恐竜帝国との緒戦、隼人の校舎での戦いからしばしの時間が流れた。
元過激派集団のリーダー神隼人は、早乙女研究所のスカウトに快く応じ、ジャガー号の正規パイロットとして登録されている。
知能指数300は眉唾にしても、その卓越した頭脳と身体能力に疑いの余地はなくマニュアルを渡して数日で実戦レベルの技術を身につけてのけた。
竜馬ともあれで中々相性がいいらしく、暇を見つけてはシミュレーターの対戦や運動場での殴りあいで交流を深めている。
時々、竜馬ともども矛先がこちらに向くのは勘弁してほしい。流石に二人同時は死ぬ。死ぬ。
父さんに対しては素直に尊敬の念を抱いているらしく、ゲッター線関連には並々ならぬ研究意欲を発揮している。
あの様子だと、近いうちに大学程度の学位は軽々と獲得してしまうだろう。
「達人さん! 弾薬の搬入終わりましたぜ」
「ああ、お疲れ竜二くん。悪いね、訓練で疲れてるだろうに」
「なあに、自分たちが使う武器弾薬ですからね。隼人のようにロボットにゃあ乗れねえが、せめて足元の掃除くらいしてやりてえ」
で、いま僕と話しているのは神竜二。隼人の従兄弟で、同じく過激派グループに所属していた人物である。
隼人の校舎での戦闘の後、隼人が離脱したことで学校側と警察による締め付けが強まってきたタイミングで引抜きをかけたのだ。
当然のように離脱者も出たが、現在ではおよそ三十人程の元隼人グループが早乙女研究所の警備員として働いている。
ライフル担いで研究所謹製のパワーアシスト付き装甲服に身を包んでいるが、警備員である。
研究所の敷地では強面の連中が集団で丸太を担いでアスレチックコースを堪能する暑苦しい光景が繰り広げられているが、警備員である。
大事なことなので二回言った。
おかげで公安に目を付けられたものの、放置しておけば彼らを待ち受ける運命は非業の一言に尽きるし、わざわざ敵を増やす必要もない。
隼人はこの件について何も言わなかったが、訓練の計画書を作成して渡してくる程度には受け入れているらしい。
竜二以下のグループは、陸戦た……もとい警備としての訓練の他、率先してトレーラーや作業車両の扱いを覚えてくれており、その辺も助かっている。
メカザウルスのデータは政府にも送りつけ、防衛庁(この世界ではまだ省になってない)も防衛計画を立案していた。
早乙女研究所も戦闘用ゲッターロボ及び同量産計画に参画しており、僕もそちらに関わるためベアー号のパイロットとして専属でいられない状況だ。
そんな折、ようやく探していた"三人目"の所在が判明した。
北海道は大雪山、真冬のそこに山篭りと称して突入、この春も半ばを過ぎるまで遭難して死亡したと思われていた柔道馬鹿一代。
名を、巴武蔵と言う。
ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編
第二話:その名は恐竜帝国
まず最初に言おう。これは酷い。
新規加入した巴武蔵だが、その操縦技術はお粗末の一言すら生ぬるかった。シミュレーター上でベアー号を墜落させること百回に及ぶ。
そもそもが機械オンチで余計な操作の果てに墜落。同じミスを繰り返すことも一度や二度ではない。
竜馬や隼人からもクビにして僕、ないし南風くんかミチルがベアー号に乗れと言われることが幾度もあった。
しかし情報管制機のコマンドマシンに武蔵を乗せるなど冗談にもならず、BTはBTで戦場で簡易修理を行うための機構が無駄になる。
それじゃあ僕が乗れば良いじゃないかと言う話だが、新型ゲッターの開発テストのためにしばらく沖縄に行き来する予定であった。
これを聞いた竜馬たちは、いっそ父さんを乗せようと言い出すほどであるから、着任当初の武蔵の扱いは察してほしい。
なおこの間に武蔵は実機でベアー号を墜落させた。整備員は徹夜である。
これが改善してきたのは、武蔵が来てから一週間ほどが経過した頃だ。
パイロットたちのスケジュール管理をしていたミチルが、訓練時間の尋常でなさに気が付いたのだ。
繰り返すが、武蔵がシミュレーターで墜落した回数は百を超える。百、百である。
たしかに実機に比べれば負担の少ないシミュレーターであるが、ゲッターの機動を再現する上で不足は無い。
竜馬や隼人ですら、日に数回も乗ればそれなりに疲弊するそれを、武蔵は平然とした顔で十回二十回と繰り返していたのだ。
一度で改善しないなら二度三度、十回やって改善しないなら百回やる。
それを実際にやってのけ、そして実際にゲットマシンの操縦を修得してしまったのだからおそれいる。
そうしている間に幾度かの実戦……明らかに斥候であろうメカザウルスとの戦いも経験し、竜馬、隼人、武蔵の間に連帯感も生まれだした。
これで安心して泊り込みで沖縄に飛べると考えていた矢先、研究所のセンサーが浅間山の北部山麓に多数の反応を確認する。
ああ、来るべき時が来たかと、早乙女研究所の人々は思っただろう。
この世界ならぬ知識を持つ僕以外は今だ名も知らぬ『恐竜帝国』、その本格侵攻の始まりだった。
……。
……。……。
「ゲッターロボ発進準備完了! BTとコマンドマシンも行けます!」
「よし、ゲッターチーム聞こえるか。悪いが、自衛隊は各地に出現したメカザウルスの対応に追われて増援は望み薄だ」
通信機越しに状況を説明しつつ、改装したプロトゲッターを沖縄に送ってしまったことに歯噛みする。
量産型のテストヘッドとして利用するため数日前に移送したばかりだ。
何ともタイミングが悪い。
「心配するなよ達人さん。いくら数が多かろうと、トカゲごときゲッターの敵じゃねえ」
「そうそう、この武蔵様がいるんだから泥舟にドーンとまたがったつもりでいてくれよな」
「ふっ、頑丈な泥舟なのは間違っちゃいないがな」
通信機からは竜馬、武蔵、隼人の順に、頼もしい返事が帰ってくる。どいつも悪い笑顔を浮かべているのはお約束だろうか。
僕は計器をチェックしてゲットマシンに異常が無い事を確認すると、傍らの父さんに目配せをした。
「うむ。ゲッターチーム、出撃せよ!」
号令一下、三機のゲットマシンが格納庫から出撃し、それにミチルの搭乗するコマンドマシンも続く。
南風くんのBTは、トレーラーを使い既に出発しているが陸路を行くため戦場へは遅れるだろう。
「こちらミチル、メカザウルス多数確認! 映像送ります」
間もなく、コマンドマシンからの映像が早乙女研究所のモニターに投影された。
二本首の空母型メカザウルス『ギギ』と、全身に回転ノコギリを装備した『バズ』を主力に、高機動型の『バル』の姿も見られる。
レーダー観測によれば、敵の総数は二十を超えた。
「頼むぞ、ゲッターチーム。勝てよ竜馬」
だが今は、今は見守ることしか出来ない。
今は、まだ。
敵、敵、メカザウルスの姿がそこかしこに見て取れる。
そんな状況にわずかばかりの緊張と背筋を震わせる戦意を抱きながら、竜馬はイーグル号を飛ばしていた。
既に『ギギ』から発進した翼竜を、何匹となく機関銃で叩き落している。それでも雲霞のごとく後続が尽きる様子が見えない。
メカザウルスの戦列を超えた後方には、複数の母艦が存在しているのだろう。
ならば……。
「隼人っ! 武蔵っ! 準備は良いかァ! 突っ込むぞォッ!」
竜馬が吼える、ゲットマシンが吼える、メカザウルスが吼える。
赤白黄、三機のマシンが猛然と加速して突き進み、相対する半機半竜の異形どもが迎え撃つ。
「ハッハァー! 当たらねえぞ、ウスノロども!」
イーグル号は、音速を超える速度で飛び、急激な速度で減速し、空中でありながら獣のように機動した。
ミサイルが敵の肉と装甲を叩き、不規則に吹き荒れるソニックブームがその体勢を崩す。
「はしゃぎすぎだぜ、竜馬さんよ」
そしてイーグル号に気を取られたメカザウルスの足元を、ジャガー号が地を這うように過ぎ去った。
一歩間違えば地形と接触するような高度を、やはり音の衝撃を伴って飛翔する。
後に残されたのは爆音、そして完全に転倒した複数体のメカザウルス。
「へっへっへ、最後のトドメはオイラがもらうんだけどよ」
そしてベアー号。
けっして卓越した動きではないが、危なげなく二機に追従した黄色い機影は置き土産とでも言うように大型のミサイルを見舞っていった。
ゲットマシンが三機、ただ通り過ぎただけでメカザウルスの軍勢は撹乱され、そのうち数機は破壊されてしまう。
そして彼らの眼前には、空母型『ギギ』が三機。盛んに翼竜を射出している。
《GYAOOO!!》
迫るゲットマシンに威嚇の咆哮を上げる『ギギ』に降りかかったのは、ゲットマシンから放たれたミサイルの雨だった。
ベアー号のミサイルが胴体部に命中し、ジャガー号のミサイルが左右の首に衝撃を与え、イーグル号のミサイルが艦載機の射出口に突き刺さる。
『ギギ』は、それによって内部から爆発し地上へと落下し動かなくなった。
突入からわずかな時間で敵陣を"突き抜けた"ゲットマシンは、イーグル号を先頭にしたフォーメーションを形成して最高速のまま天に上る。
そして。
「チェェェェェンンジィッ、ゲッタァァァァァァァワンッ!」
竜馬の声とともに三つの機影が一つに変わる。変わる。人型へと変わる。
合体したゲッター1は、その勢いのまま雲を突きぬけ、宙返りをするような機動を描き残る『ギギ』へと飛翔した。
激突。
同時に、ゲッター1の拳、そして前腕部に装備された『ゲッターレザー』がうなり、肉が潰れ血しぶきを上げ、金属装甲が火花を散らす。
「おらぁ!」
竜馬は、気合一声、半ば千切れた『ギギ』の首を二本まとめてゲッター1で引きちぎって投げ捨てた。
さらに頭部を失いフラフラと浮遊する胴体に対して蹴りをくれて地面に叩きつけ破壊する。
残る一機の『ギギ』は、その光景を前に後ずさるような格好で距離を取りにかかったが無駄だった。
「ゲッタートマホォォォク、ブゥゥゥメラン!」
ゲッター1が肩部から射出された斧が、凄まじい勢いで飛来して胴部の装甲を断ち割ったからである。
胴体を半ば断ち割られて苦悶する『ギギ』。
「オープンゲット!」
その目の前でゲッターロボは再び三つに分離した。
三方向に分散したゲットマシンは、ミサイルと機銃で『ギギ』をつるべ打ちにすると、今度はジャガー号を頂点にしたフォーメーションで合流する。
「チェンジ、ゲッター2!」
隼人の声とともに、白い頭部を備えたドリル腕のゲッターロボ、ゲッター2が完成する。
ちょうど『ギギ』の真上で合体したゲッター2は、そのまま砕けた背面装甲の上に降り立つと、容赦なく回転するドリルを突き刺した。
爆煙が散って、残骸ごと地上へ向かって落ちていく。
ようやく戦列を整えた前衛のメカザウルスたちが駆けつけ、『ギギ』の残骸とそこに居るはずのゲッターに対してミサイル等の火力を投射した。
連続して起きる爆音。百を超えるメカザウルスのミサイルが降りそそいだそこには、一つの穴だけが残っていた。
《GYAOOOOO!???》
次瞬、砲列を形成していたメカザウルスが、断末魔とともに足元から真っ二つになった。
現れたのは、赤い、返り血とオイルをかぶり赤く黒く化粧をした、ゲッター2。
地面には、巨大な、ゲッターロボが通り抜けメカザウルスによる爆撃痕と地下でつながる穴。
「ゲッタードリル!」
再び、一機のメカザウルスの胴体に穴が穿たれ、爆音が散る。
地上を走るゲッター2は、韋駄天のように次々にメカザウルスを傷つけ、射抜き、打ち倒していく。
「ドリルストーム!」
襲い掛かる回転ノコギリのメカザウルス『バズ』が、空中でドリルから放たれた衝撃波に吹き飛ばされた。
きりもみ回転をしながら地面に叩きつけられ、ほぼ同時に追従してきたゲッター2のドリルの一撃に沈む。
残るメカザウルスは、その間に包囲網を築きゲッター2を押しつぶすように円形陣を敷き始めた。
「オープンゲット!」
しかし、煙立ち込める場所から飛び出したのはゲットマシン。
三機の機影は包囲網の内側でジャガー号を先頭にしたフォーメーションを形成、コンパクトな宙返りを行い、地面に向かって"落ちた"。
「チェェェンジ、ゲッタァスリィ!」
現れるのは、無限軌道(キャタピラ)を備えた半人型半戦車とでも言うべきゲッターロボ、ゲッター3。
円形包囲網のちょうど中央、合体したゲッター3にミサイルの雨が降りそそぐ。
爆炎が散り、黒煙が吹き上がる。
そして、その内側から、キュラキュラとキャタピラの鳴らす金属音が突き抜けてきた。
「ゲッターアーム!」
猛然と出現したゲッター3の腕が伸張し、重量級メカザウルス『ズー』の首をつかみ伸縮、同時に戦車部分になっているジャガー号がエンジンを起動。
ゲッター3が飛ぶ。
まるでパチンコのゴムで撃ち出された石のように。
ゲッター3の"ぶちかまし"を受けた『ズー』は、よろめいた後に噛みつきによって反撃を試みるが、次の瞬間には空を舞っていた。
巻き上げられたゲッターアームがまるで渦のように旋廻し、恐るべきパワーで五百t近い巨体を投げ放ったのだ。
「大・雪・山・おろしぃ!」
同時に、ゲッター3の両肩に装備されたミサイルが空中で『ズー』をとらえ、爆発する。
さらに次なる標的が投げ飛ばされ、別のメカザウルスにぶつかり、そこにゲッター3の体当たり、あるいはやはりミサイルが炸裂して破壊する。
乱戦の様相を呈した戦場、しかしメカザウルスは容赦なく味方ごとゲッターを打ち倒さんとミサイルを発射した。
「うおっと!」
これは予想外と無限軌道を後進させる武蔵だが、誘導弾らしいミサイルは器用にゲッター3を追いかけてきた。
それなりに大型のミサイルを受け止めるかどうかを武蔵が逡巡したその時、機関砲の弾丸が空を裂きミサイルを迎撃した。
「武蔵さん、大丈夫? 援護します」
「いやっふー、さっすがミチルさん。愛してるぅ」
それはコマンドマシンの長射程機関砲による援護だった。高高度に退避するミチルに向かって、武蔵の調子はずれの声が飛ぶ。
わずかに残っていた翼竜がコマンドマシンを追撃するも、今度は地上から放たれた機関砲によって消滅した。
「お待ちどうさま。南風渓、援護に入ります」
ようやく戦域に到達した渓のBTによる援護射撃が、続いてゲッターの周囲を囲むメカザウルスたちに撃ち込まれて行く。
BTの周囲には、パワードスーツをまとった竜二たち陸戦隊が機関銃とミサイルランチャーを担いで待機している。
ゲッター3は、その段階で自慢の突破力を生かして包囲網の一角を完全に崩しきって離脱。ゲッターミサイルによって"食い残し"を始末し始めた。
BTはその姿を確認すると、くの字型の逆脚関節を折りたたんで無限軌道形態に変形してゲッターの後衛に付いた。
「オープンゲット!」
「チェンジ、ゲッターワン!」
再びゲッター1へと姿が変わる。メカザウルスの数は既に五機を割り、戦場の趨勢は決しようとしていた。
その時である。
突如として各マシンの無線機にノイズが走り、映像が出力された。
投影されたのは薄暗い、石造りの広間。護衛だろうトカゲ顔の兵士たちが左右を固めている。
そして広間の奥、石階段の上の玉座には異形の人影が座していた。豪奢なマントを身にまとう、キングコブラに似た頭部を持つ男。
彼は玉座より立ち上がると、ギラリと縦に割れた瞳孔を光らせながら口を開いた。
《人類を名乗る諸君には、まずはお初にお目にかかると挨拶をしておこう。我が名はゴール! 恐竜帝国の帝王ゴール!》
機械的な手段によって翻訳されただろうその声は、酷く耳障りなしわがれたような声だった。
「恐竜帝国」
「帝王」
「ゴールだってぇ?」
ゲッターロボのパイロット、隼人、竜馬、武蔵が、メカザウルスを掃討しながら映し出された画面を見て声を出す。
画面の中には、ゴールの他にも幹部格であろう姿格好をした翼竜の翼を頭部に持つ男や、小柄な老人のような姿の男が見て取れる。
《実を言えば、我々は驚いているのだ。かつて地上に居たときは森に住まう獣でしかなかったはずの猿が、程度は低くとも文明を築いているのだから》
ゴールは、そう言ってゲッゲッゲッと見下したように哄笑して見せ、自らの、そして恐竜帝国の来歴を説明し始める。
曰く、ハチュウ人類が人類の言う白亜紀に地上で高度文明を築いていた先住種族であること。
曰く、自然災害によって一時的にマグマ層にまで避難し再び地上への帰還を果たしたということ。
曰く、元々この地球は恐竜帝国のものであるから正当な権利の元に全ての土地海域空域は返還されるべきであること。
《諸君ら猿族は、すみやかに我ら恐竜帝国に隷属せよ。さすればこのゴールの名において選別された者の生存を特に許すものである!》
瞬間、自らの寛大さを示すかのごとく両手を広げたゴールの映るゲッター1のコクピットディスプレイを、竜馬の拳が砕いた。
そして飛び散った部品を握りつぶしながら、獰猛に笑う。
「ふざけやがって。何が恐竜帝国だ。化石になり損ねたトカゲもどきが偉そうにっ!」
「おいおい竜馬、物に当たるなよ。そいつを直すのは研究所の整備員たちだぜ?」
「はん! アレだけ言われて黙ってられるかよ。隼人、まさか怖気づいたわけじゃあねえよな?」
通信越しの問いかけに、わずかな沈黙が返る。
直後、竜馬は顔の見えない隼人がニタリと笑う姿を見たような気がした。
「ふっ、なあに、あの似非帝王を、どう始末してやろうかを考えていたところさ」
「まーったくだ! あのぶっさいくなトカゲ面、オイラのゲッター3で叩きなおしてやりたくてウズウズしてらあ」
武蔵もまた、口調こそ軽いがその表情は戦意に満ち満ちている。
研究所、特に早乙女親子の返答については聞かずとも分かる。ゴールに従うような人間ならば、こんなもの(ゲッターロボ)を作ってはいない。
《さて、猿族諸君へはこのくらいにして、だ。実に、実に、実に忌々しいことに、既に我が帝国に刃向かった早乙女研究所の諸君にお伝えしよう》
砕けたディスプレイの向こう側で、ゴールは瞳をギラリと細め、その鋭い歯をむき出しにした。
その視線は明らかに早乙女研究所、そして最後のメカザウルスを始末したゲッターチームへと向けられている。
《我らに対抗するため、ゲッターロボなる人形を作り上げたまでは先ずは見事! しかし、その考えこそ大罪である! 判決、死刑!》
ゴールが腕を振ると同時に、ゲッターロボの眼前で地面が爆ぜた。
さらに地底から出現した四足歩行で巨大な狼に似たフォルムのメカザウルスが、ゲッター1へと襲い掛かる。
《猿の言葉で言えばメカザウルス『ウル』が、貴様らのゲッターロボへの死刑執行人だ! 余に逆らったことを悔いながら死んでいけい!》
そう言い放つと、ゴールは悠然とした調子で玉座へと座りなおす。
そしてゲッター1は、後ろ足で立ち上がった『ウル』にのしかかられるような形で対峙し、迫る顎を眼前にしていた。
「なるほど、たしかにパワーがありやがる。今までの雑魚メカザウルスとは段違いってヤツだ」
「竜馬さん、援護します!」
「余計なことすんじゃねえ!」
渓のBTが両腕の機関砲を『ウル』に向けた瞬間、竜馬の怒声が飛んだ。
その気迫に、引き金を引こうとしていた渓がビクリと動きを止める。
「こいつは俺が、俺たちが売られた喧嘩よ。ゲッターロボ一機で返り討ちにしてこそ意味があるってもんだ」
「まったくだ。それに心配は要らんよ、大した敵じゃあない」
「そうそう、このくらいの敵に渓ちゃんの手を借りるなんて勿体無いってもんさあ」
竜馬たち三人の顔に凶暴な笑顔が浮かぶ。
両腕は封じられた。重量の差、『ウル』の動きの素早さから、抜け出すことは困難だろうと分かる。
しかしそれがどうしたと言うのか。
ゲッター1には武器がある。今までは"使う必要すらなかった"ために使われなかったが、実におあつらえ向きの強力な武器がだ。
「行くぜ! ゲッタァァァァァァビィィィィィムッ!」
閃光が放たれる。
目もくらむような、桜色にも似た輝きが閃き、『ウル』の胴体装甲を貫き機械部分を爆散させる。
「うげっ」
「溶けっちまったぜ!?」
そして、同時に発生した現象を目にした竜馬は顔を引きつらせながら声を発し、武蔵も同様に驚きの声を上げた。
メカザウルスを構成する生体部分。恐竜、爬虫類によく似たそれが、まるで強酸でも浴びたかのようにドロドロと融解を始めたのだ。
「……」
その光景を前にして、その場で唯一隼人だけは何事かを考えるような風に口をつぐんでいた。
そしてゲッター1の腕から投げ捨てられて解放された『ウル』の残骸は、地面に着く前に白骨化してしまう。
《まさか、いや、ばかな、しかし、間違いない、あれは! あれは!!》
遠く、その光景に反応したのは、通信越しに戦闘を観測していた誰あろう恐竜帝国の首魁ゴールであった。
傍らに控える幹部たちも、一様に驚愕、あるいは憎しみの表情を浮かべ、映し出される溶解した『ウル』の姿に見入っている。
《ガレリイ技術長官!》
《は、ははっ! 陛下のお考えどおりに違いありません、あれは、あれこそは、かつて我らを地底へと追いやった元凶!》
《猿め! 忌々しい猿どもめ! よもや、よもや、あのおぞましい宇宙線によって変異していたとはッ!!》
凶相と評してもいいだろう。ゴールは牙をむき出しにし、目をクワと広げ、絶叫するかのごとく咆えた。
人類がゲッター線と呼ぶ宇宙から降り注ぐ放射線こそ、恐竜帝国を地上から追いやり恐竜種族の大量絶滅を引き起こした元凶であった。
ゴールは、再び通信機を作動させると人類全体に向かって告げる。
《猿ども! 聞こえているか猿ども! 貴様たちに我ら恐竜帝国の恩寵を与えんとしたこと、このゴールの不覚であった! 滅びよ! 断じて滅びよ!》
まさしく怨讐。
母なる大地である地球を穢し、猿を進化させ、またゲッターロボなる兵器となって仇をなす宇宙線。
そしてそれを兵器として扱う呪われた種族を絶やさねばならぬと、ゴールは決意する。断じて、断じてと。
NEXT 出撃、ゲッターゼロ