沖縄。
在日米軍基地の存在が示すように軍事的な要衝であるこの地域の重要性は、今さら語るまでもないだろう。
恐竜帝国の出現に伴い配備されていた日米の軍備は迎撃のため稼動をはじめ、また付随する研究機関にも最大限の働きが期待された。
たとえば対メカザウルスを想定した砲弾やミサイルの開発、そしてゲッターロボ量産計画である。
さてゲッターロボ。これは元々宇宙開発用に開発されたものである。
父さん、つまり早乙女博士が恐竜帝国の存在を察知したことで武装を搭載されたが、基礎部分は戦闘用とは言い難い設計にせざるをえなかった。
ところがこの『宇宙開発用装備を転用した』と言うお題目が、日本の政治事情として非常に便利であったのだ。
おかげで密かに、もとい新たに設計開発されているゲッターロボではなく、現行機のゲッターロボベースで量産計画がスタートしてしまった。
政治絡みでは国会で軍靴の足音が~などと言った議員に対する隼人と父さんの顔がすごく怖かった、とだけ言っておく。
こうしてスタートした量産計画だが、実際に始動してみれば新型ではなく現行機ベースにしたのは悪くない判断だったように思う。
と言うのも、ゲッターロボの搭乗員に求められるスペックが高すぎたのだ。
音速飛行状態からの変形合体に対応できないでは、仮に新型を量産しても性能を持て余してしまうだろう。
パイロット候補生の9割がシミュレーターを吐しゃ物で汚した段階で、まず人間が乗れる物を作って下さいと自衛隊から苦情が来たのだ。
結果として出来上がったのは、変形合体分離機構をオミットした1・2・3各形態固定のゲッターロボ。
炉心のほうも商用発電機として設計していた物から転用して、出力低下と引き換えに持久性と安定性を増し複雑な機構を排除して防御力も向上した。
ゲッタービームの威力など戦闘力は低下したが、一人乗りで訓練をすればそれなりに誰でも乗れるなど利点もある。
総じて評価は佳作と言った具合だろう。
こうして多少の遅延はあったものの実機の生産とテストも行われ、僕が自衛隊の沖縄基地に出向してから一ヶ月程で実戦配備の目処が立った。
先行量産型の三種三機のゲッターロボは、搭乗員の選定も済ませておりあとは部隊への配備を待つ状況だ。
形状は竜馬たちのゲッターロボとほぼ変わらないが、試験用に灰色にオレンジというカラーリングで配備後は緑色に塗装されるそうだ。
そして、そんな量産型のパイロットの一人が、いま僕と一緒に通路を歩いている巨漢だった。
「達人さん、いよいよですね実戦配備」
「ああ、弁慶たちも今日までよく頑張ってくれた。いや、コレからが本番か……」
車弁慶。
"原作"では武蔵亡き後のゲッターチームの一員であり、ゲッターロボGを構成するポセイドン号のパイロットだ。
この世界では自衛隊に所属する若手の自衛官であり、量産型ゲッター3のパイロットとして選定されていた。
僕は、そんな彼とともに量産型ゲッターロボが置かれているハンガースペースへと向かう通路を歩く。
そうして入り口である鉄扉を開けようとしたその時、―――突如として基地全体を揺らす爆音が響き渡るのだった。
「っ!?」
「うおぉぉぉっ! なんだ、何がおきたんだ!」
吹き付ける突風のような衝撃と粉塵に耐えながら目を開くと、整備スペースに置かれていたゲッターロボに向かって異形の影が近付いていた。
敵。
考えるよりも先に体が反応し、僕は傍らのツールボックスに刺さっていた大型レンチを投擲した。
《GIYAA!?》
工具とは言え、もはや鈍器と呼んでも差し支えのない金属塊の直撃を受けた異形は、這い上がろうとしていた量産型ゲッター3から滑落していく。
狙ったわけではないが、どうにもいい場所に当たったらしく落下した異形はピクリとも動かない。生死は不明だが、ひとまずはそれでいい。
「弁慶、ゲッター3に向かえ!」
「え? は?」
「敵だ! ボヤボヤするな! 死ぬぞ!」
「はいぃ!」
まだ状況がわかっていない巨漢の尻を蹴って量産型ゲッター3へと向かわせた僕は、足早に作業用階段を駆け上がった。
視線の先では量産型ゲッター1のコクピットに滑り込む歪な人影が見える。
そして駆け上った階段から、僕はこの場における"4機目"のゲッターロボのコクピットに身を躍らせた。
同時に、桜色の閃光が整備スペースの壁を突き破って基地を破壊していく。量産型ゲッター1によるゲッタービーム攻撃だ。
量産型ゲッター2も起動し、ドリルを回転させ手当たり次第に周囲をなぎ払っている。
《聞こえるか、猿ども!》
通信機越しに、おそらくは男性のものだろうひび割れた声が聞こえてきた。
発信源は基地の外壁を破壊して、悠然と空中に浮かんでいる量産型ゲッター1。
《我が名はニオン! 恐竜帝国地竜一族が長、キャプテン・ニオン! 恐竜帝国のため、このゲッターロボはいただいていく!》
再び閃光が走り、量産型ゲッター1のゲッタービームが基地に配備されていた戦車をなぎ払う。
かろうじて稼動している対空砲では敵ゲッター1に有効な打撃を与えられず、そのまま再び走ったゲッタービームの閃光に焼かれた。
「達人さん! ありゃあどういうことですか?! トカゲどもはゲッター線に弱いって話じゃあ!」
「知らん! それよりも格納庫から離脱するぞ。崩れれば身動きが取れなくなりかねん」
通信機越しに弁慶に対してそう言うや、僕は手元のスイッチを強く押しこみペダルを踏んだ。
ゲッター炉心に火が入り、コクピット各部に設置された計器の数値が跳ね上がる。
「む、無茶だ達人さん! ゼロはまだ未調整のはず!」
「それでもやるしかないだろう!」
幾つかの数値を手動で修正しながら、僕は操縦桿を押し込む。
この機体はゲッターロボ量産計画のテストベッドであり、世界で初めて起動に成功した"始まり"のゲッターロボ。
かつてはプロトゲッターと呼ばれ、数々の試験を経て竜馬たちが乗るゲッターロボを世に送り出した存在。
故にその名はゲッターゼロ。
早乙女研究所において実戦仕様への改修を受けて生まれ変わったゲッターロボ0号機。番外のゲッターだった。
ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編
第三話:出撃、ゲッターゼロ
起動出力をクリアしたゼロの心臓(炉心)が戦いのための唸りを上げた。
踏み出した足が搭乗用に備え付けられたタラップを吹き飛ばし、その背から白色のマント……ゲッターウイングを展開して風を起こす。
ゼロの姿は、竜馬が使うゲッター1のそれとほぼ同じだ。白と灰色をメインにしたカラーリングだけが大きく違う
ただし実戦仕様に改造を受けたとは言え、性能面ではゲッター1に及ばない。
ゲッター炉心は量産型と同じく汎用型であるし、何よりもゲッターロボの真価は三つの心を一つにしてこそ生まれるものだ。
だけど、それでも―――。
「達人さん、こちら弁慶! ゲッター3起動しました!」
通信機から弁慶の声が届いた。
カメラの向こう側では、量産型のゲッター3が周辺の機材をなぎ払いながら前進しているのが見える。
「管制室。こちらゲッターゼロ、聞こえるか?」
一方で、通信機への呼びかけは雑音だけが返答だった。
格納施設の破孔から見える基地司令部方面では黒煙が上がっている。つまりは、『そういうこと』なのだろう。
「弁慶、聞こえるか? これから奪取された量産型を追撃する。できるな?」
「え、ええ?! 自分達だけでですか? ぞ、増援は?」
「待ってる暇あるか。とにかく足止めをしないと市街地に被害が出る。急ぐぞ」
言ってペダルを蹴り上げ、僕はゲッターゼロを空に舞わせた。
瓦礫と化した基地の中、灰白色のゲッターロボが4機4種対峙する。
《フゥン……ゲッターロボ、4機も用意していたとは忌々しい》
外部スピーカーを使って、ニオンと名乗ったハチュウ人の男の嘲る声が届く。
「他人の物を勝手に持ち出しておいてその言い草はないだろう? それともゲッター線で日焼けでもしに来たのかい?」
敵を相手に問答という趣味もないのだが、僕はあえて挑発的な言動で相手に呼びかけてみせた。
相手の冷静さを奪えればよし程度の思惑であったが、どうにも幸いニオンはこらえ性の無い手合いであったらしい。
《猿が! 我等地竜一族、ゲッター線など恐れはせぬわ!》
強調して口にしている地竜一族と言う言葉には、強い自負とどこかしらの劣等感が感じられた。恐竜帝国内部にも部族対立なりがあるのだろうか。
まあ、その辺りは倒してから考えればよいことだ。
僕は踊りかかってきた敵ゲッター1を迎撃するため、ゲッターゼロを奔らせた。
《ぬぅ!?》
ゼロの左椀に接続された特殊鋼版製のバックラーが、敵のゲッタートマホークを受け流す。
僕はその隙を打つべく回し蹴りを見舞い、敵ゲッター1を大きく傾がせる。
さらに追撃をかけるために踏み込んでもよかったが、横合いの敵が動いたためにそちらへの対処を優先する。
僕は回し蹴りの勢いをそのままに、ドリルを振りかぶった敵ゲッター2の攻撃をかわし先程は防御に用いたシールドを思い切り叩き付けた。
「いまだ、弁慶!」
「う、うおおおおっ!」
そして体勢を崩した敵ゲッター2の背後から、瓦礫を蹴散らして猛進する弁慶のゲッター3がぶちかましをかける。
パワーと安定性に勝るゲッター3は、敵ゲッター2に組み付いて拘束し勢いをそのままに離れていく。
この間に敵ゲッター1も体勢を立て直していたが、僕が間に割って入ったことで味方の援護に向かう事はできない。
《おのれ、下等な猿の割りに……だが、どうやら貴様のゲッターロボ、マトモな武器を積んではいないらしいな!》
吐き捨てるようなニオンの言葉、実のところそれはおよそ正しかった
ゲッターゼロはゲッター1に酷似した外観をしているが、その最大の特徴であるゲッタービームを搭載していない。
いや、それどころかゲッタートマホーク等の格納機構も有しておらず、武装はあくまで外付けや手持ちの装備に頼る方式となっていた。
そして現在の装備は両椀のバックラーのみ。
武器を装備するためのハードポイントはあれど、肝心の武器本体は瓦礫の下だろう。
《フフフ、図星のようだな!》
ニオンの言葉とともに、ゲッタービームの輝きが敵ゲッター1の腹部に灯る。
閃光が放たれるその一瞬、僕はフットペダルを思い切り踏み込んでゲッターゼロを突撃させた。
《捨て身になったか! ならば貴様ら自身が生み出したゲッター線の光に焼かれるがいい!》
放たれるゲッタービーム。僕は、それを受け流すようにゲッターゼロの左腕のシールドで防御した。
そうしてゲッタービームを受けた特殊鋼板が、激しい光を上げながらスパークするが装甲を貫通するには至らない。
《なんだと!?》
ニオンの驚愕の声が響くものの、僕からすればこれは当然の結果だった。
元よりオリジナルに比べて低出力のゲッタービーム。加えて耐ビームコーティングが施されたシールドであれば、十分に防御可能だ。
「悪いなニオン君。それを作ったのは僕なんだ」
そう言いながら、ゲッターゼロの左の盾でビームの照射を続ける敵ゲッター1の腹部装甲を強打する。
表面が融解した左盾をパージしてさらに右の拳を打ち込み、最後に宙返りをするように機体を舞わせながら蹴り上げの一撃。
これによって敵ゲッター1はしりもちをつくような形で倒れ、さらに自らのゲッタービームで発射口付近を大きく破損させた。
《ぬぅぐっ、ぐぁ、猿があぁぁぁぁ》
そして、絶叫するようなニオンの声。
おそらくは発射口の破損でコクピット内部に漏出したゲッター線を浴びたのだろう。その声音はくぐもり、苦痛にまみれている。
ニオンはゲッター線に耐える何がしかを持っていたようだが、それも完璧ではないようだ。
《死ぃねぇぇぇぇっ!》
殺意を孕んだ声とともに、敵ゲッター1が二本目のトマホークを引き抜いて踊りかかってくる。
だが……。
「悪いけど、今日初めてゲッターに乗った相手に負けてやるほど、僕は親切じゃない」
ニオンも腕はいいのだろう。初めて扱うゲッターロボでそれなりに動けていることは評価してもいい。
だけどそれでも、こっちは何年もゲッターと付き合ってきた自負がある。
《げ、ひ……》
悠々とトマホークをいなして拳を打ち込み、衝撃にあえぐニオンの声を無視して足払いをかけ再び敵ゲッター1を地面に転がす。
そして、僕はゲッターゼロの右腕をそっとコクピットの上にあてがった。
頑丈に作った量産型、残念ながら丸腰に近いゼロが与えうる致命打は一つしかない。
「ゲッタースパイク」
言って、引き金を引く。
ゲッターゼロに搭載されたシールドの形状は左右で同じだが、その種類は二つである。
一つは先程使用した対ビームコーティングシールド。これは純粋に防御用の装備であり、それ以上のものではない。
だがもう一つは違う。
「一応は作業用だったんでね、杭撃ち機も積んであるんだ」
ガランと音を立てて、大型の薬莢が地面に落ちる。
コクピットを貫通した特殊鋼の杭を眺めながら、僕はニオンに向けて声をかけた。
原型を留めているかはわからないが、彼も自分の死因くらいは知っておきたいだろう。
「弁慶、手伝いはいるかい?」
「いえっ! 今終わりました!」
通信機からの返答にもう一つの戦場へ目を向ければ、弁慶のゲッター3が敵ゲッター2のコクピットを重量任せに押しつぶすところだ。
さすがはゲッター3。量産仕様でもその馬力は折り紙つきというやつだ。
僕は瓦礫の山になった格納庫周辺の基地施設を見回して、ため息を一つ吐く。視線の先では、ようやく駆けつけた救援が消火作業を始めていた。
こうして量産型ゲッターロボ強奪事件は、奪取された二機の破壊と言う形で収束する。
基地施設内部で始末が付いたために大事には至らなかったが、初期ロットの三機中二機が大破、かつ研究施設も壊滅し、計画は見直しが決定した。
見直しと言うがゲッターロボの量産という点では実質的な凍結であり、予算と人員は従来兵器の改良に振り分けられた。
そして……。
「車弁慶でありまぁす! 本日より早乙女研究所に出向となりました! よろしくお願いしまっす!」
竜馬と隼人が思わず耳を塞ぐ大音声で自己紹介をしている弁慶は、言葉通りに自衛隊から早乙女研究所への出向要員として派遣されることになった。
沖縄基地で訓練中であったパイロット候補生の全滅と、ゲッター量産計画凍結のためであり半ば厄介払いと言えなくもない面がある。
元々ゲッターロボ部隊というキワモノの運用に消極的であった自衛隊であり、それを示すように破壊を免れた量産型ゲッター3も送られてきた。
国会に置ける緊急的な法整備も完了し、これをもって早乙女研究所はゲッターロボ運用拠点として本格的な稼動を開始できる。
なお量産計画凍結と同時期に、反対派議員のスキャンダルが噴出した上に当人は交通事故に遭ったらしいが、まあ僕には関係無いことである。
なぜか父さんと隼人が新聞を見てニヤリとしていたが、関係無いと言ったら無いのだ。
さておき、こちらの準備が整ったのと同様に、敵方もまた本格的な侵攻を行い始めるであろう。
これまでのような小規模なものではない本格的な戦いの気配が近付いていた。
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