ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

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第17話『螺旋の邂逅』

煌びやかな空の下、

いくつもの水晶に入れられた人の想い、行動、気持ち、歴史

 

それはこのSAOにとらわれた住人だけではなく、この世界で生きる人たちが生きた証。

 

つまりは人の記憶。

 

そのような水晶がところ狭しと並ぶ回廊をあたしは歩いている。

 

“リズベット”

 

その中であたしの名前が書かれた水晶を見つけ、手に取る。このSAOに囚われてからの記憶、親友との出会い、大切な人との出会い、仲間との出会い・冒険の数々が記されている。

 

全てがかけがえのない経験、かつては色褪せたように見えていた世界が今はこんなに素晴らしかったのかと思える。

 

そんな大事なあたしの記憶

 

でもぽっかりと空いてしまったような漆黒の穴がそこにはある。あたしは一瞬躊躇したけどその穴に指を這わす。でも指がそこに触れた瞬間、目の前の回廊自体がガタガタと揺れ崩れ始めた。

 

周りにある他の水晶達が次々を割れていく。

 

もちろんこの“リズベット”と書かれた水晶も例外ではないと悟る。

 

「嫌っ・・・あたしの記憶を消さないで」

 

水晶にヒビが入り、あたしがそう叫んだ時には時すでに遅く、水晶は無情にも砕け散り、壁が崩れた周囲は漆黒の闇に包まれ、太陽も見えなくなった。刹那、床も崩れ落ち、あたしの体は見えない虚空の底へとへ落下を始めた。

 

ふと目の前に懐かしい空気を身にまとった青年の後ろ姿が現れた。

手には弓を持っている。

 

彼をあたしは知っている。そうあたしは直感した。

 

でもどこでどう知り合って、どういう関係なのかは全く思い出せない。

 

「リズ」

 

背を向けたまま彼ががあたしの名前をそう呼ぶと、体がこちらを向く。

 

「ひぃ・・・」

 

しかし彼の顔を見た時、あたしは驚きのあまり声をあげる。そこには顔面のパーツが何もない、口だけに笑みを浮かべた男が立っていた。

 

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「はぁ。。。最悪」

 

あたしは最悪な目覚めに憂鬱になる。

どうやら店のソファで寝落ちしてしまったようだ。確かに昨晩は全く寝付く事ができず、ソファにて温かいミルクを飲んだ後、記憶を手放した。おそらく時間にして朝4時頃…今は8時…睡眠不足確定である。

 

その上に変な夢を見た。

 

あたしの記憶にぽっかりと穴が開いているかのような描写。その後に現れた名前も知らない青年・・・

 

そこまで考えた時にあの青年の容姿に見覚えがあることに気が付いた。

 

昨日店に来たあの弓使いの青年・・・

 

あたしはソファから飛び上がると空腹感を満たすためだけにバケットを口に放り込み、店を飛び出す。

 

確か・・・街の宿屋に泊まっていると言っていた。

 

この街で宿屋と言えば一つしかない。

あたしは珍しく息を弾ませながら駆けた。

 

昨日の夕方に家で目覚めた時から感じていた違和感…

そして目の前に現れた彼の存在…

あたしの心を無意味のかき乱す存在…

 

それをこの目でもう一度確かめたかった。

 

あたしは朝一番の喧騒を掻き分けるように走り、宿屋の前に立つ。

大きく心臓が高鳴るを感じる。

 

それは決して走って息があがったからではない。

 

彼のことを考えると不思議とこうなってしまう。

 

「違う違う!あたしにはキリトがいるんだから」

 

そんな雑念を振り払うかのようにかぶりを振り、小さく深呼吸をして息を整える。そしてあたしは宿屋のドアを握った。つその時、裏手で何やらシュっという空気を切る音とドンという何かがぶつかる音が耳に入ってくる。

 

あたしは直感的にドアから手を離し、宿屋の裏手に回った。

 

 

居た!!

 

 

 

物陰からそっと音がした場所を覗き込む。そこには黄緑色の軽鎧に黒のレザーパンツの青年。耳上から借り上げられた漆黒の髪、何かを見据える鋭い眼光は一点を見据え、左手に持った弓を構え、逆の手に取った矢をゆっくりと番える。目を閉じ、小さく深呼吸をする。

 

その雰囲気に私は釘付けになった。彼の醸し出す真剣さに息苦しさを感じる。でも不思議と不快には感じない。

 

刹那、男に体が青白い光に包まれる。

 

最後に彼はカッと目を見開くと右手を離した。

 

シュッという風切り音ととにも矢がすさまじい速さで放たれる。空気を切り裂き、一直線に進んだ矢はドンという大きな音を立てて彼の眼前にある大木の幹に突き刺さった。

 

「あたし・・・知ってる」

 

彼の放った矢を繰り出した衝撃波にも似た風圧があたしの顔を打つ。

ふとあたしの頭の中に何かがフラッシュバックする。

 

どこかの部屋の窓から同じように彼の弓技を見ている。彼は先ほどど同じような所作で矢を大木に突き立てている。あたしはいつまでもその光景を見守っている。。。

 

一瞬ではあったが、あたしの知らないあたしがそこにいたように感じた。

 

 

 

「誰?」

 

 

 

しかしあたしは一瞬にして現実に引き戻される。気配を消すのを忘れていたことを後悔し、渋々体を彼に晒す。

 

たぶんここで逃げてたらダメだと思った。

 

「リズ・・・何やってんの?」

 

彼はさもあたしを知っているかのようにリズとあたしの名を呼ぶ。

 

その物憂げな瞳をあたしは知っている。

その関西弁風な話し方もあたしは知っている

その卓越したシステム外弓スキルをあたしは知っている。

 

たぶんあたしは彼と何らかの関わりを持っていた。

まったく記憶にない出来事で自分でも信じることができないが、あたしは何故かそう確信した。

 

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「弓を仕立ててもらいたいんやけど」

 

俺は再びリズの鍛冶屋を訪れていた。弓の仕立てがこのSAOの中でできるのかは正直分からない。でもこのゲームはAIでの自動補正機能が搭載されているとキリトが以前言っていた。

 

それによればおそらく弓も作れるのではないかとの事だった。

 

実際にリズは弓と剣を組み合わせた武器を研究している。つまりは弓単体でも精製は可能ということになる。

 

それにこれからおそらくヘルブレッタやユキマサとは再度ぶつかることになるだろう。今の自作の弓では正直彼らに太刀打ちするには心もとない。今までの狩猟中心ではなく攻撃力含めて大幅な増強が必要なのは明白だ。

 

「んー正直あたしも作ったことないからどこまでの代物ができるかわからないけどやってみるよ」

 

リズは俺の要望内容を事細かに確認するとそう締めくくる。

 

「えーっと、必要な素材は。。。」

 

そして紙に精製に必要な素材を書き連ねていく。俺はアイテムウィンドウを開き、一つ一つ確認していく。

 

「あたしのイメージとしてはあとは黒曜石だけだね」

 

リズの言葉に俺は少し考えを巡らす。

 

「黒曜石か。。。なんとかしてみるわ」

 

俺は今手持ちの素材をアイテムリストから召喚し、リズに渡すと立ち上がった。

 

「あの。。。」

 

リズが少し恥ずかしそうに顔をそむける。

 

「名前は?」

 

続けて尋ねられた質問に俺がまだ彼女と再会してから名前を名乗っていないことに気が付いた。

 

「あ、すまない。まだ名乗ってなかったね。俺の名前はラズエル」

 

そう答えるとリズは少し考える素振りをして「ラズエル。。。ラズエル」と小さく繰り返した。

 

「今日中にもう一回来るわ」

 

俺はそういうと踵を返し、店を後にした。

店から宿屋までの道で今朝の出来事を振り返る。

 

朝は正直驚いた。日課の弓の鍛錬をしていると何らかの気配を感じらそこにリズがいたのだ。

 

『散歩してたら変な音が聞こえたから』

 

そう言った彼女の瞳は今にも泣き出しそうなか弱い少女のそれであった。おそらく嘘をついている。相変わらず嘘が下手である。

 

『そうなんや、びっくりしやろ?』

 

俺の問いにリズは首を左右に振った。

 

『ううん。どうしてかわかんないんだけどあなたのその弓技をあたしはどこかで見たことがある気がするの。でも全然どこで見たかは思い出せない』

 

リズの苦しそうなその表情に胸が痛くなるいのを感じた。もし本当にあの2人が彼女の記憶まで操作したという事なら俺は絶対に許さない。

 

『そうか。とりあえず、昨日の続きを話したいから後で店にいくわ。店で待っててくれる?』

 

まだなにかを聞きたそうだったリズは俺の回答に不服そうな顔をしたが、渋々了承し、店に戻った。そして先ほどの会話に繋がる。

 

 

俺は一旦宿の自室に戻ると情報屋とコンタクトを取った。黒曜石を簡単に採取できるクエスト、もしくはドロップするモンスターの情報を得るためである。

 

すると、すぐに情報屋から返信が届く。

 

ちょうど今彼女もリンダースにいるという事でこの宿屋によってくれるという内容だったが、刹那、俺は背後で気配を感じた。

 

「早いな」

 

俺の背後に現れたその緑色のフードコートを身にまとった情報屋は「にっひ」と笑みを漏らす。

 

「久しぶりにラズ坊の顔を拝みたくなったんだヨ。記憶戻ったらしいナ?」

 

この情報屋の名前はアルゴ。SAO世界に存在する様々な情報屋の中でも確度・情報収集力・発信力はぴか一だ。あの黄昏の茶会事件で彼女を出し抜こうとした事がそもそもの問題だったとも俺は思っている。彼女に一言情報収集を依頼していれば後悔の念に駆られることもある。

 

「あぁ、でも黄昏の茶会事件のことだけや。その後の半年の記憶はまだ曖昧」

 

「ま、そう焦らなくてもそのうち戻るんじゃないナ」

 

俺とアルゴは実はSAO開始当初からの知り合いで彼女のために俺がクエスト情報を提供したり、成り行き上だったが、一緒にパーティーを組んだこともあった。もちろん、エクストラユニークスキル『銀射手』のことも彼女だけには早々に伝えた。

 

逆に彼女も俺の記憶の欠落については原因を調べてくれていた。だが、彼女をもってしても確かな情報は得られなかった。考えてみれば当たり前だ。おそらくヘルブレッタは運営側の人間、つまりは茅場昭彦側の人間という事になる。そのあたりの情報まで一介の情報屋が仕入れるにはこの世界では限界があるのだ。

 

無論、俺もただの推論でしかないため、まだ彼女に話す気はない。

 

「まぁな。それで依頼した件だが??」

 

俺は無理矢理、話を終わらせると本題に入った。

 

「黒曜石って意外と希少金属なんだよナ。ドロップするモンスター一覧とクエストの情報はメールに送るケド、たぶん一人で1日は難しいゾ?」

 

俺はアルゴから転送されてきたデータを見る。

 

「『狂想組曲』」

 

俺は彼女のメールのトップに書いてあったクエスト名を見た。

 

第38層にある古びれた洋館からたびたび奏でられるセレナーデ。狂気に満ちたその組曲を聞いたものは1週間の体調不良に陥ってしまうという。その原因究明と根絶がクエストの趣旨。

 

このクエストのフィールドボスが黒曜石をドロップする。

 

「このクエストをやるしかないのか」

 

「すぐに欲しいのならそうなるナ。モンスタードロップは殆ど期待しない方がイイ」

 

今更クエストをやる気には正直なれなかったが背に腹は代えられない。俺には今、リズの作る武器が必要だ。

 

「基本はタンクとアタッカーの4人パーティーで挑むのが最低条件。お前さんはソロだよな?まず仲間を集めないとね」

 

その時、頭に浮かんだのはあの鍛冶屋の少女、そして黒衣の騎士、閃光、風林火山などなど。。。あてはあるが、今から人を集めている余裕のない。

 

「俺のレベルでは単独クリアは難しいか?」

 

俺の問いにアルゴは天井を見上げ思案する。

 

「難しいだろうね。弓スキルだけだど」

 

その時、部屋の扉がドンと開かれた。俺はそこにいた人物に目を丸くする。

 

「あたしが手伝ってあげるよ」

 

そこには少し緊張した面持ちのリズの姿があった。

 

 

第17話『螺旋の邂逅』 完

 

ALO編オリ主の旅の相棒は?(CP以外)

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