ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

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第14話『偽りの地獄』

今俺の体は青白く発光している。もちろん死にゆく訳じゃない。

 

エクストラスキル『銀射手』

 

俺は必死だった。流石に今まで対人戦闘の経験はない。正直言って人に対して攻撃するのは憚られる。しかし、こんなところでリズを殺させない。俺の前でもう誰も死なせない。

 

俺は5本の矢を手に取ると指の間に挟む。そして弦にかけるとリズに迫る男達に鏃を向ける。まだ練習中で精度は高くないが、ある程度のスキルアシストがある故、手元のブレはいくらか補正してくれるはずだ。

 

俺は続けざまに5本の矢を放った。

 

オリジナル弓スキル 『フゥフス・アロー』

 

エクストラスキル『銀射手』のスキルアシストのもと、5本連続で精度よく射撃をする五連撃に近いオリジナル技。もちろんスキルエフェクトも入らないただの射撃なのだが、攻撃判定のスタンもなく、極めて扱いやすい技である。

 

俺の指から次々と放たれた矢は風を切り、それぞれがリズに襲いかかろうとしていた男達の足首、太腿、膝裏に突き刺さる。一瞬にして男たちはその場に倒れた。

 

「リズこっちに来い」

 

片手棍を構えたリズはその言葉に我に帰り、俺が作りたしたその間隙を縫い、俺の隣まで走ってくる。俺は彼女を庇うように弓を構え、5本の矢を手に取り弓に番える。その鏃を更に立ち上がろうとする男たちに向けた。

 

「動いたら、次は頭を撃ち抜く」

 

その言葉に男達の動きが止まる。だが、男達は再び足を引きずりながらこちらに向かってくる。先程の芸当を見たのにこの動き…

 

「お前ら死にたいのか?」

 

そして先程と同様に五連射を放つ。放たれた矢は先程突き刺さった足とは逆ね足に突き刺さる。ダメージエフェクトが発生し、次々と地に倒れる男達だが地面をずりながらこちらに向かってくる。

 

その姿はまるでゾンビ…

 

「ちぃ」

 

俺は舌打ちをするとどこかゾンビだらけになった世界で生存をかけて戦う海外ドラマの主人公になったような錯覚に陥る。俺は更に10本の矢を放つ。その矢は男たちの両手の甲から地面へと串刺しにしていく。

 

そうしてようやく男達は動きを止めた。

 

刹那、ヘルブレッタさんの背後にいる男からパチパチパチと拍手が聞こえてきた。

 

「サスガ、サスガ。キミノワザハ、ホントウニアノトキカラ、オトロエテナイネ」

 

そう言うと男も懐から何かを取り出した。そこにあったのは小型の弓のような武器。所謂、ボウガンと呼ばれるものであった。

 

「お前、何を?」

 

俺の問いに答える事なく、男はボウガンに矢を番える。そしてシュッと言う風切り音の後にリズを襲った男の1人のコメカミに矢が突き立った。

 

一瞬の静寂。そして1人の男のポリゴンが揺れ、四散した。

 

リズは口元に手を当て震えている。あまりにも刻一刻と変わる状況に声も出ない様子である。俺も今の状況の変化についていけないでいた。そしてもう一度男を見る。こんな芸当ができるのは俺のように弓の心得があればだ。

 

男は次に5本、その手に矢を取った。

 

俺ほどのスピードはないが、次々に矢を放ち、地に這いつくばっていた男たちは次々と眉間に矢を打ち込まれその場から消え失せた。

 

そして5本目の矢がこちらに向けられる。シュッっていう鋭い風切り音の後、高速の矢がこちらに飛んでくると俺とリズの右側ん掠め、背後の木に突き立った。

 

「お前!!」

 

俺は許せなかった。人の命をまるでゲームのように亡き者する、且つ自分の配下の人間の命を弄ぶその所業に。俺は怒りに任せて弓を構え、矢を番えると力一杯に弦を引いた。

 

だが、その刹那俺の右目の視界が宙に煌めく何かを捉える。黒フードの連中に気を取られて、完全に失念していた。それは宙に振り上げられた剣である。

 

俺が気がついた時、まさにヘルブレッタが、右から斬り込んでくるところであった。俺ははリズを庇うように左へ体を避ける。次の瞬間ヘルブレッタの剣は空を切り、地面を叩く。

 

「俺と戦う振りをしてその隙に女を逃せ」

 

ヘルブレッタの言葉に俺は耳を疑った。こいつはあっち側の人間じゃないのかと自問自答する。俺は弓を捨てると腰からロングナイフを取り出し、ヘルブレッタの斬りあげを上から抑え込む形で受け止める。

 

「どういうことや?」

 

俺はヘルブレッタの間合いに入り体を近づけてそう尋ねる。するとヘルブレッタが体を反転させ、横薙ぎ気味に斬り払う。それを今度はロングナイフの腹で受け止めた。

 

「俺はあの女を死なそうとは思わない。しかし真実を話すのにあの女は邪魔だ。それにバルバトは彼女を殺そうとしている。」

 

ヘルブレッタは俺を押し込むように力を込めてくる。俺はその力に耐えきれず、態勢を我慢できずに背後へと飛んだ。そこを追い込むようにヘルブレッタが突っ込んでくる。彼の袈裟斬りを咄嗟にロングナイフで弾くと俺は体当たりをした。

 

「でもどうやって」

 

「転移結晶を投げて当てればいい」

 

その返答に俺は合点がいった。武器が当たればダメージを食らう。ポーションが当たれば体力が回復する。この原理の応用ということか、

 

確かにこの黒フードの狙いはリズである。彼女さえ居なくなればこいつらは引くかもしれない。

 

「分かった」

 

俺はヘルブレッタの体を押し返すと共に再び背後に飛んだ。そこにヘルブレッタはすぐに追い込んでこない。その一瞬の間隙に俺はアイテムリストから転移結晶を取り出し、発動させた。

 

刹那、俺の体が青白い光に包まれた。転移結晶は砕け散り既に投げられる状態ではない。

 

「ヘルブレッタ!!」

 

やられた…完全に騙された。

 

なんでこんな簡単な嘘を見抜けんかったのか情けない…

 

ふとリズを見る。彼女は驚いたように口に手をやっている。俺だけ逃げるとおもわれたのだろうか。だが、俺はまだ残っている可能性にかけた。

 

「リズ、早くこっちへ」

 

まだ全身への展開が始まったところやからまだ間に合う。

 

俺はリズの名を呼んだ。そして彼女も気づいたのか俺に向かって走り出す。俺は眼前のヘルブレッタをナイフを投げて牽制すると思い切り手を伸ばした。リズも俺に飛び込んでくる勢いで手を伸ばす。

 

「痛っ」

 

手をつなげば、リズの手さえ取っていれば俺は彼女を救えたかもしれない。しかし俺の手が痛みに少しだけ揺らいだ。リズの手が空を切る。その時無情にも転移が始まる。

 

俺は俺の肩に矢を突き立てた男を見た。と同時に衝撃が走る。

 

「ユキ……マサ?」

 

俺はそこに立っていた黒フードを脱ぎ捨てた男の顔を最後に視界が闇に閉ざされた。

 

そこにはあざ笑うかのような笑みど底知れぬ憎悪を俺に向ける先程展望台で見かけた短髪黒髪の男がいた。

 

 

 

——————————-

 

気がついた時、俺は42層の始まりの街、ハーバルトの転移門にいた。

一瞬状況が掴めず、そして刹那今の自分の置かれている状況を思い出す。

 

「リズ!!」

 

俺は走りながら、念のため、フレンドリストを確認する。

 

「あった」

 

リズの名前はまだあった。つまりは死んでないという事になる。俺は最大まで上げた敏捷性をフル活用し、街を抜け、草原を抜け、森を抜けた。こんなところで彼女を失うわけにはいかへん。

 

キリトやエギルに顔向けできん。

それにまだ俺にはあいつが必要や。

 

俺はサバナの町の入口を左に曲がると更にかけた。さすがに走りすぎたか呼吸が厳しくなってくる。だが、足は止められない。

 

そして目に地面に突き刺さる5本の矢を見つける。

 

だが、そこには誰もいなかった。

 

「リズ…」

 

俺は再度フレンドリストを確認する。まだ彼女の名前がある。という事はまだどこかにいる事になる。

 

だが、次の瞬間、彼女の名前がリストから消えた…

 

次の瞬間、声にならない声を上げた俺の雄叫びがこの辺り一帯に響き渡った。

 

 

第14話『偽りの地獄』 完

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