ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

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第22話『天蓋落命 中編 -昇華-』

アインクラッド 42層 サバナの町のはずれ

 

メールにて指定された場所に着くとそこにはまだ誰もいなかった。静寂に包まれる森の中でユキマサの姿を探す。

 

「ユキマサ、おるんやろ?」

 

俺は大声で叫ぶ。それによってモンスターが寄ってくることなど構いはしない。その時背後でガサガサと茂みが揺れる。俺は咄嗟に後ろを向くと弓を構えて矢を番える。もちろんリズから先ほど受け取ったものではない。弓も矢も自作のそれである。

 

どこでユキマサやヘルブレッタが見ているか分からなかった。敢えて今、手の内を晒す必要性も感じない。

 

茂みが再度ガサゴソと揺れるとそこから一匹のキツネに似た動物が飛び出してくる。この周辺によく生息している切りギツネの赤ちゃんだった。

 

俺はほっと一息つき弓矢の構えを解く。再び静寂が俺を包み込む。ユキマサは必ずこの場所にいる。俺はそう達観していた。彼の高校時代の性格からは考えにくいが、今の一連の彼の行動を考えると妥当だと感じた。

 

ここに到着して20分が過ぎようとした時、サバナの町の方角から足音が聞こえる。俺は咄嗟に物陰に隠れ、その人物がくる方向を見守る。

刹那何かが煌めくのが見えた。咄嗟に俺はそこから飛んできた飛翔物を首を右に振りかわす。

 

「ユキマサ!」

 

俺はその飛翔物を放った男、ユキマサの名を叫び、隠れていた茂みから外に出た。目の前には前とは違い漆黒の胸当てに手甲、足具まで装備したユキマサの姿がある。黒のフードコートは被っていない。

 

「りょうちゃんおまたせ!ごめんごめん」

 

悪びれる様子もないユキマサは俺の前へと進み出る。俺は彼との間合いを取るために二歩ほど下がった。

 

「いやさ、久しぶりに街の中を普通にプレイヤーとして歩いたり、フィールドも普通に来ちゃってもたから自分が思ったより時間かかったわ」

 

「それで要件はなんや?」

 

そういって笑うユキマサに俺は単刀直入に彼の目的と要件を尋ねた。

 

「まぁ、そう焦んなって!感動の再会やないかい」

 

そんな人を食ったような態度に俺の苛立ちは最高潮に達する。

 

「早く要件を言え。俺はお前との感傷に浸ってれる程、暇やない」

 

問答無用でユキマサの戯言を寄せ付けない俺の態度にユキマサは面白くなさそうに口を尖らせる。

 

「その分やとまだ記憶は戻ってないみたいやねー?」

 

「お前なんか知ってるんか?」

 

「あー怖い怖い!前はもっと感動的な再会やったのになー」

 

ユキマサの人を食ったような態度に対して俺は冷静になるように言い聞かせる。これがこの男の今のやり方なんやろ。挑発して、怒らせて、冷静さを失わせて自分のペースに引き込む。

 

その流れには決して乗ってはいけないと思った。

 

「まぁ、ええわ。要件ないなら帰るで」

 

俺はそう言うとアイテムリストから転移結晶を取り出す。するとそれまで余裕の表情やったユキマサの顔に一瞬だが焦りの色が浮かぶ。俺があまりユキマサに対して執着してないように彼には映ったのやろうか。彼は「まぁ、待ちーや」と俺の機先を制すると笑みを浮かべる。

 

「まぁ、ここから真面目な話や。りょうちゃんの記憶が戻ってないのがあれやけどな。俺さ、この世界を壊したいねん。正直俺の中であの日1日で俺の人生、この世はおわってしもた。だがら俺はこの世界を壊そうと考えた。そん時や恩人に拾ってもろたんわ。」

 

こいつ何を言ってんのや?それはまるで俺みたいやないか。

 

「分かるか?あの時、タケルをユリをお前を失って俺だけ生き残ったと思った時の絶望感。」

 

あの時、ヘルブレッタに拾われた俺と全く同じ。

 

「でも俺は救われたんや。あの人たちに。でもあの人らもこの前みんな監獄送りになってしもた」

 

やめろ。それ以上話を聞いたら全ての点と点が繋がってまう。

 

「だから俺が始めるんや。この世界をぶっ潰すギルドをな。だからお前も一緒にやらへんか?笑う棺桶(ラフィンコフィン)の意思を継ぐ

Le retour de l'ange déchu(堕天使の帰還)をさ。今は記憶はないかもやけどお前も一緒やったやないか」

 

「やめろ」

 

俺はユキマサの言葉を途中で遮る。全てが頭の中で繋がった。あの黄昏の茶会事件は笑う棺桶(ラフィンコフィン)によって仕組まれた事であった事。ヘルブレッタもその一員かもしくは協力者。俺とユキマサが生き残り、2人とも絶望の底に落とされ、この世界を憎みかけた事。その間隙を突かれてユキマサは笑う棺桶(ラフィンコフィン)の一員となった事。この前垣間見た記憶のかけらとユキマサの話から繋げると俺も笑う棺桶(ラフィンコフィン)に一時期身を置いていた事。

 

笑う棺桶(ラフィンコフィン)に居た記憶はない。全ては人の証言、状況証拠だけだが、そう考えれば全ての辻褄が合う。

 

「なっ?分かるやろ?お前やったら俺の苦しみが」

 

ユキマサが俺との距離を一歩詰めてくる。俺は再び2歩下がった。

 

「悪いな。ユキマサ。俺はお前に加担するつもりはない。俺は俺で今の世界が気に入ってるんや。それに俺にはタケルとユリの墓前に手を合わせるっていうの帰るための目標がある。ユリに託されたんや。あいつらがここで生きた証を現世に戻ってみんな伝えてってな」

 

俺はそう言い終える前に弓を構え、矢を放つ。ユキマサは俊敏な動きで躱すと憎悪に似た瞳で俺を見た。

 

「やっぱりこんなけ言ってもあかんか。あないな罪を犯したりょうちゃんがなー。まだこの世界を気に入ってるやと笑えるわ。はよ記憶思い出したらええのに」

 

そう言うとユキマサの手に片手斧が出現する。黄昏の茶会時代の彼の得物である。刹那凍るような視線が俺の身体を突き刺していく。これまでに感じた事の無いほどの強い殺気。ユキマサは本当に俺を殺そうとしている。

 

その疑念が確信に変わった時。俺は弓を捨てとある武器を召喚する。

 

両手剣 エル・ブラ・ディパルサー

 

『これも持って行ってね。御守り代わりにはなるでしょ??』

 

リズの言葉が頭の中を駆け抜ける、それだけでも冷静さを保つことができる。

 

「何それ?その武器かなりのレアもんやん?まさかあの女鍛冶屋にでも作ってもらったんか?そうか。りょうちゃんが俺に協力せんのはあの女のせいか」

 

刹那、俺は背筋が凍るのを感じた。こいつをここで帰したらリズに刃が向けられる。それだけはどうしても避けなければならなかった。

 

「ユキマサ、早まるな」

 

俺は脱兎のごとく地を蹴るとソードスキルを発動する。

 

両手剣ソードスキル 『アバランシュ・カセム』

 

一気にユキマサとの間合いを詰めると上段からの袈裟斬りを繰り出す。ユキマサが片手斧で俺の斬撃を受け止めると俺は両手剣を持つ手を絞り横薙ぎの斬撃に軌道をかえる。咄嗟にユキマサは後方に飛び、俺との間合いを取った。

 

「お前がどう思おうとも勝手やけど、彼女に手を出してみろ?俺はお前を地の果てまででも追い詰めてやる。例え彼女がおらんくなったとしても俺がお前に組するなんて事はない」

 

更に俺は地を蹴ると両手剣ソードスキル 『ブル・ランガット』を繰り出す。両手剣を真っ直ぐに構え、真っ直ぐユキマサに向かって突進する。それをユキマサは片手斧ソードスキル 『ダブル・クリープ』で俺の突進を弾くと俺は一瞬スタン状態になる。

 

「お前、腕落ちたんちゃうか?死ねよ」

 

『ダブル・クリープ』の2撃目が俺を襲う。俺の軽鎧をユキマサの片手斧がぶつかる。軽鎧の金属を潰すよう音と圧迫感が俺の身体を襲う。刹那、スタンが解けた事で俺は身体を捻るも、彼の斬撃の衝撃で吹き飛ばされそうになるのを両手剣を地に突き立て耐える。

 

「うぐぅ!まだまだ!」

 

次の瞬間俺は右手に六角柱状の筒を取り出す。ぶつけたものを黒鉄宮の監獄エリアをマーキングしている回廊結晶を手に取る。

 

「痛っ」

 

回廊結晶を持つ手に何かがかすり、激痛みが走る。俺は思わず回廊結晶を落としてしまう。

 

「ちぃぃぃ」

 

体が重い。右手から始まった痺れが急速に全身に回っていく。やばい…今ユキマサに攻撃されたら…

 

体が崩れ落ちていく中、俺は狂気の瞳が煌めくユキヒサの姿を目に留める。

 

「死ねやー!!」

 

スタンから回復したユキマサが再度片手斧を振りかぶる。ソードスキルも何もないただの斬撃…片手斧が振り下ろされたその時、俺とユキマサの間に誰かが躍り出てきた。一瞬視界に入ったのは眼を見張るような白銀の髪…

 

俺はそれを確認した時、意識を手放した。

 

 

 

第22話『天蓋落命 中編 -昇華-』 完

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