ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

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第9話『永遠の残骸』

この世界で涙と言うものほど厄介なことはないだろう。

 

俺はふとした瞬間に込み上げて来た想いを我慢しようとした。だが、心情を司るパラメータが脳に泣くという司令を与えた時、そんな想いとは裏腹に涙が溢れてくる。

 

どれくらいこの涙を流し続けただろう。

その間、リズは何も言わずに俺を待っていてくれた。

 

「話、聞いてくれるか?」

 

俺は恐る恐るリズに尋ねる。

 

「当たり前でしょ!どんなに闇落ち展開でもあたしは貴方を軽蔑しないって約束するわ」

 

その言葉に思わず笑みが浮かぶ。

この展開、リズが居てくれて本当に良かったと思った。

 

——————————————-

 

中層プレイヤーギルド「黄昏の茶会」

 

そのギルドの中心メンバーとして俺は活動していた。

特に行動を共にしてたのは黒髪長髪の青年、水色の髪の少女、黒髪短髪メガネの青年の3人である。

 

長髪の青年の名はユキマサ

水色の髪にアバターを変えた少女の名はユリ

短髪メガネのギルドマスターの名はタケル

 

彼らは同じ高校のクラスの仲良しグループだった。

そしてユリとは高校1年から付き合っていた。

 

俺たちは別のMMOで知り合った仲間たちとギルドを作り、中層プレーヤーとして活動していた。

 

充分な安全マージンを取り、狩りと経験値を積み、順調にレベル上げと装備品を揃えていた。

 

そんな俺たちの合言葉は「いつかギルドを攻略組に」だった。

 

そんなある日、ユキマサがある情報屋から24層の遺跡ダンジョンでレア武器が手に入るとの情報を持ってきた。当時は50層の攻略中、俺たちのレベルも35を越えていたから安全マージンを取ってもお釣りが来ると判断して、24層の遺跡ダンジョンに向かった。

 

45層攻略で出現したというその遺跡は1階から順に地下に降りていくタイプのダンジョンで最下層がどこまであるのかは分からない。そして階を進むに連れてモンスターは強くなっいく。

 

俺たちはそこを格好の狩場と位置づけ、地下20階より下には行かないようにだけはしていた。

 

そんなある日…

 

「おはよう」

 

いつもギルドメンバーが集まっている第24層の酒場に足を踏み入れると俺は既に集まっていたメンバーに声をかける。皆、俺に目を留めると笑みを浮かべ、おはようと返してきた。

 

「あ、俺も同じやつ」

 

1つ空いていた席に座ると寄ってきたNPCの店員に対面に座っていたユリが飲んでいるコーヒー色の飲み物を指差し注文する。

 

「りょうくん、聞いて!ユキマサがまた情報屋から情報を仕入れてきたんやって」

 

するとユリが身を乗り出すようにして話かけてくる。

「ここやったらラズエルやって!お前もわからんやつやなー」

 

俺がそう指摘するとユリは顔を膨らませ、「別にいいやん。そっちの方が呼び慣れてるし。ってかなんで本名で登録しーひんかったんよ。おかげで恋人気分台無しやわ」と言う。

 

「はいはい。すまんすまん。今度レア武器素材取りに行くの手伝ったるからゆるしてや?」

 

俺は小学生をあやすようにそう言うとユリは頬を膨らませぷいっと横を向く。ここまでが一連の日常のやり取りである。

 

いつものお約束のやり取りを終わえた俺はユキマサを見た。

 

正直、彼が懇意にしている情報屋は怪しいと思っている。なぜならユキマサ自身もまだその情報屋に会ったことがないのだ。

 

いつもはメールで情報が届き、それに対する対価を宿屋の主人に渡しておくと次の日には回収してるらしい。俺たちがその情報屋の顔を見たいと宿屋で張り込んだ時に奴は現れずに代わりにユキマサにもし情報屋の素性を知りたいなら、法外な情報料が必要とのメールが情報屋から送られてきて、俺たちはそれ以上の詮索を止めた。

 

彼から得られる情報は軍もトップギルドよりも早く狩場の情報を提供してくれるもので、その情報はいつも正確だったからある程度信用できるとギルドマスターもそう判断している。

 

「なんと遺跡ダンジョンの地下30階にクエストボスがいて、そいつを倒すとタンク用のレア鎧がドロップするらしいんだ」

 

ユキマサの言葉に彼の横に座る俺たちのパーティーでタンク役を務めているギルドマスターのタケルがニヤリと笑った。

 

「今俺たちは地下20階までを中心に狩りをしているが、そろそろみんなのレベルも装備も揃ってきた。地下30階なら今までの傾向からだいたい30層レベルの敵だと思うし、俺たちなら充分にマージン取れてると思うんよ。」

 

タケルがそう言うと他のテーブルにも座っているギルドメンバー全員が小さく頷く。

 

「その情報が嘘という可能性はないんか?」

 

俺は言いようのない不安に駆られ、タケルとユキマサに尋ねる。ユキマサはその顔に苦笑いを浮かべ、俺を見た。

 

「ってかさ、もしそいつが情報屋やったとして、なんで俺たちに破格で情報提供するんよ?全然そいつにはメリットないやん。もっとトップギルドに情報持って行ってみい?破格で買い取ってくれるで」

 

俺は正論をぶつけるも周りはなにかと根拠のない言い訳をしてくる。

 

「今まであいつの情報が嘘だったことがあるか?あの鼠のアルゴさえ知らない情報を先に提供してくれてんやで?今回も大丈夫やって!りょうちゃん、いやラズエルは心配しすぎやって!」

 

楽天家の塊のようなユキマサの発言に少し不安を覚えながらも事実としてその情報屋からの情報で、俺たちはかなりのレアアイテムや初回クエスト攻略ボーナスを得て、ギルド全体の底上げにつながっている。

 

結果として、俺たち『黄昏の茶会』は次のボス攻略の招待を受けるまでに力をつける事ができた。

 

この事実がある限り、誰も俺の不安には同調しないだろう。

 

「わかったよ。お前がそこまで言うんやし、タケルが決めたなら従うわ。でも何か不審なものとか罠とかあったらすぐ逃げるからな」

 

俺は半ば渋々と言った形で遺跡ダンジョンの地下30階にあると言われるクエスト攻略に賛成した。

 

だが、俺はこの後後悔することになる。

命を張ってでも仲間を止めておけば良かったと…

 

 

———————————-

 

 

一通り話し終えたラズエルは一息つき、NPCの店員が出してきた紅茶を一口含む。あたしは彼の記憶の扉を開けてしまったことを少し後悔していた。その言葉尻や仕草、表情からは後悔の念しか感じられない。

 

なんとなく展開も予想できるし、このまま話を聞いていいのかと思ってしまう。でも、彼は先ほどまでよりは少し落ち着きを取り戻している。だがらこのまま話を聞くべきだと言う自分と、最後まで話したら彼の心がもたないんじゃないかというあたしが戦っている。

 

「ラズエル…無理しなくていいんだよ」

 

結局あたしは決断をラズエル彼に委ねた。

ラズエルはリズの優しさを感じたのだろうか、優しい笑みを浮かべる。

 

「いや、聞いてくれへんかな。俺一人でこの記憶を消化するんできそうにない。リズには嫌な想いをさせてしまうかもしれへんけど、聞いてくれたらありがたい」

 

そのラズエルの素直な言葉に胸の奥が少しカァーっと熱くなるのを感じた。別にときめいた訳ではないと言い聞かせるが、あたしの体温はあがりっぱなしだ。

 

「分かった。聞くよ」

 

少し上ずった声になってしまった。

でもラズエルは特に気にした様子もなく大きく頷くと小さく深呼吸をした

 

そして続きを話し始めた。

 

話始めたラズエルの表情はどこか儚げで、ようやく取り戻した記憶を噛みしめるように1つ1つを言葉にしているのが、分かる。

 

時折、何かを思い出したかのように口元に笑みを浮かべ、そしてすぐに寂しげな表情に変わる。

 

ラズエルの芯の強さに触れた気がした。

自分だったら罪悪感と喪失感で少なくとも2日は塞ぎ込み、泣きつづけていただろう。

 

もしキリトやアスナ、エギルやクラインさんなど自分と近しい人達がそういう目にあったらと考えるだけで、耐えられそうにない。

 

「俺はほんまに嫌な予感したせーへんかった。その頃オレンジギルドやPKがまだ1番盛んやった時期やったし、知り合いのギルドがラフコフに潰されたって聞いたばっかりやったからさ。」

 

ラフコフの名が出てあたしは体の中を緊張が走り抜けるのを感じた。レッドギルド ラフィンコフィン。主にPKや扇動で多くのプレーヤーの命を奪ってきた史上最悪のギルド。

 

「でも最終的には俺がいきたないなら俺以外の3人で行くってギルマスがいい出したんやわ。だから仕方なくついて行った。何かあったらすぐに逃げれるように人数分の転移結晶準備して」

 

ラズエルは一口水を含み、大きく息を吐いた、

ここからが本番…と言いたげな表情の彼にあたしも背筋をピンと伸ばして応えた。

 

 

———————-

 

 

遺跡ダンジョンの探索はついに27階にまで差し掛かっていた、ここまではさして危険なことはない。あと3つ階下に降りれば情報にあったフロアボスイベントのある階に到達できる。

 

正直20階を過ぎた後も敵のレベルはそれほど変わらなかった。すでにレベル40を越えていた俺たちにとってはほぼ無傷で突破できる階もあった。

 

『な?俺が言った通り何もないやろ?』

 

『ああ、今のとこはな』

 

ユキヒサがドヤ顔で話かけてくる。

俺もその頃はモンスターのレベリングに正直余裕を感じていた。でも、これが罠だった場合を想定して周囲の警戒は怠らないようにしていた。

 

28階と29階も簡単にモンスターを殲滅できた。

これで残すは目的の地、30階…。

 

『ここまで来たんや。攻略組初参戦の記念にレアドロップ狙おうで!』

 

まだしっくりきていない俺の背中をギルマスのタケルがドンっと叩いてくる。

 

『ああ、分かっとるわ。分かっとる。ここまで来たんやし、ラストのフロアボスの顔を拝みに行こう。』

 

俺の言葉に3人が歓喜の声を上げる。

ユキヒサヲ先頭にタケル、ユリ、俺の順で次の階に向かう。

 

——————————-

 

この時、どうして止めなかったんだろうと未だに後悔する。

ほんま空気に流されて行ってしまった俺が悪い。

 

少し考えれば分かったはずだ。

全くモンスターレベルの上がらない地下20階以外のフロア。

フロアボスまでほぼ無傷でたどり着けたことに対する慢心

 

そしてレアドロップアイテムという言葉に夢を見た。

 

少し考えれば防げたはずだった。

 

俺は…この罪を永遠に背負って生きなければならないだろう。

心の中に散らばった懺悔という言葉の残骸を集めきるまで。

 

—第8話『永遠の残骸』 完

 

 

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