ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

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第21話『天蓋落命 前編 -記憶-』

アインクラッド第48層 リンダース

 

あのクエスト攻略から3日経った。でもまだまだ気分は晴れない。あたしの心の中の何かがポッカリと抜け落ちたような感覚が日に日に増してくるように感じる。

 

朝から店開きをして店内を掃除、壁に飾ってある武具を拭き、位置を整える。それからカウンターに座り、メールの確認。今日も特別な依頼は来ていない。その代わりに一件、珍しい人物からのメールが届いていた。

 

『リズ元気?リーテンです。今の層の攻略用にタンク用の鎧を強化したいんだけど頼めるかな……(中略)……じゃ、検討よろしくお願いします。』

 

SAOを始めた頃、仲が良かったリーテンというタンク職の女性。あたしがは鍛冶屋として初めて仕立てたのが彼女の鎧だ。あたしはギルドに入ってなかったけど初期の頃はよく一緒に狩りやクエストを一緒にしていた。彼女がいたから初期のあたしは生き残れたと言っても過言ではない。でも彼女が攻略組のギルドに入り、彼女に彼氏が出来てからあたしから距離を置いた。

 

当時の色褪せた世界で生きていたあたしは攻略組として、彼氏と一緒に頑張っている彼女がどんどん遠くへ行ってしまっている気がして自分から身を引いた。

 

でも今ならまた仲の良い友達になれそうな気もする。

 

『大丈夫。今ちょうど依頼も入ってないし、素材集めからやっとくから納期決まったら連絡するね』

 

あたしはすぐにそう返信を返し、メニューウィンドウを閉じた。

 

「さて、そろそろ来る時間かな?」

 

あたしは店の時計を見ると椅子から立ち上がり大きく伸びをする。そして工房に入るとこれから来るであろう訪問者に渡す品を準備する。

昨夜出来上がった品を見てあたしは少し不安になった。

 

確かに武器のランクとしてはS級ランクであり、申し分ない。でもこれがこれから来る彼を満足させ得るものなのか正直不安でしかない。

三日三晩、他の仕事をほったらかして没頭した作品である。これで満足して貰えなければ正直凹むどころの騒ぎではない。

 

「これでよし」

 

品物の準備を終え、店のカウンターに戻った時、カランコロンという音とともに扉が開いた。扉の奥から黄緑色の軽鎧に黒のライダースーツを見にまとった男性が入ってきた。

 

彼はあたしを見ると優しい微笑みを向ける。

 

「時間通りだね。流石!」

 

あたしの言葉に今日の訪問者ラズエルは小さく頷いた。

 

 

—————————-

 

「3日間集中したいから連絡も店に来るのもなし。3日後の朝10時に店に来て頂戴」

 

3日前、この場所でリズに言われた言葉を思い出す。本当に集中しているのかと何度か店を訪れたが、店は【閉店中】の札がかかったまま。中を覗こうにもカーテンも閉められていて、中の様子は分からない。でもトンカチを打つ音と何が生成するエフェクト音が中から聞こえた事からリズが中で作業をしていたのは紛れもない事実であろう。

 

その後も俺はリンダースの街に滞在して暇があればヘルブレッタとユキマサの情報収集のために方々へ足を運んだ。でも結局手がかりは見つからず、再度情報屋アルゴを頼った次第である。

 

そんなこんなしている間に3日が経ち、約束の日を迎えた。

 

「時間通りだね!流石」

 

そう言った彼女には最初再会した頃の硬さは既に取れているように感じた。思わず口元が緩むのを感じる。だが、一方で不安もある。このまま新しい2人の関係性が構築されてしまった場合、以前のような関係になれるかどうかだ。

 

まぁ、特に恋人同士とかそういうのではないけど、心を丸裸にして秘密を共有した同士…と言ったところか。

 

「ご依頼の品、できてるよん」

 

そう言ってカウンターの中から何かを取り出すリズ、するとカウンターの上に藍色に輝く弓と黒色に光る矢を目に留めた。

 

「凄い!」

 

俺はカウンターに吸い寄せられると素直にそう呟いた。そこには俺がファンタジーの世界で夢見た弓そのものがあった。俺が自作した弓とは全く違う。藍色の光沢に彩られた本体、手に持つ部分には黒色の黒曜石、弦も黒色の鋼を引き延ばしたようなものでできている。

 

次に矢を手に取った。それは同じく黒曜石で作ったのだろう鏃まで漆黒の矢が数十本、矢筒の中に入っていた。

 

ネイビール・シエラ(藍龍の咆哮)

 

俺は弓を手に取り、ウインドウに表示されたこの弓の名前を読む。武器ランクはSランク。攻撃力ももちろんこれまでと比べ物にならないほど高いが、それよりも耐久力と敏捷性にステータスボーナスが付く事が何よりもポイントが高い。

 

「藍色のボディは天隕石のかけらからできていて、その黒い所は鋼、弦は黒曜石を薄く伸ばした糸でできているわ。で、矢の方は黒曜石と金剛石を混ぜ合わせて元々柔らかくて強度の高い黒曜石の硬度を高めたものよ。共に今この世にはここにしかなりレア武器。まぁ、弓矢なんてもの自体が物珍しいものだから仕方ないか」

 

まくし立てるだけまくし立てて、最後に自嘲気味に笑うリズ、俺はその横顔に釘付けになった。窓から差し込む陽光がネイビール・シエラのボディに反射し、彼女の左頬を照らしている。その顔は3日前まで怯えたり小さくなったりしていた彼女とは違う自信に溢れた職人のそれそのものであった。

 

「な、何よ?」

 

しかし俺の視線に気づいた彼女は挑むような眼を俺に向けてきた。その表情が忙しいところまやっぱりリズだ。

 

「いや、やっぱ、こっちのリズの方がええなって」

 

俺の言葉にリズは純粋に顔を紅潮させて顔を背ける。俺はその様子を見て声を出して笑った。からかわれたと思ったのだろうか、再びリズは俺を睨んでくるが、その仕草自体が可愛い。

 

「あなたの事このまま思い出せなくても?」

 

リズのその言葉に俺はズキンと胸の奥が痛くなるのを感じる。もしや今の関係で彼女が満足してしまったら永遠に記憶は戻らないかもしれない。でも俺はそれでも良いと正直思った。

 

「あぁ、リズが隣で笑ってくれるんやったらそれでいい」

 

俺は素直に心から目の前ね目を丸くしている少女にそう告げていた。

 

—————————-

 

突然舞い降りた天使の矢はあたしの心の奥底に突き刺さった。あたしは体温が最高潮になるのを感じる。

 

「リズが隣で笑ってくれるんやったらそれでいい」

 

この言葉の意味を必死に考える。どう考えても彼の真意は一つしかたどり着けない。

 

「ちょっと待って!」

 

あたしは更に言葉を紡ごうとしている彼を制止する。そして大きく息を吐いた。反則だ…関西弁での告白なんて…

 

「本気?あたしなんかのどこがいいのよ?それにあたしは貴方のこと忘れてるんでしょ?マイナスしかないじゃん」

 

あたしは彼の告白とも取れる言葉を肯定したいのか否定したいのか分からなくなっていた。気がついたら自分を貶める事しか言えてな頭自分に苛立つ。するとそんなあたしをあざ笑うかのように彼は再び声をあげて笑った。

 

「あぁ、本気。記憶なんてなくてもええ。俺もまだ取り戻せてない記憶もあるし、でもそんな中でもやっぱ俺はリズに隣にいてほしい」

 

この人、正真正銘の本気?天然?普通なら絶対あり得ない事を言う彼の言葉があたしから考えるという作業を根こそぎ奪っていく。

 

「あたしにはちゃんと前から好きな人がいて、まだその人が忘れられなくて、でもちょっと寂しかったり辛かったりすると誰かを頼りたくなって…」

 

そこまで言った時、あたしは感情の高鳴りを抑えきれなくなってしまっていた。溢れる涙を止めることができない。

 

「…今は…まだ…あ…たしの…気持ちが…分からない」

 

そう言ってしまったあたしの頭を彼は優しく撫でる。その大きな手に思わず飛び込んでしまいたい衝動に駆られるがそれだけはダメだと我慢する。

 

「分かった。返事は今じゃなくてもええから」

 

彼はそう言うとあたしの頭から手を離し、カウンターに置かれた弓を手に取った。

 

「ちょっと試し打ちをしてくるわ」

 

彼はそう言うと踵を返して扉に向かう。あたしはその後ろ姿をじっと見つめる。一瞬、彼に全てを委ねてみてもいいと思った。そうすれば自然と彼のことを知りたくなって大事な記憶も戻るかもしれないと。

 

彼が店を後にして、しばしの静寂が店内を包み込む。そしてあたしは今日一番重要な事を忘れた事に気がついた。

 

「お代、もらってない」

 

一瞬でも彼に全てを委ねてみてもいいと思った自分に少し腹が立ち、でも心の奥では穏やかな気持ちでいる自分がどこかもどかしい。あたしはメニューウィンドウからメール画面を開くと、システムコンソールに指を這わしていった。

 

—————————-

 

ピコンっとシステムコンソールがメールの着信を俺に伝える。俺は試し打ちをしようとした弓を傍らに置くとウインドウからメール画面を開いた。

 

「ん?」

 

差出人の名前にさっきまでのリズとの時間が台無しになるのを感じる。この世界で久しぶりに穏やかな時間やったのに、それをぶち壊そうとしとるメールの差出人の名前は…

 

『はろーりょうちゃん?ちょっと顔貸してや?話あるねんなー。この前戦ったサバナの町のはずれに来てくれへんか?もちろんりょうちゃん1人で!あの女は連れてこんといてな。ややこしいから」

 

その忌むべき差出人の名前はユキマサ…

 

俺は傍らに置いた弓と矢筒をアイテムリストに仕舞うと一目散に走り始めた。この3日間探し続けた男の1人から連絡が来たのだ。願ってもない。今の俺にはこのチャンス逃す手はなかった。

 

ただ俺は気がついていなかった。さっきのユキマサのメールの裏側でもう一つ大事なメールを受信していた事を…

 

 

第21話『天蓋落命-前編- 記憶』 完

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