アイエエエエ!? ニンジャ!? ナンデニンジャ!?
雄英高校初登校前日の夜、乱駄無は明日が来るのを今か今かと待ちわびながら、布団の中でクネクネともがいていた。
遠足前の小学生さながらである。
「……なぁ、学校で皆と仲良くなるためにはどうしたらいいと思う?」
乱駄無は背中を向けつつ、看護AIに悩みを打ち明ける。
この16年間、人との関わりが極端に少なかった彼のコミュニケーション能力は当然皆無であり、自分と同年代の人間にどう接すればいいのか分かるはずがなかった。
知らないというだけで不安が込み上がってくる。
人の心とはこれほど面倒くさいものなのかと、乱駄無は他人事のように捉えながら、AIの応答を静かに待った。
〔検索します。……興味深い記述を確認。〕
「教えてくれモニター」
〔解析。……『全国陰キャ童貞ボッチ道連れ同盟.com』の記述によると、「派手に行ってネタキャラに昇華すればポジションは獲得出来る。全裸だ。全裸で行け()」、「開幕一発ギャグしろ。もちろん下ネタな()」だそうです。〕
「……ねぇ、他にマシなの無いの?」
「検索。……発見、解析します。……『WAO(World Alone Opinion)』、通称『世界ボッチ機関』の記述によると、「登校を拒否せよ。我々が帰るべき場所は
「……私なんかより、病院で入院した方がマシな人間がたッッくさんいることがよーく分かったわ。もう寝る」
クソの役にも立たないアホAIと大量のボッチが蔓延る世間に呆れながら、乱駄無は静かに布団を被った。
結局、明日どうやって自己紹介すればいいのか、分からないままになってしまった。
別に失敗してボッチになったとしても、生まれた時からボッチな私にとってはさほど問題無い……けど、せっかく通うのだからその、『友達』……とか欲しくなるのは不自然なのだろうか。
よく分からない、けど、このさっきから喧しく騒いでいるこのドキドキした気持ちは、悪くないかもしれない。
「……男がドキドキしても誰も得しないですよ?」
「うるせぇよ!! いいだろバカヤロー!!」
嫌味ったらしく言葉を吐き捨てるAIに、乱駄無はキレ気味に文句を言った。
いつも思うが、このAIはいったい何なんだろうか、はっきり言ってコイツ全然AIらしくない。
AIってのはもっとお淑やかで、主人の命令を淡々と実行する、機械的で自動的で、私情を挟むことなど絶対無いような、そんなものだと前はイメージしていた。
けどコイツは何? 私情どころか皮肉や嫌がらせをバリバリ混ぜてくるし? 主人の要望を叶えるどころかグチャグチャにぶち壊して嘲笑するような、どこか上から目線な態度、到底許されるものでは無い。
あまりにムカついた結果、二度、モニターを完膚無きまでに叩き壊した事があったが、翌日になると新しいモニターが当然のごとく支給されたし、クソAIも引き継ぎ完了されていた。
つまり、キレて壊しても無駄なのだ。
無駄なので私はこの怒りを、クソAIを作った製作者に一発拳を叩き込むまで奥底に静かに沈めることにする。
「……乱駄無さん、私が自己紹介のコツを教えて差し上げましょうか?」
反省したのか、はたまた追い打ちをかけに来たのか、ポンコツAIは諭すように話しかけた。
「…………どうせ、ろくでもないんだろ」
期待せず私は布団の中で
「……自己紹介のコツは、相手に自分の持つ個性をアピールすることです」
「……」
「個性……というのは、単に自身の能力だけでなく、好きな食べ物や好きな色、趣味や特技といったものです。そういった自身の情報を相手に公開することで共感や共有、もとい『友達作り』に発展するのです」
「…………なるほど」
「参考になりましたか?」
クソAIの癖にひどく丁寧に説明されて呆気を取られたが、確かに参考にはなった。
「参考になった…………けど」
「その、ここの食事って3食全部カロリーメイトとおーいお茶だし、施設内の色って殆ど白と黒だけだし、そもそもこの部屋何も無いから趣味もへったくれも無くない?」
「…………」
押し黙った二人の間に生まれた悲しき静寂。
予算が少ないのか、それとも予算を回す気が無いのか不明だが、とにかくこの施設は娯楽要素が少なすぎる。
食事はカロリーメイト、景色はモノクロでせいぜいあるのは被験者の運動能力を計るために作られた運動場くらい。
予算が足りないのか、それとも予算を回す気がないのかは定かではないが、とりあえずここの施設はクソだってことだ。
「…………寝るか」
明日のことは明日考えればいい、そう思った乱駄無は布団の中でスヤスヤと眠り始めた。
◇◇◇
翌日の午前8時30分。
《雄英高校 1年A組》
何気ない日常、最下位のスコアを出した生徒は退学する地獄の『個性把握テスト』(退学はフェイクだったが)を乗り越えた彼らは、お互いの個性や趣味について楽しげに語り合っていた。
まだ知り合ってから数日も経っていないが、その仲の良さはまるで戦争で生き残った戦友同士のごとく打ち解け合い、またある程度グループが形成されている。
ガラガラッ
「……おはよう」
「「「おはようございます」」」
担任教師である相澤先生が目元に隈を引っさげ、のそのそと登場。
相澤先生の存在を感知した雄英生徒は即刻会話を中止し、喋る石像と化す。
「……とりあえず飯田、号令」
「キリぃぃぃぃつッ!! れぇぇぇぇぇぇッッ!! 着席ッッッ!!!」
ガタガタガタッ
気合いの入った号令が高らかに鳴り響き、飯田は口角が釣り上がるほど興奮していたが誰もツッコミはしない。
今日は何を言い渡されるのか、また無茶苦茶なこと言われるのではないかと警戒する生徒達だが、その予想は大きく裏切られることとなる。
「えー今日はね、
「「「クソ学校ぽいの来ッッッ…………」」」
「って…………」
「「「ええええええッ!!?」」」
突然の転校生来校に驚愕するA組。
そもそも難関高校に転校などという話は聞いたことがない。
余程頭がいいのか、それともかなりの身体能力の持ち主なのか、いや両方を兼ね備えたとしてもやはりおかしい。
まだ5月なのに転校って…………あるの?
「静かに。……ま、お前達が驚く気持ちは分かるが、この転校生は例外中の例外。滅多にあるもんじゃないから…………まぁ仲良くしてやってくれ」
左手で顔を隠しつつ溜息を吐く相澤先生を見て、これは経歴がかなりヤバいアレな奴だと察する生徒達。
だが異例の転校生などというビッグニュースを聞けば、誰であろうと盛り上がるし、考察したくなるものである。
「ねぇねぇ、誰が来ると思う?」
「イケメンだったらいいよねぇ」
「イケメンなら轟がいるじゃん」
「イケメンは何人いてもいいの!」
ピンク色の肌をした女子と、透明人間の女の子、耳の長く胸のない少女が愉快に会話を繰り広げる。
「可愛い女の子だったらいいなぁー!」
「熱い男は大歓迎するぜ!!」
「ビッチな女ァァァァァァァ!!!」ベシッ
エレクトロニックな青年と全身カチカチの青年が互いに理想の転校生を思い浮かべ、頭から黄色ブドウ球菌が生えている少年は妄想の世界へとダイブしかけたが、同じクラスのカエルのような女の子に舌で叩かれ妨害される。
「はい静かに。駄べるならファミマのトイレの中だけにしてね。…………じゃ転校生、入ってきて」
もうドアの向こうにいるらしく、相澤先生は眠たげに手招きをしている。
イケメンか、はたまた可愛い女の子か、それとも熱血漢、ビッチ、天才、脳筋、陽キャ、陰キャ、キチガイ…………誰なのか全く予想出来ない、だからこそドキドキが止まらない。
ガラガラッと扉が開く。
それをじっと見つめる1年A組の生徒。
緊張の一瞬、唾を一口飲み干した直後、現れた生徒の正体は…………ッ!!
「あーちくしょう、全部あのクソAIのせいだ。きっとそうだ。帰ったらぶっ壊す、ギタギタにぶっ壊す、NHKもろともぶっ壊す」
(((なんかヤベェ奴来た)))
死んだ魚のような目をした、白髪で小柄でひ弱そうな少年が、ブツブツと恨み言を吐きながら入ってきた。
「あっ…………」
少年は何かを察すると、ピキピキッという音が聞こえてきそうなくらいに体の動きが固まり、錆び付いた自転車の鍵穴のごとく、ぎこちなく首を回しあたりを見回した。
(ヤベェ、絶対変な奴だって思われてる)
ついさっきまで自己紹介の仕方について死ぬほど考えていたが、特に何も思いつかなかっため取り敢えずクソAIのせいにして緊張を紛らわそうとしていたのだが、裏目に出てしまったようだ。
思考回路がどんどん閉塞していく。
なにか手を打たないと第一印象がヤベェ奴だと思われてしまう。
まるで失望したかのような目線でこちらを見てくるA組の生徒達、ここからどう挽回すればいいのか……。
「じゃ、自己紹介よろしく。手短にね」
静かに告げられる相澤先生の声。
ここだ、挽回するならここしかない。
そう感じとった私は朝の家に何度も練習した自己紹介の内容を再びインストールし、言葉として吐き出す。
(自己紹介のコツは確か…………)
"派手に行け。全裸だ。登校拒否。自分の個性をアピールすること。派手に行け。全裸だ。登校拒……"
昨日の会話が走馬灯のごとく蘇る。
ただしゴチャゴチャしていてどれが正解なのか区別がつかない。
"乱駄無、強気で行け。お前だけの力を示すんだ"
どこか聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。
誰だったか思い出せない、けど、その言葉は私に一欠片の勇気をくれた。
「……私の名前は
自分とは思えないくらいのオラついた口調で、私はスラスラと自己紹介した。
「個性は…………」
そう言いかけた直後、喉元で一旦ブレーキがかかる。
自分の個性、他人に言ってもいいものだろうか。
この個性のせいで私は施設に隔離され、忌み嫌われ、今日この日まで過ごしてきた。
嫌われないだろうか。
避けられないだろうか。
心配な部分は多々ある。
けど、まぁ、いっか。
「私の個性は……『パルプンテ』だ」テレテレッ!
パァン!!
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
パルプンテ、……そう告げた直後に奇妙な電子音が流れると突如空気が爆ぜた。
しまった、私の個性は使う意思があろうとなかろうと
いやしかし、元々何かしらのパフォーマンスをする予定ではあった以上、この機会は転校生の私としてとても美味しい場面だ。
仮にとんでもない失敗をしたとしても、それを利用してギャグキャラのポジションを獲得すれば……
「ん?」
やけに涼しい風が私の肌を撫でる。
そして妙に股間の通気性が快調になった気がしてならない。
私はサッと目線を下に向けた。
私のモビルアーマーがキャストオフし、そそり立つビートルが現世にて卍解した。
飛び出したダブルニップルも、クラスメイトに銃口を向けている。
「なんてモノ出してやがる……
「いやお前だよ」
すかさずツッコミを入れる上鳴。
雄英生徒が真顔で見守る中、彼の目は既に灰色に染まり、吐血を繰り返しながら自身のビートルに向けて語りかけていた。
「げぼはァッ!! ……へへっ、私は永遠の病的患者、オル……ゲボほぉッ! ……こんくれぇなんてこたぁねぇ」
「……今オルガって言いかけたぞ」
「何で鉄血のオルフェンズなんだよ……」
血を撒き散らしながら、1歩、また1歩と窓に向かって歩んでいく。
景色が霞んできた、体もドンドン冷えてきている、もう私の生命はそう長くは持たないだろう。
だが最後くらい、あの青空の元で、みんなに見守られながら、死にてぇもんだ。
「まっ、窓が近い……! 私はここから、大空にフライアウェイするんだ!!」
「「待て、早まるな!!」」
大勢の人が私を止めるべく、ドタバタと席を外した。
たった一人の人間のためにここまで尽くすなんて、このクラスは優しい人でいっぱいだ。
「とぉうッッ!!」
だからこそ、生き恥をさらした私は死ななければならない。
パリィン!!
全身に降りかかるガラスの破片、窓を割って外に出た私が向かう先は、目が霞むほど遠くに存在する奈落の底。
およそ20mほどの高さから落下した私の体は自由落下運動を始め、徐々に落下速度が加速していく。
この高さから落ちれば死は免れないだろう、だが私の心には動揺や焦りといったものはなく、むしろ清々しいしょうねんのたますぃーをビンビンに感じていた。
クラスのみんな、出会ってほんの少ししか時間が経ってないけど、先に逝っちまってゴメン。
自己紹介が事故紹介になっちゃったけど、許してくれピーマン。
最後に一言、一言だけ言わせてもらうと……
「これからも、個性『パルプンテ』をよろしくねっ!」テレテレッ!
「アイツ、露骨に宣伝しやがったッッ!!」
彼の体が地面に触れた瞬間、まるで弾力性に富んだゴムボールのごとく地面を跳ねた。
おそらく個性『パルプンテ』によって、一時的に彼の体がゴム人間に変わってしまったようだ。
今ならゴムゴムのピストルが撃てるかもと思いつつ、乱駄無はそのまま我が家へと帰っていった。
「何だったんだ…………アイツ」
取り残された1年A組のクラスメイトは帰っていく彼が視界から消えゆくまで、彼の背中を呆然と眺めているのであった。
ギャグって難しい。\ウワァァァァ/○| ̄|_
コロナで退屈かもしれませんが、ここはみんな一致団結して協力し合い、外出を控えて自宅警備に励みましょう。ふぁいとだお