かみゅキャン△ ── Camus Canp ── 作:Towelie
何時までも降りしきる6月の雨。
本来なら夏の前の爽やかな風が通り抜ける過ごしやすい季節なのだが、今は黒い闇が支配する異形の世界の中に閉じ込められていた。
森林鉄道の廃線跡。
その上を木々が囲むように覆っていて、さながら緑のトンネルを作っていた。
誰が作ったものは分からない、何時の間にかこうなっていた。
その中を二人の少女が寂れた線路の上を手を取り合って歩いていた。
当てのない目的地を目指して。
リボンのカチューシャを付けたショートヘアの少女。
長い髪を二つに束ねてキンセンカの髪飾りを付けている少女。
少女達は普段の様に和やかに談笑しながらトンネルの中を連れ立って歩く。
その先に待っているものの意味すら分からずに、ただひたすらに歩くことだけを続けていた。
それでも二人はかけがえのない幸せを感じていた。
この世界にいるのは二人だけ、二人ぼっちの異常な夜の世界、それでも幸せだった。
そのはずだったのに……。
あれ? と一人の少女が不意に立ち止まる。
その目線の先は木々が払われている広場のような場所がトンネルの脇から見えた。
そこは緑のトンネルに覆われていないので、星さえも遮る黒い雨に晒されている場所だった。
その光景には少し前の嫌な記憶と酷似していたので、もう一人の少女は繋いだ手を少し強く引いて先を急ぐよう促した。
二人は似たような広場で休憩を取っていた際に、重機に襲われるというトラブルにあったばかりだった、しかも誰も運転していない無人の重機に。
”世界が圧縮しているから起きた現象”との説明を受けていたのだが、正直なところイマイチ理解は出来ていない。
そもそもこの夜の世界では奇怪な出来事ばかりが続いて、何一つ納得できるようなことには出会ってないのだから。
またあんな危険な目に合うのは流石に懲り懲りなので素通りしようと考えていたのだが、雨煙中、浮かび上がるように何かが広場の中央にあるのが薄く見えた。
あの時の重機が追いかけてきたのかもしれない。
焦燥感に駆られて更に強く手を引くショートヘアの少女。
──だが、ツインテールの少女は広場の中央の物体に指を差して、一言呟いた。
「あれって、何だろう……?」
夜雨に包まれた広場の中央を息をひそめたまま、目をじっと凝らしてみた。
遠目ではいまいち判明しづらいが、雨にうたれている白い何かを確認することが出来た。
それは動いてもいないし重機等とは違い、機械的なフォルムのようにも見えない。
どちらかというと平べったく柔らかそうにも見える。
そう、例えて言うなら蒲鉾のような……。
ショートヘアの少女はトレッキングを趣味としていたのでその蒲鉾のような白い物体に見覚えがあったことを今、唐突に思い出した。
そう、あれは蒲鉾というより……。
「多分、テントじゃないかな、あれ」
雨の中、広場の中央にさほど大きくないテントが一基立っている。
少女はそう確信した。
だが、それでも危険性がなくなったわけではない。
テントの中に何かが居た場合それは普通の人間じゃない場合がある。
というより残念ながら既に人間ではないのだろう、今の二人にはそれが自然な結びつきだった。
通常なら異質な考え方なのかもしれない。
だが、二人の少女がこの夜の世界に閉じ込められてからは一人としてまともな人間を見たことないのだから無理もなかった。
一部例外的な人も居るには居るのだが……あの人はそれ以前の特別な存在だと二人は認識していた。
あの青いドアの家の穏やかな黒髪の人……。
あの”顔のない人間とは違う何か”には通常の人とは異なる特徴があり、不可解な唸り声と独特の鼻につく臭いで判別することが出来た。
少女達は耳を澄まし、周囲の臭いも嗅いでみたが、雨音と木々と葉の青い臭いしか感知することが出来なかった。
つまり今は脅威はないということになるのだが……。
二人の少女達は顔を見合わせて出来る限りの小声で相談し始める。
「燐。どうする、見に行ってみようか?」
「そうだねぇ……」
燐と呼ばれたショートヘアの少女はその提案にしばし腕を組んで、答えを出すのを躊躇っていた。
さて、どうしようか?
これより更に前に作業小屋を訪れたときには誰も居なかったのだけれど、後で顔のない何かには遭遇してしまっていた。
廃墟となった保養所で休んでいた際には、あのヒヒと遭遇することに……。
燐の脳裏に嫌な思い出ばかりが隆起されて、無意識に眉根を寄せてしまっていた。
結局のところあまり余計な事はしないほうがいいのかもしれない。
二人でこの世界から出ることだけが目的なのだから。
「蛍ちゃん、先を急ごう。行っても多分、無駄だと思うよ」
燐の言うことは最もだった。
あのテントの様なものが気にならないわけでもないが、今は特にそれが重要なことではないような気がする。
何よりここで立ち止まっていることこそが無駄な気がしていた。
「それもそうだね。余計な気を遣わせちゃってごめんね」
蛍と呼ばれた少女は少し申し訳なさそうな表情で微笑んだ。
「ううん、大丈夫だよ」
それに燐も微笑み返して蛍に手を差し伸べる。
二人は再び手を取り合ってトンネルの先を目指すことにした。
その先にあるはずの出口を目指して……。
…………
………
…
「ううっ───!!」
悲鳴ともとれる叫び声が緑のトンネル内に響き渡った。
突然の事に蛍は驚き、思わず燐の腕にしがみついた。
燐は体を膠着させたまま、周囲を警戒するように辺りをきょろきょろと見回す。
……何の気配もない、あるのはただ、木立の隙間から見えるあのテントだけ。
やっぱりあの白い何かが居るに違いない!
二人は頷き合ってこの場から離れようと足に力を籠める、その時──。
「あうぅぅ~お腹すいたよぅ~!!」
二人が出したものとは違う言葉がハッキリと認識できた。
あの顔のないナニカでもなく、ラジオからの声でもない、もっと幼い感じの可愛らしい少女の悲痛な? 叫び声が二人の耳に届く。
「ん……まさかとは思うけど、テントが喋ってるわけじゃないよね?」
テントが意志を持っているなんてことは普通なら荒唐無稽なことなのだが、今のこの世界ではあってもおかしくはないような気になるから不思議である。
この異常な夜の世界に慣れ過ぎているからこその燐の発想だった。
「テントがお腹すくなんて……なんか可愛いよね。それに声だって可愛いかった」
蛍はこんな状況で不謹慎と思いながらも、空腹のテントを想像してクスッと笑みを零してしまう。
蛍と燐はこの世界で様々な常識外れを目の当たりにしてきた。
だからこそ、今更在り得ないというものこそがないのかもしれない、この世界では正常なものなど一切なかったのだから。
「
テントからまた叫び声がしていた。
だがその名詞には二人共電気が走ったかのように、びくっと体を反応させてしまっていた。
燐と蛍は目を丸くして顔を寄せ合った。
「今、確かに”
「うん。わたしにもそう聞こえたよ」
聞き違えがないかお互いに確認してみる。
どうやら聞き間違ってない事は分かったのだが……。
「クラスの子が居るのかな? 燐、誰か心当たりある?」
「あ、うーん、わたしの知り合いにこんなところでキャンプするような子っていたかなぁ?」
燐はむむー、と瞼を閉じて再び考え込む。
友達は多い方なのだがキャンプをするようなアウトドアな子は皆目見当がつかなかった。
何より”ちゃん”付けで呼んでくる子は、今現在では皆無に等しかった。
(蛍ちゃんは”蛍ちゃん”って感じだから良いんだけど……”燐ちゃん”かぁ……久しく誰にも呼ばれてないなあ)
燐は懐かしくも、くすぐったい思いに遠い意識を向けていた。
「リンちゃ~ん! う~、リンちゃん~!」
再びテントから名前を呼びかけられる、その声にはっ、と現実に戻される。
これといって思い当たる節が無いにせよ、さすがにこれを放っておくのは些か無下な気がしていたたまれなかったのだ。
「燐、行ってみよう!」
「うん!」
頷き合った二人は手を取り合ってテントの方に足を向けた。
雨の中、片手で申し訳程度の傘を作り、ばしゃばしゃと芝生の上を駆ける。
ずっとトンネルの中に居て気が付かなかったがまだまだ雨足は強く、収まる気配をみせてはくれなかった。
目的のテントに着く頃には二人共すっかり足先までびしょ濡れになっていた。
そのテントはムーンライトというタイプで、正面から見るとちょうど正三角形の形をしているシンプルなテントだった。
雨除けの為かフライシートと呼ばれるテントとお揃いのアイボリーカラーの布地で全体を覆われており、中の様子を外から伺い知ることは難しかった。
「えっと……こ、こんばんは?」
燐は幾分緊張した面持ちで夜用の挨拶をテント越しに掛けてみる。
何日も夜の世界だったとはいえ、今の時間は分からないので合っているのかは不明だったが。
一応、スマホで確認することも出来るのだが、今更すぎることだった。
少し待ってみる………返事は直ぐ返ってこなかった。
突然静まり返るテント。
ぽつぽつとテントを打つ音がやけに大きく辺りに響いていた。
雨音のせいで聞こえなかったのかと思い、もう一度声を掛けようとしたその時──。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
中から甲高い、怯え切った声が返ってきて二人はびくりと体を震わせてしまっていた。
「り、り、り、リンちゃん、なの?」
テント内から焦りの濃い少女のような声で尋ねかけられる。
それを聞いた燐は蛍と一度顔を見合わせると、こくりと頷いてその声に応えることとした。
「うん、”燐”だよ。中に入ってもいいかな?」
燐は何となく罪悪感を持ってしまっていたが、今更訂正する気にもなれなかった。
(う、嘘は言ってないよね? わたし”燐”だし……それにしてもやっぱり聞き覚えのない声だなぁ、一体誰なんだろう?)
「あ、うん? もちろんだよっ! だいじょうぶ? 遅かったから心配したんだよぉ……」
テントの主は少し違和感を覚えた声色を出していたが、特に詮索もせずにごそごそと動いて入り口を開けてくれるようだった。
声を間近で聞いてもやはり誰かは特定出来なかったので、燐も蛍も誰が出てくるのか興味津々の面持ちで入り口が開かれるのを待っていた。
蛍は燐の背中に抱きついて肩越しにテントを見つめていた。
暫しの間、誰が出てくるのかを予想してみる。
(優香ちゃんかな? それとも同じ部で仲の良いトモちゃん? それとも……?)
蛍も色々考えてはみたのだが、一口に燐の友達といってもかなりの数の生徒が頭に浮かぶほどであった。
それに対して蛍の友達の数は……指折り数えただけで、ため息が漏れそうになるほど多くはなかった。
(わたしは、燐さえずっと友達でいてくれればそれで良いんだもん)
蛍は燐の気持ちを離さないように、ぎゅっと強く背中にしがみついた。
その行為に燐は少し驚いたが、それ以上気にすることもなく目の前のテントに注視していた。
ジィ~~~~~ッ。
聞きなれない規則的な音がする、恐らくテントのファスナーが開けられる音だろう。
燐と蛍は固唾を飲んで中から出てくる者を待ち受けていた。
「リンちゃん早く中に入って~、ずぶ濡れになっちゃうよっ」
「あ、うん……」
またテントの中から声がしていた。
てっきり出てきてくれるのかと思っていたので、ちょっと期待外れの結果となった。
やっぱり入って確かめてみるしかないよね。
燐は布地をじっと見つめると、思いついたかのように手を這わしてみた。
(確か、こうするんだったっけ?)
燐はペグで留めてあるフライシートの片側だけを外して、それを持ったままテントの中をこっそりと覗きこんだ。
外から見ると割とこじんまりとしている印象があったが、中は比較的広めに感じられて外界と剥離した快適な空間がそこにはあった。
テント内には明かりが灯っており、傍らには人のような姿が確認できる。
声の主なのだろうか? 少女の様に見える影がテント内に大きく広がっていた。
「ほら、早く~」
その顔を確認しようとした矢先、不意に手を引っ張られたので抵抗する間もなく、燐はテント内に引き込まれてしまった。
蛍は何故か燐の背中を後ろから押してきたのでそのままの勢いで二人してテント内に入り込む形となった。
倒れ込むようにテントに入る蛍と燐。
すると正面から、がばっと何かが抱きついてきて、驚いてしまった。
「も~心配したんだよっ! ゾンビに食べられちゃったかと思っちゃったよぉ!!」
胸に顔を寄せてすりすりと頬釣りをしてくる長い髪の少女。
テントの中の小さなランタンの明かりが少女達の抱擁を暖かく照らしている。
「あれれれ? リンちゃんってこんなに胸があったっけ? そっか、ちょっと見ない間に成長してたんだね~。お母さん、リンちゃんの成長を感じちゃうよ~」
やわやわと感触を確かめるように遠慮なく胸を揉んでくるお母さん、にはとても見えない少女。
ふくよかな胸に顔を埋めて、どこかワザとらしい声を上げて行為を楽しんでいるようにも見える。
「え、えーっと、わたし燐じゃないんだけど……」
蛍は初対面の見知らぬ少女のセクハラ行為に苦笑いするしかなかった。
燐も呆気にとられたのか何となく声を掛けづらく、蛍と同じように苦笑いを浮かべていた。
「え? え? リンちゃんじゃないの? それじゃあ……」
蛍の胸に顔を埋めていた少女がばっ、と顔を上げて手元にあるランタンを手に取った。
観察するようにランタンを蛍の間近に当てて顔を覗き込む長い髪の少女。
幼さが残る大きな瞳がつぶさに確認できた。
少女は蛍の顔と胸を、うんうんと頷くように前後に見比べて……。
「ふおぉぉぉぉぉ──!! リンちゃんが巨乳の知らない子になってる──!!!」
そう叫んでテントの隅っこまで高速で飛びのいていた。
あまりの激しいリアクションに燐も蛍も言葉を失って凍り付いていた。
「あ、えーっと……わたしが、燐だよ?」
燐はあまりのリアクションに反応が遅れてしまっていたが、少し引き気味に自分の事を指差して再度名乗ることにした。
顔は出来るだけ笑顔を保っているが、この展開には何となく嫌な予感がしていた。
それを聞いた少女はえっ、と我に返ったように真顔になっている。
そして今度は燐の顔にランタンの光を当ててまじまじと食い入るように見つめてきていた。
もちろん、当然のように燐の胸にも視線が注がれている。
(うっ、やっぱり見られてる。胸の大きさに何か関係があるのかなぁ……?)
少女の真剣な眼差しを受けながら燐は何故自分が品定めをされているのか疑問に感じていた。
「燐、頑張って!」
蛍が横で謎のエールを送ってくれていた。
(一体何を頑張ればいいの? 蛍ちゃーん)
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤になっていた。
燐は息をすることさえも忘れたように少女の視線にじっと耐えていた。
やがて、じっくりと時間をかけて燐の顔と体を凝視していた少女がゆっくりと燐から離れていく。
そして大きな瞳を閉じたかと思うと、うーん、と口に出して考え込んでしまっていた。
どこまでもマイペースな少女だった。
「……ねぇ、蛍ちゃん?」
少女が目の前で自分の世界に入ってしまったので、燐は隣で膝をついて眺めている蛍にそっと耳打ちをする。
燐も蛍も未だに土足のままなので履いている靴だけはテントの外に出していた。
フライシートとテントの隙間のスペースがあるので雨ざらしになることはないのだが。
「ん? なぁに、燐」
「これってもしかしてアレじゃない? 人違いってやつ……なのかな?」
「あぁ……そうじゃないかとは思ってたんだ。わたしも見たことない子だしね」
蛍は燐の意見に同意をしめす。
実のところ蛍は燐よりも先に妙な違和感をもっていたのだが、それを燐に指摘はしなかった。
何より助けを呼ぶ声がしたのは事実だったので見て確認したほうが手っ取り早いと思っていたので黙っていたのだ。
「だよね……だったらどうしようか?」
見知らぬ少女と同じようなポーズで考え込む燐。
そのシンクロ加減がなんか可笑しくって蛍はつい微笑んでしまう。
「あ、でもちょっと違うよ燐」
「うん?」
「人違いじゃなくて、”燐”違い……じゃない?」
上手い事言ったつもりなのだろうか? 蛍はくすっと笑顔を向けていた。
悪気のない透明な微笑み、凄く可愛いのだけれど……。
「あはは……蛍ちゃん……」
なんだか急に疲れがきてしまったのは何故だろうか?
燐は未だにぶつぶつと考え込んでいる少女に改めて目を向けてみる。
(よく見るとこの子、わたしたちよりも年下に見えるなあ、中学生かな?)
「ねぇ、燐。あの子ジャージを着てるよね」
「あ、うん、そうだね。学校指定のものなのかな? でも、この辺りじゃ見たことないデザインかも」
少女は赤に白のラインが入った長袖のジャージを上下着込んでいた。
燐達と同じく学校帰りに小平口の異変に巻き込まれたのかもしれない。
でも、それにしては……。
テント中には結構な荷物が詰め込まれていて、おおよそ二人分はありそうだった。
着替えが詰まってそうな大きな袋が二つ、そしてシュラフも二人分ありそうだった、それと調理道具だろうかバーナーや鍋まで置いてある。
服装の割には本格的な装備を持ってきているように見受けられる。
(……所謂キャンパーってやつなのかも? ソロ……じゃないみたいだし。だとしたらもう一人は何処行っちゃったんだろ?)
燐はテントの大きさから精々二人程度でキャンプに来ていると想定していた。
それにさっきからもう一人の名前しか呼んでないので間違いはないだろう。
わたしと同じ”リン”という名前の子は無事でいてくれればいいんだけれど……。
──さっきから他に気にしていることもある。
(さっきからあんなに大きな声で何度も叫んでたら”アイツら”にも聞こえちゃう気がするんだけど……)
少女が未だにぶつぶつと何かを考え込んでいるので、燐はシートの隙間から外の様子を伺ってみる。
外は相変わらずの土砂降りで、さっきまで居た緑のトンネルの脇道が辛うじて見えるだけだった。
とりあえず、あの顔のない白い人影がテントに向かってきていることはないようだった。
「あ、そっか、分かったよっ!!」
それまで何かを考え込んでいた少女がぽん、と手を叩いた。
この少女は、何かにつけて大きな声を出すのが癖となっているのかもしれない。
その声に何事かと思って、少女の方を振り向いた燐の手をいきなり握ってきて、こう結論付けた。
「こっちのリンちゃんは異世界から私を助けるために並行世界からきた”リンちゃんオルタ”だね。間違いないよっ!」
………
この少女の言っていることは常人の理解の範疇を大幅に突き抜けていた。
突拍子のない中二病妄想に、燐は再び目を丸くして固まってしまっていた。
──だが少女は気にすることもなく自分の世界観をさらに押し付けてきた。
「リンちゃーん! その聖剣でゾンビたちをやっつけて早く元の世界に帰ろうよ~、お腹空いて倒れちゃいそうだよ~!」
聖剣って……この何の変哲もない普通の鉄パイプの事だろうか?
作業小屋から思わず持ってきてしまったもので、そこそこ役には立っているのだが、あの何かの足止めをする程度事のことが精一杯で、やっつけるとかとてもじゃないけどできる代物ではなかった。
それにあの顔のない白い影の正体は……。
「おぉ~、やっぱり燐は勇者さまだったんだね」
蛍が楽しそうにもう片方の手を握ってくる。
この少女の奇抜なシチュエーションに何故か蛍も乗っかってきていた。
「勇者さま~!」
「勇者さまっ! この世界を救って~」
二人の少女に突然両手を取られて勇者扱いにされる。
これは一体、何の罰ゲームなんだろうか?
明けることのない悪夢のような夜の世界で何かに縋りたくなる気持ちは分かる。
わたしだってそうなんだよ……。
だからって……これはいくら何でも……現実逃避が過ぎるのではないだろうか。
「だーかーら、勇者でもオルタでも何でもないんだってば~!!」
顔を真っ赤にして興奮した燐の絶叫がテント内に木霊した。
顔のない白いナニカを呼んでしまうとか、そんなことはお構いなしに腹の底から叫ぶ燐。
その声が届いたのかどうかは分からないが、ある少女の鼻が急にむず痒くなった。
──はくしゅん!
(6月も半ばだっていうのに何だか悪寒がする……変な電波受信しちゃったか?)
合羽姿の少女は手にランタンを持って、あの緑のトンネルの中に佇んでいた。
上半身は合羽を身に着けているが、その下とズボンはテントの子と同じく、赤いジャージ姿をしている。
トンネルの中は雨を通すこともなく、薄く光が差し込んでいるかのようにぼんやりしたと明るさがトンネル全体を照らしていた。
つい
(いつの間にこんなもの出来たんだ? さっきまでこんな線路すらなかったのに……)
このような天然のトンネルがあれば雨を凌ぐ為のテントを改めて張る必要なんてなかった。
無駄な労力を使ってしまった、少女は嘆息する。
だが、緑のトンネルの先まで延びる線路跡は薄暗く何も見通せそうにない。
どちらが入口で出口かさえも分からないほどに深かった。
(せめてコンパスが使えれば……)
手のひらのコンパスを見つめるが、先ほどからぐるぐると回るだけで何処の方角も示してはくれない。
はぁ……、何度目かの諦めが混じった溜息をこぼす。
帰る方向どころかテントの位置さえも見失いそうになりそうになり、絶望が少女を包んでいた。
「これ以上進むのはヤバい気がする。とりあえず
少女はそう呟くと元来た道を引き返した。
このトンネルが見つかっただけでも、それなりの収穫だろう。
だが、本当は別のものが欲しかったのだ。
(なでしこ……お腹空かして泣いてないかな? もう食べるものなんて殆ど残ってないしなぁ……)
テントに置いてきた少女の事を思い出して、少し不憫に感じていた。
空腹を訴える少女の為にダメもとで食料を探しに行ったのだが、やはり何も見つからなかった。
小動物どころか虫さえもいない、それはそれで夏のキャンプには快適であるのだが。
だからってこんなところで人知れず遭難なんて笑える冗談でもない。
だが有効な解決策は何もなく、ここに来てもう三日が経とうとしていた。
(小平口にキャンプしに来るんじゃなかったな……今更だけど)
今更、後悔したって何も始まらない。
とりあえずなでしこと一緒になんとしても小平口から脱出する、余計な事を考えずにそのことだけを考えることにする。
めげそうになる心に鞭を打って、テントの元へと足を進めた。
自分もあまり食を採ってないせいか足取りが重い、まだ疲れが抜けきってはいなかったようだ。
正直気だって滅入っている。
けれども帰ることを諦めてはいない、家に帰るまでがキャンプ、そう教えられたのだから。
(そうだよね? お爺ちゃん、私、頑張るよ。……ん? これを言ってたのって千明だったっけ? まあどうでもいいこと何だけど……)
無駄にテンションの高いメガネの少女のことを思い出して、なんだかとても懐かしくなった。
野クルメンバーとキャンプを楽しんでいたのがまるで嘘のように遠い記憶の彼方に感じられる。
遭難だといってもまだ三日程度しか経っていないはずなのに──。
限界が近いのかもしれない……少女は己の運命を天に少し呪っていた。
……この少女はまだ知らない。
まさか、テントの中で見知らぬ少女達との邂逅が待っているとはこの時は考えも及ぶはずもなかった。
──それはとても偶然で素敵で夢の様な
………
……
…
はいー、少し早い一周年記念として3作目を書いてみました。
ですが、青い空のカミュの当初の発売日は2月22日だったらしいのでそんなに間違ってもないかなーとか思ってます。
ちなみに当時はこのゲームのことを影も形も存じ上げませんでした。
それが今やここまで自分の中で気になってしまうコンテンツとなるとは……思いも寄らないものですねー。
さてさて、今回は青い空のカミュ×ゆるキャン△ のコラボレーション作品となっております。
前回の作品はクロスオーバータグをつけたものの特にこれといって他の作品キャラが出たわけでもなく、ただ設定をお借りしたようなものでした。
ですが今回はゆるキャン△ のキャラクターを登場させていただく純然たるクロスオーバー作品にしますので、両作品の世界観をなるべく壊さないように書いていってみたいです。
それと今作は青い空のカミュの原作ストーリーを一部なぞる形式にしてみました。
ですがそれだとネタバレになってしまう恐れがあるので、それを避ける為に、”体験版の続き”というIF形式にしております。
体験版の時点で原作とは違った結末なので、それの続きとなると……まあ私が日和見主義なのでそんな感じの結末になるかと思っててください。
ゆるキャン△ の方も原作のIFストーリーというかその後の展開を勝手に予想したキャラ設定にしてみました。
具体的にはまだ言えない部分があるのですが、冬キャンプのイメージが割と強い原作なのに、勝手に夏キャンプをする設定となっております。
そしてその時点で2年生となってますので、この辺はかなり創作の部分が強くなってます。
ちなみに原作9巻での伊豆キャンまでの知識しかないのでその後、野クルが正式に部活になったとか新入部員が入ったとか、そういった展開がこの先あったとしても現時点では話に盛り込まない流れとなってます。
まさかとは思うのですが、2年生で連載終了とかはない……ですよね? かなりの人気作品ですし……。
第一部、完。ならありえるかもしれない??
そしてまったく関係ないわけでもない? 宣伝なんですが、今現在、青い空のカミュDL版50%OFFセールを3月1日までやってるので、もし購入したい方は今がお買い得となっておりますねー。(所謂ダイレクトマーケティングです)
え? 新春セールの時の方が安かったって? あれは期間が短すぎたのか、何時の間にか終了してしまいました……。
なので今が大変お買い得ですよ、お客さん!
……まあ、万に一つの確率でアップデートバージョンが発表されるかもしれないですが、流石に在り得ない………ですよね? いや仮に出ても買う価値あるかも? その辺は個人の裁量にお任せします。
丸投げではないです! 多分……。
あ、そして更にいきなりネタバレ? になってしまうんですが。
前作のあとがきで小平口駅のモデルは小和田駅とかドヤってしまっていたのですが──すみませんでした!! 当方の大幅な勘違いです!
小平口のモデルとなった駅、及び町並みは大井川鐡道の”
青い空のカミュの世界観がこの駅と街に殆ど詰まってるように見受けられましたので。
前作のあとがきを修正しても良かったのですが、あれはあれで勘違いだからこそ出来た妄想と思ったので、とりあえず今のところ残しております。
井川駅に関しまして、もう少し詳しく書くつもりですが、この作品の最終話のあとがきで何時ものように考察していきたいと思ってます。
あと、ゆるキャン△ に関しましても、意外にも青い空のカミュのと共通点を(強引にだけど)見出すことが出来ましたので、これも最終話のあとがきでやれたらなーって思ってます。
そういえば今、世間は新型コロナウィルスで忙しなくなってますねー。
前作を完結したときはコロナウィルスのコの字もなかったのに……。
楽しく健康で過ごしたいなーってあとがきで書いたのはある種のフラグだったのでしょうか? 体調管理には十分気を付けてください、私も気をつけます。
──でも、2月に2回も竜○寺の湯に行ってしまったんですよねー、何もなければいいんですけど──(楽観的な観測)
あ、そういえば竜○寺の湯、ずっと漢字間違ってました。
龍じゃなくて竜でした……どうでもいいことなんですが今更気になってしまいました。
竜○寺の湯の関係者の皆さん、すみません……。
さてさて、実際の発売日までになんとか完結を迎えたらいいですなぁー。
それではー。