かみゅキャン△ ── Camus Canp ──   作:Towelie

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廃線跡のレールの上を歩く四つの影があった。

本来列車が通る為に引かれた線路なのだが、今使っているのは少女達、彼女たち専用の道と行ってももはや過言ではなかった。

当初はやや歩きにくいと思っていたが、その内慣れてきたのか、足を気とられることも少なくなってきて山道よりも快適に進められる。

それでも体力だけは消耗するのだ。
少女達の足も精神もお腹も喉も限界が近くなってきていた……ただ一人を除いて。


「コッコアー、コッコアー、コココ、コッコアー♪」


普段と変わらぬ軽快な足取りで少女は歌いながら線路を歩く。

その様子は山にハイキングに来た女子高生の様に軽やかでリズミカルに見せていた。


「変な歌やめろ」

さしものリンも疲労感からかツッコミにキレがなくなってきた。
むしろそんなことに割くリソースが勿体無い。


「んー、じゃあツカぽんのテーマにしようかなぁ?


リンに窘められたなでしこは懲りることなく、今度は別の歌をチョイスする。
どこからその元気が湧いてくるのだろうか。


「空飛ぶミカンだ~、ツカぽん、ぽ──ん♪」


……先ほどよりも訳の分からない歌がトンネル内に木霊して、ただでさえ異常な世界なのにより上位の異常さ増した気がして、リンの頭が重くなった。


「なでしこちゃん元気だね」


「ホント、いつでも元気いっぱいって感じ」


燐と蛍はなでしこの元気さを微笑ましくみていた。

だが聞いたことのない歌ばかり歌うので、顔は疲労を隠せなかった。
それでも荷物は四人が分担して持つ事にしたので、幾分楽にはなっているはずなのだが。

それにしたってなでしこの元気っぷりは異常とも思えるほどであった。

見てるこっちが疲れてしまうほどに。



「リンちゃん、ココア飲まない? 私飲みたいなー」


くるりと軽やかに振り返ったなでしこが無茶な要求を言い出した。

変な歌を唄っているから喉が渇くんだろうに。
リンは半ば八つ当たりのようなことを思っていた。


「もう水ないよ。さっき飲んだので最後だったし」


ペットボトルの水があと半分程残っていたが、四人で回し飲みをして空になってしまった。

もうこれで水も食料も尽きてしまい、ここからはサバイバルの様相を呈してしまう。



「こうなると雨が落ちてこないのはあまり良くなかったよね」



蛍は困った顔で頭上を見上げる。
葉や幹で作られた緑のトンネルは空も雨も完全に閉じ切っていて、雨粒の一つさえも地面に落とさなかった。

それは緑で出来たドームのようで、そこに閉じ込められたような気にさえさせてくる。



「でもさ、小平口町って大きな川の傍にある町だよね。どこかに湧き水でもないのかなあ?」



燐は周囲を確認してみるが、緑のトンネルは周りの景色を覆い隠すように線路脇まで伸びていて、その奥の景色を伺い知ることも出来ない。


前のように森が開けて広場になっているような所もこれまで見当たらかった。


「ココアの粉はあるけど……なでしこ、食べてみる?」


リンがバッグからココアが入った袋を取り出した。
確かに食べれないことはないのだが、普段食べ物に目のないなでしこも、これには首を左右にふって拒否を示した。


「う~、粉のままは流石に嫌だよぉ~。口の中がじゃりじゃりになっちゃう」


「それはそうだよねぇ……あ。青いドアの家に行ったのなら、お水貰って来ればよかったのにね」

燐は青いドアの家にある、白く清潔なキッチンを思い浮かべた。

初めて来たときに燐はそこで水を飲んだのだが、その時は無味無臭であった。
でも悪い感じの水ではない気がする。

そのうち色々なものをあの世界で食していると次第に味が分かるようになってきた、それは自分でも不思議だとは思っていたが、そのことは蛍にも相談しなかった。

あの環境に慣れてきているかどうかは自分では判断付かない。

亜鉛が不足すると味が分からなくなる事があるようだが……そのケースとは違う気がする、いちおうまだ高校生だしね。



「そういえば、蛍ちゃん。オオモト様の淹れてくれたお茶、美味しかったよね。また飲みたいなぁ」


「え? あっ、うん……」

思ってもみなかったことを聞かれたので蛍は動揺してしまうが、なんとか返事を返すことが出来た。


「大丈夫? 蛍ちゃん。少し顔色悪いよ」

蛍の慌てっぷりに燐は少し眉をひそめて顔を覗き込んだ。


「う、うん。平気だよ」


目元を隠すように蛍は少し腰を引いてしまう。
心配そうな顔つきの燐に、蛍は努めて曖昧な微笑みを返した。


(隠しておきたいわけでもないけど……ごめんね……)


蛍と燐のやり取りには僅かな違和感を感じたが、リンは特に追及しないで、二人の会話にそっと加わった。


「そっか、そういう手もあったね。冷蔵庫の中が空だったからそこまで頭が回らなかったよ」


リンもなでしこも青いドアの家の世界に長くいたはずなのに、不思議と喉の渇きを気にすることはなかった。

暑くもなければ風さえも吹いていない世界だったからもしれない。
それでも水ぐらい分けてもらっていたら何かと便利だったのに……リンは少しだけそのことを後悔した。


「じゃあさ、もう一回、青いドアの家に行こうよっ!!」


妙案とばかりになでしこが声を弾ませながらみんなに提案した。
そうすれば大好きなココアも飲めちゃうし、トランプの続きも出来るしね。
喜びを顔に滲ませてはしゃぐなでしこ。

なでしこにとって”青いドアの家”はここにいるよりもずっと楽しい場所だった。


だが、三人はその提案に賛同することなく、何かを考えるように黙り込んでしまった。


蛍も燐も、うーんと首をひねっている。
リンも腕を組んで考え込んでいた。


その様子になでしこは困惑した。
とてもいいアイデアだと思ったのに、なんで誰も賛同してくれないんだろう?
制限時間とかあるわけ……あった気がするよね……順番待ちとかあるのかな?


結局、提案したなでしこも考え込んでしまった。



「でも、せっかくだからもう一度試してみない?」


何やら考え込んでいた蛍だったが、皆の沈黙を破る、鶴の一声をあげた。
なでしこに気を遣ったのかもしれない、でも蛍はそれをおくびにも出さなかった。


「うん。蛍ちゃんの言う通りかも。もう一度試してみるのも悪くないね」


燐もそれに同意する。
”願う事は無意味ではない”と、以前オオモト様に言われたことを思い出していた。

前に蛍と二人で試したときは何故かダメだったけど、四人で願えばあるいは行けるかもしれない。

根拠は何もないけれど。


「うむっ」


リンは一言だけ零して同意をする。
別れ際のオオモト様の表情から、リンは何となく再会はない気がしていたが、この場で口には出さないでおいた。


「それじゃあ、みんなで手を繋ごーねぃ!!」


四人は線路の上で集まって、丸く輪の形に手を繋ぎ合った。
そしてみな当然の様に目を瞑って、青いドアの家の事を思い描く。


絵に描いたように綺麗で儚い、青と白のコンストラクトだけで構成されているあの奇妙な世界のビジュアルを頭の中で組み立てていく……。




……暫くそうしていたのだが、蛍と燐の時と同じく何も起こらなかった。

何故か自発的に行けない世界となってしまったようだ。
これといった理由は分からないのだが。


それでも諦めきれないのか、なでしこはブツブツと何か呪文のようなものを一人唱えていた。


「べんとら~、べんとら~。青いドアの家よ~、現れたまへ~」


「……それは宇宙船(UFO)を呼ぶときのやり方だろ……」


隣で手を繋いでいるリンが呆れた声でつぶやく。
リンは見かけによらずこういう()()()()()()に興味があるので、大体のことは知っていた。


「じゃあ、オオモト様~、オオモト様~。迷える子羊(私たち)をお救い給へ~」


何が、じゃあなのかは分からないが、もはや神頼みの祭り事と化していた。
オオモト様はある意味神様的なものに近しいのかもしれないが……。


だがその祈りも空しく、当然の様に青いドアの家へ行けそうな気配は訪れなかった。


……もっともこんな事で行けるならば何の苦労もしていないのだが。



「なんか無駄にエネルギーを使った気がする……」


誰ともなくリンは疲れた声をあげた。
なでしこの不思議な祈りに精気が吸い取られた訳でもないだろうに。


「うん。何でだろうね……?」

燐も怠そうな声をだす。
汗をかいたのか襟元を少し広げて手で仰いでいた。

「わたしも……」

蛍はその場に座り込み、脱力したように線路へ腰かけてしまっていた。


みんなが変な気疲れをおこしている中、まだ元気ななでしこが何やら喚いている。


「むぅぅぅぅ、オオモト様のいけずぅ~! いいもん、頼れるのはしまりん様だけだもんっ!!」


緑の天井に向かって一人、恨み言を叫ぶなでしこ。
何故かオオモト様との引き合いに出されたリンは深く重く、聞こえるようなため息をついた。


その一連の流れに蛍と燐は疲れた顔を見合わせて微笑んでいた。



(あれ? 今何かが光ったような気が……?)


燐は視界の奥に届く何かを感知した。

よくよく目を凝らしてみると、線路の奥に何かが薄ぼんやりと浮かんでいるのが見える。

人影の様でそうではない、得体の知れない何かがある。

あの白い人の影か、それともヒヒ? サトくん? これまで出会った存在と当てはめてみるが、何か違う。
動きがないみたい、何かの目印?


「何か、立ってる気がする……」


燐は確固たる意思を持ってトンネルの奥を指差した。

燐の言葉に三人は顔をあげて、指差した方向に目を据えた。
……白く先が見えないはずの緑トンネルのその先に陽炎の様に揺らめく何かがあった。


「オオモト様への祈りが通じたんだよっ!!」 


なでしこがことさら明るい声で暢気な事を言った。


「それはない」


それにジトっとした目を向けるリン。
その言葉とは裏腹に、いそいそと荷物を手に取っている。

そうは言うがどこか期待していたのかもしれない。


「燐、行ってみよう」

蛍も立ち上がって、燐の手を引いた。
ここまで色々な出来事に遭うと恐怖よりも好奇心の方が勝ってくるようだ。

四人は警戒することも忘れて、トンネルの先に見えるものへと駆け出していった。


燐も淡い期待があったからか、皆が迂闊な行動をしていることに気に留めなかった。



その先で待っていたもの──それは。




「また、これか……」


リンは苦々しい思いを込めて呟いた。

そこには二本の線路で分かれていた。
それはあの時の同じように枝分かれしている分岐があったのだ。



また分かれ道……この道はループしているのか。

それとも何か意図があるのか。


誰一人何も分かっていなかった。





Switch machine

ぽつん、ぽつん。

 

遥か頭上の葉の屋根から雨音が静かな音を奏でていた。

 

静寂なトンネルの中に響く不規則な音色、それはどこか心地よく、懐かしさを感じさせる。

 

 

制服と体操服に身を包んだ四人の少女。

 

学校は違うが同じクラスの同級生のように仲良かった。

 

名前は偶然にも同じものがいたが、性格や趣味などに一部共通のものがあったにせよ、普通では出会うことがなかったはずの四人の少女達。

 

そんな四人が言葉を出すことも忘れて立ち尽くしている。

 

絶望というより、困惑、疑念、戸惑い、それらが混ざり合って各々に伝播していた。

 

 

 

──だってまた分かれ道。

 

 

無情にも同じような分かれ道があったから……。

 

 

 

ただ、前の時とは決定的な違いもあった。

 

 

今度は分岐とともに標識も立っていたのだ。

 

燐はこれを見つけたのだろう、白く、背の高い無骨な標識を。

それは分かれ道のちょうど真ん中、道案内をするようにそびえ立っていたのだ。

 

一般的な鉄道標識とは違って、登山道でなどでよく見かける、行先を示す矢印が付いているだけの簡素な標識だった。

 

しかも左右に矢印の表示はあっても、そこには何も書かれていない。

何処行きなのか、そこまで何メートル掛かるとか、標識として肝心なことは一切書いていなかった。

 

 

ただ白いだけの標識、だがその白くそびえたつものは、あの”白い風車”のように見えて、燐は軽いデジャビュを覚えた。

 

 

山の上に一基立っていた白い風車。

もうここからじゃ見えないけれど、あそこは燐にとって辛く、とても悲しい想いを呼び起こす場所だった。

 

 

……ふいに右手が暖かくなった。

何事かと見てみると、蛍がそっと手を握ってくれていた。

気遣うような瞳を向けながらそっと寄り添うように。

 

 

「燐……大丈夫?」

 

 

「……うん」

 

 

大丈夫の代わりに蛍の手をそっと握り返す。

柔らかく、そして愛おしさを包み込むように指を絡める。

 

ここまでこれたのは蛍ちゃんが傍にいてくれたから。

だからまだ、まだこのままで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

(でけー)

 

リンは標識の下にしゃがみ込んで、下から見仰いでいた。

 

緑のトンネルの中はあまりに変わり映えしなかったので正直退屈を覚えていた、あまりに退屈すぎて眠りながら歩けてしまうほどに。

 

そんな中で現れたこの白く簡素な標識にリンの心は一時的に奪われていた。

些か不謹慎とは思ったが、こんなものでもこの退屈を埋めるには十分すぎるものだった。

 

 

 

「むぅぅぅ~、これは何の意味があるんだろぉ~?」

 

 

一方、以外にも標識の前で一人考え込んでいるのはなでしこだった。

何かあればまず真っ先に飛びついてくるのはなでしこなのに、今回はやけに慎重だった。

 

それと言うのも、これはオオモト様の仕業だと思い込んでいたので、何の目的があるのかを珍しく真剣に計り兼ねていたのだ。

 

ただ行先が書かれていない以上、この標識は何の役にも立たない。

目印としての役割しかもっていない標識に何の意味があるのだろう。

 

それとよくよく見ると擦れた文字で何かが書いてあるのを微かに判別できる。

でもそれだけだった。

 

その文字が読めなければ書いていないのと同じで、これはただの物体(オブジェクト)でしかない。

 

それは使われなくなった灯台と一緒。

 

撤去されることなく残っているのはそれすらも面倒なのか、それとも目的があるのか。

 

意図も意思さえも、この狂った小平口町で分かっていることは殆どないのだ。

 

 

 

 

すこし飽きたのかリンは標識から目を離して、左右に分かれた道に目を配ってみる。

この道の感じも前の分岐と変わっていない……気がする。

 

悪い意味で変わり映えしていない。

左右に線路が延々と伸びていることも、見通しが悪くその先がまったく見えないことさえもまったく一緒だった。

 

間違え探しをしても分からないほど似通っていた。

 

 

(でも……これは違う)

 

 

リンは線路わきにある、鉄で出来たレバーとその装置を横目で見やる。

 

それは”転轍機(てんてつき)”と呼ばれる、線路のポイントを切り替える金属製の装置だった。

 

鉄製のそれは、かなりの間放置されていたのか、ところどころが錆でボロボロになっていた。

それはちょうど廃線跡の線路と一緒だった。

そのことから同じような時期から今日まで放置されていたのだろうと推測できる。

 

 

分岐を手動で切り替えるためのレバーがあり、持ちやすいようにグリップも付いていた。

極めてシンプルな構造をしているが、動くかどうかは微妙なところだ。

 

それは長い間使われていないのが見て分かるほどに錆びていたので、引いたとたんに折れる可能性のほうが高そうにみえる。

 

それぐらい脆く、意味のないものに思えていた。

 

 

 

でもあの白く意味のない標識も、錆びついてボロボロの転轍機も、なんとなくわざとらしさを感じる。

 

この狂った世界が作り出した不自然な力の流れから出来たもののように思えてならない。

その方が自然に思えるほどにこの世界はおかしなことが多かったから。

 

 

 

いる様でいらないもの。

必要なようでどうでもよいもの。

 

 

何かがおかしくなったこの町でずっと思っていたこと。

 

 

燐も蛍も。

なでしこもリンも。

 

 

何の為にそしていつまでここにいるんだろう。

 

そして──何をさせる気なのだろう。

 

 

 

 

 

白い標識はわりと太い木で作られていて、緑に覆われた中で一際異彩を放っていた。

 

少し気分が落ち着いてきたのか、燐も改めて分岐の起点から両方の道筋を眺めてみる。

 

正直、もう測量の真似事をする気にもならない。

どちらの道が間違っていようとも、別れて進むことなどしないであろう。

 

それはきっとみんな同じ気持ちのはずだ。

 

そうでなければリンちゃんもなでしこちゃんもここへは戻ってこないはずだし。

出ようと思えば出れるはずだったのに戻ってきてくれた二人、ちょっと複雑な気分だったけど、今は素直にその気持ちを受け止められる。

 

だからってどっちの道を進んだらいいのかは分からないのだけれど。

 

 

「ここは燐ちゃん1号の予知能力を使う時がきたんじゃないかね。ふぉふぉ」

 

 

なでしこがぴょんぴょんと跳ねながら燐の腕を取って話しかけてきた。

あれこれ色々と考えてはみたけれど、結局なでしこには何の結論も出せなかったので、燐を構うことにしたらしい。

 

 

「予知かぁ……あ、ひょっとしてこれを使えってこと?」

 

 

燐は背中に差した鉄パイプを引き抜いてみる。

あの単純なことを試したいんだろうなあ、多分。

 

 

とりあえず燐は分岐の中心部分に近い線路の枕木に、持っていた鉄パイプを置いてみることにした。

L字に曲がっている部分を下にして、そっと手を離してみる……。

 

 

枕木の上でL字のパイプがゆらゆらと不安定に揺れていた。

 

 

どっちに倒れるんだろう。

燐もなでしこも固唾を飲んでパイプの倒れる様を見守っている。

 

 

「ふぉぉぉぉ、こ、これはっ……!?」

 

 

なでしこはことさら大げさに驚いてみせた。

 

 

鉄パイプは意図せずに、そのままバランス良く枕木の上に静止してしまったのだ。

 

 

神業的なことが今、起きていた。

……こんなしょうもない事でだが。

 

 

「あははは、ごめん。上手くいかなかったよ~」

 

 

なでしこの思惑通りに行かなかったことに燐は頭をかいて苦笑いした。

むしろこれは上手くいったほうである、無意味すぎることだが。

 

これでいわゆる鉛筆立て占いは失敗した。

安定しやすい鉄パイプで鉛筆の代わりをするのがそもそもの間違いであるのだが。

 

 

「むむむ、1号のチカラを持ってしても先が見通せないとは……これは困ったのぉ」

 

 

枕木の上に器用に立つ鉄パイプを見ながら、なでしこがうんうんと唸っていた。

 

だがもし鉄パイプがどちらかの方向に倒れていたら……行先はもう決まってきたのだろうか。

だとするとこれで良かった気がする。

こんなことで決めるのは流石に怖いしね。

 

 

 

「ねぇ、やっぱりこれ動かないのかな?」

 

 

「古そうに見えるし……どうだろ」

 

 

蛍とリンはあの転轍機の前にいた。

もう動かないんじゃないかと思えるほどに錆と苔まみれの黒い鉄の塊。

 

レバーは一番下まで下りたままになっているので、引き上げることは出来そうだ。

だが、このまま何年も放置してあったとしたら……もうこのまま錆びて固まってるかもしれない。

 

それに引いたところでポイントが切り替わるだけだ。

現状には影響ないだろう、列車を待っているわけでもないのだから。

 

 

それでも今この場で出来そうなことはこの転轍機のレバーを引き上げてみることだけ。

それは大きな岩を頂上に運ぶように無意味な行為なのかもしれない。

 

 

「蛍ちゃん、どう? 何か分かった?」

 

 

「レバーを引いたら落とし穴が出るかもねぇ。ほら、消えるマキューとかそんな感じで」

 

 

燐となでしこも鉄パイプ立てを諦めて、喋りながらこちらへとやってきた。

 

四人は転轍機の前に集まって、それぞれ好き勝手な事を言っていた。

 

さっきから色々考えては見るものの何も答えは出ない、だとするとするべきことは一つだけだたった。

 

 

 

 

「むきき───!! はあ、はあ、リンちゃん、やっぱり動かないよこれ……」

 

 

軍手をはめたなでしこがチカラ尽きたようにそう呟く。

 

 

「やっぱりダメか……まあ、そんな気はしてたけど」

 

 

リンはレバーが動かないことに大して驚きもせずに、しげしげと黒い転轍機を見つめる。

朽ちてはいるが、駆動部分は無事な気がする。

だとすると問題は……。

 

 

「むむむうっ! リンちゃん分かっててやらせたのっ!?」

 

 

「まあ、そう言うな。ものは試しと言ったのはなでしこじゃないか」

 

 

「むうぅ……まあ、そうだけどぉ……」

 

リンの指摘に腑に落ちない表情を見せるなでしこ。

何だかんだでこういうことを率先してやってくれるなでしこをリンは頼りにしていた。

 

主に実験台としてだが。

 

 

「それじゃ、油掛けてみるよ~?」

 

 

燐はレバーの可動部分に持ってきたオリーブオイルをかけてみた。

これはなでしこが料理をする為にわざわざ持ってきたものだったが、結局使ったのは異変が起きる前の初日だけだったので、割と有り余っていた。

 

本来なら機械用の油を使うのが一般的だが、さすがにそんなものまでキャンプに持ってはきていなかったので、代用品として使ってみることにしたのだ。

 

 

「これで動くの?」

 

 

「うーん、オリーブオイルだしねぇ……」

 

 

「とりあえず浸透するまで少し待ってみよう」

 

 

オイルが機械に流れるさまをじっと見つめていた。

すると辺りに独特の香りが漂ってきて思わず思考が停止する。

 

 

「オリーブオイルの香り……堪らないよぉ……パスタもいいしお肉にも合うんだよねぃ……」

 

涎を零しそうなほどに、なでしこがウットリとした表情で流暢に話し出す。

その説明は三人の食欲にも訴えかけるほどに魅力的なものだった。

 

 

「あっ!? そういえばかける前に嘗めとけば良かったよぉ! 今ならまだ間に合うかも……」

 

血走った眼を転轍機に向けながらなでしこが襲い掛かろうとしていた。

その瞳は獣のそれのように鈍く光っているように見えていて本当にやりかねない気がする。

 

 

ここにいると食欲が刺激されてお腹がなりそうなので、嫌がるなでしこを無理やり引っ張ってあの白い標識の下まで移動することにした。

 

少女たちはそこに腰を下ろし、オイルが馴染むまでの間、しばらく休憩を取ることにした。

 

 

勿体無い、モッタイナイと暗く呟くなでしこは放っておいて、三人は他愛ない話に花を咲かせた。

 

 

「リンちゃんはアルバイトしてるんだっけ?」

 

 

「うん。たまたま近所の本屋さんで募集してたからね。アウトドアって結構お金かかるし、お小遣いじゃ回らないんだよね」

 

 

「そうだよねぇ」

 

 

アウトドア用品は需要との兼ね合いでどうしても割高になってしまう。

高校生が楽しむには安物を買って工夫するか、バイトなりしてお金を稼ぐしかないわけで。

リンの気持ちは燐にも良く分かるものだった。

 

 

「燐、アルバイトに興味あるの?」

 

 

「あー、まあ、ちょっとね……でも部活あるからなぁ」

 

 

「私はバイトながら部活もしてるよん!」

 

 

さっきまで落ち込んでいたはずのなでしこが突然会話に加わってきた。

 

 

「……野クルは放課後まともな活動してないじゃん」

 

 

「まあ、部員三人しかいないし、時間会わなくて不定期だしねぇ」

 

 

野クル部員はなでしこだけでなく他の二人もバイトをしているため、三人集まっての活動はわりと稀なことであった。

 

 

 

「だから燐ちゃん、蛍ちゃんが野クルに加入してくれれば正式に部として認められるんだよ~! 一緒にやろうよ~!」

 

 

 

二人の手を取って懇願してくる。

燐と蛍は顔を見合わせて苦笑いをするしかなかった。

 

 

「いや、他校の生徒が入部したらだめだろ」

 

 

やや呆れ顔のリン。

2年生になってもこの調子で誰彼構わず誘うものだから、結局野クルはいつもの三人(なでしこ、千明、あおい)のサークルのままだった。

 

それはそれでお気楽で良いのだが、部活として認められないので部室も狭いままだし、部費も満足に貰えない。

 

その為、バイト代はもっぱらキャンプ用品に消えてしまっていた。

 

 

 

「野クルは部活の枠にとらわれない”ぐろーばる”なサークルなのですっ。他校の生徒でもウェルカムだよ~。だからお願い~、ちょっとだけでいいから、ねっ」

 

 

なでしこは小動物めいた目で頼み込んできた。

蛍はこの手の頼みごとにことさら弱かったので、割と真剣に考えてしまう。

 

 

「じゃあ、燐が一緒ならちょっとだけやってみようかな」

 

 

「本当? ありがとう蛍ちゃんっ!」

 

がばっと抱きついてくるなでしこ。

ただ単に抱きつきたいだけじゃないのか、と疑いのジト目でリンは見ていた。

 

 

「じゃあ、後は……」

 

 

蛍の胸に顔を埋めながらこちらに期待に満ちた顔を向けてくるなでしこ。

燐の額に嫌な感じの汗が浮かんだ。

 

 

「う~ん、わたしは……」

 

 

なでしこの純真な目で見つめられると燐も無下には断れなくなってしまう。

蛍もそれを見越しているのか、ニコニコと楽しそうな表情をみせていた。

 

 

「嫌なら断ってもいいんだよ」

 

 

隣に座るリンがひそひそと耳打ちをしてくる。

 

 

「もー、リンちゃんっ! リンちゃんは野クル部員じゃないんだから変なこと言っちゃやだよぉ……」

 

 

その様子を見たなでしこは子供が駄々をこねるような表情をみせた。

 

何度か野クルとのグルキャンに参加している斎藤恵那と志摩リン、それでも部活に入るのだけはずっと拒否されたままだった。

理由を聞くと、自分の時間が大事とのことだが……。

 

 

(野クルに入ったって好きな事結構やれる気がするんだけどなあ……)

 

 

仲が良いだけに一向に入部してくれない二人になでしこは割とヤキモキしていたのだ。

恵那ちゃんもリンちゃんもキャンプ好きなはずなのに……。

 

はいはい、とリンは肩をすくめる。

なでしこの気持ちが分かっているので、リンにはこれ以上口を挟む気はなかった。

 

 

「はうう~、やっぱり燐ちゃん。私たちとキャンプするの嫌なの~?」

 

 

潤んだ瞳を向けながらなでしこが顔を覗き込んでくる。

その様子からよほどキャンプが好きなのが分かってきて、燐はたまらずため息交じりの声をあげる。

 

 

「う~、もう分かったよぉ。ここから出られたら蛍ちゃんと一緒に見学しに行くっ! それでいい?」

 

 

苦笑いしながら、こう答えるほかなかった。

 

燐としては最大限の譲歩をしたつもりである。

いくら隣県と行っても毎回山梨まで行くのは大変だし、何よりホッケー部ではレギュラーメンバーなのだ。

 

燐の所属するホッケー部は活動時間も長く、休みの日でも容赦なく呼び出すものだから、バイトどころか遊ぶ余裕さえもままならなかった。

 

部自体は楽しくてもそこだけは改善してほしい、燐は常々そう思っていた。

 

だからちょうどいい機会かもしれない。

ここから出ることが大前提だが、新しい何かにチャレンジすること、それは不安なことであると同時にこの先の楽しいことなのだから。

 

 

「うんうん。見学しにきたらきっと野クルに入りたくなるからね~。期待しててよん」

 

先ほどの不安な瞳とは一転、自信満々ななでしこに戻っていた。

 

 

「良かったねなでしこちゃん」

 

 

「蛍ちゃんのおかげだよっ。やっぱり燐ちゃんてこういう風に頼まれると断れないんだねっ」

 

 

「それが燐の良い所だよっ」

 

 

なでしこと蛍はニッコリと笑い合った。

それはまるで事前に打ち合わせでもしていたぐらいに息の合ったものだった。

 

その様子から燐はあることを察知した。

 

 

「あっ! もしかして二人共グルだったの? 酷いなぁ~」

 

 

頬を膨らます燐に、まあまあとリンが慰める。

 

 

「まあ、野クルに入るかは別として身延町に遊びに来ればいいんじゃないかな。田舎町だけどそこそこ観光名所あるし、その時は案内するよ」

 

 

三人の会話を微笑ましくみていたリンも身延町に来るのには賛成した。

 

静岡の浜松などと比べると大分田舎だけど、それでもリンはこの町を割と気に入っていた。

特に富士を望むことが出来る本栖湖はリンのお気に入りの場所で、初めてソロキャンプをしたのもこの本栖湖からだったし、なでしこと出会ったのも本栖湖の浩庵キャンプ場だった。

 

それからはリンにとって特別な意味を持つ場所となっていた。

 

 

「その時はもちろん私も案内するよっ。なんたって梨っ子スランプラリーもやったしね。今やリンちゃんよりも山梨の観光に詳しいかもっ」

 

 

「なでしこの場合、食べるところばっかり案内しそうだけどな」

 

 

リンの的確な指摘はなでしこは、はうっと図星を刺される。

 

 

「わたし、甘いもの好きだからおすすめのスイーツを教えてもらいたいな」

 

ナチュラルに甘いものへの想いをかたる蛍。

その質問になでしこは水を得た魚のように食い気味で答える。

 

 

「いいよっ! あのね、今、身延町で一番ホットなスイーツは……」

 

 

しばし山梨県での話に花を咲かせる少女たち。

 

不安な事があってもこうして集まって話をしていれば気を紛らわすことができた。

ここまで進んでも未だ出口は見えず不安はつねにある。

 

だからこうして不安を払拭するように声のトーンが高くしても気にしない、だってそれを注意するものも、訝しく思う人もいないのだから。

 

この先どうなるかは分からない、でも誰も後悔なんてもうしていなかった。

 

もうなるようになるしかないんだ。

 

 

 

 

「さて、そろそろオイルも馴染んだみたいだし、動かしてみようか」

 

話のきりの良い所でリンは、つと立ち上がる。

あれから結構な時間が経っているから、食用油とはいえ潤滑油の代わりになっているはず。

 

そろそろ頃合いとみて、率先して立ったのだが、誰も立たなかったのでなんとなく恥ずかしくなってしまった。

 

ふと、隣で膝を抱えて座っている燐を見るとやけに小さく見えた。

妙な胸騒ぎを覚えるほどに、か弱い少女を思わせていたのだ。

 

 

「燐ちゃん大丈夫? 立てる?」

 

 

妙に気になったのでリンは優しく手を差し伸べてみた。

こちらを振り向いた燐の顔はどことなくぼんやりとしていて覇気が感じられない。

 

 

(こういうの未病っていうんだっけ? 大丈夫かな?)

 

 

「……うん。ありがとう」

 

 

弱々しい動作で手をとる燐、その仕草がやけに儚げに見えて、リンは繋いだ手を少し強く引っ張り上げた。

 

 

あっ、と小さく声をあげて燐はすっと立ち上がる。

見かけ以上に強い力で引かれたので、虚を突かれた様に目を丸くしていた。

 

 

「リンちゃんって体細いのに結構チカラ強いよね」

 

 

「そう、かな? 自分じゃ良く分からないけどね」

 

 

珍しく照れたような表情を見せていた。

リンにとっては思いがけない一言だったので少し嬉しくなった。

 

 

「やっぱり、リンちゃんって燐ちゃんに優しいよねぃ。私には手なんて滅多に貸さないのにぃ……」

 

羨ましそうな目を向けながらなでしこが呟いた。

今になって紛らわしい言い方をしたのは、やっかみ半分と言ったところか。

 

 

「そんなこと……ない」

 

 

なんとなく必死な素振りのリンが可笑しくなって、燐は微笑みながらうんうんと頷き返した。

 

 

「えー、でもずっと手握ってるよ~」

 

 

口を尖らせるなでしこ。

その指摘に二人は慌てて手を離す……わけでも無く、仲良く手を繋いだままぶんぶんと否定するように振っていた。

とても気恥ずかしかったが、何故かどちらとも離す気にはならなかった。

 

 

「蛍ちゃん~、燐ちゃんが浮気してるよ~。ほらー、ラブラブだよー!」

 

 

告げ口を言う様に蛍のスカートをぐいぐいと引っ張る。

 

 

「ラブラブって」

 

 

「浮気って……そういうのじゃないよぉ!」

 

 

顔を真っ赤にしながら否定する”二人のりん”。

名前が偶然一緒なだけなのに、その動作はやけに息ピッタリだった。

 

 

「そーゆーなでしこだって蛍ちゃんにべったりじゃないか」

 

 

リンも負けじとなでしこにやり返す。

大きい胸がいいのなら普段からあおいちゃんにくっついているハズなのに、そんなのは今まで見たことがない。

 

そうなると、この異様な状況が人肌を恋しくさせているんだろう。

なでしこは姉や母に甘えたいのかもしれない。

 

 

「蛍ちゃんはママだから良いんだよね~?」

 

 

「うんうん。なでしこちゃん、もっとわたしに甘えてもいいんだよっ」

 

 

「ママ~!」

 

勢いを付けて蛍の胸に飛び込むなでしこ。

二人が出会ってから、もう何度も見た光景。

 

それは微笑ましいというよりも。

 

 

「完全に親子の触れ合いにみえる」

 

「だよね~」

 

半ば諦めたような声で見守る二人。

親と子というほどに身長は離れていないが、その振る舞いは仲のいい親子の抱擁と酷似していた。

 

 

「でもさ……わたし、なでしこちゃんの気持ち分かるんだ」

 

 

「そうなんだ」

 

 

「うん、蛍ちゃんにああやって抱きしめられるとすごく心が落ち着くんだよね。そのかわりすっごく恥ずかしいけど」

 

 

「そっか……」

 

リンと燐はお互いの胸を思わずみてしまう。

胸は関係ないと思うが、それでも気にしてしまうのが乙女心だった。

 

燐はそれほどでもないようだが、リンは……年頃の少女にしては少し貧相にみえた。

 

 

「あ、えっと……」

 

なんとも言えなくなって燐は口をどもらせてしまう。

別に優位があるとかそういうのではなく、蛍と比べたらどんぐりの背比べだったし。

 

 

「大丈夫。わりと諦めてるから」

 

 

どこか遠くを見つめるように達観した瞳を宙に踊らせるリン。

諦めはない澄み切った瞳……と思ったが明らかな絶望があった。

 

 

「うちのお母さんもこんな感じでさ、遺伝かな」

 

 

「あー、それは……なんともねぇ……難しい問題だよね」

 

 

「うん、不条理ってこういうことかもね」

 

 

今、この場には四人の少女がいるが、三人がかりでも蛍一人に勝てそうになかった。

それだけの格差があった、そしてそのことに気づいていないのも蛍ただ一人だった。

 

 

「なんかさ、世界がどうこうよりもこういう身近な不条理のほうが気になるよね~」

 

 

「……ね」

 

 

燐とリン。

二人は顔を見合わせて何か分からないけど笑っていた。

込谷燐と志摩リン、偶然名前が一緒なだけで顔も声も性格も違う二人。

 

でも不思議とウマが合っていた。

 

 

アウトドアが趣味な点は同じだったけど、それだけじゃない。

 

 

お互いが欲しかったものを持っているようなそんな感じ。

何かに惹かれたように、出会うべくして出会った二人だったと思える。

 

それがどんな影響を与えるのかは分からないけど。

やっぱりみんな一緒で良かった……。

 

 

 

 

「あ、そろそろレバー動かしに行ってみない?」

 

 

笑いつかれた後のなんとも言えない空気になったので、話題を変えようと本来の目的を指差した。

線路の脇にぽつんと置いてある転轍機。

 

それを動かしてみるのが今の目的だった。

 

 

……何の意味があるのか未だ分からないのだけれど。

 

 

「そういえばそれが目的だったね……ね、燐ちゃん」

 

 

「ん? なぁにリンちゃん」

 

 

「ちょっと元気になったみたいで良かったよ。なでしこが変なこと言ったから気にしてるんじゃないかと思ってさ」

 

 

「ごめんね心配かけて、でも……ありがとう」

 

 

繋いだ手を少し強く握ってみる。

こういうことに慣れてないのか、リンはびくっと体を震わせる。

それでも手を離したりはしなかった。

 

燐はそれこそ聡や蛍とは手を繋いだことはあるけれど、出会ったばかりの女の子と手を繋ぐなんて滅多にないことだった。

 

それだけリンの優しい性格が良く分かった。

わざわざ戻ってきてくれた山梨からきた二人の少女、今はこの縁を大事にしたい。

 

 

「レバー引いてみるから手伝ってー」

 

 

未だに抱き合ってる蛍となでしこに声をかける。

 

 

「おーきーどーきー!」

 

「うん」

 

 

軽快な返事を返す、なでしこと蛍。

お互いに手を繋いだまま仲良く駆け寄ってくる。

 

蛍ちゃんだって割と人見知りなのにリンちゃん、なでしこちゃんとはもうすっかり仲良くなってる。

 

仲間ってこういうことかもしれない。

傷をなめ合ってるだけなのかも、でも……今はすごく助かってる。

 

一緒にいるだけで嬉しい、そういうものなんだ。

 

 

 

「やっぱり良い匂いするよねぃ……ちょっと舐めてもいーい?」

 

「お腹の保証はしないぞ」

 

オリーブオイルの香り漂う転轍機の前に再び立つ四人。

なでしこの言う通り、香しい匂いが立ち込めてきて再度食欲が刺激された。

 

 

「はい、軍手。予備は一つしかなかったから燐ちゃんが付ける?」

 

 

掌に滑り止めのついた作業用軍手を渡される。

まだ使っていない真新しい白い軍手、燐はなんの疑問もなくそれを手にはめていく。

 

「まって、燐」

 

「うん?」

 

「わたしに片方貸してほしいんだ。やっぱりみんなと一緒に引いてみたいし」

 

「そう? いいよ……蛍ちゃん、一緒に引こう」

 

燐は左手に軍手をはめると、残った右手の軍手を蛍に手渡した。

お互いの手に片方ずつ軍手がはまる、そしてそれぞれの手を取り合って固く握った。

 

「これで準備出来たね」

 

「うん」

 

蛍と燐、二人は顔を見合わせて深く頷く。

 

 

それを見たなでしこは慌てて片方の軍手をいそいそと外しだした。

 

 

「私もリンちゃんと手を繋ぎながらラブラブ作業やってみたいですっ!」

 

 

やれやれと言った感じのウザそうな顔を向けるリン。

 

 

「いちいち真似しなくていいから、普通にやってくれよ……」

 

 

「もー、リンちゃんの照れ屋さんっ!」

 

 

何故か笑顔のなでしこが気味の悪い事をいってウィンクしてきた。

リンは夏だというのに無性に寒気を覚えてしまった。

 

 

少女四人の()()()()が転轍機のレバーに伸びる。

 

お互いの体が密着するほどに無理な体勢だったが、四人で引かないと意味がない気はしていた。

 

「せーのっ!!」

 

なでしこの掛け声に合わせて四人は一斉にレバーを引いた。

 

 

ガリガリ、と金属が擦れる音がしたが、それだけだった。

 

 

事前に差しておいたオリーブオイルのおかげなのかさほど力を入れなくとも軽々と動く、四人が持たなくても拍子抜けするぐらいにあっさりと。

そのままレバーを上まで傾けた。

 

 

がきっ、と何がが嵌った音がする。

レールのポイントが切り替わった音なのかそれとも別の何かが作動した音なのかは分からない。

 

 

その音の発生源を探ろうと周囲を見渡す前に。

 

 

ずしぃぃん!

 

地響きとともに何かの大きな音がカミナリのように鳴り響いた。

地震のように割れた音が周囲に広がって、少女達は訳も分からず身をすくめる。

 

その衝撃で土煙が舞いあがり、反射的に口を腕で覆い隠した。

茶色い煙が辺りを包み込んで一時的に視界が失われる。

 

何か良くないことが偶発的に起きた予感がして、蛍は煙の奥へと目を眇める。

 

 

その奥には白く長いものが横たわっていた。

何かが倒れているようにも見える。

 

 

「あっ!?」

 

 

先ほどあったものが別の姿になっていたから、燐は思わず声をあげた。

 

 

「あぁ──!!!」

 

悲鳴のような声をなでしこもあげる。

その驚愕の声はなんどもトンネル内に木霊する。

 

 

「……やっちった……」

 

リンはまるで他人事のように小さく呟いていた。

 

 

あの背の高い標識が無くっていたのだ。

 

 

転轍機と連動していたのか分からないが、レバーを引くとほぼ同時にあの白く何も書いていない標識も倒れたようだった。

 

別に誰かにぶつかったわけでもなく、傍に置いていた荷物も無事だったのだが、その方向にあった線路を塞ぐように倒れていた。

 

倒れた衝撃は大きく、線路や枕木も大破した可能性があった。

もう廃線跡の線路なのだから、さほど問題ではないのかもしれない。

 

でも何か大事な、そうイタズラではすまない事をやってしまった感じがした。

そしてそれを行ったのは他でもない自分達自身の手だった。

 

 

単純な罪悪感が少女達四人の心を包む。

 

現実には程遠い世界なのに現実逃避したくなるほどにやったことへの衝撃が大きかった。

 

 

 

「あっ! これってもしかしておっきな鉛筆倒し機だったんじゃない?! ほら、鉛筆の代わりに標識が倒れた……とか……どうかなぁ?」

 

 

 

 

 

……なでしこの突飛すぎる発想には誰も口さえも開いてはくれなかった。

 

 

…………

 

………

 

……

 

 

 

 







某所で投げ売りされていた、ガリガリ君卵焼き味を食べてみる……うん、ヤバイ。

物珍しさで買ったブラックサンダーカカオ72%を食べてみる……うんうん、これもヤバイ。

両方ともヤバ美味(ウマ)し──でした。


少し変わったものを食べると脳が活性化したような気になる──当然、気だけでしょうけど。





さてさて、ある方のゆるキャン△ の考察を見てみたのですが、もう全部分かるって感じでした。
分かりみが深いとはこのことなのかー? このことでしょうねー。

正直この人となら美味い酒が飲めそうな気がする……。
いや、一緒に焚き火を囲んでゆるキャン△ 談義で朝まで語らえそうなほどに気が合いそうですねー。
まあ私自身、下戸に近くて発泡酒半分ほどでもへろへろになってしまうんですけどねー。

アニメ版5話を見て涙腺が緩んでしまうのも良く分かります、この話と初回、最終話だけが特殊エンドなんですよねー。原作やドラマ版よりも演出の光った回ではないでしょうか。

原作マンガとアニメ版の差異が気になるのも分かりますねぇー。
過剰演出っぽいのは大半がアニメオリジナルなんですよねー。リンのお爺ちゃんのソロキャンシーンが気になるのも分かるなあ。これは尺の関係上仕様がないのかもしれないですが、キャスト的な問題で入れておきたかったのかもしれないですね。

逆にドラマ版は変わった仕様であるんですね。
構成自体はアニメ版を踏襲(とうしゅう)しつつ、設定はより原作に近くにしてましたね。
(リンが主人公であることや、アニメ版はカットされたセリフの再現など)

私はドラマ版、実況しながら見てたのですが、ちょくちょくアニメ版も話に挙がってましたね。
大体が某声優がらみでしたけど……特に気になったのは空飛ぶテントをどう再現するのかを気にしているかたが多かったかな? 当時アニメ版を見てなかった私としては何のことだかさっぱりでしたが、最近見てそれがようやく分かりました。
何てことはない、原作へやキャン△ のエピソードを唐突に最終話にぶつけてきただけのことだったんですね。

原作マンガを知っているひとから見ればなんでここで? それもわざわざ斎藤さんを追加してまでやるかなーとか思うぐらいでしょうか。まあ最終話にあたり何かサプライズ演出が欲しかったのかもしれないですが。

ただ原作知らない人から見れば……唐突且つ、脈絡なさすぎるんじゃないかなーとは思うかもしれないですね。

突然みんな10年後になりましたからねー。私は存じ上げませんが、放送当時は色んな意味で話題にあがったのかもしれないですね。

でも、最終話でのシーンで迂闊にも涙腺が緩んでしまったので、私的にはかなり良い最終回だったかなーと思ってます。
初見は、また本栖湖なのーとか思ったのですが……演出上手いなあ、セリフ回しも良かったですしねー。何度も見ちゃいそうなほどに良かった最終回でした。

余談ですが、ツッコミどころ満載のパロディAVでも、何故かこの最終話での本栖湖のシーンを再現しています。比較にならないほどのチープ感ですが。それでもここだけは再現してみたい拘りがあったのでしょうか? 
でも何でリンっぽい人もなでしこっぽい人も何で徒歩キャンプなんだろう……自転車の許可? が下りなかったとか? 
まあちくわっぽいワンコもぬいぐるみでしたしね……それでも出しただけ偉い。のかな?

AVだから濡れ場的なものも当然あるんですけど、これもツッコミ所満載でして、ゆるキャン△ が題材だと女同士の百合エッチが多そうなイメージがないですか? 私はそんな気がしてたのですが……実際はかなり少な目でしたねー。大半が男優との絡みでした……。

しかもシチュエーションがもうね、リンっぽい人がソロキャンプをする理由が家でひとりエッチをするのが恥ずかしいから、わざわざキャンプ場まで行ってのテントの中で致す、っていうある意味リアルな理由なんでしょうか? リアルなソロキャン女子から抗議されそうですけど……。

そこからなでしこっぽい人も加わって大人の玩具を使いながらレズシーン……でも最中に唐突に男優二人がテントに入ってきて二人一緒に……男優さん要らなくないです?

なんかAVの事ばっかり語ってて色々な意味でヤバい気がするので今回はこの辺でー。


ではではー。  

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