かみゅキャン△ ── Camus Canp ── 作:Towelie
金属の車窓から零れる光、人工的な明かり、とても懐かしい気持ちにさせる。
外灯もなければ星の輝きさえない、夜の町。
ただ唯一の光は電車から落ちてくるこの蛍光灯の殺風景な灯りだけだった。
電車の窓が強い光をぼんやりとしたものに変化させる、それは改札口の向こう側にいる、着物を着ている女の子の影がコンクリートの床に長く伸びていた。
こちらに睨みを利かせているわけでも、憐れんでいるわけでもない、ただまっすぐにこちらを見ていた。
黒い瞳の奥に全てを閉じ込めるように。
──あの時のままの女の子。
絹糸でかがられた毬をもち、赤い小袖に身を包んでいる姿。
蛍の家でみた光景は過去の出来事とその残像と言っていたのに、その過去の姿のままで今、ここにいた。
けれどもアレは本当に残像だったのかはまだ分かっていない、赤い着物の裾が揺れるのを確かに見たはずなのに。
これも歪みが起こした不可思議な現象の一つなのか、或いはこうなった原因そのものなのか。
それを知っているのは本人だけ、それともそれすら分からないのか。
少なくともあのマヨヒガは知っているような口ぶりだった。
意を決して蛍は再度尋ねようと口を開く。
あの光景を目の当たりにしているのでちょっと躊躇してしまう。
それでもあそこが全ての始まりというのなら、やはり問いただす他になかった。
「あっ! ほらほらそっくりでしょ~、この子、オオモト様の妹さんだよっ。名前はえっと……もごっ、もごごっ!?」
リンはなでしこの口を手で押さえて無理やり黙らせる。
涙目で訴えかけてくるなでしこ、リンは真剣な顔でひそひそと耳打ちする。
(なでしこが言うとややこしいことになりそうだから、ここは黙っておこう)
(で、でもっ)
もごもごと口を動かしているが何となく雰囲気は伝わる。
(大丈夫、喧嘩になりそうな感じはなさそうだ。ただ……)
(ただ……?)
(お互い、出会わない方が良かったような気もする……)
リンは奇妙な罪悪感に駆られた。
別に隠しておきたかったわけでもないけど、なぜだか黙っていたことが苦しかった。
「えっと……若返ったってわけじゃない、よね?」
小さくはにかみながら燐は言葉を選んだ。
どうしても年下の女の子に見えたので、とりあえず当たり障りのない会話から進めていく。
「そうね。わたしは
表情を崩すことなく少女は言葉を返す。
燐にはその”違い”の意味は分からない、言葉通り受け止めるならば別人と言うことになる。
(でも別人ったって、どうみてもオオモト様の子供の頃にしか見えないんだけどな……)
「えっと、じゃあ、オオモト様の妹、さんでいいんですか?」
蛍は矛盾をはらんでいる質問をする。
それでも問いたかった、間違えであると知っててもなお。
「そういう事じゃないわ、それはあなたも分かっているはずよ。同じ血のものが二人とこの地に立てないことを」
少女は少し感情を含ませた言葉を返した。
その意味が分かってしまう蛍、動揺を隠しきれず戸惑ってしまう。
「じゃ、じゃあ」
震える唇でさらに話を続けようとした。
”青いドアの家のオオモト様”とは少し違った言葉、今のうちに色々聞いておきたかったから。
しかし先に少女が話出してしまった。
でもそれは蛍が知りたかった事とニュアンスは似ていたのだ。
「わたしは言わば作られたもの、歪みが起こる前兆のような存在。だから気にする必要はないわ」
色鮮やかな毬を見つめながら少女は抑揚のない声色で呟いた。
衝撃の告白に近い内容だが、全容を理解できるものはここにいない。
それは本人すら解らぬことだった。
蛍も燐も眉を顰める程度の事しか出来ない、苦手な教科に直面した時のように。
この女の子とオオモト様、二人の関係はやはり良く分からない。
ただお互いに意識を共有出来ているのは分かる、何らかの連絡手段があるのか、それとも血が関係しているのか、いずれにせよそれを語ってくれそうにはないようだ。
(携帯で連絡とってるとか……さすがに想像できないか)
リンは自身の妄想を即座に打ち消した。
ガジェットを使って通信し合う、和服の女性……あり得なくはないが、ここではどう考えても無理なことだった。
「ここに長居をするのは良くないわ。何をするにせよ早く決めたほうがいいわよ」
「良くないことなの?」
思わずなでしこが聞き返してしまう。
蛍や燐と違い、なでしことリンは既に少女と言葉を交わしていたので割と普通に接していた。
「人は光に安心感を求める、それは彼らも同じこと。光を求め、性を蝕もうとする本能だけの存在でも」
その言葉に四人はほぼ同時に駅舎の外の景色に目を向ける。
闇夜の中の雨煙が町も山も覆っていた、いくら目を凝らしても見えるのはそれだけ。
今のところは何も無いが、最悪の事態を想像してなでしこは身を震わせる。
ゾンビが駅に群がってくるシーン、ありがちかもしれないが起こりうる可能性はないとは言い切れない、それが分かっているから恐怖は収まってくれなかった。
「まだアイツらが来てる感じは無さそうだね」
「うん。でもどうしようか……」
燐と蛍はベンチに腰を掛けたまま逡巡する。
二人だけならそう難しくない問題なのだが、
これ以上友達に迷惑を掛けたくはない。
でも、諦めきれない想いもあった。
なでしことリンも背中合わせにベンチに座り、それなりに考え込んだ。
だが、二人のプランはもう決まっている、それは燐と蛍の想いを尊重してあげること。
だからどんな選択をしても二人を応援するつもりではいた。
でも二人がもし行ってしまうならば、自分達も行くつもりではある。
それがここまできた友達への感謝の気持ちだったから。
「あの~、オオモト様? 蛍ちゃんの家の離れ……つまりマヨヒガって今どうなってるんですか?」
小さく手を上げて燐が質問する。
この女の子……オオモト様は知っている筈だ、あそこで何が起きてどうなったかの一部始終を。
それは燐と蛍だけでなく、なでしこもリンもなんとなくそう感じていた。
知っているからこその言葉をその情報をこの女の子は持っている、それはオオモト様も同じなのだけれど今はいない。
だからこそこの子に頼るしかなかった。
この先の四人の運命を。
蛍はごくりと唾を飲み込んだ。
毎月集まりがあることだけは知っていたが、それが自分の家の敷地でのことだったなんて。
しかもそんなことの為に用意された場所だったとは未だに信じられなかった。
町の人に裏切られた思いよりも、そんなことすら知らずに普通に暮らしていた自分の無知さが恥ずかしかった。
リンとなでしこは少し興奮気味に少女の次の言葉を待っていた。
ここで少女が語るべきことは多分とても重要な事、それが何となく分かっていたから。
青いドアの家に行ったときですら、語ってくれなかった小平口町の異常、それが遂に分かる予感がする。
二人は場違いとは思っても好奇心の高鳴りを押さえられそうになかった。
ここに居る誰もがこの少女の動向気にしていた。
当の少女はそんな期待の視線を受けても気にすることなく、無造作に毬を上へとそっと放りなげる。
幾重にもかがられた毬、四人が良く知っている幾何学な模様だった。
ぽん、と毬は少女の手の中へ戻る、手毬に視線を落としながら少女はぽつりぽつりと外の雨の様に話し始めた。
「そうね、あそこはもう、何もないわ。人も物も、すべて飲まれてしまった」
「それって、ブラックホールに吸い込まれたからとか?」
蛍ではなくリンが質問する。
知り合って間もない二人でもリンがこの手の現象にロマンを求めていることは薄々感じていた。
「そういうのとは違うわ。物質や想いが集まって一つになったの。出来た物は一つ、二つに分かれたものもあった」
「一つと二つで三つって事? うむぅ~?」
少女が何を言っているのかなでしこには皆目見当もつかなかった。
もちろんリンにも理解が出来ない、二人には少女の言葉は謎かけの類にしか聞こえなかった。
(分かれたのは多分サトくんの事、かな。一つになったのは……あの祭りごとに関わった人かな?)
蛍は不意に吊り橋での出来事を脳裏に浮かびあがらせる。
橋の隙間から幾つも伸びてくる手、明らかに異常な現象だったが、あれが一つの存在の仕業だとすると納得できる部分も多々あった。
なぜそうなったのかは分からない、歪みの中心にいたせいかもしれないし、別の要因があるのかもしれない。
そんなのが近くにいた、そう考えると何だか気持ち悪くなってきた。
すべてが一つに混ざったのが家の敷地内に居た可能性がある、それは生理的な不快だった。
しかもそんな事を気にしないで燐と二人で一夜を共にしたのだから、無知とは言え恐ろしい。
まさか自分が一番安全だと思っていた所が一番危険な場所だったとは未だに理解しがたい。
だがそこに何かの力の働きがあったのも事実だろう。
なんで家に行ったときに気づかなかったのか、今更なことだが後悔してしまう。
もしまだ間に合うなら行ってみるべきだろうか、親友や行きずりの友を連れてでも……。
(やっぱりあそこで何かあったんだ……)
燐は蛍と違い、二つに分かれたモノの事だけを考えていた。
あそこで何かがあったのは分かる、ノートにも端的にだが書いてあったことだし、でもその原因までは詳しく書いてはいなかった。
燐のカバンの奥深くにしまい込んでいるあのノート、全部目を通したつもりだったが、脳がそれ読み解くことを拒否した箇所も一部あった。
またノートを見返したいとは思わない、直接見るまでは信じたくないことだってあるんだ。
仮にそれを確かめたところで何も変わらないだろう、それとも何かが変わる?
もしほんの僅かでも可能性があるのなら、それに賭けたほうがいいのだろうか。
蛍と燐、目指す場所は同じだが、想いは微妙に違っていた。
「真実を知ることが必ずしも良い事になるわけでもないの。時に真実は目を心を狂わせてしまうわ」
「知るも知らぬも自由よ。けれどあなた達を求める者はまだ残っている」
ここから出るということは、またあの何かと合う可能性があるという事。
でも知らぬということは……全てに目を瞑ることであり、見捨てることだった。
それはとても苦しい、どちらの選択も苦しいのは変わりない。
「私たち無人島でキャンプしたこともあったよねん」
「あれね。一時はどうなることかと思ったけど以外と面白かった」
誰に聞かせるわけでもなく、なでしことリンは過去の出来事を話していた。
多少ワザとらしい感じがするが、恐らく自分達は結構色々な体験をしていると言いたいのだろう。
(確かに二人とも見た目以上にタフだよね)
燐は苦笑いを浮かべて、二人の会話を横目で見る。
わざわざ戻ってきてくれたリンとなでしこ、二人の友達。
また二人の友達に無理強いをさせようとしている。
それはもうやめにしたい、でもそうなるとまた諦めることが増えてしまう。
心の拠り所であるあの人のことさえも捨てることに……。
燐を気遣う様に見つめる蛍。
そんな蛍もまた折り合いがつかずにいた。
燐さえいればそれでいいと思ったけれど、それはひどく薄情な気もする。
この世界を作る原因の一つを担っていることは理解出来ているから。
だからこそ自分と言う存在が居る限りまたこの現象は起こる可能性もある、そう考えるのが当然だった。
普通の人間に近づいているとオオモト様は言ってくれたけど、その根拠はない。
疑っているわけでもないが、もし普通の少女に戻れた子がいるのなら、この歪みは起こらなかったのではないだろうか?
歪みの連鎖は終わらなかったからこそ自分はここにいるのだ。
そんな自分があそこに行けば何かが変わる気がする、この世界を変えるなんてことが自分に出来るとは思わないけど。
それでもある種のけじめをつける必要があった。
そうじゃないと燐の隣に立つ資格すらない、電車が見えたことを一縷の希望とするのならば今やるべきこと、それは。
「燐、わたし……」
蛍は真剣な表情のまままっすぐに燐をみる。
燐はその視線に軽く微笑み返した、そして蛍の手を取って自分の呼吸を落ち着かせる。
(ここが本当のターニングポイントか)
なでしことリンは黙ったまま視線だけを二人に向けた。
決断が下されようとしている、これからの四人のことで。
──それはとても残酷な言葉のハズだった。
──それが言葉に出来ていればの話だが。
一瞬の事だった。
意を決した蛍が唇を開ける瞬間、それは起きた。
ガシャン!!
大きな衝撃音が鳴り響いたと思うとキラキラとしたものがバラバラと落ちていった。
ああ、良く分からないけど硝子が割れたんだ、スローモーションの様な光景を目でぼんやりと追いながら燐は何となく理解する。
カツン、と力を失ったように床に転がるものがあった、それは普通の石ころに見える。
でも誰が? というより、何が起きたの? 状況がまだ理解出来ない。
見ると駅舎の正面のガラスに穴が開いていた、多分この石の仕業で。
「みんな大丈夫!?」
リンの鋭い声が飛ぶ、その声でぼんやりとした頭も目も冴えることができた。
「蛍ちゃん! 怪我はない?」
蛍の姿は燐のすぐ目の前にあった。
今気づいたが燐と蛍は無意識に抱き合っていたのだ。
「うん……燐は、怪我してないの?」
「あ、わたしも……うん、だいじょうぶ、みたい」
自身の体を見回して見るが、破片が刺さったあとなどなさそうだ。
蛍の体も確認してみるが傷らしきものはない。
「なでしこちゃんは?」
「私もランプも無事だよっ!」
なでしこは大事そうにガスランプを抱えながら元気な声をあげる。
全員無事なのは幸いだが、確実にこちらを狙ったものだった。
一体誰の仕業とガラス越しに夜の街を見渡す。
犯人はすぐに分かった、確認するまでもない、それは割れたガラスの間から漂ってきたから。
甘ったるい不快な臭い──それこそがあいつ等の存在を確かにするものだった。
「なんでアイツ等こんな時に!」
非難するように燐は叫ぶ。
駅舎の窓越しに見える暗いアスファルトの上に、異形の存在を確認出来た。
視界に映るだけでも十数体ほどいる、白く顔のない人影の群れ。
雨に濡れた体を気にするわけもなく、ただ意味不明な言葉を口々に発しながらずるずると、こちらに向かって歩みを進めてきていた。
奴らの狙いは間違いなくこの場所だろう。
「ここには彼らの欲しいものが全てあるから。眩い光、脱出するための足、そして欲望を満たすため捌け口。あなた達にも都合がある様に、彼らにもまだ都合があるのよ」
燐のやるせない叫びに、少女は落ち着いた声色で説明する。
こうなることが分かっていたような口ぶりで。
灯りが少ないので窓の外の様子はまだ暗く、詳しいことは分からないが、白い人影は皆、何かを手に持っているようにみえた。
棒の様に長いものや、四角いブロックの様なもの、皆何かを手にしながらこちらへとゆっくりと近づいてきていた。
あからさまな攻撃性を持っていることに少女たちは顔を青くして
「蟻のように群れるのは言わば元の人間性がなせるもの。だから誰かが武器を持てばそれを模倣してしまう。仲間外れになるのは怖いから」
(元の人間って……ゾンビってここの住人なのか……)
リンは少女の何気ない言葉に眉を寄せる。
薄々感づいていたこととはいえ、いざそれを知ってしまうことは少なからずショックがあった。
あの白いゾンビが
良く考えれば分かることだが、いざ目の前に恐怖が襲い掛かると、そんな事はどうでもよくなってしまう。
それが何者であるかなんて気にする余裕もさえもない、ただ恐怖から逃れるのみだから。
そう思うとリンは急にあの白いゾンビ達が怖くなってきた。
元が人間ということは、ここにいればいずれ自分たちもそうなる可能性もある事だ、それは行き過ぎた妄想かもしれないが、今のリンには理屈が正しいように思えてならなかった。
「ねぇ、蛍ちゃん。あのゾンビって強い光が苦手なんだっけ?」
「あ、うん。燐が車のヘッドライトを当てたときあの人影たち後ずさりした気がしたんだ」
こそこそとした動きでなでしこが近づいてきたと思うと意外な事を聞いてきた。
今、まさに恐怖が襲い掛かろうとしているのに妙に暢気な質問だった。
だから、蛍は頭で理解する前にさらりと答えてしまった。
余計な事を含ませたことも気にもせずに。
「ふぇ? 燐ちゃん。車の運転、したの?」
きょとんとした表情でなでしこが顔を覗き込んでくる。
突然の振りで、燐は慌てふためいたように誤魔化しつつも問いに応じた。
「あ! もう、蛍ちゃん! その、ちょ、ちょっとエンジンを掛けてみただけだよ~。でもっ、どうしてそんなこと聞いたのっ?」
なでしこ達が電車を運転するかもしれないのに、何故か自分の運転の事は隠しておきたかった。
友達なんだから告白しても良いんだけど、蛍との大切な約束を守りたかった。
(肝心の蛍ちゃんはすぐバラしちゃうんだけどね……)
「なんだ、ちょっとビックリしちゃったよん~。ほら、今、電車の照明があるからあいつ等来れないんじゃないかと思って。ほら、このガスランプもあるしねぃ!!」
ランプが魔除けになるとでも思ったのか、なでしこは何を思ったのかガスランプを頭上に掲げた。
淡いランプの明かりがゾンビ達を退散させる。
当然そんなわけはない、むしろそれはあいつ等から見れば良い的のように見えた。
ひゅん、と風切る音がしたと思うと。
ガシャシャーン!!
再び何かが破れる音が響く。
今度は更に激しい音が駅舎の中を振動するように鳴り回った。
「ふあぁぁぁ!?」
その音にも負けないほどの甲高い声、なでしこの悲鳴が木霊した。
目を丸くしたまま凍りついたように立ち竦んでいる。
どうしたの? と蛍が声を掛けようとするがその手が止まった。
あまりにショックな出来事が起きてしまったから……。
「わ、割れぢゃ゛っ゛だ……私の大事な大事なガスランプが木っ端みじんに……」
震えながら手にしているのはガス缶と本体と思しき金属製の部分のみ、肝心のランプ部分は無残にも割れて吹き飛んでしまっていた。
「なでしこ!」
「大丈夫なでしこちゃん! 怪我は? 手とか切ってない?」
リンは燐は即座になでしこの傍によって安否を確認する。
リンはなでしこの手から強引にランプを取ると、コックを捻ってガスを止めた。
燐は半ば強引に手を開かせて怪我がないか確かめる、幸運にも傷はついておらず、ガラス片も服にすら刺さっていなかった。
「えぐっ、えぐっ、なけなしのお金で買った、可愛いランプが、大事なランプが……」
割れたランプを手になでしこが泣きじゃくっている。
まだ破片が残っているかもしれないので、見ているこっちが心配になってしまう。
蛍は床に転がっている別の石を発見した、これが駅舎のガラスとランプを同時に壊した元凶だろう。
なでしこの体に当たらなかったのは幸いだった。
きっ、と窓の外にいる奇怪な連中を睨む。
だが連中は下卑た笑い声をあちらこちらから上げている。
「スゲエ、2枚抜キ……ナカナカヤルナァ」
「ヒヒヒ、涙目ノオンナノコ……ソソルヨネ」
コイツ等は人であって人でない、この低俗な笑みでそれが嫌と言うほど理解出来た。
可愛そうな存在であるが、危害を加えてくるコイツ等には同情の余地はなかった。
「ば、ば、ば、バカぁ!! 何てことするんだよぉ!」
涙声のなでしこの絶叫が駅舎を抜けて町全体に響くほどの反響を揺るがす。
普段悪口を言ったりしない純真無垢ななでしこだが、自分の大事にしていたものが傷つけられたのには我慢ならなかったのだ。
それでもあの白いゾンビには届かない、彼らはより大きな声でゲラゲラと笑いだしていた。
そしてその声は数を増やし続けている、いつしかそれらはロータリーを覆いつくすほどの数にまで増殖していた。
小平口町に残っているすべてのアレがここに集結している、そういっても過言ではないほどに。
そしてそれは何かの合図のように手を上げていた、皆、何かを手にして振り上げている。
(まさか!? そんな嘘でしょ!)
燐は咄嗟の判断して蛍の手を掴み、ベンチの後ろにあるごみ箱へと身を隠した。
それを見たリンも察したように、涙ぐむなでしこの腕を強引に取って太い柱の影へと身を隠す。
身構える四人と、対照的にぼーっと立っている少女が一人。
リンは改札の外にいる女の子と目があった。
「隠れてたほうがいいよ」
リンはなでしこをなだめながら少女に身を隠すようにジェスチャーを交えて指示をだす。
「わたしのことは気にしなくていいわ」
それだけを呟いて関心なさそうに顔を背けた。
「……小さいから大丈夫なんじゃない?」
素っ気ない態度を見た燐がわざとらしい声で話す。
「ちょっと燐」
蛍は燐のスカートのすそを掴んで窘める。
見た目は女の子だけどオオモト様だよ、と言わんばかりに。
「……」
少女は一瞬年相応に見える、ふくれっ面になったが、思いの外素直に改札から離れて建物の影に身を隠した。
ねっ、燐は目で合図を送る。
蛍はそれに苦笑いを返した。
「ヒャッハー! 新鮮なJKダァー!!」
叫び声のような怒号が響く、それに呼応したように様々なものが駅舎に投げ込まれる。
台風のような暴風が駅舎の中で暴れ回った。
ガラスはパリパリと割れ響き、待合室の設備はつぎつぎと傷ついていった。
そこまで古くない駅舎なのに、投げ込まれるものが壁や床までも無秩序に破壊していく。
何時までつづくのか分からない、投石と雄たけび。
何かがぶつかる音が出る度に悲鳴を上げそうになる。
四人の少女は照らし合わせたように声を我慢してやり過ごすことにした。
直ぐにでも改札を抜けて電車へと行きたかったが、今、動くことはとても危うい。
嵐が過ぎ去るまでは四人は物影に身を縮こませるだけが出来ることだった。
「合図出すから、みんなで一斉に改札に入ろう!」
「うん!」
喧噪に負けない声で燐とリンは確認し合う。
蛍もこくりと頷いた、なでしこもべそをかきながらも小さく頷く。
投げるものがなくなったのか、次第に音が収まっていく。
途切れたタイミングが鍵だった。
「いくよ! いっせーの!」
少女たちは一斉に動き出した。
リンはなでしこを強引に立たせて、素早く改札を抜ける。
なでしこは未だランプが壊れたショックから立ち直っていないが、それでも半泣きのままゲートをくぐった。
燐と蛍は手を取り合ったまま、改札を抜ける……はずであった。
だが二人は金縛りあったように立ち尽くしていた、後数センチで改札を抜けられるはずなのに。
それは体の問題でなく、心の問題であった。
ここを抜けるという事は全てを諦めること同じ、町も人も大事な人も全て黒い卵の中に閉じ込めてしまうということ。
わたしたちはこの世界で何をして、そして何をしに来たんだろう、今になって疑念が泡の様に沸き起こってきていた。
「蛍ちゃん! 燐ちゃん!」
改札口の直前で二人が立ち止まっているのを疑問に思ったリンが切羽詰まったように声をあげた。
二人がここへきて立ち止まる意味はリンには分からない。
いや分かっているつもりだった、燐と蛍、二人には何かしらの悩みがある、それは分かっていた。
それは漠然とした悩み、同い年の女の子だったから分かったつもりだった、この年の子は色々で悩んでしまう、それは自分だって同じだったから。
でも今になって思い知らされる、何も分かっていなかったことに。
僅か数センチの改札が潜れないほどにあの二人は思い悩んでいるのだ、すぐ後ろから絶対的な悪意が迫っているというのにそれ以上に苦しいことなんて、リンにはとても考えが及ばなかった……。
「蛍ちゃんごめんね。わたしの目にはどっちの世界もそれほど変わらないんだ……灰色か黒かその程度の違いしかないんだよ。だから今更迷っているんだ」
燐は自虐気味に呟いた。
ここから脱出出来たとしてもその先の嫌な事は何も変わってくれない、むしろそれ以上に悪化する恐れもあるのだ。
だったらこのままのほうがまだ、いいのかも……だってまだ、あの人を好きでいられるから。
綺麗な思い出のままの自分でいられるから。
「そうなんだ……じゃあ辛いよね」
「うん……」
燐の告白。
何となくは分かっていたことだけど、蛍はそれを聞き出そうはしなかった。
多分知るのが怖かった、でも一番怖いのは燐に嫌われてしまうこと、そのことを考えただけで身を引き裂かれる思いがするのだ。
だから燐の辛さは分かっている、それは同じ思いだったから。
だからこそ改札をこえることが出来なかった、蛍には電車も光も今はハッキリと見えているのに、ただ燐が動かなかったから蛍も動かなかった。
それは燐が好きだったから、ただそれだけ。
「だったらさ、燐が楽な方を選ぶと良いよ。その方が苦しむことが少なくてすむよ。でも、どっちの道でもわたしはついていくから。たとえどんな結果になったとしてもね」
「それに、今更なんてことはないよ。遅いも早いもない。燐とわたしは”今”、一緒なんだから」
ぎゅっと強く手を握ってくれる優しい親友。
いつもどんな時でも味方になってくれた、どこまでも透き通った瞳と心をもった少女。
優しく、そして儚く微笑む蛍の顔を見つめる。
これだけ魅力的な子がわたしと一緒に居たいって言ってくれてる。
──その微笑みにざっ、と音を立ててノイズが走った。
(そっか、心が迷っているからこうなるのか)
今更自分の弱さを知った。
弱い事は強い事なんていうけれど、言葉通りになるなんてことはない、弱いは弱いままだ。
だから弱いなりの行動をするまでだ。
燐はそっと瞳を閉じた、本当は弱い自分の目を潰したかったが、そんな事をすれば蛍が悲しむ、それは何よりも辛い事だったから。
「蛍ちゃん! 一緒に、一緒に飛んでくれる?」
「うん! いいよ。一緒に、二人で飛び越えよう」
蛍は燐の言葉に疑問を抱くことなく即答した。
それは燐の手の震えが、冷たさが、怖さが伝わってきたから。
(ごめん、お兄ちゃん。わたし、わたしたち、今からすごく
パキッ、と二人の背後から踏みしめる音がする。
投げる者がなくなった白い影が駅舎に侵入してくる音だった。
「コレデ定時でカエレル……」
「仕事辞メテェナ、マジデ……」
意味不明な言葉を発しながらも迷うことなくこちらへと向かってくる。
ぱきぱきとガラスを踏み割る音が次第に増えてきていた。
「早くこっちへ来てぇ!!」
自分の悲しみなど忘れてなでしこが叫ぶ。
ガスランプの事はとても悔しい、でも今はそれどころじゃない。
背後から迫る白く不気味な顔が歓喜の喜びで歪んでいた。
二人の肩を掴もうとイビツな手を伸ばしてくる。
「燐、飛ぶよ!」
「……うん!」
手を繋いだまま改札を跳び越す。
ちょうど二人が通れる程度の狭いステンレスの間をジャンプした。
別に下に崖があるわけでも障害物があるわけでもない、それでも断腸の思いで改札を跳び越した。
瞬く隙も無い時間、本当に僅かな時間だが、この世界から二人は解き放たれた。
飛んでいるなんて感じることもない時間だった、でも不思議と軽やかだった。
蛍も燐も目を瞑っていたが、あっさりと着地できた。
大した高さでもなければ距離もない、それでもちゃんと地面に立つことができた。
気持ちも体も歪むことはなかったのだ。
二人はほぼ同時に目を開けた、ちゃんと地に足がついたのを確認すると顔を見合わせる。
「どうしたの?」
何も言わずに顔を見つめてくる燐に蛍は恥ずかしそうに尋ねた。
「うん。やっぱり蛍ちゃんって可愛いなあって思って」
綺麗な蛍の瞳、それが今はっきりと燐の瞳に映っている。
もうノイズのようなものは見えてない、そんなものなんて最初からなかったのかもしれない。
弱さが迷いが作り出した、文字通りの”ノイズ”だったのだろう。
「燐だってすごく可愛いよ。今の燐なら何でも出来そうじゃない?」
蛍から見た燐、少し前まではちょっと顔色が優れなかったから気になってたけど今は大丈夫みたい。
いつもの綺麗な燐のままだ。
「くすっ、ありがとう蛍ちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
二人は笑みを零しながら和やかなやり取りをした。
やっと普通に笑うことが出来た気がする、それぐらい久しぶりの心からの笑顔だった。
「もう、そんなところでいちゃいちゃしてないで早く早く~!」
ふいになでしこに手を引かれて、慌ててつんのめりそうになる。
手を繋いだままバランスを取るとなでしこに引かれるがまま、ホームを走った。
「オオモト様っ!」
蛍が開いた手を少女に差し伸べる。
予期せぬ言葉に少女は一瞬迷いをみせるが、おずおずと手を前に出してきた。
蛍は半ば強引にその手をとると燐に歩調をあわせるように駆けだす、少女もそれに続いた。
ちりん、ちりん、と鈴の音がプラットフォームにか細く響く。
少女の履くぽっくりの底についている小さな鈴が鳴っていた。
その可愛らしい音色は少女たちの心を少し和ませるものだった。
「おーい! こっちから中に入ってー」
いつの間にか運転台に乗り込んでいたリンが急かす様に手を招いている。
「リンちゃん、準備できてる?」
「まあ……なんとかね」
息を弾ませながら訪ねてくるなでしこにリンは少し目を逸らして呟いた。
一通りの運転手順は覚えたが、実際に動かしたことはない、いきなりの実技だったので当然緊張していた。
「私もサポートするから、頑張ろうねぃ!」
「お、おう」
頼もしさのアピールなのか、なでしこが胸を叩く。
それほど期待していないがそう言ってもらえるだけでもここは有り難かった。
どうせ逃げ道など殆ど残されていないのだ、だったら全力でやってやろう。
半ばヤケクソ気味にリンは気持ちをあげていくことにする。
「心配かもしれないけど、何とか運転してみるから。二人は座っててね」
「うん、分かった!」
「頑張って~」
切羽詰まった状況なのに、なぜか和やかなやり取りを行っていた。
ここまで来たら反対も何もない、全て任せるほかなかった。
燐と蛍1両目の車両の後方のドアに向かった。
2両編成の電車だったが、ワンマン列車の為、2両目のドアは開かない構造になっていた。
開いたままの電車のドア、今気づいたがあの時乗ってきた型とカラーも形も色もよく似ていた。
だからと言ってどうなるわけでもないけど、それでも親近感は湧いていた。
「足元濡れるから気を付けて」
「うん」
手を取り合ったままで車両に乗り込もうとする二人。
そんな二人に声を掛けてきた。
「ちょっとだけ良いかしら?」
「ええっ!」
「あっ……」
それはあの毬を手にした女の子。
オオモト様の小さい頃の姿のままの女の子。
未だ正体はつかめないので少し距離を置いておきたいが、話しかけてきたのだから無下には出来ない。
自然と二人の足が止まってしまう。
「あ、その、お話があるのなら電車の中でも出来るんじゃ……」
蛍は少女を気遣うように提案する。
話なら電車内でも出来るし、それにここ長くいることはあまり好ましくはない。
いつアイツらが改札を抜けてやってくるかもしれないのだから。
「それは大丈夫、あの人たちはここまで入ってこれない」
「それってどう言う……」
「あそこから先はもう違う世界なの、次元が違うと言えばいいのかしら。二人ともこの場所に見覚えがあるはずよ」
燐が言い終わる前に少女は指を差した、その先は改札口の方へ向いている。
謎かけのような言葉に、燐と蛍は改めてホーム全体を見渡した。
窓から零れる光が雨に反射して電車とホームを幻想的な風景にしている。
だがホーム自体は普通だった、いつもと変わらなぬ小平口駅……。
「あ!」
蛍が思わず声を上げる。
この駅を一番利用していた蛍だからこそ気づいたことだった。
「蛍ちゃん、なにか分かったの?」
燐としては待合室にいるであろう、あのナニカの事がとても気掛かりだった。
何故入ってこないのか、それが気になって駅自体の変化には気づかなかった。
「ここ、小平口駅じゃない……」
「えっ!?」
蛍は呆然と呟いた。
燐は慌ててペンライトをポケットから取り出すと、ホームを一つ一つ確認するように周囲を照らし出してみる。
駅名を示す看板も、広告のポスターも何もない、それと当然のことながら電車にも行先をしめす表示すら何もなかった。
それにあの時、小平口駅は確かに壊れていたのだ。
リンちゃん達に聞きそびれたが、このホームにとくに壊れた箇所は無い、直したような後だって当然なかった。
あれだけの陥没だからそう簡単には治せないはずだけど。
「ねぇ、燐、この駅なんか見おぼえない?」
「見覚えって……蛍ちゃんも同じこと聞くんだね」
少女と同じことを聞く蛍に燐は苦笑いする。
そうだね、蛍は軽く微笑むと言葉を続けた。
「あそこっていつも青空だったから。夜だとこんな感じなんだね」
「じゃあ、ここってやっぱり……」
燐の脳裏にも微かに引っかかるものがあった。
見覚えがある駅なんてそうそうあるものじゃない、精々通学の時に使っている駅ぐらいだったから。
シンプルで特徴のないプラットフォーム、それはつまり──。
「うん……”青いドアの家”の、プラットフォームだよね、ここ」
月の光さえも通さない黒い雲が、冷たく振る雨が隠していたせいなのか。
確かに見覚えがあった、あの静謐な世界のなかで何の為にあるのか分からない白く真新しいホーム。
それが今、ここにあった。
一台の電車とともにこの場所で……。
それは狂った世界のなかでもっとも普通で問題のない光景だった。
…………
………
……
最近は語彙力不足なのかネタに困ったのか、ネットのでの心理テストにハマってみたり。
これが割とよく当たってしまうから困るわけで。まあ所謂バーナム効果というやるらしいです。
要するに人はかなり都合の良い生き物ってことでしょうか。
まあそうじゃないと今の世を生きていくのは難しいのかもしれないですねー、もちろん私も。
さらに自分だけでなく身近な人や気になるあの人なども当てはめてみると結構面白い結果になりますね。
ついでに青カミュの燐と蛍やゆるキャン△ の5人などの二次元キャラにも当てはめてみるのも面白くって、しかも意外と当ってしまうのが。
もしかしたらこういうのでキャラを作るなんてこともあるかもしれないですね。性格や髪や瞳の色も心理テストを参考にすると案外うまくいったりとか。
バーナム効果なんだと分かっても、種類が多いのでついつい時間を忘れて試しまくったあげくチャンネル登録とか……良くあると思います!
ぐぎぎぎ、恐るべしバーナム効果。(違う)
いつの間にか、ねんどろいど斎藤恵那ちゃんが出るじゃないですかー。可愛いやったー! と思ってたのですが……肝心のちくわの出来が……アニメ準拠だといえちょっと怖い気がする……まあまだ見本段階なので製品ではどうなるか分からないですけどねー。
さてー、最近どうも背中が痛いのが直らないので色々試してみたのですが……あんまり効き目なかったーー。クッションを話題のジェル状のものにしてみたけど効果はイマイチですねー。まあ安物だったからかもしれないですけど……。
そんなとき、最近暑さで寝苦しくなってきたので、寝る前に冷蔵庫で冷やしたフェイスパックをしてみたところ……少し背中の痛みが改善してきたような……気がします。
背中の痛みの原因は顔にあったんじゃよ~!! という訳はないでしょう。
ですが、パックをすることで、顔や体に掛かっている余分な力を分散できるのかも? ただのプラシーボ効果かもしれないですが、自分には良いかもしれないです。
熱帯夜対策として夏は結構パックするんですけど以外な効果があったのかな? 安物パックも冷蔵庫で冷やせば冷たくて気持ちいいので、割と重宝してますねー。
ただ週1回がベストとか書いてあったので、やりすぎにはご注意なのかな? 暑いと連日で貼ってしまっている私は一体……?
今度からせめて一日は空けるようにしよう……。
それにしても暑いですねー。バイク(原付)に乗ってたらうっかり日焼けしてしまって腕が痛いですよー! まあ、日焼け対策怠ってしまった自業自得なんですけどねーー。
はふー、アイスコーヒー飲みながら食べるチョコミントポッキー、うま──。
ではでは~。