ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ - 作:弥勒雷電
アインクラッド 第1層 はじまりの街
俺はリズにどうしても会う事が出来なかった。
ヘルブレッタからリズに会わせてやると聞いた時は正直驚いた。もちろんリズと会う気は全くなかった俺はそれを固辞し、ヘルブレッタの部屋からも出て行く事にした。リズが来るだろう通路とは別の通路から黒鉄宮の外に出る。
外に出て初めてそこが第1層であると気がついた。
すんなり俺が出て行く事を許したヘルブレッタにも驚いたが、彼自身俺を監視し続ける必要もなく、また俺の行き先も分かっているからやろう。
歩きながら今日目覚めてから届いていたメールを読み返す。受信したのはアルゴとエギルからのメール、内容は別々の内容ではあったが、共に最後にリズに関する内容で締めくくっている。リズが必死になって俺を探している事がそのメールの内容からも十分に伝わり、胸が痛んだ。
そんな話を聞いてしまうとついメールを送ってしまいそうになる。
だから俺はヘルブレッタの申し出を固辞し、彼女の決別のために彼女から貰った護身刀と手紙をヘルブレッタに託した。正直リズにとっては自分勝手な言い分だと分かっている。勝手に告白しといて勝手に決別したのだ。身勝手な男と恨まれても仕方ないと思う。
「さて、行くか」
それでも俺は一人で決着を付けなければならないと感じていた。自分の記憶に、罪に。この世界の行く末を邪魔しようとしている阿呆な親友のためにも、そしてこれ以上無関係な死人を出さないためにもあいつを、ユキマサを止めなければならない。
「転移、第68層」
俺ははじまりの街の転移門の前に立つと次の行き先を告げた。
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アインクラッド 第68層 ゴーラン遺跡
山をテーマにした層である第68層の迷宮区近くにあるダンジョン。その最深層にユキマサ達『堕天使の帰還』のギルドホームがあるという情報をアルゴから得ている。このダンジョンの最深区は圏内になっており、彼らがそこを拠点にしているとの情報が彼女からのメールに添えられていた。
俺は初めて訪れたダンジョンの中をゆっくりと進む。もちろんマッピングデータはアルゴから貰っているから問題ない。出現するモンスターとのエンカウントは出来るだけ避け、避けられない場合はリズの最初で最後の弓武器であるネーベル・シエラで一掃する。突然のエンカウントにだけ最新の注意を払い、俺はダンジョンの最深部を目指した。
俺がこんなにユキマサとの再戦を急いだ理由。
それは明日、第75層の攻略が行われるとの話をヘルブレッタから聞いたからだ。奴らが動き出すとすれば、今日。少なくともその前に片をつけなければならない。
7日間も寝ていたせいもあり、心身共に良好な状態にはある。
アルゴから転送されてきたマップデータの真ん中ほどまできた頃であろうか。ちょうど見渡しの良いフロアに出た時、いくつかの殺気を肌で感じた。神経を周囲に集中する。1.2.3.4人ほどこのフロアにいると感じた。
そんな殺気を放っているのは堕天使の帰還の一員である事は一目瞭然であった。
刹那、背後の風が少し揺らぐのを感じる。咄嗟に体を左に反転させると、俺の元いた位置には殺気のこもった長剣が振り下ろされた。
「ラズエルぅぅぅうううう」
黒フードを被った男は絶叫し、俺に襲いかかってくる。ステータスバーを見る限り、オレンジプレーヤーだ。既に彼らもPKをして人を殺している存在、俺と同類、もしくはそれ以上だ。
俺は男の斬撃をすんでの所で躱すとネーベル・シエラを構えた。リズお手製の黒曜石の矢を番えると試しに一矢放つ。矢は男の右肩に命中し、彼はその手に持っていた剣を床に落とした。
刹那、残りの男達が同時に飛びかかってくる。俺は冷静に3人の位置を確認すると立て続けに矢を放った。放たれたそれぞれの矢は場の空気を切り裂きながら飛び上がった男達に向かっていく。矢が彼らの足や腕、肩に命中した瞬間、矢の勢いに吹き飛ばされ、無情にも地に叩きつけられる。
ユキマサが放った刺客だろうか、彼らは俺との力の差を理解したのか戦意を失っているようにも見えた。
「お前!どうしてギルマスを裏切った」
最初に俺に斬り込んで来た男がそう叫んだ。その言葉は一瞬の反応を遅らせる。左から飛んで来た斬撃に気づいた時にもう手遅れだった。体を右に逃がし、剣を避けようとするが剣先が俺の脇腹を掠める。少量の血飛沫エフェクトと共に俺は態勢を崩し、その場に倒れる。
「ちぃ!」
今戦いに集中する事ができない。弓を構える暇さえ相手は与えてくれなかった。先程斬りつけてきた男はスタンが終わると同時に再び地を蹴りソードスキルを発動する。俺は次々と繰り出される斬撃や突きを避けるだけで精一杯だった。
さっきの男の言葉から推測するに、彼らのあのギルド、俺が幹部を騙し討ちしたギルドのメンバーだった男達であろう。俺やユキマサと同じようにギルドマスターや仲間をPKによる不意打ちで失い、怒りと哀しみで狂いそうになり、結果殺人ギルドに身を落とす。
そう考えると俺にも責任があり、彼らを一様に悪とは言えないんじゃないかと感じるようになっていた。
「お前がミーナを殺した」
激しい斬撃を繰り返してくる男はミーナという女性の恋人か何かだろう。あの夢で見た赤い髪の少女の顔がちらりと浮かぶ。
俺は思う。少なくともキリトやアスナ、エギルやクライン、そしてリズとは一線を画す領域に足を踏み入れてしまっているという事。そして俺は俺の罪によって新たな犯罪者予備軍を作ってしまったという事
彼らは恐らく現実世界に帰れたとしても犯罪者予備軍に成り得る可能性が高い。俺も含めて一度手を染めて仕舞えば、2回目からはその壁を乗り越えるハードルは下がってしまう。VRMMOで世の中を憎んだ人が現実世界で犯罪を起こす。今後考え得る事だと俺も思う。
そうであれば、こんなPK集団を現実世界に帰すくらいなら一緒に死んだ方がマシなのかもしれない。
俺は心からそう思うと、再び放たれた大ぶりのソードスキルを後ろへの跳躍で躱すと弓を構えて矢をつがえた。ユニークスキル『銀射手』を発動し、集中力を高める。矢を持つ手を開いた時、漆黒の羽が一気に宙空に放たれた。龍の突進のごとく青白いエフェクトを纏った矢は目の前の男の右腕を吹き飛ばす。
「ぐぁぁぁぁぁあああああ」
男の咆哮がフロアに響き渡る。そして男は地に倒れると痛みで左右に身体をバタつかせのたうち回る。HPバーが急激に減少し、レッドゾーンに到達している。
だが、直ぐに次の刺客が飛び込んで来た。しかも2人同時に上からと横からの斬撃を繰り出す。やはり弓だけでは剣相手の接近戦は分が悪いと痛感する。ネーベル・シエラで上からの斬撃を弾き、横からの斬撃を受け止める。だが、その時その男は斬撃をと斬撃がぶつかり合った衝撃を利用して身体を反転、俺の鳩尾に肘打ちを強くかましてくる。
「ぐはッ」
鳩尾を抉られた俺は思わずその場に膝をつく。
刹那、男が卑しい笑みを浮かべ剣を振り下ろすのを目先に捉えた。俺は床を転がり、寸前の所でその斬撃を交わす。すぐに次の太刀が迫ってくる。
劣勢である事には変わりはない。
「お前さえ、居なければ、居なければ!」
完全なる憎悪の対象として見られているこの状況に正直耐えれそうにない。怒りに任せて少し大振りになったその斬撃をステップで躱すと俺はネーベル・シエラを剣のように振るう。それは男の脇腹に直撃し態勢を崩したところに蹴りを食らわす。
「俺もこんな所で死ぬわけにはいかへんのや」
俺はそう言うと再びネーベル・シエラを構える。態勢を崩した男に対して漆黒の矢を解き放つ。宙空を走る矢は深々と男背中に突き立った。その勢いで男は前に突伏すように倒れこむ。
「これで2人。ここで2人を連れて逃げるか、更に俺の弓の餌食になりたいか選ばせたるわ」
俺は残った2人にそう告げる。2人のうち1人は俺に剣撃を打ち込もうと構えるが、もう1人に止められる。
「ふん。どうせなら私達の事を皆殺しにすればいいのに」
仲間を止めたその声に俺は驚きを隠せない。女性までオレンジプレイヤーになっているのか?その事実がかなりの衝撃だった。
「仲間の命を取らなかった事は一応感謝するわ。でも、私達は貴方を許さない。いつか必ず復讐してやる!!」
そう言って女ともう1人の黒フードの男を促し、傷ついた2人を抱えてフロアから出て行く。俺は4人を姿が見えなくなるとホッとため息を吐いた。
「いつか必ず復讐してやる…か…。そうだよな…俺にもタケルやユリがいたようにあいつらにも仲間や大切な人が居たんだよな」
俺は独り言のように呟くと壁にもたれ、アイテムリストからハイポーション を取り出すと口に含む。HPゲージが少しずつ回復を始める。その様子を目先に捉えて俺はその場に腰を下ろすと目を閉じた。
マップデータによるとこの先が最下層エリアだ。ユキマサは多分そこにいる。
「ふっ、また死ねない理由が増えたな」
俺はHPが完全回復したのを見届けると立ち上がる。その時フロアの中に入ってくる人影がいた。
俺は再び、弓を持つ手に力を込めた。
第25話『轟々龍雷 前編 -懺悔-』 完
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