ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

25 / 26
第24話『暗暮流水』

アインクラッド50層 アルゲート

 

リズはヤキモキする気持ちを抑えきれないでいた。1週間もラズエルと連絡が取れないのだ。何かあったと考えるのが妥当である。あたしはエギルやキリトにも連絡を取ったけど彼の居場所がは分からなかった。

 

とりあえずあたしはエギルの店に来ている。そしてとある情報屋からの連絡を待った。

 

カランコロンという音とともに長いフード付きのマントを身に纏った小柄な女性が入ってきた。金褐色の髪がフードから覗く両頬に書かれた3本線が特徴的な女性。

 

あたしがここに呼び出したのは鼠のアルゴ、その人であった。

 

「よう!」

 

入ってきたアルゴにエギルが声をかける。アルゴは返事をせずに手を挙げただけで直ぐにあたしの隣に腰を下ろした。

 

「すみません。わざわざ来てもらって」

 

あたしはアルゴに頭を下げる。本来であればリンダースのあたしの店でもよかったんだけどアルゴの方から別の場所を指定してくれと言われた。そして出来るだけ遠回りをしてから来るようにとも。

 

「いやいや。こっちからお願いしたコトだから。それに誰もりーちゃんの後を付けたりはしてなかったから大丈夫ヨ」

 

そう言ってアルゴはエギルが出したお茶を一口飲むと思い切りむせる。そして彼女がこんなまどろっこしい待ち合わせ方をした理由もよく分かった。心配してくれている事に正直感謝しかない。

 

「苦い」

 

彼女はお茶の感想をそう短く告げるとコップをエギルに突き返す。渋い顔をしたエギルがコップを持ち再び厨房へと消えていった。

 

「それで?ラズ坊と連絡がとれないっテ?」

 

アルゴの問いにあたしは首を縦に振る。

 

「メール貰ってすぐ調べてみたけどリンダースの宿はまだ引き払ってないし、この1週間帰ってきてないらしい。確かに怪しいネ。リーちゃんの家から出た後の足取りも全くわからなかったナ」

 

リズはアルゴの話に「そうですか」としか返せず下を向く。そんなリズを見てアルゴは彼女の背中をさする。

 

「まぁ、まだメールが送れたり、フレンドに名前が残っているうちは生きてるって事ダカラ、多分大丈夫ヨ」

 

変に優しいアルゴの言葉にリズはまた泣き出したくなるのを必死に堪えた。最近本当に情緒がおかしい。

 

「ありがとうございます」

 

そう言って天井を見上げて涙が止まるのを待つ。「ふぅ」と一息付くとあたしはアルゴに向き直った。

 

「それで実はこっちが本題で…」

 

あたしの突然の話にアルゴは首をかしげる。あたしが今回彼女に話を聞こうと思った目的はにもちろん彼の行方も大事だったが、それ以上に彼女から聞きたいことがあった。

 

「ラズ坊の事か?」

 

全てを見透かしたような目であたしを見る。本当は反則だって分かってはいる。それに鼠のアルゴは人のプライベートな話は決して商売道具にしない。まぁ、時々話をした後に情報料を請求される事もあるみたいだけど、多分あたしが聞きたいような個人の内面にかかわるような話ではない。

 

「まぁ、オレっちが人のプライベートは知っていても話さないって信条って知った上での依頼…って事でいいカナ?」

 

アルゴはいつになく真剣な目をあたしに向けてくる。あたしが頷くと彼女は小さくため息を吐き、あたしから視線を外す。そして真っ直ぐに前を見据えたまま、口を開いた。

 

「あくまでも独り言だけどサ」

 

アルゴはそう前置きをした上で話し始める。彼がとある事件で心に傷を負い、そしてよくないギルドに誘われていた事。そこで半分洗脳されて入団試験と称したPKに加担させられたこと。それを苦に自殺未遂をして2週間行方をくらませたこと。戻ってきた彼は既に記憶を失っていた事。

 

核心には触れない程度にでもある程度想像できるように話すその話術は流石だと思った。大体ではあるがかなら具体的に彼の事を聞けた気がする。

 

「リーちゃんも記憶なくしたんだっテナ?」

 

「はい。彼、ラズエルとの記憶だけないんです」

 

そう答えるとアルゴは「そうカー」とだけ呟き、じっと何かを考えている。

 

「リーちゃんとラズ坊の事は自分で確かめてみたら?オレっちが教えるのは簡単だけどサ。それじゃ意味ないジャン。だからその部分には触れないし、これ以上ラズ坊のプライベートも掘り下げるつもりもナイ。彼自身の名誉のためにモネ。対象者の名誉を守るのも情報屋の仕事ナノダ」

 

そう言って胸をドンっと叩いたアルゴの様子にあたしは思わず笑みが零れる。かなり彼女から元気をもらったと思う、

 

「じゃ、オイラはそろそろ行くヨ。エギルの旦那にはよろしく伝えといて?」

 

そう言ってアルゴは席を立った。去り際に耳元で「情報料はこの前のクエストでお世話になったからタダにしとくヨ。次からは情報料もらうからネ」と囁いて、颯爽と店から出て行った。

 

「終わったか?」

 

ドアの開閉で鳴るカランコロンって音が鳴るとエギルが厨房から戻ってきた。おそらくあたしとアルゴに気を使って厨房の中で話を聞かないようにしてくれていたのだろう。

 

「あいつから何聞いたか知らねぇけどよ。リズベットはリズベットのラズエルにはラズエルの、それぞれの人生があるんだ。触れられたくない過去もあれば、忘れたくない記憶、経験もある。みんな違うんだ。だからお前達なら大丈夫だ。オレが保証する」

 

エギルの真剣だがどこか少しズレた話にあたしは思わず吹き出す。最初の出だしは良かったんだけど…

 

「エギルに保証されてもねぇ。補償はできないんでしょ?」

 

あたしのツッコミにエギルが思わず咽せ混む。どうやらさっきのお茶を飲んだかららしい。あたしは久しぶりに思い切り笑った。本当にこの世界に来なければ出逢えなかった大切な友人・仲間だと思う。

 

「ありがとう」

 

あたしはエギルにお礼を言うと無意識のうちにコップに手を伸ばす。お茶を一口含んでからあたしは後悔した。アルゴとエギルの経験を全く活かせてない。

 

もちろん例に及ばず、

 

「ガハッ…苦い」

 

あたしもお約束の言葉をエギルに向けて投げつけたのだった。

 

 

—————-

 

あたしはエギルの店を後にして、転移門に向かって歩く。街の喧騒がどこか懐かしい。そんな中でふととある売店が目にとまる。他に比べるとそんなに目立たないけど、なんだかその店が気になった。

 

「いらっしゃい」

 

暖簾を潜るとカウンターごしに恰幅の良い女性が出迎えてくれる。

生地が焼けてる匂いとソースの香ばしい香りとが食欲をそそる。

 

「一つください。それから水も」

 

現実世界でのたこ焼きを模した食べ物。近くのベンチに座り、爪楊枝を突き刺して口に運ぶ。表面をかじるとカリカリの表目が割れ、中からトロトロの生地と具が口の中に入ってくる。その熱さに口の中がびっくりするほど熱くなり、慌てて水を口の中に流し込んだ。

 

「熱っ…」

 

その時私の頭の中で何かがフラッシュバックした。一瞬で内容はよく分からないがデジャブに似た感覚…ふとあたしは食べかけのたこ焼きに目を落とす。

 

「たかがたこ焼き、されどたこ焼きか…」

 

あたしはよく考えれば訳の分からない事を呟く。たこ焼き一つにどうしてこれだけの懐かしさを感じるのか考えていたその時、ピコンと一通のメールが届いた。

 

「え?」

 

あたしは差出人の名前を見て驚き思わず立ち上がる。もちろん膝の上に置いていたたこ焼きは地面に落ち、刹那耐久を失い、ポリゴンと化す。でもあたしにとっては今受信したメールの方が衝撃的でさっきまで郷愁に浸っていたたこ焼きの事など既に忘れていた。

 

—————————

 

アインクラッド 第1層 はじまりの街

 

あたしはその後、すぐに第1層に向かった。SAO開始以来、フィールドには出ず、この街でただ静かにゲームがクリアされるのを待つプレイヤーが住む街。もちろん死の可能性の高い子どもや高齢者が特に多いように感じる。またそんな子供たちを保護すべくこの街に留まっているプレイヤーもいると聞いたことがある。

 

あたしは街に入るとメールで指定された場所に向かう。一時はアインクラッド解放軍の管理下にあり、法外な税金を課せられいた彼らもその主要幹部だった者達が更迭されてからは幾分か平和な暮らしに落ち着けているという。街の中を自由に駆け回る子供たち、道端で談笑をする高齢者、前線の緊迫感とは程遠いこの感覚にあたしはかつて忘れかけていた平穏という二文字の大切さを考えさせられる。

 

黒鉄宮の中に入ると今は無形の象徴となった『蘇生の間』を抜けて通路に入る。徐々に薄暗くなっていく視界にあたしは少し不安になるが突き当たりの行き止まりまで来た時に再び先ほど受信したを開いた。

 

『黒鉄宮の蘇生の間の横の通路に入り、行き止まりまで来たら一番左下にスイッチがある。それを押せ』

 

書かれた通りに左下に部分を探すと一つだけ突起した壁がある。それをゆっくりと押し込むとゴォーっという音と共に左手の壁が動き、新たに通路が生まれた。あたしはその通路に入る。すると壁は自然と元の行き止まりへと戻っていく。

 

「ふぅ」

 

あたしは小さく息を吐くとゆっくりと慎重に歩を進めた。別にメールの送り主を信用した訳ではない。でも今はこれにしか頼ることができない状況である事は変わりない。少しでも可能性があるなら賭けたいと思った。

 

しばらく進むと視界が明るくなってくる。もちろんこの場所はマッピングする事は不可能。多分ここで閉じ込められたら一生出ることが出来ないかもしれない。

 

そんな事を考えてるうちに目の前に赤褐色の扉が見えてきた。あたしはその前に立つ。扉に向かって伸ばす手が少し震える。あたしは取手に手をかけ、扉を右へスライドさせると中に体を滑り込ませた。

 

「よぅ。早かったな」

 

あたしの姿を見とめた男、銀髪痩躯の男はあたしのことを歓迎するように手を広げながらソファから立ち上がった。

 

「まぁ、座りたまえ」

 

男はソファに腰を下ろすように促してくる。この男、どこか会ったことがある。こいつがあのメールをあたしに送ってきたのだろうか?

 

「どうだい?調子は?」

 

ソファに腰を下ろしたあたしは彼の言葉に首を傾げる。商売のことを言っているのか、体のことを言っているのか正直相手の意図が全く汲み取れなかった。

 

「ぼちぼちよ!それよりあのメールの内容は本当なんですか?」

 

あたしは適当に彼の質問に答えると先程送られてきたメールの内容の真偽を確かめようとした。虚を突かれたのか男は一瞬驚いた表情をするとその顔に卑しい笑みを浮かべた。

 

「いきなり直球の質問か。かなり君も焦ってるんだな?そりゃ7日間も連絡が取れなかったら当たり前か」

 

男はそう言うと立ち上がると部屋の奥にある扉の前に立つ。

 

「だが、残念だ。お前がくる寸前にこいつはここから出ていったよ」

 

男はそう言うと部屋の中に入り、一振りの剣と一枚の紙封筒を持って出てきた。あたしはそれを受け取ると膝が震えるのを感じる。受け取った剣はあたしが彼に御守りとして渡した剣。

 

これがここにあるということがこの男が嘘をついていないことの証拠だと分かる。そしてあたしは封筒の中から便箋を取り出した。

 

『リズへ。お前がここに来ることをヘルブレッタから聞いた。でも俺は今お前に会う資格がない。だからこの剣とこの前の弓代はここに置いていく。この前は変な事を言ってすまなかった。でも俺がお前と出逢って、セピア色でしか見えてなかった世界が色鮮やかなものとして見ることができるようになった。それだけでもお前には感謝している。でも俺はやっぱり自分の罪を考えると俺だけ幸せになる事は出来ない。だから今までの事は全て忘れてくれ。勝手な事を言っているのは分かっている。でもそれが俺たちにとって一番いい。お互いに無事にゲームクリアまで生き残れる事を願ってます。本当にありがとう。ラズエルより』

 

あたしは手紙を読み終えると涙が止まらなくなり、立つ事さえ出来ずにその場にへたり込んだ。刹那、あたしは今まで色鮮やかだった世界が再びセピア色のそれになっていくようなそんな衝動に駆られていた。

 

 

 

第24話『暗暮流水 前編 -探索-』 完

ALO編オリ主の旅の相棒は?(CP以外)

  • リーファ
  • キリト
  • クライン
  • アルゴ
  • オリキャラ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。