知りもしねぇやつが勝手なこと言うんじゃねえ黙ってろ。

 

こんなものを願ってはいない。

俺が願った本物は、一体なんなのだろうか。

 

 

 

  その日、珍しく雪が降った。

 千葉はあまり雪が降らない。日本海から流れてくる湿った雲は、

本州を背骨のように走る数多の山脈群に囲まれ、そこで雪を降らし、

太平洋側、ことに平地である千葉には乾いた風を運んでくるのが常だ。

 

 だが、こうして変なタイミングて雪が降ることがある。

俺の十七年間の経験の中でも元旦に降ったり、成人の日に降ったり、

はたまた三月の末に吹雪いたりすることもあった。

 

 そのタイミングが折悪しく、

今日この日小町の受験日と重なってしまった。

 

 幸いなことに風はあまり吹いておらず、

ひらひらとそれこそ花弁のように雪は舞っていた。

いつもの制服にコートとマフラー、手袋を装着し、

足下は長靴と準備万端の小町が玄関を出る。

 

予定した時間より随分早いが、

公共交通機関が混雑するであろうことを考えれば、

これくらいの方が良いだろう。

 

「受験票持ったか? 消しゴムとハンカチ、五角鉛筆は?」

 五角鉛筆とはうちの親父が小町の合格祈願に、

天神様にお参りした時に買ってきた代物で、

断面が五角形になっている鉛筆だ。まぁ、それ以外は普通な鉛筆だ。

ぶっちゃけ普通の鉛筆の方が書きやすいんだと思う。

だいたいの受験生はこの五角鉛筆の側面に、

A〜E、あるいは1〜5、もしくはア〜オと書き込み、

わからない選択問題に出くわす度に、

祈りながらこの鉛筆を一生転がすことになる。

むしろ、転がすために生まれた鉛筆と言ってもいいだろう。

 

 小町は最後にざっと鞄の中を見ると、うんと元気よく頷いた。

そして、傘を傾けるとピシッと敬礼した。

 

「大丈夫! じゃあ、お兄ちゃん……行ってくるであります!」

「おう、行ってらっしゃい。足下気をつけろよ」

「はーい。お兄ちゃん、デートちゃんと行くんだよ?」

「デート? は?」

「ううぅ、さむぅ。サインコサインタンジェン……。

あ、これでないんだった」

 

 俺の質問に答えることなく、

鼻歌めいたものを口走りながら歩いていく小町。

その後ろ姿を見送りながら若干の不安がよぎった。

大丈夫か、あいつ……。

勉強しすぎてちょっとおかしなテンションになってないかしら。

 

ともあれ、ついに入試当日を迎えてしまった。

ここまで来ると、じたばたしてもしょうがない。

世紀末はしばらく来ないが、

足掻こうがもがこうが試験日も締切も来てしまうのが世の常だ。

 俺にできることといえば、あとは祈るくらいしかなく、

知らず天を仰いだ。

 

 低く垂れ込めた分厚い雲はいっかな腫れる様子なく、

ただしんしんと空から白い雪を落としてくる。

今日は一日中降ることになりそうだ。

 俺は寒さにぶるっと身震いすると、家の中へ戻ろうと一歩歩く。

その時、またぶるっと震えが走った。

 

 その震えの源であるポケットに手を伸ばせば、

俺の携帯電話に着信がある。

 

表示を見ればそこには『★☆ゆい☆★』 とあった。由比ヶ浜だ。

以前登録された時から変更することもなく、

ずっとそのままでいたのだ。

 

 電話に出るか出まいか数秒悩む。

だが、コールが途切れることはなく、

まだ携帯電話は震え続けている。

諦めて通話ボタンを押し、そっと耳に当てた。

 

「……もしもし」

 言った瞬間、電話口から底抜けに明るい声が聞こえてくる。

『ヒッキー、デートしよう!』

「……は?」

 

 開口一番、挨拶もなしに言われた一言は予想外に過ぎ、

我ながら随分と間抜けな甲高い声が、

口の端からぷしゅっと漏れ出ていた。

 

「……ごめん、なんて言ったか?上手く聞き取れなかったんだが」

『だーかーら、デートだよ、デート』

 

 由比ヶ浜からデートの誘い。しかし、今日は用事が入っている。

ここで一色から義理チョコ貰うから無理、

と答えたら色々と厄介な事になる。

 

「あー、すまん。今日は用事入ってて無理だわ」

 奥義、なんの予定か悟られないように用事が入っていて無理作戦。

作戦名立案は俺。ちな実行も俺な。

 

ちなみにこの方法で俺は小学生時代、

同級生を遊びに誘ったら九割がこの返し方でした。残りの一割は無視。

 

そんなことはどうでもよく、

電話口から驚きと困惑が混じった声が聞こえる。

 

『えー、ヒッキーに用事なんてあるの!? なんの用事?』

「ちょっと小町のな。

ひとまずお疲れ様ということでお菓子でも買いに行くんだよ」

 

 少しばかり嘘をつく。

由比ヶ浜はうーんやあーなど電話口から唸っていたが、

ふと思いついたように言う。

 

『なら、ヒッキー一緒に買いに行こうよ!

ヒッキーのセンスだと小町ちゃん可哀想だし、

……あと、ちゃんと言いたいことも、あるし……』

 

 最後のほうになると声がだんだんと小さくなり、聞こえない。

小町の受験終わり祝いの買い物。

確かに由比ヶ浜と行けば、いいものも買えるし小町も喜ぶ。

嘘をついてしまったあたり、買い物はしなくてはいけないだろう。

まぁ嘘ついてなくても買いに行くんだけどね。

 

しかし、今日は一色との約束がある。

由比ヶ浜が急を急ぐ用じゃない限りは先約を優先するべきだ。

 

「……すまん、今日はちょっと無理だ。」

 

由比ヶ浜は俺がそう言うと、数秒間ほど黙る。

何かとても申し訳ない気持ちになっていると、

由比ヶ浜の声が電話口から聞こえる。

 

『あはは……。ヒッキーの用事、分かっちゃったかも。

なら仕方ないね、ヒッキー、楽しんでね』

 

 掠れ気味な声を漏らす。

 俺はこの声を聞いたことがある。

あれは東京わんにゃんショーの時だ。

 

俺と雪ノ下が偶然会場で会い、

一緒に回っているところを由比ヶ浜と遭遇し、

由比ヶ浜はこの感じで話していたはずだ。

 

あの時の由比ヶ浜は俺と雪ノ下が付き合っている、

と勘違いしていた。

この感じの由比ヶ浜だと、また壊れてしまう。

 

俺たち三人の関係性は歯車のようなものだ。

一人が外れると、他もつられて外れ出す。

自分たちでまた、元に戻ることはとても難しい。

 職場見学後の時や、修学旅行、生徒会選挙の一連からそう言える。

俺が願った本物を得るには

この関係性を少なくとも続けなければいけない。

 

しかしこのままだと、また崩れてしまう。

俺が願ったものが、二度と手に入らなくなってしまう。

 

俺は少し考え、また電話口に向かって話しかける。

 

「……明日とか、空いてるか」

 

 電話口の由比ヶ浜は時間が止まったように黙る。それはそうだろう。

由比ヶ浜は『他の女の子とのデートがあるから無理』

と勘違いしていた、と思う。

 

これは俺の想像であり、仮定である。 

こんな気持ち悪い考えを本来ならしたくない。

 

しかし、俺は欲しいものがある。

酷く独善的で、独裁的な傲慢な願いだ。

それでも俺は欲しいと願った。

人間は欲望には忠実だ。俺もその人間のうちの一人である。

その欲しいものを手に入れるなら、どんな手段も選ばない。

 

『……明日、ね。一応確認してみるよ!

用事あるんでしょ?急がなくていいの?』

 

 由比ヶ浜が俺を急き立てるように言う。

 

「あぁ、じゃあな。」

『うん、またね』

 

 ここで電話が途切れる。これでひとまず何とかなった。

俺の休日が一日潰れるくらいで済むならいい方だ。

 俺は寒さにまた、ぶるっと身震いすると、家の中へと戻っていった。

 




はい、いかがだったでしょうか。
いろはちゃん登場させられなかった…………。文字数の問題です。ごめんなさい……
ここでようやく原作との分岐です。ここから新たなルートを開拓していきます。
さて、次回予告を八幡くんにお願いしました!では、八幡くんどうぞ。
「あー、あー、えーっと、次回は俺と一色のデート回です……っておい、デートってなんだよデートって。何語?英語なの? というわけで次回こそ一色が登場します。皆さんお楽しみに。」
というわけで次回こそいろはを登場させます。
ここでみなさんにおねがいが。
是非、この物語を様々な人に広めてください!中の人のモチベに関わります!面白かったらぜひ、よろしくお願いします!!!
というわけで、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。
3月某日、小町生誕祭をTwitterで盛り上げながら。
佐倉彩羽

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