ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ - 作:弥勒雷電
何か大切なものを失った時、人は狂ったように叫ぶか、もしくは虚無の世界陥ってしまうか、そのどちらかが大半の反応である。
今回、大切な友人?相棒?を失った男のそれはまさに前者であった。
…リズがフレンドリストから消えた…
これが意味するもの。それは彼女が俺をフレンド登録から外した?もしくは何らかの理由、バグが原因?…あとは彼女自身がこの世界から居なくなった…つまりは死んでしまった…
そこまで考えた時、俺は再び叫び出しそうになるのを必死に堪えた。考えるだけで辛い。辺りは静寂に包まれ、木々のせせらぎだけが聞こえる。
俺は傍に投げ捨てられていた弓を手に取った。さっきヘルブレッタと交戦した際に投げ捨てと弓だ。俺はおもむろに弓を構えて矢を番える。そして大きく息を吸うと右手で持った弦を力一杯引いた。
刹那、俺の体は青白く発光する。
エクストラスキル『銀射手』
俺は鏃を頭上に向けると右手を離した。
勢いよく飛び出した矢は真っ直ぐに重力に逆らいながら天へ登っていく。空気の波を巻き起こしながら昇りゆくその様はまさに龍が如くという言葉がぴったりである。ちょうど位置エネルギーが最大なる高さで矢は急速に落ち始める。今度は重力に従って…
自然と鏃が下に向き、俺の立つ場所へと落ちてくる。まっすぐ真上に矢を打ち上げたのだから当たり前や。
矢はどんどん加速度を増していく。銀射手まで使った一矢や。ここまで到達する頃にはかなりの威力になっているだろう。多分命中すればひとたまりもない。
俺はじっとその場に立ち目を閉じた。自分の運を試しているわけやない。ただこれはリズに対する俺からの贖罪みたいなもんや。
すると矢は俺の顔から数ミリの所をすり抜け地面に突き刺さった。矢の羽の部分までもが地面に埋め込まれ、少しだけ地面が割れる。俺はしゃがみこみ、そこにできた穴をじっと見つめるとため息を吐いた。
「これは当たった方が楽やったかも知れん」
俺はそういうとユラユラと立ち上がった。そして再度天を見上げる。
矢は俺に当たらなかった。
つまりは天は俺を生かした。
そういうことになる。
「リズを探せということか」
俺はそう呟くと周囲に痕跡を探した。別に運試しをした訳ではない。リズが俺を許さないなら俺は今ので死んでいたやろう。この世界において生きることには何らかの意味があるはずや。
その時茂みの中に何かを引き摺ったような跡がある。大きさ的にリズの体に近い。
俺はその跡を辿り、歩き始めた。
———————————
しばらく歩くと岩山にぶち当たり、そのあとはそこで消えていた。俺はその岩山を舐めるように見ながら周囲を歩きはじめる。途上、モンスターが何匹か現れたが、ロングナイフで対抗し、瞬殺する。
「ここは…」
10分ほど歩いただろうか。そこに人1人分くらい通れるだろう空洞を見つける。俺は一瞬背筋が凍るような感覚に襲われる。自然と一歩一歩、その空洞へ足を向けていた。
暗闇が穂を進めるのを阻む。少しひんやりとした空気が、心の冷静さを削いでいく。時間にして2分もかかっていないだろうが、俺にはもう1時間以上も歩いているように感じられた。
しばらく歩くと急に左右からくる岩壁の圧迫感がなくなり、視界が開ける。六畳ほどの小さなスペースが眼前に広がった。その中央には石でできたテーブルのようなモノが置かれている。その表面は5センチ刻みくらいの碁盤の目に区切られており、パソコンのコンソールを彷彿とさせた。
「なんやこれは?」
俺は恐る恐るその石のコンソールに触れてみる。そして慌てて周囲を見回した。どうやらトラップやクエストの類ではないらしい。そして俺のステータスウィンドウにも変化があることに気づいた。
ここは非戦闘エリア…
つまりは圏内と同じ扱いである。
ここはなんなんや。
率直に湧き上がる疑問と猜疑心、そして興味で再度唯一の手がかりである石のコンソールに手を触れる。
「痛っ…なんや…この痛み…」
刹那、身体に…嫌、脳に電気が走るのを感じる。かなりの激痛に頭を抱える。俺は立っている事さえできず、足を折ると石のコンソールに寄りかかる。
「うぅぅぅ…」
力が全く入らへん…どうなってるんや…
俺は頭を抱えながらその場に倒れ、そして意識を失った。
——————————
「んっ、、、、くっ…」
ここはどこだ?
俺は確かリズを探してサバナの町のはずれの洞窟にいたはずなのに、今周囲は真っ暗な空間、そして感じるのは無…。
まさか、俺は死んだんか?まさかのそういう即死トラップとか?だが、圏内でそんなもんが発動したなんて聞いたこともない。
そんな事を考えていた刹那、目の前の視界がパッと明るくなる。それは暗闇の中に特大のスクリーンが現れた良いに見え、そして何やら動画が映し出された。
目が慣れるのに時間がかかった俺だが、目の焦点が次第に合ってくる。その動画の内容を見て俺は口元を抑えた。
「ユリ!!」
眼前に映し出されたのはあの時のユリの笑顔。脳裏に焼き付いて離れないあの言葉、そして最後の笑顔。
すると途端に画面が反転し、暗転する。誰かの息づかいと咆哮だけが鳴り響く。そして俺は気がついた。それはあの時の俺自身の声、そしてこれは俺の記憶…つまりは何らかの形でSAOサーバーに蓄積されていた俺の記憶の断片…
『大丈夫かい?』
次の場面では画面の中の俺は既にダンジョンの入口に移動していた。恐らく誰も降りてこない事に絶望し、転移結晶を使った後だろう。そんな俺は誰かに話しかけられている。画面の焦点がその男の方に向く。
「ヘルブレッタ」
俺は画面に映った男の顔を見て叫んだ。この時の記憶は当然ない。俺が何かボソボソとつぶやいている。だが、聞き取れない。
『そうか。トラップダンジョンか。とりあえずここにいたらモンスターに襲われてしまう。街へ戻ろう』
ヘルブレッタにそう言われ、俺の視界が急に高くなる。恐らく立ち上がったのだろう。俺は画面上のヘルブレッタの背中をじっと見つめる。
また場面が変わった。場所はさっきまでいた洞窟の中のようだ。
『君がまだ今の状況を受け入れられないなら、その記憶自体を消してしまうのが良いと思う。私はそのあたりを専門に研究していてね。実験台になってもらうよ』
そう言ったヘルブレッタが同じように石畳を指を這わし始める。次の瞬間、俺の視界を映す画面は先ほどのように暗転した。
————————
「これは…俺の知らない記憶…」
既に俺の頭は混乱の極みでしかない。ヘルブレッタは一体何者だったんだ?こいつが俺の記憶を操作した?
今のこの状況からしてそう考えるのが妥当だろう。全ての発端はこの男からだったと考えれば色々と合点がいく。そしてここはおそらく何らかの閉鎖空間に意識だけ飛ばされ、俺の体は多分まだあの洞窟にあると考えるのが妥当だろう。こんなVRMMOの世界に閉じ込められ、非日常極まりないデスゲームに巻き込まれた今では何が起こってももう驚かない。
そしてあの男はそういう事を可能にする人種、つまりはそういう立場の人間、それはは茅場晶彦側の人間…
そこまで考えた時、またもや暗闇の中に動画が流れ始める。ふと俺は気になる本当に人の記憶のデーターベース化なんて可能なんやろうかと。
動画に映し出されたのは何やらただ広い空間に集められた多数の人。
その中に俺もいるという事になる。
動画の視点が左右に動く、そこにいる人間は皆、腕や足に何やら同じ紋様のタトゥーをしている。それを見て戦慄を覚える。
西洋風の棺桶に似た図柄、
蓋にはニタニタと笑う不気味な顔、
蓋は少しだけ外れ、
内側から白い骸骨の腕が伸びている。
このエンブレムにはたしかに見覚えがある。そしてそれは決して開けてはならないパンドラの箱…
『イッツ、ショータイム』
そして、記憶の奥底に眠る言葉、そしてそれを指し示すかのように歓喜の声を上げている俺、周りのプレーヤー達。
俺の意思とは関係なく膨れ上がる高揚感。動画の奥から聞こえてくるおびただしい程の歓声…「コロセ、コロセ」と叫ぶプレーヤー達。
俺は確かにこの時、笑う棺桶ラフィンコフィンの集会にいたのだ。
刹那、眼前の映像がユラユラと揺れて消えた。
再び辺りは暗闇に包みこまれる。
そして再びあの頭痛に苛まれる。
「痛っ…俺は…なんで?」
刹那、俺の意識は遠く深い闇の彼方へと吹き飛ばされた。
第15話『狂い出す歯車』完
ALO編オリ主の種族は?
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