ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ - 作:弥勒雷電
薄れいく意識の中、俺のステータスバーが麻痺と睡眠の異常ステータスになっている事に気がつく。さっき右手に当たった短剣か何かに麻痺毒と睡眠効果のある何かが塗られていたのだろう。
「…!?」
続けてユキマサと誰かの声が聞こえる。ぼんやりとする視界の中でユキマサの斬撃を受け止めている人物を見とめた。
「ヘルブレッタ…さん」
刹那、俺は深い眠りに落ちた。
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………見覚えのある森の中
………見覚えのある仲間の顔
ただ違うのは俺の周りの視界。セピア色の映画を見ているかのような風景の中に俺はいる。前にも見た事のあるこの風景。
俺の前を3人の男女が歩いている。1人はタンク職の装備に長槍を右手に持つ大男。名前は確かジェランドという。その隣に赤色の軽鎧を見にまとった片手剣を持つ少女、赤い髪のアバターの彼女の名はミーナ。更には髪を青く染め、髪と同じ青色の武具を身にまとった長身痩躯、両手剣の男性、名はラウビット。
「ラズエル、どうした?」
ラウビットが振り返り、俺に声をかける。俺は「大丈夫や」と言葉を返し、彼らに追いつく。
ラウビット、ミーナ、ジェランドさん行ったらあかん
心の中でそう叫ぶも声には出ない。止めないといけない事は分かっている。でも今の俺では物理的に抗う術が無いという現実を知る。
「ラズエルもよくこんなレアクエスト仕入れたな?今度その情報屋を紹介してくれよ?それかお前、俺たちのギルドに入らないか?」
今俺が一緒にいるギルド『プランハーデン』のギルマスであるジェランドが俺をギルドに誘ってくる。プランハーデンは当時急成長を遂げていたギルドで、次のボス攻略にも招待を受けていた。
「まぁ、考えとくわ」
俺はそう答えると前を見据えた。目尻の端に何やらキラリと光るものを感じる。俺は刹那、恐怖を感じた。
そっちはあかん!罠が……罠がある
勿論、俺の心の中の声になってしまうので誰にもこの言葉は届かない。刹那、シュッっという風切り音とともにミーナが小さい悲鳴をあげた。
「キャッ!い、痛い」
ミーナのステータスバーが黄色く変わっている。麻痺状態だ。ミーナは膝から崩れ落ちるように倒れる。
「なんだ!お前たちは。ミーナに何をした」
突如俺たちの前に黒ずくめの男が1人現れた。顔はフードと仮面で隠しているのでわからない。血気盛んなラウビットはその男に挑むように近づいていく。
あかん、ラウビット…そいつらから逃げろ!
刹那ラウビットは彼の目の前にいた黒ずくめの男に首を刎ねられる。一瞬だった。何も抗う事なく、ラウビットの体は光に包まれポリゴンが揺れ四散する。
「え!なんなんだ?まさか殺人ギルド?」
ジェランドさんは動けないミーナを庇いながら槍を構える。
ジェランドさんも逃げろ!
俺は飛び出したい衝動に駆られる。しかし足が地面に張り付いたように動かない。おそらくジェランドやミーナから見ればただ今の光景を傍観しているように見えただろう
「ラズエル、ミーナを頼む!」
ジェランドがそう俺に告げると地を蹴った。タンク職の割に素早い動きに黒フードの男は一瞬虚を突かれるが、次の瞬間ジェランドの背後に降り立った黒ずくめの男が彼を後ろから斬りつける。
「きやぁぁぁぁぁ」
その時、ミーナの叫びがこだまする。その次の瞬間、もう1人の黒ずくめの男がジェランドさんの心臓に剣を突き刺す。
「ぐふっっ」
ジェランドさんはその光景をただ見ているだけの俺の方を向く。
「……ミーナを連れて逃げろ……」
最後まで俺を信じる言葉を残したジェランドさんは首を縦に折る。すると眩い光の先にジェランドさんのポリゴンは結晶となり四散する。
その時、やっと俺の足が動いた。麻痺毒がまだ効いているミーナの傍に駆け寄ると彼女を抱きかかえる。俺は彼女に駆け寄るとその手を掴んだ。だが、俺の顔を見たミーナの顔が安堵から突然恐怖のそれに変わる。
やめろ…やめてくれ…
俺は予想可能な結末に対して心の中で精一杯の抵抗をする。
「ツギハ……オマエ……」
だが、黒ずくめの男の片割れが出した声を合図に俺は短剣を振り上げるとミーナの首元に向けて突き立てた。
ーーーーいやっ、やめて……
ミーナの顔が恐怖から絶望へと変わる。
「悪かったな」
その時俺の喉の奥からその一言が漏れた。自分の声とは思えないほどに冷徹な声色…
刹那、突き立てた短剣の先から血飛沫エフェクトが舞う。ゴフッっと咳き込み血を吐いたミーナのHPバーが一瞬にしてゼロになる。俺の中にいた可憐な少女のポリゴンが揺れ、そして青白く発光すると四散した。
全てが終わった後、目の前にいた男が黒フードを取る。そこには満面の笑みのユキマサがそこには居た。
「ようこそ、
そう言葉を添えるとユキマサは俺に手を差し出してきた。
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目が醒めると俺はどこかの部屋のベットにいた。ベットと丸テーブル以外は何もない、空虚すら感じるこの部屋。灰色の内装、窓がない事が更に空虚感を増しているように感じる。
俺はさっきまで見ていた夢を思い出し、吐き気を催す。
これは確かな俺の記憶…。表面上は消された記憶…でも心の奥底に封じ込められていた記憶。ユキマサとの邂逅で潜在意識として出てきたのかもしれない。
俺は苦笑いを浮かべるとかぶりを振った。もしこれが事実なら、いや、俺は確実にレッドプレイヤーの一員だった。そしてヘルブレッタに意図的にされたとは言え、この数ヶ月の間忘れていた。そして今でもまだどこか他人事のように感じている自分自身に心底嫌になる。
するとその時メール着信音が鳴り、メニューウィンドウに新着メールを知らせるアラームが出る。俺はメニューを開くとメール画面を開いた。
未読メール 31件
俺はその事実に驚愕する。慌ててメニューウィンドウにある日付を見た。ユキマサと戦い、気を失った日から既に7日が過ぎている。その間、俺はずっと意識がなかった?ということになる。
『ちょっとなんか返しなさいよ!ほんと心配だから連絡頂戴?弓のお代はもういいから』
一番最新のメールを開く。リズからであった。彼女の蝋梅と焦りが文面から見て取れる。メールを送れること自体、まだ生きている証拠なのだが、彼女にとってはそれどころではないらしい。
「ははは…ははっ」
そして俺は7日前に彼女に言った言葉を反芻し、自虐的に笑ってしまう。俺はリズにそばに居て欲しいと言った。でもその資格が今の俺にあるのだろうかと。レッドプレイヤーに成り下がっていた過去を持つかもしれない俺に彼女と一緒にいて幸せを噛みしめる事が許されるのかと。
俺は答えの出ない問いと答えを頭の中で繰り返し、再びベットに倒れこんだ。無機質な天井を見上げ、答えのない問答に思考を手放したくなる。
その時、部屋の扉がガチャリと音を立てる。俺は飛び上がるように起き上がると身構えて入ってくる人物を待つ。
「おぉ!起きていたか。7日も眠り続けていたから肝を冷やした」
ヘルブレッタはいつになく陽気に俺に話かけてくる。いつもの雰囲気と異なるその様子に違和感を抱くも指摘する余裕がない。
「どういうつもりや?」
俺の問いにヘルブレッタは苦笑いを浮かべ、手に持った盆を丸テーブルに置き、ベット脇に立つ。
「命を助けてやったのにそれの態度は流石にないだろう。まぁ、睡眠薬が効き過ぎて目覚めなかったのは少し焦ったけどな」
そう言って笑うヘルブレッタを見て元来この男はこういう気性なんだと気がつく。俺に対してはそれを敢えて隠し、偏屈な薬師を演じていたのだろうと考える。
「また夢を見た。いや、あれはお前が俺から消した記憶だろうな。正直ショックだったよ。俺がまさか
ヘルブレッタは俺の話を神妙な面持ちで聞いている。少し何かを考える素振りを見せた後、俺の顔を真っ直ぐに見据えた。
「お前は
俺が自殺未遂…
ただ、
「その話。本当か?」
俺は再度ヘルブレッタに確認する。彼は静かに頷く、
「あぁ、だからお前はラフコフには加入してないし、あの事件以降はPKをしていない。それは安心してくれ」
「分かった。でも俺が一度でも犯した罪、それを今の今まで忘れてのうのうと生きてきていた罪は消えない」
俺がそう言うとヘルブレッタは困った仕草と笑みを浮かべる、
「お前らしいよ。だがな、お前はあの時ある意味仲間を失い自暴自棄になっていた。そこに付け込んだラフコフも悪い。ユキマサの奴は染まってしまったが、お前は染まらずに戻ってきた。それが全てだ」
ヘルブレッタはそう言うと立ち上がった。ちょっと買い出しに行ってくると言い、部屋を出て行く。彼が部屋から出るとガチャリと鍵が閉まる音がした。
俺は1人になった部屋を見渡し、大きく背伸びをするとベットに再び横になった。そして天井をの一点を見つめる。
リズに会いたい
俺はもう叶う事はないだろう願いを心から虚空に投げ、再び目を閉じた。
第23話『天蓋落命 後編 -真実-』 完
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