かみゅキャン△ ── Camus Canp ── 作:Towelie
人は極限状態に追い込まれると食欲さえも忘れるというエピソードがある。
それは本来野生で生きるための本能というか知恵のような物であった。
他の動物に比べ人間という生き物はチカラも体も脆弱だから、なるべく少ない食事で栄養を賄おうとする機能が発達していたのだ。
その結果、危険が迫ると脳が食欲を抑制する信号を出して空腹を忘れることが出来たのだ。
だからこの世界に閉じ込められた少女達は原始時代よりも不条理な世界の中で、それでも生き抜いていくためには最低限の食事しか体は求めないはずだった。
……だが何事にも例外というものが一定数あるのもまた事実である。
例えば、この目の前の小柄な少女のように……。
もっちゃ、もっちゃ。
髪の長い小柄な少女が口いっぱいに菓子パンを頬張っていた。
燐も割と食欲はあるほうだが、この少女にはとてもかなう気がしなかった。
蛍は少女の豪快な食べっぷりをニコニコと嬉しそうに見つめている。
菓子パンが次から次へと無くなって、代わりに包んであったビニールゴミが増えていく。
息をすることすら忘れるほどにひたすらパンをがつがつと食らいついていく少女。
今、ここでパンを取り上げようものなら戦争になっていたことだろう。
実際の戦争だってそんな些細な事が起爆剤だったりするのだから。
「はぁ……なんとか落ち着いたよぉ~。余は満足じゃ~!」
少女は燐がバックパックに残しておいた菓子パンの殆どとお菓子、そしてペットボトルの水を飲み干して大変ご満悦のようであった。
あたりには食べ終わったパンやお菓子のゴミがそこら中に散乱していて、どれだけ食欲があったのかを思い伺わせた。
「こんなに食べるなんて……結構細い体してるのに凄いよね」
燐はやや呆れ気味に感嘆した。
少女はお腹が空いているようだったので、背負っていたバックパックからパンやお菓子を出したとたん、この有様となっていた。
「うんうん、テレビにだって出れちゃうレベルだよね」
蛍は終始、面白そうに少女の食欲を観察していた。
その瞳はもの珍しい小動物を観た時の目とよく似ていて、どちらかというと動物愛に満ちていた。
「むぅ~、やっぱり……全然違う……」
少女はお腹を十分に満たしたおかげでココロに余裕が出来たのか、ジトっとした目つきで冷静に燐を観察していた。
その声は先ほどまでとトーンが少し違い、疑惑の色が混じっているように聞こえていた。
「えうっ!?」
急に冷静となった少女の声色に、燐は思わず動揺の声を零していた。
嘘をついていた、というわけでも無いが、所謂”確信犯”的なアプローチだったのかもしれない。
少女の想いを踏みにじった浅はかな行動だったのかも……燐はちょっと後悔していた。
……こうなったら仕方がない、ちゃんと説明して少女に誤解を与えてしまったことを謝ろう。
燐はため息を一つついた後、姿勢を正し、少女と正面から向き合った。
そして、謝罪の為に口を開こうとするその前に、少女が身を乗り出して喋りだしてきた。
顔を覗きこんできて、まざまざと食い入るように凝視してくる。
さっきの時は違い、顔のパーツを一か所づつ、指を刺して確認してきた。
「髪の毛はばっさり切っちゃってるし、髪質もいつもと違う感じがする……。瞳の色だって違うし、声も別人のように似てないよね……」
少女が今更のように違いを逐一指摘してくるが、燐はそれに対し愛想笑いを返すだけで精一杯だった。
(今更そんなこと言われても──どうしよう? 蛍ちゃーん)
思わず助けを求めるように蛍の方を見つめる燐。
燐の縋る様な視線を受けた蛍は、少し何かを考えた後……何故か楽しそうに小さく手を振ってくるだけであった。
(そうじゃない、そうじゃないよ蛍ちゃん~)
燐は蛍に再度アイコンタクトを試みた。
お願いだから何かフォローして欲しい! そう懇願するような瞳で蛍を見つめてみる。
……わたしの想い届くよね? 蛍ちゃん……燐はそう願っていた。
だが肝心の蛍は──いそいそと周りに散らばっているごみを片づけていて、燐の必死な視線にまったく気づいてはくれなかった。
(今はゴミよりもこっちの方が大事だよ~。修羅場になっちゃうかも~?)
蛍はなぜかここに来て、立て続けにボケ倒していたので燐は少し呆れてしまっていた。
(そういえば蛍ちゃんってちょっと変わったタイプの子だったよね……)
蛍と燐は長い付き合いだったが、当初はお互いに学校内で割と浮いている存在で接点はなかったのだ。
それに浮いているといっても性質に明らかな違いがあった。
片や学校内では噂になるほどの人気があり何でもこなせる元気で明るい少女。
もう片方は変わり者として少し疎まれ気味になっている内気な少女。
でも、そんな対照的とも言える二人が今では親友なのだから、人の結びつきとは分からないものである。
燐も蛍もお互いの出会いに感謝していた。
共に欲しかったものと出会えたのだから。
「でも……」
それまで押し黙っていた少女が再び口を開く、物静かだけどハッキリとした口調がテント内に木霊していた。
燐は緊張のあまり喉を鳴らしてしまう、蛍も手を止めて少女の方に目線を向けていた。
「姿、かたちは違っててもやっぱり、リンちゃんだね! 私が困ってるとちゃんと手を差し伸べてくれるし!」
少女の顔がぱぁっと火を灯したように再び明るくなった。
無垢で穢れの無い純粋さで構成された
完全に信じ込んでいる様子に内心ほっとする燐だが、罪悪感が更に増してしまっていた。
「さー、早くゾンビやっつけちゃおうよ~、ゾンビハンターリンちゃ~ん!」
少女が腕を取ってぐいぐいとすり寄ってくる。
やっぱりこの展開なのか、燐は引きつった笑みを出すことしか出来なかった。
なぜか設定が追加されているのは何かの気まぐれだろうか?
「お~い、生きてるか~?」
聞き覚えのない少女の声とその姿がテント内に入り込んできた。
隣で引っ付いている少女とは違う落ち着いた感じの声と合羽姿、その姿を確認した少女は驚愕の声をテント内に響かせていた。
「り、リンちゃんが、二人に分身してる!!!」
「!?」
「?」
「……なんの話?」
……声を上げた少女以外、ここいる誰もがその言葉の意味をまったく理解出来ていなかった。
もっ、もっ。
一言も発することなくあんパンに噛り付いているのは、先ほどテントに戻ってきたもう一人の少女。
口の中で何度も咀嚼して出来る限りゆっくりとしたペースで。
食べものがあることを感謝しているかのように味わって食べていた。
美味しいものは最後まで取っておくタイプなのかもしれない。
この少女もよほど腹を空かしていたらしく、僅かに残っていたパンを勧めたところ、目の色を変えて食らいつき、結局全て平らげてしまっていた。
それだけ過酷な状況下に晒されていたのだろう、蛍と燐は当事者でないにせよ、少し申し訳なく感じてしまっていた。
ペットボトルの水を一気に飲み干して、少女はようやく安堵のため息をつくことが出来たようだ。
「はぁ、ありがとう。ガチで助かったよ……あ、ごめん。貴重な食糧だったのに思わず食べちゃったけど平気だった?」
少し照れたようにはにかんでお礼を述べてくる合羽姿の少女。
テントの中の見知らぬ人の正体よりも真っ先にパンの袋に注目して、開口一番まだ残っていないか尋ねてくるほどに切羽詰まった状態だったのだ。
「も~、リンちゃんがっつきすぎだよぉ。リンちゃんが一生懸命食べてるのを見てると、またお腹が空いてきちゃう」
からかうように少女は無邪気な笑顔を向けていた。
あれ程のパンを胃袋に収めていたのにまだ食べたりないのだろうか?
こっちの少女は、最後に残っていたパン2つだけでも満足気なのに……。
「
恥ずかしかったのか少し顔を赤くした少女はもう一人の少女、
(初対面の人の前で恥ずかしいことを言うなよ……まったく、デリカシーのないやつめ)
まあ、ここまで食べてないことって珍しいことだけどね。
ダイエットしてたとき以来のことかも、でもダイエットとか関係なくキツイよこれは。
少女は改めてキャンプでの食事の大切さを身に染みて実感していた。
「あ、え~と、それで……こちらの二人はなでしこの友達のかた、なの?」
栄養を補給できて落ち着くことが出来た少女は、最初から気になっていた見知らぬ少女達の身元を尋ねてきた。
「もぅ~、リンちゃん失礼だよっ! 命の恩人に対してそんな言い方しちゃだめっ。それに並行世界の自分の
「……んん?」
これはヤバい、なでしこのやつ極限状態でお腹空きすぎて変なモードに突入してやがる。
まさかの隠れ中二病患者だったのか……まあアニメとかゲーム、好きそうかなと思ったこともあるけど……。
(それにしても、他人の振りをしたいほどに恥ずかしいやつだぞ、これは……)
友達のあまりにも意外な一面を知って、動揺を禁じ得ない小柄な少女。
二人の少女達の間になにやら不穏な空気が漂いはじめていた。
そんな二人の様子を知ってか知らずか蛍は淡々と分析していた。
(さっきテントに入ってきたばかりの子が燐と同じ名前の子かな? そして小動物のように大きな瞳で可愛らしい感じの子がなでしこちゃん? でも……わたしたちはまだ二人に名乗ってないよね)
「ねぇ、燐。お互いに自己紹介したほうがいいんじゃない? なんか誤解してるっぽいし」
同じテントの中なのに燐と蛍はすっかり蚊帳の外になっていた。
そんな中で蛍がそっと耳打ちをしてくる、こんな時でもマイペースなのはある意味長所かもしれない。
「あ、えっと……そう、だよね。わたしもそう思ってるんだけど……どうしよっか?」
4人も居るとなるとテントの中のキャパシティーは減る一方だった、そんな中ではそれぞれの声は丸聞こえで、内緒話さえも意味を為さない狭さだった。
あの二人は喧嘩になっているというわけではないのだが、必死に現実に戻そうとする少女とそれを夢見がちな妄想で解釈してしまう少女との、不毛なやり取りが続いていて見るに堪えないほどであった。
「いつもの部活の感じでやってみたら? 燐の声、良く通るし」
燐はそれに頷いて同意した。
蛍からのアドバイスは割と的確なことが多く、燐は結構当てにしていた。
そのアイデアに従っていつもの部活──ホッケー部の集合の挨拶の要領で声を掛けてみる。
ぱんぱん。
燐はまず軽く手を叩いてこちらに注目を集めた。
その軽い音に二人の少女も、混乱してる会話を止めてこちらに向き直ってくれる。
「はーい、ちゅうもく~。今からちゃんと自己紹介するからねー。ちょっとだけこっち見ててねー」
なんだかすごく恥ずかしい事をしてる気はするが、この淀んだ空気を換えるためには仕方がない。
少女二人の関心がこちらに移ってくれたみたいなので、言い出しっぺの燐からキチンと自己紹介をすることにした。
「わたしは
燐が自己紹介をすると少女はびくっと反応してしまう。
合羽は脱いで、長く綺麗な髪を床のシートに垂らしたままに。
(おぉ、私と同じ名前なのか。これは多分なでしこが勘違いをして呼んでしまったんだろうな。まあ、そのおかげで助かったわけだから勘違いにいちおう感謝だな、うん)
「今、燐からご紹介にあずかりました、
燐と蛍は簡単に自己紹介とそれまでの状況を説明をしてみた。
この小平口町の異変についてそれぞれ思う所はあるのだが、この場ではお互いに言及しなかった。
無関係の人にこれ以上余計な心配は掛けたくなかったから……。
二人の自己紹介を受けて、このテントを立てたと思われる少女達も名乗りを上げた。
「ご、ごめん。つい周りが見えなくなっていたみたい、恥ずかしい……私は
「初めまして、かがみはらなでしこですっ!!」
先に名乗った少女──リンが言いきる途中で、もう一人の少女、”
(初めまして、って私より先に会ってたんじゃないのか? それにまだ話途中なんだぞ……)
蛍とは別ベクトルの空気を読まないタイプであることはテント内での交流で、大体把握はできていたのだが、それでも燐と蛍はビックリしてしまった。
「リンちゃんとは同じ学校ですっ!」
「野クルに所属してますっ!」
「大体何でも食べられますっ!」
各務原なでしこと名乗った少女は情報を小出しにしながら、矢継ぎ早に喋りまくっていた。
狭いテント内でもお構いなしに身振り手振りの大げさなリアクションを付けて喋っている。
(元気になってくれたのはいいんだけど、なんでいちいちポーズを付けるのかなぁ?)
燐はこういう感じの子は嫌いではないのだけれど、今の状況ではわりと疲れてしまうタイプだった。
「それからね……」
「おい、もういいだろ」
なでしこがまだ何かを言おうとしていたので、すかさずリンが止めに入った。
ドスの利いた低い声を出そうとしたみたいだが、元の声が可愛らしいのでそこまで迫力のある声色には聞こえなかった。
「も~リンちゃん~。ここからが面白い所なんだよ~」
話の腰を折られたなでしこが不満の声をあげる。
「ここからって、何処まで喋る気だよ……」
「えっと、浜松に住んでたころの話とか、リンちゃんと初めて出会ってキャンプが好きになった話……後、初めてソロキャンした時のこととか……あ、最近みんなで行ったグルキャンも楽しかったねぃ!」
「いや、その辺の話は今要らないから……それに最後のはただの感想になってるじゃねーか」
なでしこの壮大な振りにリンが冷静にツッコミを入れる。
この二人はいつも大体こんな調子なのだろう、二人の間に険悪さは微塵も感じられなかった。
「浜松って……わたしたちも今、浜松の学校に通ってるんだよ」
「そうそう、蛍ちゃんなんてここから毎日通ってるんだから結構大変だよねー」
蛍と燐は唐突に良く知る地名が出たことに思わず反応していた。
あの時も学校の帰りに浜松駅前のショッピングモールに寄った後、帰りの電車に乗っていただけで小平口町の異変に遭遇していたのだった。
今となっては大分昔のように思えるほどに色々な事が二人の身に起こり過ぎていたのだった。
「おー、すごい偶然だねぃ! ってあああ──!」
なでしこが燐と蛍を指差して驚愕の声を上げていた。
それは驚きだけでなく憧れの声も混ざっていた。
「ん、どうかした?」
「わ、私、よく見たら二人が来てる制服って知ってるよぉ……県内でも有数のお嬢様校で、すっごいお金持ちか、すっごく頭が良くないと入れない、偏差値の高い超進学校の制服なんだよっ!!」
「なでしこじゃ無理そうだね」
興奮して話すなでしこに対し、リンはそれを薄く笑って返す。
「う~、私には頭もお金も足りなかったよ~。ここの学校の制服、すっごく可愛いから着てみたかったんだけどな~」
なでしこは何故か蛍の体をべたべた触りながら報われなかった思いを口にしていた。
そのセクハラ行為に苦笑いする蛍。
割合過剰なスキンシップなのだがもう慣れてしまったのか、好き放題に触らせていた。
「ふふんー、蛍ちゃんは大きなお屋敷のお嬢様だし、頭だって良いし、おまけにすっごく可愛いくて優しいからねー? もうこれ以上ない完璧なお嬢様ってカンジだよね~!」
燐は蛍の事を自分の事の様に大層目いっぱいに褒めたたたえてみせた。
だって燐にとって一番大切な友達だったから。
「もー、燐だってスポーツ推薦で入学できたのに、わざわざ受験して合格してたじゃない?」
燐に褒められて顔を赤くして照れていた蛍が、お返しとばかりに今度は燐の事を褒めていた。
「それに、部活だって入部して即レギュラー入りしてたしね。性格は明るくて話してて楽しいし、よく気が利いて誰にでも優しいしもんね、わたしより燐のほうが完璧だよ。そういえば燐、来期の生徒会長候補に推薦されてたよね? 出てみるんでしょ?」
蛍は忌憚なく燐のことを過剰な程に褒め上げた。
だが言っていることに何一つ間違いはない、それだけポテンシャルは高かった。
それに、もう一つ……燐は蛍にとって確かな光を与えてくれた唯一無二の存在でもあった。
だから、燐の為なら蛍はなんでもしてあげたくなる。
「も~、蛍ちゃん。恥ずかしいから止めてよ~」
「うふふ、わたしだって恥ずかしかったんだから、これでおあいこだよ」
燐と蛍はいちゃいちゃと桃色の会話を楽しんでいた。
お互いの事を気遣いながらも幸せに会話する二人、とても美しい友情だった。
「か、神々の会話だぁ……庶民の私たちは話にまったくついていけない~!」
「あぁ、斎藤のやつもかなりの高スペックだと思っていたんだがな……上には上がいるもんだな……」
対して、なでしことリンはテントの端で体育座りをして、庶民的な黒いオーラを放っている。
少し妬ましい友情だった。
(でも、リンちゃんだって顔は結構可愛いし、頭も良さそうだしで負けてないと思うんだけどなぁ?)
そう思うと居てもたってもいられず、なでしこは静岡の二人に自慢勝負を挑んできた!
「や、山梨のリンちゃんだって負けてないよっ! 勉強も出来る……はずだし、運動だってやれば出来る子だし、ソロキャンプで逞しくなってるし、それに原付の免許だってもってて何処へでも行っちゃうロンリーキャンパーなんだよっ!!」
胸を張って、勢いよくリンの自慢をするなでしこ。
だが肝心のリンは……心底呆れかえっていて言葉すら出なかった。
(……話だけ聞いてると相当ヤバいやつになるぞこれ。田舎のヤンキーと思われてドン引きされてないか?)
リンはなでしこの言葉通りの自分の姿を試しに想像してみる……あまりにもヤバすぎて悶絶しそうになった。
「へぇー、免許持ってるんだ。凄いねー」
燐は素直に免許を取得していることに感心をもってくれていた。
しかし他の事には特に関心を示さないみたいだ……。
「えっ? あ、はい……」
その気になれば誰でも取得できるであろう原付免許取得を褒められたことで、リンは余計に惨めさを実感して思わず敬語で返事をしてしまう。
(なでしこのせいで私のイメージがズタボロになっていくような気がするのは何故なんだろう……)
「くすっ、燐なんてもっとすごい事してるじゃない」
「ええっ! すごい事って何? 蛍ちゃん聞きたい~!」
蛍が突然意味ありげなことを口走ってきた。
なでしこはまだ燐の自慢話に続きがあるものなのかと内心わくわくしながら、蛍に話の続きを促してきた。
だが燐は何となく嫌な予感がしていた。
(蛍ちゃん、まさかとは思うけど、あの事言わないよね?)
だが、燐の願いも空しく蛍は──。
「あのね、燐はね、これまで一度も運転したことない車を……」
「ちょ、蛍ちゃん! ストップ!!」
燐は慌てて蛍の口を両手で押さえていた。
突然後ろから抱きすくめられた蛍は目を丸くしてしまっていた。
「……蛍ちゃん、あれは二人だけのないしょ、って決めてたでしょ?」
燐は蛍の耳元で声を潜めて抗議の声をあげる。
その言葉に蛍ははっとして申し訳ない顔を向けてきた。
「あはは、ごめんね燐。つい自慢してみたくなっちゃったよ……」
「んもう、あんなこと自慢できることじゃないよぉ」
「そんなことないよ、あの時の燐すっごく頑張ってて格好よかった。それにあの時のことだって無駄じゃなかった気がするんだ……今ならそう思うよ」
「蛍ちゃん……」
あの時のこと──ナイトプールで体を洗い流した後、燐と蛍は止めてあった軽自動車に乗り込み、無免許で夜の峠道を運転していたのだ、峠の頂上の先にあるであろう県境を目指して。
だが、それは徒労と終わっていた。
木々や草が道をふさぐように生い茂って町から出ることを許さなかったのだ。
そして特に実入りもないままに、元来た道を引き返すことになってしまったのだ……。
………
……
燐が突然大声を出して蛍の話を遮ってきたので、なでしこもリンも戸惑っているようにみえた。
その様子に慌てた燐は違う話題を振って、とりあえず誤魔化すこととした。
「ご、ごめんね、大きな声出しちゃって……えっと、二人はどうやって小平口町に来たのかな? わたしたちと同じく電車で?」
「あ、えっと。私たちは、
突然の質問にリンはちょっと驚いたが、気を取り直してここに来た経緯を訥々と語り始めた。
「峠ってもしかして、山梨との県境にある、あの峠のこと?」
蛍は年中通行止めが続いているあの峠を思い返していた。
それはあの時、燐と一緒に車で行ったあの峠のことだった。
「うん。そうだよ、ずっと通行止めだったんだけど、この時期に実験的に解除になったみたいなんだよね」
リンはネットで前もってそのことを知っていたのだ。
それに山梨から静岡県側に抜けることの出来る山岳林道は、前に早川町に一人で原付で行ったときに確認済みだった。
(じゃあ、やっぱりあの歪みが起こる前は通ることが出来たんだ……)
通行止めが長く続いていることは知っていたが、閉鎖が一時的に解除してあることまでは蛍は知らなかった。
それでも、このまともな人間が居なくなった夜の世界ならば無理にでも通ることが出来るかと思い、燐に提案してみたのだ。
結局、それは叶う事はなく無駄骨で終わったのだが。
「うっ、ひぐっ、お姉ちゃん大丈夫かなぁ……やっぱりゾンビに襲われちゃったんじゃ……」
あれだけ元気だったなでしこが急に涙声になっていた。
自分をいつも心配してくれる姉の姿をあれから見ていない、何かあったらすぐ駆けつけてくれるほどに優しい姉なのに。
明るく元気な少女が悲しい声をあげるだけでテント内も暗く陰鬱になっていくようだった。
それまで聞こえていたこと忘れていたテントを叩く雨音がやけに大きく聞こえてくる。
少女の悲しみを投影しているかのように。
「大丈夫。桜さんならあの後、すぐ南部町に帰ったはずだよ。だから心配ないよ、ね?」
リンはなでしこの背中を擦ってなだめすかしていた。
背中を丸めて涙ぐむなでしこは、とてもか弱く小柄な少女となっていた。
「ご、ごめん、余計な事聞いちゃったね……」
燐はいたたまれなくなって謝罪の弁を述べた。
なでしこを悲しい気持ちにさせる気など毛頭なかったのだ。
「いや気にしなくていいよ、これでも大分落ち着いてるんだなでしこは。当初はすごく取り乱しだして大変だったんだよ……」
リンは少し遠い目をする。
あの時、なでしこと二人で”放課後キャンプ”しようと喜び勇んで体操服のまま小平口町にきたまでは良かったのだが、ゾンビの様な化け物は出てくるし、夜は一向に開けないしで、なでしこは半狂乱となっていたのだ。
それでもなんとかここまで生き延びることは出来た、辛い夜の世界でも二人一緒で。
この絶望的な状況になでしこもそしてリンも慣れてきてるというより、諦めが強くなっていたのかもしれない、なでしこも泣き叫ぶだけの気力をなくすほどに疲弊していたのだ。
「……!」
蛍はリンの悲痛な告白に嘆息していた。
震えるなでしこの姿が、図書室であの白いナニカに追われて絶叫した時の自分の在り様と重なって見えていた。
蛍たちはその後、あの”青いドアの家”へ逃げることが出来たけど、この二人はずっと夜の世界で白い恐怖と戦っていたんだろう、逃げても逃げても湧き出てくる彼らからひたすらに。
そう思うと胸が張り裂けそうになって、蛍も涙ぐみそうになっていた。
「ごめん、なでしこちゃん、これ、チョコレート。これあげるから許して! 食べて元気出してこっ? この町から抜け出したらきっと……全部元通りになってるはず、だから!」
根拠などは当然無いが、何かしらの方法でなでしこを元気づけてあげたかった。
お菓子をあげて機嫌を取るなんて、子供じみてるとは思うが、燐が今できることはこれぐらいだったのだ。
「うん……ありがとう燐ちゃん……私、チョコ好きだよ。おいひぃね、これ……でも、このチョコ……なんらか焼肉の味がしにゃい?」
目を赤く腫らして涙声になりながらもなでしこはチョコレートを受け取ってくれた。
もごもごと口いっぱいにチョコを頬張っている。
だが、同時に割と衝撃的な事も口にしていた。
燐は思わずなでしこに手渡したチョコレートのラベルを確認してみる。
……ごく普通のチョコのパッケージで”ミルクチョコ味”と大きく記載がしてあった。
─んん? どういう事なのか燐が尋ねようとしたその時……。
「嘘やでー!!」
ピースサインを決めて舌を出す、なでしこの姿があった。
……呆気にとられる燐と蛍、だがリン一人だけは冷めた目で成り行きを見つめていた。
「どやー? あおいちゃんの物まね、上手かったでしょ?」
やや興奮したなでしこが胸を張ってドヤ顔をしていた。
先ほどのまでの悲しみで曇った瞳はなく、きらきらとしたつぶらな瞳を真っ直ぐに向けて。
「──まったく、現金なやつだよ、なでしこは」
リンは深くため息をつく、呆れが少しだけ混じった安堵のため息。
なでしこは以外にも切り替えが早いほうなので、一緒に居てもそれほど疲れることはなかった。
「えへへ、ごめんね。でも、こんな素敵な友達が二人も出来たんだもん、泣いてばかりもいられないよねっ!」
「友達って、わたし達の事?」
燐は自分と蛍の事を少し不思議そうに交互に指差した。
「そう、蛍ちゃんと燐ちゃんはもう友達なんだよっ! ね、リンちゃん」
「うん。そうだね、私も二人とは友達だと思ってるよ」
なでしこは自分の事を庶民と言っていたが、このコミュニケーション力は庶民レベルものじゃない、リンはそう断言できる。
誰とでも仲良くなること、それはキャンプでは割と重要な事だった。
そういう意味ではなでしこは立派なキャンパーになれる素質があったのだ。
「じゃあ、みんな友達、だねっ! ついでに臨時野クルに任命してあげちゃうねぃ!」
調子にのったなでしこは余計な事を言ってのけた。
「そういえば、その”野クル”って何なの? 何かの略?」
蛍はなでしこが時折言っている聞きなれないワードの事を問いかけてみる。
「むふふー、よくぞ聞いてくれました! 野クルはね、それはもう伝説の部活でね……」
「……そういうのはもういいから、ほらチョコついてるぞ」
リンは呆れ返りながら、頬についている汚れを指摘する。
指を頬に差されて、一瞬きょとんとした表情を見せたが、少し照れたように顔を赤らめて尋ね返してきた。
「えっ、どこかな? ……リンちゃん、特別に嘗め取ってもいいんだよっ!」
「そんな汚いこと出来るわけないだろ」
あまりの悪乗りにさすがのリンもしかめた顔を向けると無情な一言を呟いた。
なでしこは割と本気だったのか、ショックのあまり猛抗議をしてくる。
「ええ~、汚くないよぉ! 私が頼んだらリンちゃんは何でもしてくれるのにぃ」
(何でもって……私は都合のいい女か。それにしても、誤解を生むような事を言うなよ、恥ずかしいわ……)
恥ずかしさのあまり、リンは顔を赤くして無口になっていた。
その憮然とした表情になでしこが逆切れをおこす。
「わ~ん、リンちゃんに無視された~! いいもん! こっちの燐ちゃんに頼むからっ!」
それまでテントの片隅でぼーっと見ていた燐の事を、なでしこはぐいっと腕を取って引き寄せた。
「うええっ、わたし!?」
二人のやり取りを微笑ましく見てた燐だったが、まさか自分に振ってくるとは思ってなかったのか、変な声を出していた。
「燐。頑張って、なでしこちゃんの事、綺麗にしてあげてね」
蛍から意味深なエールが飛んできて、燐はますます困りはてた。
(なでしこちゃんの頬を舐めるの? わたしが? ……普通にハンカチで拭いた方が良くない?)
なでしこは燐の手を絡めて嘗めやすいように頬を寄せてきていた。
何故か瞼を閉じて、少し頬を赤くしているようにも見える。
燐は……それに笑顔を返すものの、目線だけはこちら──リンの方に助けを求めるように目を泳がせていた。
(何だこれ……ヤバすぎるぞ。でも、なんか面白いな……)
リンは自分のテントの中なのに何故か落ち着かなかった。
でもそれは居心地の悪さを覚えてるんじゃなく、あの時のように浮足立ったような高揚感があった。
みんなでグルキャンしたときのあの感じと酷似していたのだ。
それはこの狂った世界ではまだ一度も味わったことのない、幸せな時間だったと言える。
───
──
─
定員3人程度のテントの中に4人も居るとなると十分息苦しさを感じてくる。
だが、不思議とそれを口にする者はここには居なかった。
だって外の土砂降りを感じないほどに楽しい時間だから、こんな素敵な集まりがあることを蛍は初めて知ることが出来た。
4人で一番はしゃいでいるのは、なでしこという元気で小柄な少女。
この少女を中心にして幸せの螺旋が絡み合っていた。
リンは彼女に出会ったおかげでいつもの日常に様々な変化がおきたことを、今更のように思い返す、それは割合楽しいことが多かった気がしていた。
だからリンは一人の時間と同じように、なでしことの時間も好きだった。
自分と同じ名前の少女に燐は不思議と親近感を覚えていた。
まだお互いのことは詳しくは知らないが、友達として仲良くしていきたい、たとえその場限りのものであったとしても……それでも悔いはなかった。
だってもう自分に残っているものは少ししかなかったから。
蛍と共に出会ったばかりの少女達と過ごす時間は少し寂しい掛け替えのないもの。
まるで、あの時の夕焼けの空のようだった。
とても楽しい時間、でもそんなに長くは続かない。
だって、この世界はもう終わっているのだから……。
────
──
─
あうっ、連休中にサボってたツケが回りまくってしまってしまい、もうすでにいっぱいいっぱいです。
あれですね、ゆるキャン△ をネタ元に選ぶと色々危険ですね。ネタ確認と称してついついマンガを読みふけってしまいますよー! サボるにはいい口実すぎて罪悪感がないのがヤバぁ……。
青い空のカミュはゲームなんで時間を決めたplayがしやすいのですが、なんかマンガって気づいたらどんどん読んじゃいますよね? 謎ですわー。
さて、ゆるキャン△ なんですが、実はアニメ版を見たことがなく、主に原作マンガ版と、最近放映してるドラマ版を元ネタとして使わせてもらってます。
原作はアニメ放送中にラインのマンガで2話づつ無料配信してたのをたまたま知ってそれでハマった口です。
ドラマ版は、正直”テレ東やっちゃった?”って思ってましたが、怖いもの見たさで見てみると結構面白かったから見続けてます。
でも原作片手に観ると更に楽しめますよー。
ここからは、”ドラマ版ゆるキャン△ 個人的にココが良いよ。”を列挙していきます。
☆ロケーションが抜群に良いです!
まあ実写ですからね、悪くないわけはないんです。例えば富士山が画面に映ってるだけでも得も言われぬ壮大さを感じてしまう、これは実写ならではだと思います。
後、撮影機材が良いのか、結構綺麗な絵面になってていい感じです。
☆聖地巡りも兼ねてて2度美味しい!
上記の事と内容が被ってしまうんですが、原作に沿った場所でロケをしてくれているので必然的に聖地巡りな映像になってしまうんですよねー。
私のように聖地巡りとかガチなオタっぽくてちょっとね……でもそれなりに興味はあるんだよねー。みたいな偏屈な人間にはピッタリな内容で助かってます。
青い空のカミュの時も言ってたのですが、とにかく土地勘が全くないのでグーグルマップを見てあーだこーだ言って足りない部分は妄想で補完してたので、こういうロケーション重視の実写は大変有難いことです。
本栖湖、ふもとっぱら、パインウッド、高ボッチ高原、夜叉神峠、等。私が基本行ったことない場所ばかりなので、史実映像として? 大変参考にさせてもらってます。
青い空のカミュの実写ドラマ版もどこかのメーカーさんが作ってくれないかなぁ、最悪AVでも……やっぱ無しですかねぇ……。
☆キャストは……割と合っている?
恐らく実写化にとって最も重要なファクターを占めるのはキャスティングではないでしょうか? 私は特にそこを重視し視聴するか否かを決めます。
初回を見た時、思ってたよりかはキャスティング頑張ってるかな、という感じで結局そのまま見続けてます。
一番合ってると思ったのは、なでしこ……の姉の桜さんでした。メインキャストよりもサブキャストの方が合ってるっていうのは実写あるだるだと思いましたよ。
後、ちくわ(チワワ)可愛すぎか! まだほんのちょっとしか出てきてないけどこれはヤバイやつやでー、ちくわだけ原作越えもありえるレベルでかわええよー。
この分だと実写ちくわを見る為だけに最終話まで脱落することなく見れそうです。
そういえばドラマ版って多分、クリキャンやって終わりなのかな? もし二期があったら今度はチョコちゃん(コーギー)で悶絶する自信あるわー。めっちゃ大好きやもんコーギー。
だから二期もお願いします。チョコちゃんも是非出してあげてください。
それと思ったのは原作以上に犬推しが強いかな、と。別にマイナス材料じゃないんですけどリン、隠す気ないほどにめっちゃ犬好きキャラになってるやーん。斎藤さんより犬好きにみえる……。
えっと、ついでに
余談ですが、ドラマ版の犬山あおいは、
何故かとかはあえて言いません……。
さてさて、ドラマ版ばかり語ってしましたねー。
これぐらい本文も捗ればもっと早く投稿出来るのに……遅くても一週間ぐらいで話を纏める能力が欲しいなー。
それではー。
で、ここから↑は前もって書いておいたのものです。
そしてここからが、ある意味な本題でして……はうう、リアルで大変凹むことが起きてしまいましたよ……。
情けない事に2日前に財布を落としてしまいましたよーーーー!!!!
ううっ、天気が良かったので海まで行ってみたら、まさかこんなことになるとは……。
しかも今頃(3月3日)になって気づくなんてねぇ遅すぎだぞ全く!! 結構色んなカードが入っていたから色々手続きし直さないのが大変で超凹む……余計なお金も掛かっちゃうしねぇ……。
現在、新型コロナウィルス等で色々混乱が続いてますが、私のようにうっかり忘れものをしないように注意してください──。
覆水盆に返らずとはこのことなのか──!! ううっ、無情だよ──。
はい。どうしようもない愚痴でごめんなさい。
それではでは──。
中のお金は無くなってても財布見つかってくれると良いなぁ……。