ソードアート・オンライン - トワイライトブレイズ -   作:弥勒雷電

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第3話『闇からの使者』

ーーアインクラッド42層 サバナの町

 

あれから3日経った。

 

スモールドラゴンのクエストは翌日に再度挑戦し、クリアできた。ドロップアイテムの売却と報酬もがっぽり入り懐具合は一応に潤っている。

 

だが、問題は別にあった。

あれから結局一睡もできていない。

 

寝ようとすればするほど目が冴える。原因は分かっていた。リズの家で見たあの弓と剣を組み合わせた武器とも呼べない代物である。

 

なぜ俺の深層心理があれに引っかかるのかわからない。

 

よもや営業妨害にも近い。睡眠できない分集中力も命中率もだんだんと低くなる。狩りの精度も史上最低の状態だった。

 

「余計なもん見せやがって」

 

俺はリズに対して悪態をつく。

さすがに3日も寝なければ次は体力面で影響が出てくる。HPには問題はないが、これは完全に異常事態でもあった。

 

「また眠れなかったのかね?」

 

一階に降りるとこのホームで道具屋を営んでいる中年の男性が声をかけてきた。俺の家主のヘルブレッタさんである。彼も最初は攻略組に参加していたが、脱落し、商人クラスに転向、この52層で道具屋を営んでいる。

 

「はい。もう3日も寝れてません」

 

ヘルブレッタさんが顔をしかめる。半年前、30層のスラム街で倒れているところを助けられ、それから世話になっている。俺にとっては唯一心を許せる恩人だ。

 

「この薬を飲んでみなさい。私が特別に調合した睡眠薬だ。お前みたいにノイローゼ気味で睡眠障害のあるプレーヤーに処方している。」

 

俺は袋に入った粉薬と水を受け取る。時々こうやって彼は薬を作ってはプレーヤーに無償で提供している。リアルでは医者か薬剤師か研究者か、それに近しい職業なのだろう。

 

「ありがとうございます。」

 

俺はお礼を言うと俺は自室へと戻り、もらった粉薬を口に含み、水で流し込む。今日はもともと一日休むつもりで依頼は明日以降にしていた。なので、これで1日眠っても問題はない。

 

「あ、やっぱすごい」

 

俺はヘルブレッタさんの薬の効力に感嘆し、そしてすぐに微睡みの中に意識を落とした。天井がグルグルと回り、歪み、そして音が消え去る。

 

次の瞬間、俺は深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

—————————————

 

 

 

………見覚えのある森の中

………見覚えのある仲間の顔

 

ただ違うのは俺の周りの視界。セピア色の映画を見ているかのような風景の中に俺はいる。

 

「ラウビット、ミーナ、ジェランドさん行ったらあかん」

 

俺の呼びかけにも誰も答えない。

俺は知っているこの旅の結末を……

確かに知っている……止めなきゃ……

 

今度こそ俺が止めなきゃ……

 

「そっちはダメですってば!罠が……罠があるんです」

 

だが、誰も言うことを聞いてくれない。

 

どうしてだ!どうしてなんだよ!

 

声の限り叫ぶ。だが俺たちの間には見えない壁があるかのごとく全てが遮断されている。

 

「なんだ!お前たちは」

 

突如俺たちの前に黒ずくめの男が1人現れた。顔はフードと仮面で隠しているのでわからない。血気盛んなラウビットはその男に挑むように近づいていく。

 

あかん、ラウビット…そいつらから逃げろ!

 

刹那ラウビットは彼の目の前にいた黒ずくめの男に首を刎ねられる。一瞬だった。何も抗う事なく、ラウビットの体は光に包まれ四散する。

 

「え!なんなの?まさか殺人ギルド?」

 

ミーナはその場で腰を抜かし、ジェランドさんがそれを抱き起こした。

 

ミーナ!逃げろ!ジェランドさんも逃げて!

 

俺は3人の間に飛び出し、黒ずくめの男に飛びかかった。右手に持つ剣に力を込め黒ずくめの男に斬りかかる。だが、俺の剣は彼の体をすり抜けた。

 

刹那俺の手には感触も何もない。

 

ただ空虚な空間を斬ったという感覚だけが脳に残る。

 

「きやぁぁぁぁぁ」

 

その時、ミーナの叫びがこだまする。ミーナを守りながら後退していたジェランドさんが背後から近づいていた別の黒ずくめの男に斬られた。

 

その次の瞬間、もう1人の黒ずくめの男がジェランドさんの心臓に剣を突き刺す。

 

「ぐふっっ」

 

ジェランドさんは俺の方にミーナを突き飛ばすと膝を折った。

 

「……ミーナを連れて逃げろ……」

 

ジェランドさんは首を縦に折る。すると眩い光の先にジェランドさんの体は結晶となり四散する。

 

ミーナだけでも………

 

俺は彼女に駆け寄るとその手を掴んだ。

掴んだ?掴める……ミーナの手は掴める。

 

「ミーナ、いこう」

 

俺が腰が抜けている彼女を起こした時、前後を黒ずくめの男達に囲まれた。退路も進路もない……

 

ちぃ、戦うしかないんか!

俺は再び腰に挿してあるはずの長剣を手に取る。

 

「ツギハ……オマエ……」

 

その時、黒ずくめの男の片割れが俺に向かってそう声を出す。聞き取るのがやっとのその声は喉を潰しているからだと分かる。

すると黒ずくめの男が剣を振りかぶり襲いかかってくる。俺は自分の腕の中にいるミーナを見た。

 

そして剣を振り上げる。

 

ーーーーいやっ、やめて……

 

 

 

——————————

 

 

 

 

………………

……………

……

 

目を開けると見慣れた天井がそこにある。

外はもう暗い……かなり寝ていたのだろう。

気分はそう悪くない。

 

何かよくない夢を見ていた気がする。でも思い出せない。全身が汗でべっとりしている。俺は部屋を出ると風呂場に向かった。1階に降りてヘルブレッタさんがいない事を確認すると風呂場に向かいシャワーを浴びる。

 

「なんの夢やったんやろか」

 

2週間に1回感じる感覚であった。何か大事な夢を見たはずなのに翌日には忘れている。現実世界にいた時から夢はよく見る方で見た夢はほとんど覚えている。

 

だが、決まって全身汗だくになるこの夢だけは内容を思い出せない。ただ、良くない事の夢というのは確かな事でもあった。

 

風呂から出ると俺は黄緑色のシャツに黒ズボンという軽装で街に繰り出した。夕暮れの陽光が眩しく、外の空気が心地よく、脳内を活性化させてくれる。

 

俺はそのまま街の小さな酒場に向かった。

 

「マスター、バーボンロックで」

 

いつものようにカウンターに腰を下ろすとマスターに頼む。俺は現実世界では未成年だ。だが、SAOの世界では未成年の飲酒に関する規定はない。

 

「はいよ」

 

ロックグラスに入れられた琥珀色の液体…バーボンというのは店主が付けた名前で、その実はアルコールは入っていないらしい。ただ、バーボンに含まれるなんとかという成分が脳に刺激を出し、酩酊状態に似た状態を作り出すらしい。

 

一口飲むと喉が焼けるような喉越し、冷たく熱いその感覚で脳が痺れるのを感じる。思わず俺は「くぅー」っと声を絞り出していた。

 

俺は思考を今日の夢の内容に戻した。

 

一体何の夢だったんだろう。

 

分からない……

 

そういえば昔から記憶がスコンと抜け落ちている日もある。それも関係しているのだろうか?

 

だとしたならなぜ………

 

そこまで考えた時にマスターが話かけてきた。

俺はそこで答えの出ることのない思考を中断する。

 

「そういえば、昼間にお前のこと聞きまわっている女の子いたぞ?お前何かしたのか?」

 

「女?何もないと思うけどなー」

 

1人心当たりがない訳ではないが……

 

「あぁ、赤いワンピースに白いドレスエプロンを着て銀の胸あてを装備したベビーピンクのショートボブの女の子だったぞ」

 

「そんな奴、知らへんわ」

 

俺はマスターにそういうと大きなため息を吐いた。

 

やっぱりまだ諦めてなかったのか。

まぁ、そうだろうな。ここまで来たって事は様子だとヘルブレッタさんのホームにまで押しかけてきそうだ。

 

「そういえば、今朝76層のデュエル見ものだったよな。黒づくめの剣士キリトと血盟騎士団のメンバーのやつ。」

 

隣の客が話をしている内容が耳に入ってくる。

黒づくめという言葉が頭に妙に引っかかった。

 

黒衣の剣士キリトについては初期の攻略組にいた頃見たことがあった。ビーターと自分を蔑み、非難の的にすることで、この世界の悪意をすべて自分に向けさせた。

 

と俺は思っている。

 

そんな彼が血盟騎士団のメンバーとデュエルの末、武器破壊という離れ業をやってのけたのだという。

 

なぜ彼が血盟騎士団のメンバーとデュエル?という疑問が湧くが、成り行きにもそのデュエルにも対して興味はなかった。

 

「マスター、もう一杯飲んだら帰るわ」

 

俺はバーボンをもう一杯飲み干すと勘定を払い、店を後にする。空には擬似的な星空が俺を包み込んでいる。

 

少し酔いを醒まそうと街を歩く事にした。

 

明日の依頼予定を反芻する。明日は42層と50層の馴染み客からの食材調達依頼のため、いつもの狩場に行く予定だ。

 

体調的には問題はない。

 

ふと街の少しハズレの展望台が目に入った。おもむろに俺はそっちに足を向ける。

 

圏外ではあるが、展望台からはこの42層を一望できる。22層の湖畔や、47層の約束の丘などの観光地に較べると確かに見応えはないが、シンプルに草原と森が広がるこの風景が俺は好きだった。

 

俺は展望台の手すりに手をかけ、簡素な景色に目を細めた。

 

その時背筋に何か凍るものを感じる。

 

俺は咄嗟に右に飛んだ。

刹那、俺がいた場所に短剣が3本突き刺さる。

 

「誰だ!?」

 

地面を転がり態勢を整えた俺は俺を襲ったであろう相手に目を向ける。圏外とは言え、街の中だ。狙ってくる事自体、PKをする気はないだろう。何かの警告か……それとも強盗の類か。

 

刹那背後から殺気を感じる。俺は慌てて前転で相手と距離を取り、そして向き直った。そして目を疑う。黒づくめのフードに怪しい仮面を被ったプレイヤーが目の前にいた。

 

ドクンと脈が一段と大きく弾ける。こいつは危険だと脳内がけたたましくアラートをあげる。

 

逃げないと………

逃げないと………

 

逃げ……

 

「痛っ……えっ?」

 

チクっとした痛みと共に突如と視界が暗転する。

肌に地面の冷たい感覚を感じる。

 

「…ミツケタゾ………ドウ……」

 

おぞましい声を耳が捉える。喉を潰したのであろうその声は不快感を体の中をほとばしらせる。

 

うまく聞き取れないが、心の中をきつく縛られるような胸痛みで意識が朦朧とする。

 

奴の殺気がどんどん近づいてくる。どうして圏内でPKまがいのことをするのか。頭の中に疑問ばかりが駆け巡る。だが、例え安全な圏内であってもこの威圧感は気分のいいものではない。精神的にキルされそうな感覚に陥る。

 

もうダメだと覚悟を決めたその時、

耳元で誰かの足音が聞こえた。

 

「……ウンノイイヤツメ……マタクルゾ」

 

おぞましい男の気配がその声とともに消えた。俺の心を縛っていた何かから解き放たれ、一気に安堵感に包まれる。

 

「え?ラズエル?え?え?どうしたの?ねぇ?」

 

聞き覚えのある声がした。

刹那、俺は意識を飛ばした…

 

 

 

-第3話『闇からの使者』 完

ALO編でオリ主とCP組むとしたら誰?

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