鬼滅の刃ー彼岸の剣士—   作:キモ傘

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ハァハァ

 

 突如として現れた息を荒げた男を、鬼は興味深そうに観察していた。珍しい服に身を包んでいるからか、それとも背が高いからか、顔に傷があるからかは、分からない。ただ、すぐに襲い掛かることはなく、ジッと観察していた。

 

「ここはどこだ? 俺は東京に居たはずだが……」

 

 驚いた。この男は東京から歩いてきたのか。それも、この言い様だと迷ったらしい。物凄い方向音痴だ。

 だが、これでこの男が鬼殺隊の関係者では無い事が分かった。ここに、狙って現れた訳でないことも。だったら尚更、俺は彼を逃さなくてはならない。

 力を振り絞り、声を出す。

 

「君! そいつは(おに)だ! 早く逃げろ!」

 

 俺の言葉を、否、鬼殺隊の言葉を、鬼の存在を一般人がすぐに信じてくれるとは思っていな

 

「なに! こいつは邪鬼(おに)なのか!」

 

 信じてくれてよかった。

 これで、彼も逃げてくれるだろう。できれば、その先で誰か助けを呼んで欲しいものだ。その助けが来るまで、俺が生きていられたら良いが……もし生きていなくても新たにやってきた鬼殺隊がこの鬼を滅してくれる。それなら……いや、やっぱり怖い。

 鬼が、こちらを見た。

 逃げたい。

 泣き出したい。

 でも、俺は鬼殺隊だ。人を鬼から守らなくてはいけないんだ。鬼を殺す事ができるんだ。

 集中しろ、俺。俺は選抜を生き抜いた。大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ。

 日輪刀を構え直す。

 呼吸をする。

 守らなくてはいけない人物が出てきたお陰か、世界が澄んだように感じる。恐怖は感じるが、体に纏わり付いてはこない。

 

 全集中 炎の呼吸 壱の型

 

 その時だった。

 まだ、先程の男が逃げていない事に気がついた。何故逃げていないのか、と困惑すると同時に、鬼もそれに気がつき男の方へと跳んだ。

 マズい、間に合え、と急いで剣を振るうも、到底間に合いそうにない。

 だが、そこで俺は衝撃を受けた。

 男の右腕が外れ、その中から先に鉤のついた刃が現れたのだ。

 

「仕込み、刀?」

 

 口から漏れ出た言葉に返事をする者は誰もおらず、そしてその刀は鬼の攻撃を受けても折れる事はなかった。

 

「なるほど。ただの人間ではないのか」

 

 鬼はそう言うと、すぐに退がった。だが男はそれに追撃をし、仕込み刀で斬りかかる。

 その刃は鬼へと至り鬼を切り裂いたが、鬼の傷はすぐに再生した。日輪刀でしか鬼を殺す事はできないのだから、それも当たり前だろう。勿論、そんな事を男が知るはずも無く、男はただただ不適に笑っているだけだった。

 

「お前はかなり特殊な邪鬼(おに)みたいだな。人型でその上人語も使い、再生力もある。どちらかというと、邪鬼(おに)というより、アマルガムに近いか」

 

 不味い。この人は日輪刀の存在を知らない。早く知らせなくては。

 

「鬼はこの特別な刀でしか倒せません! 使ってください!」

 

 俺はそう叫ぶと自らの日輪刀を投げた。投げた後になってしまったと思ったが、男は器用に義手をはめ、左手でパシッと刀を受け取ると

 

「でかした!」

 

ザンッ

 

 鬼を一刀両断した。

 一刀両断。文字通り、一太刀で鬼を縦に真っ二つに切り裂いたのだ。

 変な笑いが出てくる。

 俺は、無力にもその場にへたり込んだ。

 こんな芸当をできるのなんて、柱くらいしか……

 そこで気がついた。この男は、ここに来た瞬間から特殊な呼吸をしていたではないか。

ハァハァ

 現に、今もその呼吸を続けている。これは、全集中『常中』という技術なのではないか? 噂程度にだが、柱ともなれば全集中の呼吸を常に行なっていると聞いた事がある。

 まさか、この男は、柱の一人? はじめに訳の分からない振りをしていたのも、鬼を欺くため? この不思議な格好は、柱だけの特別な隊服なのではないか? 

 一度そう思い始めると、納得しか生まれてこなかった。

 

「おい、この辺りのマップとかないか?」

 

 男は日輪刀を俺に手渡しながらそう聞いてきた。日輪刀は不思議な事に、俺が持っていたよりも切れ味が良さそうだった。

 

「マップ、というと地図ですね。ありますよ」

 

 俺が地図を渡すと、男はありがとうと言いその地図を見た。そして直ぐに地図を俺に返すと、再びありがとうと言い来た道を引き返した。

 

「あ、そっちは逆ですよ」

 

 一瞬で結構進んだ男に聞こえるように、大きな声で言う。さっきは振り絞ったのに、今は簡単に出てくれるものだ。

 男は直ぐに引き返してきた。

 

「あー、良かったら道案内しましょうか?」

「……助かる」

 

 笑いがこみ上げてくる。順当な笑いだ。

 先程鬼相手に圧倒して見せた男の面影こそあれ、同じ人物からの願い事だとは思えなかったのだ。なにやら人間味に溢れていて、正直一気に親しみやすくなった。

 

「俺の名前は田中健也。鬼殺隊の階級"癸"です」

 

 少し出てきた笑い涙を拭きながら、自己紹介をする。俺の名前は田中健也。

 

「健也……か」

 

 男は、一瞬だけ懐かしそうな目をした後名前を教えてくれた。

 

「俺は明。宮本明だ。鬼殺隊は、分からないが雅を殺す事を目的としている」

 

 疲れているからかぼんやりとしか内容が入ってこなかったが、一瞬だけ違和感があった。ただし気のせいだろうと無視して、名前を覚える。

 宮本明。

 宮本明

 宮本明。

 

「なら、明さん。町はこっちですよ」

 

 俺は先頭を歩き明さんを町へと案内し始めた。

 町までの道での雑談はとても楽しい物だったが、明さんが柱ではない事を知り雷に打たれたのかと思うほどの衝撃を受けたのは、秘密だ。




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