ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

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第16話『真実の矛先』

「くっ…」

 

地面の冷たい感覚。

その不快感極まりない感覚に俺は自分が現実に戻ってきた事を悟る。今のは夢だったのやろうか…

 

いや、あれは確かに俺の記憶やった。という事は俺は笑う棺桶(ラフィンコフィン)というギルドに参加していたという事なのか。おそらく黄昏の茶会の事件があった後から半年以上、笑う棺桶(ラフィンコフィン)が攻略組との抗争で壊滅するまでの間という事になる。

 

俺は立ち上がると洞窟の周囲を見渡す。俺が気を失う前と何ら変化はない。試しにもう一度トリップしないかと石のコンソールに手を触れてみたが、当然何も起こらなかった。

 

「とりあえずリンダースに戻るか」

 

ひとしきり考えを巡らせた後、俺はそう呟き、洞窟の外を目指した。突然吹き出した記憶に一瞬混乱したが、当初の目的を思い出し、一旦リズの鍛冶屋のあるリンダースに戻ろうと考える。

 

実際、この記憶も不確かなものである。ヘルブレッタが偽の記憶を植え付けようしたとも容易に考えられる。それだけ俺が笑う棺桶(ラフィンコフィン)にいたという記憶は不確かなもので実感も手触り感も全くなかった。

 

なのでまずはリズの捜索を優先する事にする。この洞窟にはリズの痕跡と言って良い痕跡はどこにもなかった。だが、死んでしまっていてはどこにも痕跡なんて残っているはずがない。彼女の所在を確かめるには原点に戻るのが一番だと俺は考え、一路リンダースを目指す事にした。

 

一抹の期待と不安を胸の中に感じながら…。

 

——————————

アインクラッド 第48層 リンダース

 

リンダースの街に入った時、既に日は西に傾き始め、夕暮れの来光が街を包み込んでいた。日本の秋を感じる程よい暖かさと風が心地よい。更にこの街と夕暮れの組み合わせには心を奪われる。

 

街の風景と夕暮れのコントラストは抜群のバランスだと思う。正直散歩をしたいと思う衝動を抑え、俺は水車の見える一軒家を目指した。

 

小さな川に架かった石橋を渡り、路地を曲がると水車が見えてくる。家の方を確認すると電気が点いているようであった。

 

刹那、心臓が口から出るんじゃないかと思うほどに心拍が上がるのを感じる。

 

まさかリズが…

 

俺は一抹の期待が確信に変わるのを感じながら、ドアの前に立つとノックを二回した。

 

「はーい」

 

すると家の中から聞き慣れた、むしろ俺が聞きたかった声が聞こえた。そして俺は言い様のない安堵感で膝から崩れ落ちる。

 

生きとった…。

腰が抜けるくらい心の中で安堵を繰り返す。本当に生きていて良かったと思う。

 

で、でも…そうすれば次の疑問が出てくる。

どうしてフレンドリストから名前が消えていたのか。その疑問を彼女に問いたださないといけない。

 

そんな事を考えていた時、目の前の扉が勢い良く開けられ、中からピンクのショートカットの髪を揺らしたエプロン姿の女性が出てくた。

 

「リズ…」

 

もう何十年ぶりかの再会のように感じ、俺はリズへの想いを再確認するとあふれる涙を止めることができなくなっていた。

 

「え?」

 

彼女は驚いた顔を俺に見せる。無理もないだろう。自分を見た大の男がへなへなと崩れ落ちて泣いているのだ…。

目を丸くして俺を見ているリズから俺は思わず目を逸らす。

 

「あ、こ、こんにちわ。初めてですか?もしよければ中で見ていってください。これでも自称リンダース1の鍛冶屋ですから」

 

そしておおよそ期待していたのと違うリズの言葉に俺は一瞬たが、固まる。彼女の目を見ると首を傾げながら俺を見ていた。

 

彼女に冗談を言っているような素振りはない。

 

まさか記憶が…?

そうであれば彼女がフレンドリストから俺を削除した理由も合点が行く。

 

すると何も答えない俺に業を煮やしたようにリズが再び口を開いた。

 

「もしかして冷やかしですか?なら、帰ってもらいます?あたしもこれでも忙しいので…」

 

「い、いやちょっと武器を見たくてね。いい鍛冶屋だと噂を聞いたので」

 

俺は慌てて立ち上がり、リズの視線を感じながら店の中へと足を踏み入れた。

 

——————————————

 

確かに一瞬懐かしい感じがした。それは遠い親戚に何十年ぶりかに出会った感覚。あたしは彼の名前も何も知らない。

 

「どんな武器をご所望ですか?」

 

あたしは一応客な怪しい男に営業スマイルを向ける。おそらく顔が引きつっていないと信じたい。

 

「弓と矢を見たいんだけど」

 

彼はそういうと店のカウンターに腰を下ろした。弓と矢…SAOではあまり馴染みのない武器である。そんなものを扱っているこの男はかなりの変わり者なんだろう。

 

「あいにく弓も矢もなくて、特注になります。だいたい今だと3日くらい時間を頂く事になります」

 

あたしは今抱えている案件を頭の中で整理して彼にそう伝えた。

 

「分かった。頼む」

 

彼はそういうとあたしの顔をまじまじと見てくる。あたしはその憂いを帯びた瞳に何故か胸が高まるのを感じた。

 

いや、どうしたあたし…あたしはキリト一筋なはず。

 

あたしはそう心の中で湧き上がる感情をかき消そうとする。だが、あたしの心はおかしい。自然と溢れる涙に気がついた時、あたしはもうまともに話ができる状態ではなかった。

 

「なんで……ぐすん…どうして涙が止まらないの…」

 

あたしの様子を見た彼は何も言わずに立ち上がる。

 

「なんかごめん。また明日改めてくるわ。今日はこの街の宿に泊まるから何かあったら連絡ください」

 

彼はそう言うと背を向け、出口に向かって歩く。

 

「待って…」

 

あたしは思わず声をかけようとして思い留まる。そこまで今の自分に言える権利はないと思ったから。

 

彼が出て行き、誰も居なくなったカウンターをじっと見つめる。

 

彼は一体何者?名前を聞き忘れた事が悔やまれるが、また明日彼は来ると言った。それを心待ちにしている自分に気づき、再び戸惑う。

 

『弓と矢を見たいんだけど』

 

彼が言った言葉を思い出し、あたしは工房に向かう。むだ試作品だが、今開発中の武器が目に入った。何故かこれを彼に渡さないといけない衝動に駆られる。

 

あたしは何か頭の中にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚に襲われた。

 

—————————————————-

 

成る程、リズの記憶が欠落しているのは確やな…

 

俺はリズの鍛冶屋を後にし、街をブラブラと歩く。彼女の泪を思い出すと胸が苦しくなるのを感じる。

 

「…………!?」

 

それは突如感じた嫌悪感…

宿屋に向かう道を歩く中、俺は自分に向けられた殺気を感じ振り返った。

 

「ヨウ、リョウチャン」

 

そこには黒いフードコートの男がいた。しかし今までと違うのはその男が俺のリアル名を呼んだ事だ。

 

「ユキ…マサなんか?」

 

俺の問いにフード越しの口元がニヤリと笑う。

 

「やったらどうする?はははははは」

 

黒フードコートの男はそう笑うと被っていたフードを脱いだ。そこには長い黒髪を後ろで結い、目をギラギラと輝かせた男がそこにいる。

 

「ユキマサ、お前生きとったんか?」

 

「見たら分かるやろ?この通りピンピンしとるわ」

 

一瞬、昔に戻ったような感覚に囚われる。正直生きていたことは嬉しいが聞きたい事が山ほどある。先程のこの男の所業には苛立ちしかなく、到底許せたものではない。

 

「ってかお前何やってんのや?この前、俺とリズを襲ったのもお前やろ?お前もあの事件を生き残ったんやったら分かるやろ?これはゲームやない。死んだ人間は帰ってけーへん、やのになんであんな事をしたんや?」

 

すると男はケラケラと腹を抱えて笑い出した。

 

「あー腹痛い痛い。久しぶりにこんな笑ったわ。りょうちゃんかて同類のくせになー。都合の悪い記憶はまだ思い出してないんやもんなー。ウケるわー。めっちゃ笑える」

 

「何が言いたいんや?」

 

俺はユキマサと同類にされた事に苛立ちを隠せないでいた。

 

「ふは!そういうとこ変わってないなー。まぁ、まだ元気そうでよかったわ。今日はこの前ちゃんと挨拶できんかったから挨拶代りや。また会いに来るさかいにそん時はよろしゅうな」

 

ユキマサはそう言うと踵を返して走り出す。

 

「あ、待て!」

 

その後を追おうと駆け出すも角を曲がった時、ユキマサの姿はどこにもなかった。ハイディングのスキルを上げている上に身を隠すアイテムでも使ったのやろう。そんな事も昔のユキマサからは想像もできない。元来、確かに軽い男ではあったが不意打ちとか曲がった事を嫌う真っ直ぐな男やったのに。

 

「ふぅ」

 

俺は小さく溜息を吐くと元来た道を歩き始めた。

 

ユキマサの言っていた『同類』、『都合の悪い記憶は思い出してない』という言葉の意味はなんなんやろ。

 

何か痞えるものを腹のなかに感じるがそれが何か分からないでいた。

 

ヒューっと少し強い風が頬を叩く。

少し暗くなり始めた街並みは既に夜の闇へと吸い込まれようとしていた。

 

 

第16話『真実の矛先』 完

 

 

 

 

 

ALO編オリ主の旅の相棒は?(CP以外)

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