かみゅキャン△ ── Camus Canp ── 作:Towelie
7月の半ば。
いつもの受付に座り、さほど重要でもない図書委員の活動をしていた。
長期休みに入る前後は課題や受験の為に通常よりも利用者が増える傾向にあった。
学校は休みになっても図書室は開放しているため、委員は持ち回りで登校しなくてはならない、面倒だけど家にいるのとそれほど大差が無いことであった。
それに家よりここの方が落ち着く、本もいっぱいあるしエアコンも使い放題だし。
ただそれはコイツさえ来なければの話だけど……。
「ねぇ……エアコン効き過ぎじゃない?」
「別にふつー」
「リン、ひざ掛けしてる、なんかおばさんみたい」
リンは膝に薄いブランケットをかけて冷え対策していた。カウンターからはちょうど見えない位置になるのでバレることはない。
ちょっと恥ずかしいけど、これがちょうどいい塩梅だった。
「でも寒くないの? 結構ばっさりいったからなあ」
「夏だからこれでいいんだよ」
面倒くさそうに答える、もう何度目かの憂鬱な質問。
コイツだけでなく、他の連中も同じことを聞いてくるので少々うんざりしてしまう。
他にもっと重要な話題があるというのに。
「リンがどうしてもっていうから切ったけど……やっぱり勿体なかったかなー」
「どうしても、ねぇ……」
語弊のある言い方をされてリンは眉を寄せる。
本当は行きつけのサロンで切ってもらう予定だったが、彼女──斎藤恵那に見つかってしまったのは誤算だった。
どうしても切りたい、リンの髪が切れるのは私だけだと意味不明な懇願を受けて、渋々了解してしまったのだが。
その結果がこれである。
都合のいい解釈とはこのことなのか。
「リンの髪を弄り倒すのが私の生きがいだったのになぁ……リンも大人になっていくということだね」
「ふつーに気持ち悪い」
以前の様に髪の毛を束ねて遊びたいのか、恵那はリンの髪を梳きながら名残惜しそうに撫でまわしていた。
折角セットしたのにたちまちぐしゃぐしゃになった。
「……やめろよ、鬱陶しい」
少し語気を強めて振り払う。
他の人なら引かせてしまう口調だが、斎藤は気にする素振りさえも見せない。
二人のいつものやり取りだった。
「いいじゃん。私が整えてあげたんだから、私の髪も同然だよ」
(どんな理屈だよ)
コイツには何をいっても無駄だな、リンは小さくため息をついた。
昔からそういうやつだった、見た目以上に掴みどころがない。
真面目そうに見えてかなりのお節介焼きでノリも良い、良く言えば八方美人、悪く言えば……。
「八方美人は褒め言葉じゃないんじゃないかな?」
「……っ」
つい口に出してしまったらしい。
恥ずかしくなって黙りこくっていると、斎藤が微笑みながら覗き込んできた。
「リン、髪が恋しくなったらいつでも言ってね。ちゃんと箱に入れて取って置いてあるから」
「だから、気持ち悪いって……捨ててよ、そんなの」
「いいじゃん。リンの髪、柔らかくて綺麗だし、いい匂いもするし……その筋に高く売れそうだよね」
(コイツ……ネットオークションにでもかけるつもりか?)
ウットリした表情で虚空を見つめている。
傍からみると夢見る少女の仕草に見えるが、頭の中はそれとは正反対のものだった。
髪フェチというか
「でも誰でも良いってわけじゃないよ。私、髪には結構うるさいからね」
「あー、でも
(結局、誰でもいいんじゃねぇか)
どーでもいいとばかりにリンは読みかけの本を手にした。
ここでの唯一の楽しみをいちいち邪魔しにくるのでコイツはよほど暇なんだろう。
「それでも、リンの髪が一番だから気にしちゃだめだよ」
さりげなく頭に頬擦りをしてくる斎藤恵那、あまりの嫌悪感で全身に鳥肌が出てしまって変な声を上げそうになった。
文句を言う代わりにじいっと睨むことにする……特に効果はないみたいで何故かニコニコとしていた。
「リン?」
「……なに?」
「なんで髪を切ろうって思ったの? せっかくここまで伸ばしたのに」
斎藤にも聞こえるようにため息をついた。
空調の冷えで学習能力まで凍り付いているのではないだろうか。
「会話がループしてる」
「別にいいじゃん。リン、その話になると直ぐにはぐらかすし……もしかして、失恋とか?」
おもむろに顔を近づけて斎藤は想定外のことを聞いてくる。
「ぅなっ!!」
思ってもみなかったことを聞かれ、リンは思わず椅子から立ち上がった。
その反動で椅子がガタっと音を立てて倒れそうになったが、寸前で押さえた。
それでも少数の視線を集めてしまった、皆訝し気な視線を向けている。
リンは顔を赤くして惚けたふりで周囲を見回すと、観念したように一礼して、カウンターの中に頭を引っ込めた。
カウンターの中にしゃがみ込むリン、そして何故か恵那も一緒にしゃがみ込んでくる。
二人はテーブルの影に身を潜めたまま、スマホを使って会話をしていた。
『くたばれ』
『ごめん、ごめん、やっぱり図星だったか。で、相手は誰なの? 男の子?』
『ちくわ』
『ちくわはメスだよ。それにもう私と結婚してるから』
『じゃあ、斎藤で』
『おっ、なんか嬉しい。じゃあ結婚する?』
『二股すんな』
感情が見えない分、楽ではあるのだが、目の前に本人がいるのは本末転倒だろう。
「も~、リンってば薄情だなあ。私がこんなに心配してるのに」
スマホを手にしたまま斎藤が普通に話しかけてくる。
ついさっきまでネットでのやり取りだったので少しビクッとした。
周囲を気に掛けながらリンはため息交じりで一言答えた。
「面白がってるだけだろ」
「まあね」
満面の笑みで即答する。
やっぱりからかってるだけ、付き合い長いから分かることなんだけれど。
それにしても……。
(そこは否定しろよ)
軽い調子の斎藤恵那、どちらの意味でも安心してしまった。
「ね? なでしこちゃんと何かあったの?」
急に真面目な顔をして聞いてくるからちょっと戸惑ってしまう。
リンは椅子に座り直して本を開く。
「別に……」
何となく顔を見ることが出来なくて、活字に目を落とす。
「リンもなでしこちゃんもキャンプに行ってから何か変わったよね。やる気がなくなったっていうか、ぼーっとしてるっていうか……。何て言ったっけあの場所、奥静の秘境とか言ってたような……」
「小平口町」
「そうそう、小平口町。たしかダムが決壊して、町全体が水に流されちゃったんだったっけ? リン、巻き込まれなくて良かったね」
「そうだな……」
あれはやはり夢だったんだろうか、あの時のことを思い出す度にそればかり考えてしまう。
小平口町、白く顔のない人影、そしてあの透明な二人の少女……。
「どうしたのリン、ぼーっとしちゃって。もしかしてなでしこちゃんの事考えてる?」
「……そんなんじゃない」
「あ、そうだ、なでしこちゃんと言えばさ、なでしこちゃん。野クル辞めちゃうらしいよ」
「え! そうなのか!?」
思わず声が出ていた。
慌てて手で抑えると、口もとを隠しながらその話を詳しく聞くことにした。
(なでしこが、でも……?)
リンがここまで慌てると思わなかったので、恵那も少し驚いてしまった。
二人はひそひそと小声でやり取りを続ける。
「あっ、うん。なんかさ、キャンプとかアウトドアとかそういうの嫌にになっちゃったみたいなんだよね。何とかしようと
「そっか……」
リンはそう呟くと外の景色に目を向けた。
夏の陰りが日を傾かせている、夕日の残照が書架を橙に染めていた。
「やっぱり、この間の事が関係してるのかな?」
「……」
独り言のように呟く斎藤にリンからは何の返事もなかった。
空調の静かな音が低く唸りをあげていた。
「やれやれ、私じゃ相談相手にもならないか……リン、私そろそろ行くけど、ちゃんとなでしこちゃんと仲直りしなきゃダメだよ」
薄いバッグを肩に掛けて笑顔で手を振る、調子のいい親友。
その顔は苦労なんて微塵もなさそうに見えて少し羨ましく見えた。
「別に喧嘩なんかしてない」
少しふて腐れ気味に再び本を手に取る。
斎藤はくすりと微笑むとその場でくるくると回り出した。
「はいはい、私は別にいいけどね。リン、辛くなったら何時でも私の胸に飛び込んでおいで! 朝まで一緒にいてあげるから!」
両手を広げて、芝居が掛かったセリフとポーズを恥ずかしげもなくやってのけている。
こいつの空気の読めなさっぷりは半端ではない、見てるこっちが恥ずかしくなるほどに。
「”ちくわ”と離婚できたら考えてやるよ」
呆れた目でそう言っておいた。
人の気も知らずに暢気なものだよ。
「う~ん、ちくわと離婚はちょっと無理だなぁ、私達相思相愛の仲だしね。それに離婚って良くないことだよ。リンもなでしこちゃんと離婚しちゃダメだよー」
「だから、違うって──」
リンが反論する前に恵那はもういなくなっていた。
こういう時だけは妙に素早い、相変わらず意味不明なやつだ。
第一、それまでアウトドアにはまるで興味を示さなかったくせに、今や一端の キャンパー気取りだから分からないものだ。
ただの気まぐれなのかはまだ分からないけど。
いつの間にか室内には誰もいなくなっていた。
夏の夕暮れは長くそして千切れるほど細い、夕焼けがやけに切なく目に映る。
ため息を一つついて気持ちを切り替えると、静かに閉館の準備を進めることにした。
無機物しかない閉鎖された空間。
あの世界とどれほどの違いがあるのだろう。
人の真似、欲望だけが服を来て闊歩しているだけの事象、夜が明けなかっただけの事象だった。
結局、月は姿を現せてくれなかった、今はこんなに簡単に見えているのに。
白い月が独りぼっちで浮かんでいた。
私と同じ様に独りで。
あの透明な二人は月の裏側にでも行ってしまったのだろうか。
おとぎ話のような空想に想いを馳せる。
──物思いにふけっても何の生産性もない、月から逃げるように背を向けた。
最近夜が来るのが怖くなってきてる。
カウンターの上のスマホに手を伸ばす。
いまは表情だけで電源が入ってくれる、便利なようで不便な機能だ。
前の機種は充電切れのせいかと思ったけれど普通に壊れていただけだった。
せっかくなので新機種に変えてはみたが、まだ使いづらい。
新しければいいってもんでもないな、でも私、何でもせっかちなのかもしれない……。
二人の番号は念のためSNSに紐づけしておいた。
なでしこと私の携帯には共通の二人の友人の名が残っている、だからまだ大丈夫なはず。
人が忘れる順番は最初が声で次に顔、最後が思い出らしい。
私はまだ全部覚えている、それは多分、なでしこだって同じはずだ。
でも一度として彼女たちの携帯に繋がることはなかった、その事実がとても怖い。
小平口町での
何でこんなに切ないんだろう……ちゃんとお別れを言えなかったから?
それとももっと特別な何かを二人に感じたんだろうか。
液晶の光に吸い寄せられるように呆然と、あの時の断片を思い返す。
…………
………
……
……気づいたら白い壁のベッドの上にいた。
別段身体に影響はなく栄養不足からくる軽い失神状態だったらしい、腕には点滴が巻いてあった。
傍らには心配そうな父と母とお爺ちゃん。
無事で何より、そう言った祖父の言葉で幾分救われたが、 同時にすごく悲しくなった。
なでしこも同じ病室にいた。
向かいのベッドには同じように一家総出で集まっていた。
正月に会いに行ったあの浜松のお婆さんも居た、こちらに気づいたようで恭しく会釈をしてくる。
うちの家族だけがおかしかっただけかと思ったのだが、なでしこの方も同じだった。
救急搬送されたことや震災に巻き込まれそうになったことは心配されたが、後は特に何も言ってこなかった。
数日間連絡が途絶えてしまったはずなのに気にしていた素振りすら見せなかった。
それはあの小平口町のキャンプ場まで送ってくれたなでしこの姉──桜さんでさえ、特に言及することはなかったのだ。
見た目と違って、いつもなでしこを心配している心配性な姉だというのに。
私達二人はその日のうちに退院した。
帰る途中、家族ぐるみで食事をしていくことになった、大人達は楽しそうにしていたけど、何が楽しいのか分からない。
特に美味しくもない料理をただ食べていただけだ。
途中でなでしこの家族と分かれた。
特に言葉は交わさなかった、いやな後味が口の中に残ったままだったから。
後は
無事に朝が向かえられるかなんて気にする余裕もなかった。
朝が来て夜が来るその繰り返し。
若いっていいわねぇ、休むことなく登校したときの母の言葉。
若いからっていい事ばかりじゃない、むしろ逆の事が多いのに大人はそう口癖の様に言っている。
なでしこもその日のうちに学校に来ていたのでとりあえずは安心はした。
小平口町の事がニュースでも取り上げられるようになった。
町の規模にしては少々桁外れの事件なのに扱いは小さく、且つおざなりだった。
他の地域に比べて被害は甚大のはずなのに。
無断で動かした電車も事件として扱わなかったようで、ニュースにすらなってもいなかった。
密かに気にしていたことだけに割と安堵している、こういうことは金輪際止めよう。
そうは言ってもこんな事二度もないだろうけど。
幾日経ってもモヤモヤした気持ちが霧のようにわだかまっていた。
気持ちを切り替えるようと思い切ってばっさりカットしようとした矢先で捕まって、
短くなった髪を見た時のなでしこの瞳は悲しそうだった。
私は思わず目を背けてしまった、自分だけが楽になっている、そう咎められている気がしていたから。
髪を切ったって忘れることなんて出来ない、それが分かっているのに。
あの時から私となでしこの間に小さな溝が出来ていた、それを埋める為に色々と試みるも効果は薄く、余計に距離を離すことになってしまった。
今日、幾度目のため息をつく。
もしこのままなでしこがアウトドア趣味を止めても私にはどうしようもない。
ただ趣味が変わるだけ、それは割と良くあることだし。
もう嫌なんだろう、キャンプの事も髪を切った私の事も、そして自分の事だって。
だからもう、全てを忘れて楽にすればいいと思う。
あいつはもういっぱい泣いてくれたんだから。
ヴーン、ヴーン。
暗く沈んだ図書室に画面を光らせながらスマホが震えていた。
唐突な着信に思いの外ビックリするが、これはもともとそういうものだったなと可笑しくも関心した。
物思いに耽っていたら、もう辺りは真っ暗になっていた。
暗い部屋で液晶の無機質な灯りが顔を浮かび上がらせる、今の私はどんな顔をしているんだろう。
最近のスマホはそんなことにすら答えてくれそうだから困る。
大きな月よりも今はスマホのほうが物知りだな。
メッセージを確認して少し驚いた、でも少し前なら驚くことはない相手からだった。
『週末ふたりでキャンプ行かない?』
その一言だけが綴られていた。
こうやって連絡することも久しくなるほどに疎遠になっているなでしこからだった。
同じ学校で、キャンプもする仲だったはずなのに。
どこへ? とりあえず入力するも消した。
どこだって良いじゃないか、きっとこれが最後だろうし。
好きな所へ行かせよう、私はそれに付き合えばいいんだ。
だから解った、とだけ返しておいた。
もしかしたら私もこれが最後のキャンプかもしれない。
別れるってこんなに呆気ないものか。
全てを消して鍵を掛ける。
月明かりさえも黒い天幕に遮られた真っ暗な部屋。
二人の少女との別離の様にいつまでも暗く静かだった。
(分かっていたが二千円か……)
管理棟で受け付けを済ませた少女が、停めて置いたライトシアンのスクーターの傍で一人待ちわびている小柄な少女。
スキニーなデニムにネイビーのアンダーシャツ、腰にはバイクを乗っている時に着ていたジャケットを腰に巻いている。
短くなったヘアスタイルと華奢な体躯、シンプルなコーディネートと制服姿のときよりもボーイッシュな印象を受ける。
照り付ける太陽の下、彼女の心は爽快な天気とは真逆の曇り空だった。
約束していた日。
7月も終わりに近づいているのに標高が高い場所のせいか、そこまでの暑さは感じない。
天気はあいにくの快晴であり、キャンプを楽しむのには申し分のない日和である。
腹立たしいほど雲は真白く大きい。
夏の情景におあつらえ向けの富士山は普通に美しかった。
嫌味なほど風光明媚な景観が3Dパノラマのように広がっていて、以前に来たときよりも開放感に満ち溢れていた。
そのせいか人はかなり多い。
ハイシーズンであることもあって付近の道路が混雑するするほどの人出だった。
空はこんなにいい天気なのに、気分は曇り空のまま、にわかに小雨だって降っている。
誰が悪いというわけではない、ただいつまでも心の雲が動かないだけだった。
最後のキャンプかもしれないのにこんな最悪のテンションなんて、むしろ笑えてしまう。
楽しそうな周りのキャンパー達が違う世界の住人にみえるほどに寂しかった。
「はっ、はっ、お~い!」
最近まともに聞いていなかった元気な声が道の先からやってきていた。
それでも疲労は隠せないようで、ふらふらとしながらも最後の力を振り絞るようにして自転車にまたがった少女がこちらに向かってくる。
「ぜぃ、ぜぃ、ま、待った?」
自転車ごと倒れ込みながら、肩で息をしている髪の長い少女。
白のショートパンツにスラリと伸びた生足をチェックのアウトドアシューズが包みこんで、健康的に見せていた。
トップスは星をあしらった赤いタンクトップにフリルのキャミソールを重ね着している。
背には大きなリュックを背負っているが、それでも入りきらなかった荷物は自転車の両サイドに括り付けてあった。
40キロ以上ある山道をこの自転車を漕いでくるのは、少女の体力をもってしても結構な道行であったことは間違いないだろう。
タフさなら誰にも負けないなでしこでもこの疲れようなのだから。
「いや、大丈夫。今来た所だよ。それにしても……本当にチャリで来たんだ」
「うん……約束したからねっ」
額から汗をこぼしながらペットボトルの水をがぶがぶと吸い込むように飲んでいる。
無理して明るく振舞っているのだろう、それが分かるだけに複雑な気分になった。
だが、それにしては少し顔色が良くない気がする。
なでしこの体力ならいくらなんでもここまでバテることはないはずだ。
それとなく聞いてみることにした。
「もしかして寝てないの?」
「えへへ、なんか久しぶりのキャンプで興奮しちゃって寝れなかったよぅ」
まだ地べたに座り込んだまま、なでしこは照れ隠しするように笑っていた。
よく見ると目に
あれからずっと寝られてないのかもしれない、リンは不憫に思っていた。
「そっか、実は私も寝られなかったんだ」
「リンちゃんもなんだ。私達、結構似てるとこあるよね?」
「そうだな」
お互いに大事な話はしなかった。
あの時の話題になるのを恐れるように他愛のない話で言葉を濁し続ける。
はたから見たら楽しそうに見えるのかもしれない。
気持ちの良い青空とは正反対の私達の事を。
受付を済ませたなでしことともにキャンプサイトを眺める。
予想以上の人出にちょっと嫌気がさした。
「ふおぉぉぉ、やっぱり夏は人が多いね!」
「まあ、人気のキャンプ場だから」
あれだけ落ち込んでいたはずなのにいざキャンプ場を見るとテンションがあがっていた。
この突き抜けるような開放感がそうさせるのか、それともあの時の事を思い出したのか。
偶然から出会った私達が初めて夜を明かしたキャンプ場の事を。
去年の冬に訪れた”麓キャンプ場”。
リンとなでしこはこのキャンプ場にまた来ていたのだ。
広大な敷地を持ち、そこには色とりどりなテントが見渡す限り並んでいる。
壮大な富士山を間近で見れることもあり、夏は特に人気のキャンプ場だった。
(それにしてもあの時は驚いたな。突然、鍋持ってここまで来るんだから)
去年の事を思い出して、リンはとても懐かしくなった。
あれから一年も経ってないのに色んなことが変わった気がする。
ソロキャンしか知らなかった私がなでしこに出会ってから色んな出来事が立て続けに増えて行った。
面倒な事もあったけど楽しかったことの方が多かった気がする。
そしてまた違った変化が起きようとしている、元のソロキャンに戻るだけかもしれないけど。
(それにしても……なでしこのやつ本当にキャンプ止めるのかな、まだ良く分からない)
何処にテントを張るかキョロキョロとしているなでしこを見るといつもと変わらないようにみえる。
このまま普通にキャンプを楽しんでも良いんじゃないか? 後の事は後で考える、そうあの時だって言ってたし。
とにかく難しい事は後回しにして今はキャンプを楽しむことにした。
リンとなでしこはそれぞれスクーターと自転車を押しながら、秋口とは違う夏の景色を散策ししながら歩いて行った。
二人は景色の良いキャンプ地から離れ、人気の少ないなるべく端の方でテントを設営することにした。
どこで建てたって富士山はほぼ必ず見えるし、何よりささやかに楽しみたかった。
それに、二人っきりで話したいことがあったから。
普段言えないことやSNSじゃ伝わらないことなんかもキャンプだと素直に話せる気がしていた。
なでしこが誘ってくれたのはそういうところなんだろう、少し緊張してしまうが。
リンは緩慢な動きで荷物を下ろすと、手頃な場所にペグを差した。
今回はテント一基のみ、自転車で来てるなでしこに遠慮してお互い最低限の装備だけに留めた。
すっかり慣れているためか、ものの数分で設営し終えた。
もってきた椅子に腰かけながら、冷たいお茶で喉を潤す。
山からの涼風が緑の大地に雲を運んで、蒼い影を落とす。
言葉もなく穏やかな時間だった。
「なんか、ふらふらしてない?」
「うん……ちょっと眠いかも……リンちゃんも、眠たそうだねぃ……」
「なんか、ね……」
隣で座っているなでしこがうつらうつらとしていた。
つられたようにリンも生あくびを噛んでいた。
「最近、あんまり寝付けないんだ……またアイツらが追ってくるんじゃないかって……」
こくりこくりと頭を揺らしながらリンは曖昧な言葉を使う。
夢うつつ感じが未だに抜けてくれなかった。
「だったら、ちょっとテントで休もうよ……どうせ夕飯までやることないし」
両手を打ち付けて良案とばかりにテントを指さすなでしこ。
気を遣ってくれてるのだろうか、しきりに手を上下させていた。
「先に寝てなよ。ここまで来るのだけで疲れてるんだろ」
「うー、リンちゃんは?」
「私は本でも読んで……」
なでしこの訴えかけるような瞳を向けられると、それ以上リンは言葉が出なかった。
寂しそうな瞳の奥、その奥に映るリンもまた寂しい顔をしているのだろう。
お互いの心の傷は寝ても癒されない、でも二人一緒ならちょっとは違うかも。
「分かったよ、私も少し休む。最近、眠りが浅くってさ、満足に寝た気がしないんだ」
「そっか……やっぱり同じだね」
なでしこの顔は少しだけ嬉しそうだった。
その微笑みだけでも来たかいがあった気がする。
なでしことリンは小さいテントの中でシュラフも使わず、エアー式の薄いベッドを横に並べて無造作に横になった。
少女二人と幾つかの荷物で定員ぎりぎりの少し古い三角テント。
さも当然のようにテントに入っているけど考えたら不思議なものでもある。
外と内を隔てているのは薄く柔らかい壁だけ、それだけのことなのに外にいるよりも快適に過ごすことができる。
単純に寝るだけじゃない、こうやって邪魔されずに話すのにも最適な場所でもあるんだな。
ベージュに覆われたビニールの天井をぼんやりと見つめる。
空の色はまったく見えないのにその日差しだけは何となくわかる、大きな雲が動いていることも。
あの時と同じ、囁くような声色でリンは話しだした。
「あのさ、夏休みどっか行かない? もうキャンプとか関係なくてさ。伊豆の時みたいに観光目的でも良いから何か楽しい事しようよ。何ならみんなも呼んでさ」
明るい調子で話すもなでしこからの反応はない。
それは至極当然な様な気がしていた。
そう簡単に気持ちを切り替えられるなら、こんな思いをしていない。
リンははあ、とため息をつくと、なでしこには内緒にしていた
「……あれからさ、もう一度行ってみたんだ原付で。でも土砂崩れで通行止めになっちゃっててさ、結局何も分からないで帰ってきちゃったよ」
「あの時、お世話になった店の人にも聞いてみたんだけどさ。線路も道路も分断しちゃって何も分からないって言われたよ。なんか嘘みたいな話だよな」
「……」
「ごめん、黙って行っちゃって。でも、何か手掛かりが欲しかったんだ。二人の、燐ちゃんと蛍ちゃんの何か足跡みたいなものが。だから……やっぱ、ごめん」
なでしこはずっと黙ったままだった。
さすがに気になって覗き込むように体を動かす……。
すー、すー。
小さな体を丸めながら静かに寝息を立てていた。
拍子抜けする、でも少し安堵した。
(まあ、眠いって言ってたしな……)
無防備に眠るなでしこの長い髪をそっと撫でる。
柔らかく暖かい、わたあめようなふわっとした質感。
長い髪がなんか懐かしくなって、何度も梳いてしまった。
丸まって眠る姿は、年の近い妹の様に見えて心が揺れる。
とたんに愛おしくなって柔らかい髪にそっと頬を寄せた。
ふわりとしたヘアオイルの香りが鼻孔をくすぐってとても心地よい。
汗臭くなると思って気を遣ったのか、変な所で女の子らしくて少し可愛くみえた。
その幸福感がリンの瞼を重くさせてくる。
なでしこの香りに包まれるようにリンもいつしか寝息を立て始めた。
正午過ぎの穏やかな時間、風もそよぐ程度で立てかけて置いた自転車やスクーターが倒れるようなこともない。
テントの中の小さな扇風機は小さな音を立てて風を巡回し続けていた。
穏やかでちょうどいい、私達にはこれぐらいのゆるさでいいんだ……。
…………
………
……
う~ん、お腹空いてきたなぁ……途中のコンビニあまり食べなかったからかなあ……。
お肉とか食べたいけど、あれ以来美味しいと感じなくなったんだよねぃ、どうしてか分からないけど。
それでもやっぱり何か食べたいなあ……食欲は人間の三大欲求だから仕方ないよねぇ。
食欲と睡眠欲……あと一つなんだっけ……? まあいいや。
とにかく無性にお腹が空いてきたよう、最近食欲がなかったけどやっぱり野外だと食欲が増してくるんだねぇ……ああ、カルビとか豚トロとかロースとかハラミとか牛タンとか食べたいなあ……。
あ、そういえば私持ってきたんだった、仕方ない起きて準備しよう。
多分これが最後かもしれないしね。
うむむ? 何かいい匂いがするよ……油を焦がしたようなこの何とも言えず食欲を誘うこの匂い。
本能を呼び覚ますような甘さと辛みが混ざったような匂いもするねぃ、もしかしたらリンちゃんが準備してくれてる?
ここまでいい匂いを出されたらもう我慢できない。
微睡のまま、ふらふらとテントから出てくるなでしこ。
いい匂いはすぐ傍からしていた、よだれを拭うことなく、本能のままそちらに近づいていく。
「リンちゃん~。お腹空いた~」
「あ。おはよう、起きたみたいだけど、もう食べられるの?」
「おはよう、なでしこちゃん」
最初から居たように、二人の少女は軽く挨拶をしてくる。
キャンプなら知らない人とでも挨拶するよね、でも二人は良く知ってるから普通のことかな。
「でも、もう6時過ぎちゃってるんだよ~」
スマホに目をやりながら微笑む少女、その笑顔は赤く染まっていた。
橙の光線が藍染のような富士山をピンク色に、少女たちを茜色に描き出していく。
夏の夕暮れはとても切なく、眩しかった。
「えへへ、おはようっ」
なでしこは自然に挨拶を返した。
挨拶とほぼ同時にお腹がぐ~、と鳴っていた。
「ふふっ、お肉の匂いにつられちゃったかな」
「それはそうだよ。わたしだって早く食べたいし」
BBQ用のグリルの上に肉と野菜、トウモロコシが音を立てて焼かれている。
見るだけでも食欲が刺激されて、なでしこの目はそれにくぎ付けとなっていた。
「ふおぉぉぉ! やっぱり夏キャンプといえばBBQだねぃ!!」
「そうだよね。何か凝った料理が良いかと思ったんだけど、燐がシンプルにBBQが良いってきかなくて」
「んもう、蛍ちゃん。料理するのはわたし何だから、楽なのがいいに決まってるでしょ~」
少し口を尖らせる燐。
それでも視線はグリルの上の食材に注がれている。
徐々に焦げ目がカットされた野菜や肉に広がっていくようすがつぶさに分かる。
「わたしはこれがあれば何でもいいんだけどね」
そういって蛍は何度目かになる串に刺したマシュマロを焚き火台の上の火に近づけていた。
雪の様に白いマシュマロが熱で蕩けて、何とも香しい甘い香りが漂ってくる。
「蛍ちゃんはほんと
蛍が持っているのはアメリカではポピュラーのビッグサイズのものだった。
燐が一人で準備している間、蛍は串に刺したマシュマロを焼いては食べるを繰り返していた。
燐の言う通り一袋食べきるのは時間の問題だろう。
「焼きマシュマロもいいよねぃ! 私も好きなんだよん!」
こぼれ落ちそうになる涎を腕で拭いながら、なでしこはやや興奮気味になっていた。
マシュマロと焼き肉、どちらも甲乙つけがたい代物であった。
「んぅ? ……どうしたの……?」
香ばしい薫りに誘われるようにリンもテントから這い出てきていた。
その目はまだ半開きのようであり、まるで状況は理解していないようだ。
「あ、リンちゃんおはよっ。今、燐ちゃんと蛍ちゃんがBBQの用意してくれてるんだよっ」
「……ふ~ん」
関心無さそうに欠伸を噛み殺しながら一言呟いた。
リンの脳が覚醒するのには少し時間がいるだろう。
「おはよう、もう少し待っててね。それにしてもここだと富士山大きく見えるよねぇ~」
「本当、わたしこんなに間近で見たの初めてだよ」
雄大な富士を間近で拝めながらのキャンプはここでの売りの一つだった。
壮大な山の景色に抱かれる開放的な空間、カタログの見本のようなキャンプ場だった。
「うん、富士山に雲も掛かってないし最高のロケーションだよね」
焼き加減を気にしながら燐は薄っすらとピンク掛かった顔の富士を愛でる。
パステルカラーに染まった山の稜線が羽のように白く光っていて神秘的だった。
「う~、富士山もいいけどぉ、お肉も食べたいよぉ~」
なでしこは牛の様に鳴くお腹を押さえて喘いでいた。
あれだけの富士山好きでも食欲の魔力には抗えないようだ。
花より団子、富士山よりBBQと言ったところだろうか。
モーモーと嘆くピンク色の子牛を、蛍がお皿を手になだめすかす。
「とりあえず、野菜から食べてればいいんじゃない。その後に食べるお肉が美味しいんだし」
はい、と割りばしと共に野菜を乗せた紙皿を渡された。
ピーマン、玉ねぎ、トマトと野菜のオードブルが紙の上に踊る。
好き嫌いの無さを強調するようになでしこは躊躇なく箸を伸ばす。
炭で焼かれた野菜は新鮮さと香ばしさが半々で絶妙なミルフィーユとも言えた。
「ん~、ピーマン甘くて美味しい!」
「焼きトマトも悪くないよね」
なでしこもリンも何の疑問を覚えることなく出されたものを食べていた。
美味しい食事の前には些細な疑いなど落ち着く間もなかった。
「おかわりっ!」
つまみ食いをしているだけなのになでしこは食欲旺盛だった。
気持ちのいい食べっぷりに燐は楽しそうに微笑んだ。
「なでしこちゃん食べるの相変わらず早いね~。あ、もうお肉良さそうだね、カルビだけど食べる?」
「もっちろんだよっ! リンちゃんも食べるよね!?」
肉に対する喜びを表すように瞳をキラキラとさせながなでしこは振り返る。
だが、それとは反対にリンの唇は戦慄くように震え、顔は恐怖で青ざめていた。
リンの突然の変わり様になでしこは慌てて声を掛ける。
「ど、どうしたのリンちゃん!?」
「あ、もしかしてまだ生焼けだったかな?」
燐はトングでグリルの上の野菜をひっくり返してみる。
見た目には問題ない、ちゃんと火は通っていた。
「わたしは半生の方のほうが好きだな~」
蛍は気にする様子もみせず、マシュマロを一人でクルクルと回している、蛍の視線は白いお菓子が独り占めしていた。
「い、いや、そういうことじゃなくて……その、何でここに、いるの?」
リンは唇を震わせながら交互に指を差した、その先に居るのは蛍と燐。
当然のようにいる二人にリンは戦慄していた。
「あー、それはね……」
経緯を説明しようと燐が言いかけたとき、突然の叫び声がだたっぴろいキャンプ場に木霊した。
それは遠く離れた他のキャンパーがこちらを振り返る程度の大声だった。
「うわああああぁぁ!!! ふ、二人の怨念が悪霊がエクトプラズムがぁぁぁ!!」
まだ日の沈む前からホラー映画のような悲鳴が立ち昇る。
なでしこはパニックで頭を抱えながら走り回っていた。
「なでしこちゃん、落ち着いて! ほら、ちゃんと足あるよ」
燐は以前から使っていたデニムのエプロンを身に着けて、キャンプ用の巻きスカートをしていた。
足元は黒のオーバーニーとあの時と同じピンクのトレッキングシューズを履いている。
一方の蛍は、レースの入った丈の長い白のワンピースに、あつらえたような揃いのリボンをつけたストローハットをかぶっていた。
おおよそアウトドアをする格好ではなく、精々ハイキング程度の装いであった。
しかし足元はギャップのある黒のトレッキングシューズを履いていた。
「燐とキャンプデートするならこれぐらいは、ね。でもあんまり可愛くないよね、これ」
履きなれないトレッキングシューズに蛍が不満を漏らす。
清楚なワンピース姿に機能的なシューズはミスマッチだった。
「もー、それしかサイズ合うのなかったんだから贅沢言わないの。なんでキャンプにそんな恰好で来るかなあ。まあ、蛍ちゃんは何着ても似合うからいいんだけどぉ」
「燐の格好だって悪くないよ。なんか燐っぽくって好きだなぁ」
「わたしっぽい? それって地味ってこと? まあ、蛍ちゃんが目立ちすぎなんだけどね」
蛍の格好はそのプロポーションも相まって、どこに行くも人の目を引いていた。
隣に並ぶ燐は色々な意味で恥ずかしかったが、それでも蛍と一緒に行動するのは楽しかった。
だがキャンプ場では靴が汚れてしまうので、途中のワークショップでアウトドア用の靴に履き返させていたのだ。
「燐、知ってる? 最近の幽霊は足とか関係ないみたいなんだよ。あれって一種の迷信みたいだし」
幽霊の話で迷信とか言う事自体おかしい気もするが。
もし本当に幽霊だとしたら自分が幽霊という自覚を持っているのだろうか?
燐は余計な考えに頭を悩ませた。
「ひいいっ! じゃあやっぱり……!?」
「あのね、なでしこちゃん」
すっかり幽霊だと信じて怯えているなでしこの頭に、蛍はそっと手を乗せた。
それだけでなでしこの体は小刻みにぶるぶると震えあがった。
恐怖が燐と蛍を本物の幽霊にさせているようだ。
「は、はいっ! なんですかっ!?」
触られたことで委縮したのか、なでしこは思いもよらず敬語になっていた。
「幽霊だってお腹空くんだよ。でも幽霊が食べるのはきっとお肉やマシュマロじゃないよね。だからわたし達は幽霊じゃないんだよ。生きているからマシュマロを食べるんだよ」
童話のヒロインの様に両手を広げながら空を仰ぎ見る蛍。
普段なら明らかな奇行だが、その服装とロケーションは違和感を限りなく減らしていた。
(説得力あるのかなぁ、これ)
燐はやや呆れた眼差しを送る、けれどもここは黙って蛍となでしこの動向を見守ることに決めた。
「あ! そうだよねぃ! 幽霊はBBQなんてしないよねぃ!」
蛍の説明で納得がいったのか、瞳を輝かせて声を上げるなでしこ。
恐怖に打ち勝ったのか、あるいはたんなる食い意地か、どちらにせよもう怯えることはなさそうだ。
「分かってくれたんだね、なでしこちゃん!」
「うんっ! BBQが私達に奇跡を起こしてくれたんだねっ!」
そのまま二人は再会を祝う様に抱き合っていた。
BBQを乗せたグリルがなければ絵になりそうなほど感動的な光景であった、少なくとも当人たちは。
燐は安堵と呆れの交じったため息をつく、誤解が解けたのはいいことだけど。
「はいはい、蛍ちゃん、ストップストップ」
「どうしたの燐、ここからがいいところなのに。あ、もしかして妬いちゃった?」
蛍は察したような表情で悪戯っぽく微笑む。
それに対し燐はまたため息をついた。
「んもう、焼くのはBBQだけでいいの。それより蛍ちゃんも少しは手伝ってよ~。さっきからわたしばっかり焼いてて全然食べられないし~」
「えー、燐が焼く係なんだから当然でしょ。わたしはもっぱら食べる係だから」
「んもー、そーゆーことじゃなくってぇ!」
「あ、燐ちゃん、その、肉が……」
それまでやり取りと呆然と見ていたリンが声をあげる。
燐が指さした方向を見ると……肉を乗せたグリルから黒い煙が立ち昇っていた。
「へ? お肉って……ヤバっ!」
慌てて肉を皿の上に退ける、そこには黒い墨の塊が転がっていた。
「あ~あ、勿体無いことしちゃったなあ。これじゃお肉じゃなくて炭だよ……仕方ないこれはわたしが責任もって食べるよ……」
「表面が焦げたぐらいだから大丈夫だよ。こうして削ってやれば」
リンは皿の上の黒い部分を器用に切り落として口に入れる。
「うん。大丈夫、美味しいよ」
「ごめんね。気を遣わせちゃって」
「ううん。またこうして会う事が出来て本当に良かったよ。夢かと思うぐらい。でも焦げた肉食べたら、何かそういうのがどうでも良くなってちゃった」
また会えてうれしいよ、リンは苦みを覚えながら微笑んでいた。
燐も同じように肉を頬張りつつ微笑み返す。
「あ、じゃあ、私も食べるよ!」
「わたしも食べようかな」
なでしこと蛍も黒くなった肉の不要部分を削ぎ落して口に入れた。
ほろ苦い味と肉の弾力感が否応なしな現実へと還してくれる。
友との再会、それは日常の中の非日常で起きた普通のことだった。
「あ、私も材料持ってきたんだよ」
なでしこはテントの中の荷物を取りに戻った。
見ると隣に小ぶりのテントが一基立っている、確か誰も居ない場所を選んだはずなのに。
ふむむ、と首を傾げていると、ある考えが思い立った。
「もしかして、燐ちゃんと蛍ちゃんのテントなのこれっ?」
「そうだよ、最近買ったんだ。中古なんだけどね」
燐は少し照れながらテントをぱんぱんと叩く。
その小ぢんまりとしたテントは軽量且つ立てやすく、初心者でも簡単に 設営が可能で、なでしこの友達の綾乃も同じようなものを所有していた。
「そういえば、よくここに居るのが分かったよね。誰にも言ってない筈なんだけど……」
リンは言葉を選んで話しかけた。
なでしこと違って目の前の二人に少しだけ疑いを持っている。
失礼かと思うが幽霊の類と言われても信じてしまいそうなほどまだ現実感が足りてなかった。
「それがね。わたしたちに教えてくれた人がいたんだよね?」
「そうそう」
リンのもっともな疑問に蛍が考えながら答える。
隣で燐が同意を示すように頷いていた。
「教えた人?」
荷物を抱えて戻ってきたなでしこが会話に参加する。
鉄の鋳物と幾つかの材料を小脇に抱えていた。
リンとなでしこは顔を見合わせて首をひねる。
少なくともリンは二人の事を誰にも話していない、それは多分なでしこだって同じはずだ。
それに話したところで誰も信じてはくれないだろう、写真の一枚もないわけだし。
「ほら、これ。リンちゃん達の知り合い? いきなりだったんでちょっと疑っちゃったけどね」
燐がポケットから真新しいスマホを取り出して画面を見せる。
そこにはメッセージとURLが添えてあった。
『リンとなでしこちゃん、ここでキャンプしてるみたいだよ』
またこれか……こんなことをやる暇人はアイツしかいない。
去年とまったく同じ手口をするとは。
それにしても斎藤のやつ……いつの間に人の携帯を勝手に見ていたんだ。
カップルの浮気現場じゃあるまいし。
「この斎藤さんって人。リンちゃんの友達なの?」
蛍の問いかけには答えず、リンはすぐさま自分のスマホを取り出すと急いで操作をしていた。
「こいつはたった今、友達じゃなくなったよ」
「あはは……なんだか込み入った話になってるみたいだね」
迷うことなく、黒髪でショートカットの少女からのフレンド解除の手続きをするリン。
燐と蛍は困ったようにその様子を見ていた。
──だが。
「あ、でも待って」
友達解除を完了する寸前、蛍が慌てたような声を上げる。
「うん?」
動作を止めたリンと興味津々にスマホを覗きこんでいた燐は突然声を上げた蛍に驚いたように視線を移した。
「あ、えっと。斎藤さんのおかげでわたし達はここに来ることが出来たんだから、解除しちゃうのはさすがに可哀想かなって思って」
蛍は少し困ったように微笑んでいた。
「あっ、確かに! もし連絡がなかったらわたし達会う機会失ってたかもしれないよねっ」
蛍の言葉に合点がいった燐はうんうんとうなずいていた。
リンは暫くスマホを見つめた後、燐と蛍二人の顔を交互に見回した。
そしてため息を一つつくと。
「……今回は二人に免じて許すことにする」
少し照れくさそうに顔を赤くしてそう結論付けたのだった。
…………
………
……
なでしこは小さな鉄製のフライパン──スキレットを持ってきていた。
お米と予め下処理をしていた具材が入った袋と、市販のパエリアの素を持ってきていたので、恐らくパエリアを作るのだろう、これで違う料理だったらむしろ相当な達人かあるいは……とも言える。
なでしこは慣れた手つきで、ニンニクを炒めていた。
そこへ無洗米を投入して透き通るまで炒める。
良い感じになったところで、予め下処理を施しておいた材料を火が通りにくい順番に入れていき万遍なく混ぜ合わせる。
細切りにしたパプリカとパエリアの素のスープを入れて、水気がなくなるまで焚きます。
後は蓋をして蒸らすと……。
「特製パエリアの完成ですっ!!
なでしこが蓋を取るとカラフルな野菜とソーセージがフライパンのご飯の上で香ばしい音と香りをこれでもかと出していた。
「普通のパエリアに見えるけど、どこが特製なの?」
「よくぞ聞いてくれましたっ! 具材はなるべく山梨のものに拘っているのですっ!」
「いわゆる、地元愛ってやつだね」
ホルモンの焼き加減を気にしながら燐がなでしこにフォローする。
「えへへ、桃とかブドウも入れれば良かったかなあ?」
「それはもうパエリアじゃないし。それにパエリアって確かスペイン料理だろ? ボナペティは違うんじゃないか?」
リンはツッコミを入れながら、香ばしいパエリアを器に取り分けていた。
普段はどこか落ち着かないなでしこだが、料理の腕だけは確かだった。
「じゃあメルシー?」
「それもフランス語、だよ」
蛍は一人でずっと焼きマシュマロを続けていた。
このままだと一袋完食しそうな勢いだ。
「じゃあじゃあ、ボーノ!」
「それはイタリア語だよね。美味しいとかそういう意味の」
すっかりBBQ専門シェフと化した燐が汗を拭いながら焼きあがった肉を端に寄せる。
たまにこっそりお肉を食べているのは秘密だ。
「じゃあじゃあじゃあ!」
「いいから食べろよ。結構いけるよこれ」
リンは出来たてのパエリアを口に入れる、香ばしい味が口の中に広がって……うん、たまらん!
美味しく頬張るリンの姿になでしこは嬉しくなって周りの事を考えずに叫んでいた。
「おー、リンちゃん、スパシーバ!!」
広大なキャンプ場にもちらほらと灯りが浮かぶようになってきた。
風も穏やかな為、平野部だと今夜は熱帯夜であろう。
富士の霊峰から流れ落ちてくる風が夜の淀んだ空気を押し流すように軽やかにかけてゆく。
ランタンの灯りとガスランプの柔らかい炎に揺られて、テーブルの上を料理が彩っていた。
肉と野菜のバーベキューに香ばしいパエリア、そして富士の恵みから作られたサイダー、いわゆるキャンプの定番料理がテーブル狭しと並んでいた。
定番中の定番だが、このぐらいの方が丁度良い、変に凝った料理よりもシンプルな方が好き嫌いも少なく、飽きることなく楽しむことが出来る。
「今までこういう定番っぽいのって食べなかったよねぃ」
「なにかしら凝った料理ばっかりだったな」
「そうなの? わたしキャンプってこういうイメージだったけど」
「最近は色んなレシピがあるからね。個性出したいのかもね」
各々が料理に下積みを打ちながら、キャンプ飯の事で盛り上がっていた。
周りのテントからもにぎやかな声が届いてきて、同じようなタイミングで食事を採っている。
「じゃんじゃんお肉焼くからいっぱい食べようね」
燐はクーラーボックスから新しい肉を出して楽しそうに笑った。
「じゃんじゃんバリバリ食べちゃってますっ!」
なでしこは忙しなく肉とパエリアを交互に頬張っていた。
口の中で二つの味が混ざり合うのがまた格別なのだ。
それを富士の水でつくられてたサイダーで流し込む、かなりお下品だけどこれこそがキャンプの醍醐味だと思ってる。
形式ぶった食べ方はむしろ勿体ないと言わんばかりだ。
「蛮族みたいな食べ方だな」
毎度思うがあの小さな体のどこにあれだけの量が入るのだろう。
しかしこのままだとアイツに全部食べられてしまうかもしれない。
なでしこの胃の強さに恐々としつつも、リンは自分のペースで黙々と肉を味わった。
一人で美味しいものを食べるのもいいけれど、みんなで食べる料理はまた違った美味しさがある。
それはソロキャンとグルキャンの違いのように、それぞれ異なる楽しみ方だと最近分かるようになってきた。
「あ、このパエリアちょっと辛めだね。舌がぴりぴりするよ」
痺れた口を癒すため富士のサイダーを頬張る蛍、ぱちぱちとはじけだすよう刺激が喉を貫いた。
「蛍ちゃん辛いの苦手だったっけ? ふつーのソーセージとうま辛ソーセージを混ぜちゃったんだよねぃ。ダメだったら無理しなくていいからね」
「あ、でもすごく美味しいから大丈夫だよ。まだまだ食べられると思う」
「本当? 良かったぁ」
安堵のため息をつくなでしこ、その屈託のない笑顔に蛍は微笑んだ。
星空の下、食べる食事は格別だった。
少女達は熱気に汗を欠きながらも、極上のキャンプ飯に舌つづみをうった。
「そういえばリンちゃん、髪どうしたの? 確かそんなに短くなかったよねぇ」
「あー、うん。最近暑くて鬱陶しかったから短くしたんだよ」
リン言葉の半分は正解だった。
長い髪はヘアレンジを楽しめる反面、手入れが面倒だし、夏は暑いし、とおおよそアウトドアには不向きなのだった。
二人への当てつけに見えてないだろうか? 少し後悔した。
「似合ってるよそれ。今のリンちゃんの髪形いいな~。わたしもちょっと伸びてきたから切っちゃおうかなあ」
「そう? なんか嬉しいよ」
リンは複雑そうな顔で微笑む。
その表情のぎこちなさに燐は少し眉をよせる。
「ごめん、なんか変な事言っちゃった? もしかしてわたしたちと関係あること?」
燐は箸を止めて気遣うような表情を向ける。
リンは視線を逸らすように、短くなった髪を少しかき上げた。
「あ、うーん。間違ってはいない、かな……でも誤解しないでね。そろそろ切りたかったのは本当だし。燐ちゃんたちのせいだけじゃないんだ」
「そう、なの?」
「うん、なんていうかさ、折り合いをつけたかったんだよね。もう二人に合えないかも思っていたから。その程度のことなんだ」
リンの瞳はまっすぐに燐を見ていた。
憂いのある微笑みは彼女の中の大人に触れた気がした。
「わ、わ、わ、私だってリンちゃんの髪、似合ってると思ってたよ。ずっとっ!」
何グラム目の肉を胃に収めたなでしこが堰を切ったように喋り出した。
これでも気を遣ってくれたんだろう、なでしこなりに。
「まあ、そういう事にしておくよ」
小さくため息をつくリン、だがその顔は静かな夜風のように穏やかだった。
青白い夏の月が新緑の穏やかな海原を柔らかく照らす。
あの時、最後まで姿を現さなかったもの、それが簡単に出ていた。
小さなテーブルに並ぶのはカラフルなお菓子と銀色のマグカップ。
にぎやかな食事を終えた少女たちはしばしの小休止に入っていた。
眼前に月とそれに照らされた富士の山が静かに浮かび上がっている。
極めて完璧な時間だった。
「うむ? 風車だけのせかい? そんなのもあるんだねぃ……」
楽しかった夕食も終わり、片付けも終わった後のこと。
少女たちはあの時の続きを再現するかのようにトランプ遊びに興じながら夜風を楽しんでいた。
菓子とカードを楽しみながら、昼の熱気と夜の涼しさを交換する。
まだ眠るには惜しい時刻、少女たちの夜はまだまだこれからだった。
そして互いが知りたかったことを少しづつ、砂の様に語りだしていた。
「うん。白い風車がいっぱいあって、ちょっと物悲しくて綺麗なところ……また行けるとは思わなかったから。ちょっとビックリしたけど」
「わたしも、多分、オオモト様が呼んだっていうか、会わせてくれたんだよね……」
「誰かに会いたかったの?」
リンは少し温めのルイボスティーを口に含む。
焼き肉の後のつかれた胃にはこのお茶がちょうどよかった。
「うん、もう一度オオモト様と……サトくんに会いたかったんだ」
「燐、それはわたしも同じだよ。だからきっと一緒に行けたんだね」
「うん……」
一言呟いて燐は星屑の空を見上げる。
……オオモト様もサト君もそこで待ってくれていた、静かに風車だけが回る世界で穏やかな瞳を真っ直ぐに向けて。
オオモト様の手にはもう毬はなかった、代わりに紙飛行機を手にしていた。
多分、あのときと同じもの。
二人で飛ばしたあの紙飛行機、それがオオモト様の手の中にあった。
サトくんの右目は元に戻っていた。
それはオオモト様と同じ瞳の色、何かを溶かしたような深く濃い黒だった。
──そしてもうヒヒはどこにもいなかった。
この白い世界にずっといても良かった。
そう思っていたのに、遥か頭上から降ってきた白と青のガラス片が燐を蛍を、そして
瞬きすら忘れるほどに早く、そしてとても美しかった。
青白い光がどんどんと増えていく、オオモト様の唇が微かに動いたように見えたが何の音も届かなかった。
そして何もかもが消えてしまった、瞼の裏の光さえ残すこともなく。
白昼夢のように霧散していった。
「結局、誰も何も言わなかったよね、ただ見つめているだけ……それだけだったよね」
蛍はまだ夢の続きを見ているようにぼんやりと呟いた。
「うん、それだけで良かったんだよ」
燐は少し瞳を滲ませながら明確に答えた。
ぼやけていた輪郭にハッキリとした線を描くように。
「目は口程に物を言う、だっけ? 綺麗な場所にはもう言葉が要らないのかもしれないねぃ。良いなあ……」
青と白と静寂の世界、なでしこはそれほど嫌いではなかった。
夢のような現実感を体感できたあの場所にもう一度、それは密かに思っていたことだった。
しかもその、おとぎ話のような世界の先にまた違った世界があることは、なでしこの胸をとても躍らせるものだった。
「それでさ、その後ってどうなったの?」
夢見るような瞳のなでしこは気にせずに、リンは話の先を促した。
この先の話がもっとも聞きたかったこと。
だって燐と蛍はこの数週間、連絡も付かずどこで何をしていたのかが、一番知らなくてはならないことだったから。
「あ、うん。それがさ、なんて言えばいいのかな……」
指を弄りながら言いよどむ燐、困った顔で蛍と顔を見合わせる。
困っている親友の代わりに蛍が柔らかく答えた。
「気づいたら燐の部屋のベッドで寝てたんだよね。二人一緒に」
「ふえっ!?」
夢から転げ落ちたような声をあげると、なでしこは人差し指をこめかみに当てて首をかしげた。
リンは指くるくると回して点と線を結ぶような仕草をしていた。
「燐ちゃんの家って、小平口町から結構遠い?」
「う~ん、わたしの家って、どっちかっていうと海に近いからね。結構距離あるよ」
燐の住んでいたマンションの一室はあの時のままであった。
引っ越しの準備で雑然としている室内には段ボールと最低限の家具しかない。
それは蛍の家よりも薄暗く静かだった。
だが蛍は特に驚かなかった、それはすでに知っていたことだったから。
蛍は全てを分かっていた上で、燐と自然に接していた、それが親友だったからだ。
「結局、帰るところってあの家なんだね。誰も待っていなくても」
このマンションの一室以外に燐は帰る家を知らない。
離婚した父の家、隣に居る親友の家、もちろん親戚の家だって燐が帰る場所ではなかった。
だからきっと柔和なあの人が、好きだった従兄が、最後にお節介を焼いてくれたんだと思う。
燐はそう思うことにした。
そのほうが綺麗なものを大事にできると思ったから。
「燐ちゃん……」
なでしこが瞳を滲ませていた。
自身も引っ越してきたからか、燐の複雑な気持ちに共感できるのかもしれない。
燐となでしこは慰め合う様に両手をがっちりと握り合った。
「ごめんね、わたし達の事探してくれたんでしょ? すぐに連絡すればよかったんだけど」
困ったような顔で蛍は苦笑いを浮かべる。
自分達のせいできっと迷惑しているとは思っていた、でもすぐには連絡出来ない事情も二人にはあった。
「うん……ダムが決壊しちゃったからすぐに避難することになったんだよね。ほら、被害が下流にまで及んじゃったし。だいぶ落ち着いたのって割と最近なんだよね」
燐が手を川のように動かしながら説明する。
混乱した状況だったことはリン達にも何となく分かった。
「そっか、それじゃあ二人も大変だったんだねぃ……」
燐の説明になでしこが腕を組んで頷いていた。
どこから持ってきたのか顔には髭も付けている。
ぶっちゃけ似合ってはいない。
「電話かけても良かったんだけど……ごめん、何か気を使っちゃって……」
「大丈夫、もう気にしないでいいよ。こうやって再会できたんだし」
燐の気持ちがわかるだけにリンは軽く手を挙げて応える。
悪気があったわけじゃない、むしろとても気を遣ってくれたんだ。
私となでしこがそうであったように。
「リンちゃんや、嬉しそうだねぃ」
田舎のおばあちゃんみたいな口調のなでしこが、からかうように言ってくる。
生粋のおばあちゃんっ子なのかもしれない。
「なでしこだって楽しそうじゃないか」
リンは思わず余計な事を言いそうになったが心の内に留めておいた。
(これならキャンプ止めることもなさそうだしな)
「うん。すっごく楽しいよっ! 皆がいるキャンプって最高だよねっ!」
両手を挙げて周りを駆け回るなでしこの姿にみんな声をあげて笑っていた。
髪をなびかせてはしゃぐ姿は尻尾を振って喜ぶ犬のそれと似ていて、余計に可笑しかった。
遠くの方から奇妙な男性の声が聞こえてくる。
炊事場の辺りからだろうか、笑い声と罵声の入り混じったものが風に乗ってここまで届いていた。
多分酔っ払いが喚いているんだろう、キャンプ場では割と良くあることだった。
その意味不明な言葉は蛍に何かを思いつかせたようで、くすりと含み笑いをしていた。
「なんかさ、あの白い人達もこうだったのかなって思ったんだ」
「こうって? 酔っ払いってこと?」
燐は男たちのいる方へ視線を向ける、酒で酔った男たちの喧噪はなおも強くなっていて、忙しない虫の声よりも大きくなっていた。
「うん。でもお酒じゃなくて幸運に酔ってたのかなって」
「ああ、そういうことね。でも、きっとそれは人だけじゃないよね。あの町全体が酔っ払ってたのかもね」
「うふふ、そうかもね」
蛍と燐は星で散りばめられた空を見上げる。
彼らも町も幸運という美酒に酔っていたのかもしれない、あのオオモト様を祀った宴会の時ように、与えられた幸運を何も考えずに飲み干していたんだろう。
その結果があの姿だとしたら……蛍は月にそっと語り掛けるように囁いた。
人の器をなくしたものたちの嘆きは遠い星空へと吸い込まれたのか。
もしそれが輝く星の一つとなったのならそれはきっと綺麗なものになったはず。
蛍はそう願っていた。
(お兄ちゃんも、酔っ払っちゃったのかな? お酒苦手なのに……)
燐はポケットの中の
カバンの中のノートは何故かなくなっていた。
変わりに細かい傷のある眼鏡が折りたたまれて入っていた。
(わたしきっと振られちゃったんだね。でも、ありがとうお兄ちゃん)
夜空のどこかにあの人たちがいる星がある、それだけで星を眺める楽しみが出来た。
それは燐の新しい発見だった。
「酔っ払い、ね……」
「あはは、他人事じゃない感じだねぃ」
リンとなでしこは顧問の”鳥羽美波”の事を思い出して苦笑いしていた。
普段は綺麗で優しい先生で通っているが、実はかなりの酒豪で、二人が初めて会った時も酩酊状態だったので、学校で再会したときは全くの別人と思っていたほどであった。
「お酒のせいで~って事件、結構多いもんね」
「何かの話で読んだことがあるよ。お酒は忘れる為に飲むんだって。嫌なことや恥ずかしかったこと、不安や疲れなんかも」
「もしかしたら、人であることも……?」
「多分……ありえるのかもね」
少女達には分からなかった、アルコールが大人たちにどれほどの癒しが与えることを。
また知りたいとすら思わなかった。
ただ、燐の場合、父親は酒の代わりにスポーツドリンクを飲んでいたから尚のこと分からなかった。
「何事もほどほどが一番、ってことだねぃ!」
「なでしこちゃん、おばあちゃんみたいな事いってる」
「ふぉふぉふぉ、若いもんはすぐお酒に頼るからよくないのう」
(おまえの方が若いだろ)
心の中でのリンのツッコミ、思えばこれも懐かしく思える。
あの時から色々な事が止まっていたことをリンは初めてのように思い出していた。
腕を目いっぱいに広げて、なでしこがシートの上で転がっていた。
気が遠くなるほどに壮大な星の海、目いっぱい手を伸ばしても拾い上げることは到底出来ない。
月も星も山も全てが遠く、また小さかった。
「つまり、お酒も幸運も”ちゅーどくせい”があるってことかなぁ?」
「うーん、当たってるようで間違ってるような……」
「どっちも気持ちよくなる、とか?」
「あ、そんな感じかも」
リンの独特な考え方に、蛍は不思議な共感を覚えた。
蛍はその幸運を呼ぶ側だったが、その恩恵が被った試しはない。
だから町の人が欲しがる”幸運”がいまいちわからなかったが、快楽としてなら理解できるところがあった。
「じゃあ、蛍ちゃんはどんな時、気持ち良い?」
なでしこの無垢な疑問に蛍は一瞬呆気に取られるが、少し考え込むと可憐な思いを口にした。
「えっ! わたし? わたしは……やっぱり燐と一緒にいるときかな。」
「やっぱり、そうだよねっ」
「やっぱりね」
蛍の答えになでしことリンは大変深く納得したように頷いた。
燐は一人、顔を赤くして抗議していた。
「な、なにがやっぱりなのっ! もう、蛍ちゃん変な事言わないでよ~。誤解受けちゃうじゃん」
「えー、誤解じゃないよ、本当だもん。燐といると柔らかくて暖かい気持ちになるの。これって燐の優しさが全部わたしに向けられてるってことだよね」
月明かりさえ恥ずかしがるように、蛍は少女漫画にも似た独白を続けていた。
「あ、私達、先に寝るよ」
「うん。その方が良いみたいだねぃ」
真顔のままのリンと困った顔のなでしこはテントへ戻ろうとする。
その手を燐がしっかりと掴んで引き留めた。
「ちょっとー、余計な気を遣わないでよぉー! これじゃあ寝られなくなるー」
他のキャンパーが寝静まる時刻になっても少女たちは喋ることを止めなかった。
蛍は新しい髪飾りを一対、長い髪につけていた。
それは蛍が”自分の為だけ”に初めて作ったもので、”撫子の花”をイメージに、色とりどりの装飾で飾られたお手製の髪飾りだった。
本人曰く会心の出来でとのことであったが、みんなの反応は予想に反して芳しくなく、ライオンだパンダだと散々からかわれてしまった。
なでしこの行動もまたみんなの話のネタになった。
大事なオイルランプを直すため、購入した
だがその必死な様子は野クル部員たちに撮影されており、その動画はSNSで拡散され、ちょっとしたバズ動画となっていた。
だがそれは、非難されるようなことではなく、みんなの笑いのタネとして広く愛されるものであった。
笑い声が闇に吸い込まれてくる時間になると、さすがに睡魔には勝てそうになくなっていた。
喋り疲れた少女達は周りの人が既に寝静まった後で、ようやくテントで就寝することにした。
リンとなでしこはリンのテントに、燐と蛍は二人で買った中古のテントにそれぞれ寝ることにした。
「ねぇ、燐ちゃん、蛍ちゃん。明日早く起きて一緒に日の出見ない?」
おねだりをするようになでしこが声をかける。
長袖のパジャマスタイルはなでしこをいつも以上に幼く見せていて、年の近い妹のように見せていた。
なでしこ達はキャンプする際に翌朝、日の出をみんなで迎えるのはすっかり恒例の儀式となっていたのだ。
燐と蛍はちょっと意外そうに顔を見合わせると微笑んで答えた。
「うん、いいよ」
「あ。わたしは寝てるから、燐だけね」
「も~、蛍ちゃんも一緒だよ。ぜったい起こすからね」
いつもの調子でじゃれ合う二人。
なでしこはなんだか嬉しくなっていた。
燐と蛍のこういうやり取りを見るのがすごく楽しい。
このままの気分で朝を迎えられたらどんなに気持ちいいだろうか、それを想像するだけでなでしこは幸福な気持ちで寝ることが出来そうだった。
今から朝が待ち遠しい、それは四人共同じ気持ちのはずだった。
影絵のような小さなテントが二つ、寄り添う様に立っている。
虫たちの声はなおもよけいに騒がしくなっていた。
とても寝れないのではと思っていたが案外あっけなく眠ることができた。
これまでの寝不足が嘘のように安らかに寝ることが出来ていた。
夢と現実の調和がとれたように静かに闇へと沈んでいく。
もう夜は怖くなかった。
ピピピピッ。
ピピピピッ。
簡素な機械音とともにスマートフォンに明かりが灯る。
煩わしそうに寝袋ごとゆっくりと起き上がると、騒がしく鳴る板をリンは引っ掴んだ。
4:31
薄暗い、というかまだ真っ暗だった。
夏なのに少し肌寒くも感じる時刻。
日の出までにはまだ余裕があった。
隣で気持ちよさそうにシュラフにくるまれているなでしこを強引に揺り起こそうとしたが、ふと気が付いてその手を止めた。
それよりもまず気になっていたことがあったから。
テントのチャックをやや大げさに引いてリンは一人、真っ暗な外へと這い出た。
辺りは
鈴の様な小さな声と姿の見えない早起きの
まだ寝ぼけ眼のままで隣のテントを手にしたランタンで照らし出す。
「……」
そこには何も無かった。
──なんとなくそんな予感がしていた。
だから少しだけ早くアラームをセットしていたのだが。
まだ脳は覚醒していないのか、これといった感情が何も湧いてこない。
抽象的な想いが胸の奥から目を覚ましてくれなかった。
ただ茫然と、何も無い芝生を見つめるだけ。
レンタルしたと言っていた背の高いグリルも、食べ散らかしたままだったテーブルさえも、何も残っていない。
最初から”二人”だったかのように静かに青草が凪いでいた。
急に背筋が寒くなった。
「リン、ちゃん……」
背後から絞り出すような声がした。
声の方を見る気がおきなかった、ただその声で事実を受け入れなければならなくなった。
仄かな夢の続きが消えてしまったことを。
リンはランタンを地面に置くと、振り返ることなく目を瞑った。
そして独り言を風にそっと呟く。
「キャンプ、楽しかった」
「うん……」
なでしこの声。
掠れた声が痛々しい。
「キャンプやめるの?」
「うん……そのつもり、だった」
ぼそぼそとした声が耳にぎりぎり届く、風の音の方が強いぐらいに小さい声。
リンは強がるように少し声を張ってみた。
「なでしこがやめるなら、私も、やめるかな。遊んでばかりもいられないしさ、進路とかもあるし……こういうのって早いよなホント」
「そう、だね」
感情のない声が背中から頭の先に響く。
なでしこが出した声なのか、それすらも疑わしく思えるほどぞっとした。
あの橋で聞いた哀しい声色だった。
「でも、まだキャンプを続けたら二人に、蛍ちゃん、燐ちゃんとまた会う事が出来る、のかな?」
「……どうして、そう思うんだ?」
なでしこの意外な言葉にリンは戸惑いを隠せなかった。
ランタンの灯りが二人の足元を照らしている。
二人の体は小刻みに震えていた。
寒さとは違う、心が体を震わせていた。
「だって、二人とも楽しそうにしてたから。だから、またキャンプすれば会えるかもって……おかしいかな? こういうのって」
「……っ」
それまで重かった体が自然と動き後ろを振り返った。
そこには手の甲で目を擦りながらもしっかりと立っているなでしこの姿があった。
「そうだよ。きっとまた来てくれるよ、絶対」
「……うんっ」
暗がりの中、細い指に手を伸ばしてぎゅっと握りしめる。
なでしこは小さく、でもしっかりと頷いた。
宝石のような瞳が玉になり、雫が草の上に落ちていった。
(ソロだけが寂しいって思っていたけど……二人だって十分寂しいもんだな)
泣きそうになるこころをぐっと堪える。
なでしこは何か決心したようだけど、私はまだ完全に割り切れていない。
理由が証拠が切実に欲しい。
こんな気持ちのまま夜明けなんて迎えたくない、むしろ夜明けなどこないほうがまだましだ。
何か熱いものが頬を濡らしていた、暗がりであったからまだ良かった。
リンはそれでも恥ずかしいのか、まだ黒く壮大な山とは逆方向に顔を背けた。
その時、滲んだ視界の中に何かの気配に気づいた。
まさか?
リンは闇の奥、その更に奥にあった木を凝視しながら、耳に神経を集中させた。
……黒い木の影で揺れる何かと微かな音、それは……。
はぁっ、リンは肺から深く重いため息を大げさについた。
なでしこは不思議そうな顔でリンを見ている。
両頬には涙の線がくっきりと残っていた。
その頭に手をポンと無造作に乗せた。
髪をわしゃわしゃとしながら、その方角を見る……微笑ましいな、リンは小さく笑った。
そしてなでしこの瞳を覗き込む。
「案外、近くにいるのかもな」
「あ、うんっ!」
疑う事の知らない元気な返事、純真無垢とはこういうことを言うんだろう。
忠実な犬を褒めるようにさらに頭をわしゃわしゃとしてやった。
うー、とそれこそ本物の犬のように唸っているが満更でもなさそうで、少しだけいつものなでしこになっていた。
さて、どうやって説明したものか、リンは少し考える。
泣くかもしれないし、怒り出すかもしれない。
でも、それはとてもいいことだ。
いいことだから、早く来ればいいのに……。
…………
………
……
(ねぇ、燐。なんかバレてるみたいだよ)
(えっ! そうなの?)
木の影に身を隠すようにして、二人の少女がなにやらこそこそと準備進めていた。
(蛍ちゃんがなかなか起きないからだよー)
(えー、燐の段取りが悪いんだよー)
(そんなこと言ったってわたし一人で朝食の準備をするのは大変なんだよ少しは手伝ってくれても良いのに)
(家事全般は燐の役目だから。燐、早くしないと日が昇っちゃうよ)
(んもー、蛍ちゃんはマイペースだなぁ)
お盆の上に四人分の汁物が並ぶ、それは山梨の郷土料理”ほうとう”であった。
ちゃんとした専用の麺を使っているが、具材は昨日の残りを入れた物なのでどちらかと言うとごった煮に近かった、ちなみに南瓜は入っていない。
(蛍ちゃんの分は自分で持って行ってね)
(うん、分かった。それにしても何でこんなことしてるの?)
(昨日も言ったけど、サプライズしてあげたかったんだもん。しかも中身は”ほうとう”で2度ビックリするよこれはっ)
暗くてよく分からないが多分ドヤ顔してるんだろう、蛍は声を潜めて笑った。
(わ、笑うところじゃないよっ)
(だって、燐ってば……くすっ、なんか変わったよね、燐)
(そう? 例えばどんな風に?)
(なんか、子供っぽくなった)
(えー、何それー、なんか傷ついちゃうなー)
口を尖らせて不満そうな態度をとる。
これもまたおかしくて蛍は口に手を当てて笑いを堪えるのに必死になった。
(ごめんごめん。でも、これはいい変化だよ。今の燐、わたし大好きだよ)
透き通った顔のままで告白してくる。
燐は目を丸くするが、小さく微笑んだ。
(わたしも蛍ちゃん好きだよ。でも、なんか上から目線っぽくない?)
(だって、わたし、お金持ちのお嬢様だから)
暗闇の中、蛍はなにやらジェスチャーをするが燐には良く分からない。
お嬢様っぽい仕草で髪でもかき上げてるんだろうか。
想像して噴き出しそうになる。
(ぷぷぷぷ、あっ! そろそろ行こう。サプライズはタイミングが肝心なんだよ)
(あっ、燐に無視された……あ! 待ってよ燐~)
三人分の朝食が乗ったお盆を持って燐が走り出す、その後を自分のお椀を持ちながら蛍が追って行った。
富士の裾から朝焼けが徐々に登ってくる、眩い光線が地平線の彼方から伸びてきていた。
光が少女の影を鮮明に照らし出す。
元気に走る姿を緑の草原が生まれたての大きな影を描きだしていた。
「二人とも~! 朝ごはん出来てるよ~!!」
「くすっ、遅かったね、燐ちゃん」
「ふおぉぉぉ! ほうとうだぁ! でも、ちょっと変わってるね。これ」
「……ふつーのリアクションだよね」
「はぁ、はぁ、だから、バレてるって言ったのに……」
眩しい光、始まりの光。
一日の始まりを告げる光が朝露に濡れた草原を山を白色に染めていく。
目を開けていられないほどの眩しさ。
でも。
とてもあたたかい。
太陽の視線が、右手が、脈打つようにあたたかった。
ずっと一緒にいてくれると言ったともだちがいた、わたしには勿体ないぐらい素敵なともだち。
いつまでもそのままでいて欲しい、でもそれじゃダメなんだよね。
(わたしはもっと自分を好きになるよ。きっとそれがはじまり)
人も心も変化していくんだ、だから。
今日はもっと楽しくなる、そうだよね? 蛍ちゃん。
────
───
──
─
「ねぇ、蛍ちゃん? このままじゃわたし食べられないんだけど……」
「じゃあ、わたしが食べさせてあげるね。燐、あ~んして」
「あ~ん」
「なでしこがやってどうするんだよ……」
「リンちゃん、私にも~」
「ねぇよ」
「あははは、ねぇ。これからどうしようか──」
─────
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★教えて青カミュQ&A~☆彡 Part3.
Q:前回、未定って言ってなかったか?
A:せっかくだから最後までやるわ~。いちおう最終回やしな~。
Q:結局、高森聡ってどういった人物?
A:割と普通の青年なんやけど、ちょっと闇が深かったみたいやね~。
Q:緑のトンネルってなんなん?
A:トンネルの中に入ってるってことは周りが見えないことやから、真っ直ぐ前を見ることがしか出来ない状態ってことやね。つまりは視野が狭くなってると言い換えることも出来ることやな。つまりにはトンネル効果や!!
Q:燐が圧縮を先読み? しちゃったのは。
A:体験版だとオオモト様が圧縮の説明を先にしちゃったからその流れで製品版も圧縮を解説前に出してしまったと思われます。つまり、燐は蛍との愛で能力者に目覚めたということですっ。
Q:蛍のいうあの家の一部って?
A:ニュアンスから推測すると、青いドアの家の世界は人の思いの欠片で出来ているのではと思われます。
Q:背後から迫ってくる列車!?
A:逃げ出す為に動かしたようですが、あの体でどうやって運転していたかは不明です。
Q:なんでヒヒは無事なの?
A:サトくんが無事だからだと思います。
Q:どうして青いドアの家に行けなかったのか。
A:燐の心にモヤっとしたものがあった結果行けなかったのではと思います。
Q:ハーベスター?
A:収穫作業を行う重機の総称がハーベスターのようです。
Q:毬が転がってきたのは?
A:恐らくこれこそが──様の本体ではないでしょうか。憶測の域を出ませんが。
Q:(小さい)オオモト様はどうしてあんなこと(手淫)をしたのか。
A:理由の一つとして、この連鎖を止めたかったからだと推測できます。射精を促すことで一時とは言え性欲を萎えさせることが出来ますし、冷静にさせることもできますしね。ですがその結果、ああなってしまったわけです。
Q:膝枕の三人は。
A:天秤の様にも見えますね。
Q:世界は圧縮しているのよ。
A:燐、どういうことか分かる? (先にセリフ言っちゃったけど……)ダメ、全然分かんない!
Q:切符とは。
A:銀河鉄道の夜だと切符を持っていたから乗車出来たことになっています。この場合は切符が無い事が二人の別れを意味していると蛍は考えたんだと思います。
Q:かたつむりの殻。
A:
Q:結局オオモト様って?
A:(大人の)オオモト様の元ネタ? はオシラサマではないかと思ってます。
Q:サトくんは何故喋れなくなったのか?
A:犬の概念に則したのではないかと思われます。つまり青いドアの家では概念がない、概念に囚われないということ、ではないでしょうか?
Q:テレビが窓?
A:目は心の窓とも言うらしいのです。目は心のテレビ……ではなく、窓(テレビ)は心の目と取ることも出来ます。燐は早く向こうに戻りたかったようですが、実際のところは……と解釈することもできますね。
Q:オオモト様は何処へ?
A:家は肉体と魂のメタファーであると表現している人がいました。そうなると青いドアと窓枠がなくなったのは、どちらかが消失した為ととることも出来ます。
Q:転車台。
A:銀河鉄道の夜の天気輪の柱に相当する部分なのでしょうが、私はイーハトーヴォ物語というゲームの最終章に出てくる後生車ではないかと思ってます。BGMがとても良いんですが、如何せん歩行スピードが遅すぎて……でも一度はプレイしてみるのをお勧めします。
Q:光に変化したのは?
A:素粒子になったんでしょうか。
Q:サトくんとヒヒは。
A:彼らのもとは一つです。つまりは、そういうことです。
Q:上がっていく光。
A:台湾のランタン飛ばしから着想を得たのかな? と考えています。
Q:燐の喪失感は。
A:燐にとっては心身を汚された凌辱と同様の哀しみがあるのが分かります。
Q:あの電車は。
A:別れのメタファーかと思います。
Q:なんで手を離したのか。
A:多分、離したのは燐ではないかと思います。
Q:蛍と燐はどこの線路にいたのか。
A:よく見ると川があるようなので、元ネタ? の大井川沿いの鉄道ではないかと。
Q:なんでDJはいる(喋っているの)のか。
A:コロス(コーラス)だからです。つまりはナレーションちゅうことやね~。
Q:燐と蛍。
A:ネタバレコーナー行きやね~。ですが量子力学的な答えがあるとしたら量子テレポーテーションしたのではないかと思いますが、あなたはそれで納得してくれるでしょうか?
Q:紙飛行機は。
A:これもネタバレコーナー行きやね~。ただ紙飛行機は墜落した飛行機とも取れますね。
Q:後半手抜きじゃないのか?
A:こんなもんやで~。最後まで見てくれた人には感謝感謝やね。
そういうわけで突発的に始めたことなんですが、意外にも発見は多かったですね~。
これまで自分でも分かっていなかったことにある種の答えを見つけることが出来たりと、やってみて良かったですよー。事故満足度はそうとう高いです。
へやキャン△ みたいなノリは途中から考えたネタなんですけど、これも意外と良かったなあ。真面目な受け答えだけだと(個人的に)面白くないですもんね。
それでは突発の企画はこれで終了です。
ありがとうございました。
”かみゅキャン△ ”読んでくださりありがとうございます。
今回は三幕構成という手法を試してみました。
それでプロットを立ててみたんですけど難し過ぎて結局いつものダラダラとしたパターンになってしまいました。
7から8話ぐらいで終わる予定だったんですけどね~どうしてこんなに長くなってしまったのやらです。
そんなわけで今回は各話の解説はざっくりと掻い摘んでしてみたいと思います。
一幕目は設定や掴みらしいのでこの場合1話から3話ですかね。
ドラマ版ゆるキャン△ がちょうどやってたこともあって、いつもの思い付きで書いてみたわけです。小平口町でキャンプしてなんかわちゃわちゃしながら本編とは違った終わり方が見えそうかなと思ったわけです。
ただ、名前被りがねぇ……書いてる本人も混乱するのはいかがなものかとーー。でも割と楽しかったなあ……。
★ゆるキャン△ との共通点?
ゆるキャン△ と青い空のカミュ。両作品は全く異なる世界観ですが、一部共通してるところがある為、今回の話にしてみました。
そこで、共通点をざっくりと列挙してみますと。
・主人公の名前が一緒(志摩リン。込谷燐)
・W主人公であること(リンとなでしこ。燐と蛍)
・舞台設定が一部共通している(ゆるキャン△ は今の所山梨県と静岡県。青い空のカミュは静岡県らしいです)
・リンと燐の趣味がアウトドアであること(キャンプとトレッキング)
・ラパンっぽい車で出てくること(リンはなでしこの妄想でそれっぽい車を。燐は作中で同じような車をそれぞれ運転しています)
・リンの原付と青カミュのラパンの配色が似ている事(どちらも青(シアン?)を基調としたホワイトとの2トーン)
と、こんなところでしょうか……あまり多くない上に強引かもですね。
まあ、一番の共通点はどちらの作品も私が好きだということでしょう。
クロスオーバーをするならこれが最も大事なところですしね。
追記:・白い犬と化け猿(光前寺の早太郎伝説と見付天神の疾病太郎伝説。サトくんとヒヒ)
二幕目はいわゆる本編というか対立?
私の拙作の場合ですと……4話から16話!? 長すぎか──長すぎだ───。
焚き火やカップ麺ごときでまるまる1話使うとは思わなかったですよ。電車だってもっとパッと乗ってしまう予定だったんですけどねー。
★9話。
ゾンビぐらしなるものを書いてみましたよ。これはゆるキャン△ でのちょいネタでしたが、何となくここで起用してみました。
元ネタは恐らく同誌で連載していた”がっこうぐらし! ”からだと思います。
ですが私は名前しか聞いたことが無かったので、”カメラを止めるな!”という有名作品から設定を適当にピックアップして創作してみました。
ですが、最近になってがっこうぐらし!の漫画版を全部読んでみる機会があったのですよー。
そこに登場する、”直樹美紀”通称みーくんというキャラがなんか燐に似てる気がする……気のせいかもしれないですけど。
そのせいか私はみーくん贔屓です。
しかも原作サイドにも愛されているのか、やたらと活躍する場面が多かったです。一応最年少の後輩キャラなのに。
最終話もみーくん視点ですし、続編も表紙はみーくんでしたし、影の主人公といって間違いないでしょう。むしろ真の主人公かな?
三幕目は解決、いわゆるクライマックスに相当するようです。
この場合、17話と18話でいいのかな? まあそこしか該当するのがないんですけど。
最後の方は本当にキツイですねー。それでもダラダラ書いちゃうのは性格なんでしょうか、性格ですね。
☆17話。
KansasのCarry On My Wayward Sonですが海外ドラマのSupernaturalからではなくて、SouthParkのギターヒーローの回で初めて知りましたよー。むしろスーパーナチュラル見たことがないです……。
実はQueenのBohemian Rhapsodyも候補に挙がってました。歌詞がカミュの異邦人っぽいと書かれてましたしねー独自研究みたいですが。
☆18話。
ふゆびよりじゃなくてなつびよりとしてみました。
2話の時点でエンディングまで見えていたのになあ……ここまでくるのに5ヶ月近くかかってしまうとは……だらだらしすぎ&時が過ぎるのが早いですねー。
今回のお話のコンセプトは、”青い空のカミュ”の違うエンディングが見たいけど本編を汚すのは本意じゃないです。
だったら体験版の続きと言う事にしてついでにゆるキャン△ を混ぜちゃおう。が最終的にこうなりました。どーしてこうなったし。
結構長い間書いていたので、その間リアルで色々ありましたねぇ。財布無くしたり、青い空のカミュが一周年だったりもしましたねー。公式が更新してくれたのは嬉しかったです。
もちろん新型コロナウィルスの事は忘れちゃいけませんね。現在も余波はまだ残っていますしね。
私も風邪なのかコロナなのか判然としませんでしたが、結局検査してないので分からずじまいですねえ……でも風邪っぽかったしなぁ……何も分からないのが一番怖いなんてねぇ……。
そういえば最近になってアルベール・カミュの”ペスト”読んでみましたよー。
基本ひねくれものなのでブームが終わった頃にこっそりと。でも1冊しか置いてなかったですねえ。そのおかげで手にすることが出来ましたけど。
結構時間を掛けて読了してみました。で、感想ですが……なるほど、Wikipediaや試し読みとでは全然重さというか、凄みが違いますね。
とにかくボリュームが凄くて1度読んだだけじゃ良く分かりませんでした。なので2週目をしております。ただ静かな終わり方だと思いました。
登場人物がみな良い人なのは主人公の人柄の成せる業でしょうか。コタールという人物さえも彼のなかではとても愛おしくみえたでしょう。むしろ彼の願望だったのかもしれませんね。もし彼の手に拳銃があったとしたら……同じようなことをしていたのかもしれません。
あ。もちろん青い空のカミュ好きな人にはお勧めです。この作品には青カミュの元ネタが結構ありますのでそれを探しながら見るのも大変面白いですよ~。
そーいえばスマホで場所が分かる財布なんてものもあるんですねぇ……ちょっと気になるなあ。
でも財布より先にスマホをどうにかしないと……もう5年も同じの使ってるし、バッテリーもストレージもガタガタだし。それでもまだ使えるのが凄いかも。
iPhoneSEポチっちゃおうと思ったらiPhone12が早めにリークされちゃうしで、うー、結局買い替えてないなあ……9月まで待ってみようかなあ。
さてさて、今回もネタバレコーナーを設けてますが今回は3つばかり用意してみました。
もう流石にネタ切れなのでこれも最後でしょう。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
それではありがとうございました。
───
──
─
ネタバレコーナー! のネタ切れっておかしくないですか?
まあでもやってみます。
★
”青い空のカミュ”の”小平口駅”のモデル候補としてこれまで様々な駅を取り上げてきました。
たまたまテレビで映っていた”小和田駅”。ゆるキャン△ の雨畑林道から着想を得た結果の”井川駅”色々考察してきました。
ですが今回、自分の拙作で小平口駅を書くことになったときに上記の二駅ではイマイチ想像が足りなかったので他によさそうなモデルはないかなと探していたときに偶然分かったのです。
大井川鐡道大井川本線の終着駅である”千頭駅”この駅こそ小平口駅のモデルとなったはずです。
少し説明しますと、千頭駅は大井川本線では終点で、そこから井川線という別の列車に乗り換えることで、さらにその先の終点井川駅まで行けるようになっています。
いわゆる乗換も出来る駅となっているようです。
トーマス電車やSLなんかも千頭駅から金谷駅までの往復となっています。
詳しい事を知りたい方はググってもらったほうが良いかと思います。なにせ土地勘がまったくないので。
さてさて、千頭駅であるという理由についてですが、まず小さなロータリーがあります。更に特徴的な電話ボックスもあっちゃいます。しかも転車台もあるんですよねー。ちなみに起点である金谷駅にもあるみたいです。
さらにさらに、森林鉄道が昔、千頭駅まで乗り入れていたことがあったようなので、小平口町は千頭駅周辺の町並みから多くのインスピレーションを受けていたのかもしれないですね。
ただ天竜川沿いの要素もあるようなことを公式で匂わせていたので、もうちょっと別の地域や駅の組み合わせはありそうですねー。
それにしてもまたもゆるキャン△ と被ってしまうとは。
大井川編でもリンと綾乃が待ち合わせた場所が千頭駅でしたしねー。
さすがにこれは偶然のはずですが。
新型ウィルス関連がもっと落ち着いたら、聖地巡礼しちゃおうかなー。千頭駅だけで青い空のカミュとゆるキャン△ 両作品の聖地巡りが出来るのはお得ですねー。
ちょっと遠いのが難点ですけど……。
★赤毛のアン。
燐が何気なく言っていた読んだ本のタイトルですが、燐と蛍の関係性とデザインはこの作品をモチーフにしたのではないかと思っています。
燐がアン・シャーリー、蛍がダイアナ・バリー、でしょうか。二人は心の友として唯一無二の親友となります。燐と蛍の友情はここから来てるのではないでしょうか。
ただ最近は燐と蛍は某麻雀漫画から着想を得たのではないかと思う様になってきましたが……。
さて、もう一つ燐が何気なくあげた本のタイトルがあります。ですがこれは赤毛のアンよりももっと重要で作品の根底にあるものではないかと思っているのです。それは。
★星の王子さま。
私はこの作品もタイトルや内容は少しは知っていますが、肝心の結末は……なんでしたっけ? な作品の一つでした。
あることがきっかけでこの作品と再度向き合う事が出来たんですが……もしかすると銀河鉄道の夜よりもこちらの方が青い空のカミュにより近い場所、いわゆるベースなのではないかと思い始めたのです。
青い空のカミュに例えると”ぼく”は蛍で”王子”は燐。そして聡は花でありキツネであり毒蛇かもしれません。
オオモト様は……布で出来た人形を大切に持っている子供でしょうか。
物語のあらすじは砂漠に不時着した飛行機を直してるところで王子さまと出会ったというお話になっています。
王子さまはぼくと出会う前の話をしてきます。自分の星には美しい花が咲いていること。そして花と些細な事で喧嘩して自分の星を出たこと。そして色々な星を巡ったあと地球にやってきたことなど。
さて、青い空のカミュと関係ありそうなことは、大体全部です。適当なことを言ってるように思えますが私にはそう見えました。
王子が出会った大人たちはあの白い人影と重ねることが出来ますし。(ちょっと無理やりだけど)
格言めいたセリフも少しニュアンスを変えて作品内で使わているように見えますね。
そして燐と蛍が別れる時も……。
燐は”王子”として責任を果たしに行ったのではないかと思います。小さなバラの為に。
だから蛍の前から消えてしまった、蛇の毒を受けていないはずなのに。
そして紙飛行機が飛んでくるわけなのですが、星の王子さまになぞらえてみても二通りの解釈がとれるかと思います。
一つは、始まりであること。
飛んでいた飛行機が落ちたとき偶然出会ったのが王子様でした。
そう考えると燐との出会いはまだ始まっていない、むしろこれからなんだと捉えることも出来ます。
もう一つは、この先の暗示であること。
星の王子さまの話は飛行機が直った”ぼく”が6年後にこの不思議な話を振り返り、あの時を懐かしみながら終わるようです。
あれから年月が経っても燐は戻ってこないとみることも出来ます。
ですが作者も飛行機の操縦士でした。しかも最後は飛行機(偵察機)に乗ったまま行方不明、その後何十年か経って戦死したことが分かりました。
私はどちらの解釈でもいいと思っています。ぶっちゃけ好きな方を選んでも良いですし、別の解釈も全然ありだと思います。
クリエイター側の意見もありますが、それはそれと割り切ってもいいと思います。
色々な解釈が出来るからこその”青い空のカミュ”と思っておりますし、私の中では未だに結論は出ていません。
だからこそまだ楽しめるんだと思います。
さてさて、流石にもう使えるネタは無さそうなんですが、まだカミュの作品をそこまで読んでないんですよねぇ……サルトルに至っては、もう全くと言っていい程知らないのです。まだまだ勉強の余地ありですね。
ゴドーを待ちながらも良く知らないですし、ほんの少し前に知った”三日間の幸福”という小説も、もしかしたら青い空のカミュに少なからずの影響があるのかもしれないですね。
スタッフロールの演出はここから着想を得たのかもしれないです。偶然だとは思いますがっ。
それでは長々と拙文失礼しました。
ここまで読んでくれた方には重ねてお礼を申し上げます。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それでは~。