かみゅキャン△ ── Camus Canp ──   作:Towelie

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廃線跡の線路を覆うようにできた緑のトンネル。
蛍と燐は再びここに戻ってきていた。
隣県へと続く最後の道、結局ここに戻って来る他なかったのだ。

最初は二人だけだった、最後まで二人のままだと思っていた。

でも……今は四人になっていた。


「ん、しょっと。これで大体終わりかな」

トンネルの両端に括り付けたロープに濡れたシートを干して少しでも水気を取る。
天日干し出来れば一番いいのだけれど、夜の明けない異様な世界では無理な注文だった。

「こっちも干し終わったよ、蛍ちゃん」

明るい声で答えてくれる、世界で一番大事な友人。
体を動かすことで余計な事を考えなくてすむのか、すっかり落ちついた様子をみせてくれる。
それがとても嬉しくて、少し悲しかった。

何となく燐を背中越しに見つめてみる。
バックパックを背負ってないせいか、その背中から肩に掛けてのラインはやけに小さく、少女をいつも以上にに華奢に見せていた。

──何も背負ってない背中。

燐にとってそれがもっとも望ましいかたちのような気がしていた。
自らなんでも背負い込んでしまう優しい少女、それ故に誰よりも傷ついてしまっていた。

燐は傷だらけになってもずっと何かを背負い続けるのだろうか。


「あれだよね。わたしたちの制服もついでに干しちゃおうっか? だいぶ濡れちゃってるし」

そんな想いとは裏腹に燐は無防備に背中を向けたまま、テントの底に引いていたシートをパンパンと叩いて汚れを落としていた。
テントの中で過ごしていたときは当然濡れることはなかったのだが、撤収作業の時には水滴が滴るほどでもにせよ、それでもじっとりと濡れていたのだった。


「……じゃあ、脱いじゃおうか?」

「あはは、女の子だけだし別にいいよね……え」

蛍は燐の背後に立って、首にそっと手を回して背中から優しく抱きしめた。
お互いの香りと体温が混ざり合って、甘い香りが周囲に降り注ぐ。

燐は、首に回された蛍の手に戸惑うような仕草を見せると、こちらを振り返ることなく表情を隠したままでゆっくりと話し出した。

「もう、蛍ちゃんはえっちだよね……そんなにわたしの裸が見たいの? 一緒にお風呂も入ってるし、中学校でのプールの時も散々みてるはずのに……それともこういうシチュエーションが好み、だったのかなぁ?」

燐は動揺を隠すように茶化して言葉を続けた。
心なしかその声は震えているようで、少し痛々しい感じもする。
蛍はそんな燐がたまらなく愛おしかった。

「そうじゃなくて……燐が見たいんだ。ありのままの裸の燐のこころを」

「蛍ちゃん……」

燐は首を回してこちらをそっと振り返る。
その茜色の瞳の奥にあるのは深い愛とカナシミだった。

本当は分かっていたんだと思う。
この異常な夜が始まる前からずっと、燐が無理をしていること。
でも言い出してくれるまでは気づかないふりをしていたんだ。

(わたしってずるい女かな、でもそのほうがお互いに良いと思ったの、わたしだってあなたに嫌われたくないんだよ燐……)

でもそれがわたしの一番良くない所だった。
わたしの(おもね)りが燐を苦しめているんだ。
大事なことを伝えなくちゃいけない、それもちゃんとわたしの言葉で燐の気持ちに届くような言葉を頑張って使って。

自ら燐に抱きついた蛍だったが、このあとどうしたらいいのか思案してしまう。
勢い余って抱きついたのだが、結局のところその行動理由は良く分かってはいなかった。
燐の首筋から肩に掛けてのラインに色気を感じた……とか小さな耳が可愛らしくってつい口を寄せたくなったとか、それらしい理由はいくらでも考え付くが、どれもこれも情欲に基づくものなので、ことのほか恥ずかしかった。

(わたし、欲求不満なの? それとも別の何か?)

蛍は燐に友情より深いものをほんの少し胸に抱いでいた。
それは聡とは違うものであったが、本質はそう変わらなかった。

今、ここで捕まえていないとすべてが消えていきそうで怖かった。

「ふふっ……」

燐は少し微笑んだと思うと首に回された蛍の腕を優しく解きほぐす。
そして体を正面に向けると蛍の胸に飛びついた。

「ちょ、燐!?」

「なでしこちゃんばっかり抱きついてたからね。蛍ちゃんの胸はわたしのものなんだから!」

蛍の豊満な胸に顔を寄せながら、明るい声の燐が背中に手を回してぎゅっと抱きしめる。
燐の大好きな蛍の香りが鼻孔の奥一杯に吸い込まれて肺の奥まで満たされて思わず鼻を鳴らしていた。
蛍が体の中の奥まで入ったみたいに幸福感で胸が一杯になった。

「ねぇ、蛍ちゃん……わたし今、蛍ちゃんといるだけで充分幸せだよ。だからこの先はまだ……ちょっと、ね」

「あ、うん。わたしも幸せだよ……ごめんね燐……今のわたしたちには、まだ早かったよね」

蛍も燐の背中に手を回して抱きしめ合う。
あの時のように慈しむような瞳を湛えながら、鼓動を重ね合っていた。

「うん、そうかもね。それに……」

「それに?」

「さっきからずっと見られちゃってるしね」

燐の視線が蛍ではなく、その背後に注がれていた。
その直後あっ、という小さい声が聞こえた気がして、蛍もそちらを気に掛けた。
それまであった高揚感と胸の高鳴りがすっと抜けて行った。

「えっ! あ……」

燐の視線を追って蛍も自分の背後を振り返ってみる……すると、干したシートの陰からこちらを興味津々に覗くリンと、そのリンに視界と鼻と口とを塞がれて、もがき苦しむなでしこの姿があった。

うむーー、むぐぐぅうぅぐぅー!( リンちゃん! 私、しんじゃうよぅ!)





Metal offer box

「もう、死んじゃうかと思っちゃったよぉ!」

 

なでしこは両腕を組んでぷんぷんと怒っていた。

それもそのはずで、リンに両目どころか鼻や口も塞がれていたのだからたまったものではなかった。

 

「ごめんごめん、つい口だけのつもりだったけど……悪かったよ」

 

リンが両手を合わせて平謝りをする。

覗いているのがばれただけでも恥ずかしいのに、なんでこんな事まで……。

私はこんなにも好奇心旺盛な女の子だったっけ。

 

「危うく、あっちの世界に行っちゃうところだったよぅ……」

 

遠い目をしたなでしこがあらぬ方向を見て、呟いていた。

 

「あはは……」

 

燐と蛍には割と笑えない冗談であった。

何故なら二人は何度も()()()の世界に行っては戻ってきているのだから。

 

「そういえば、どう? 薪木になりそうなのあった?」

 

自分達のせいで変な流れになってしまったので、燐は話題を変えて今、必要なことを聞いてみる。

 

「あ、うん。いちおう集めてきたよ。ちょっと湿ってるけど何とかなると思う」

 

リンはなでしこと共に焚き木になりそうな小枝をかき集めてきていた。

だが、線路上には枝の一つすら落ちてなかったので、緑のトンネルを構成している湾曲した木を鉈で切ったり、折ったりしてようやく集めたものだった。

 

思いの外、木は固く鉈を何度も振り下ろしてようやく切り落とすことが出来るほどだった。

雨で湿気ってはいたが、表面をナイフで削ればなんとか使えそうだった。

 

リンは持っていたナイフで小枝に刃を当てて器用に削り出していく。

前に作ったことがあったので、そこまで難しくはない、ただひたすらに削るだけだった。

 

「何、作ってるの?」

 

蛍が興味のある眼差しで覗きこんでくる。

先ほど覗かれたことなんて気にもしていない素振りを見せていた。

 

「これはね、フェザースティックって言って、天然の着火剤みたいなものなんだ。こう木を薄く削っていくと火が付きやすくなるんだよね」

 

「へぇー、凄いねー」

 

蛍はリンのキャンプ知識にいたく感心していた。

燐の趣味であるトレッキングは体力のない自分にはちょっとハードな気がして敬遠してたけど、リン達の様子を見てるとキャンプぐらいなら何とか出来そうに思えてくる。

 

「あ、リンちゃん上手だね。これ作るのって見た目より結構難しいんだよ」

 

リンが曼殊沙華(まんじゅしゃげ)の花のように削っていくフェザースティックを見ながら、燐も関心の声をあげていた。

 

純粋な二人の視線が何だか恥ずかしい。

そうこうしているうちに一本削り終わっていた。

もう一本削り出すときに、リンはぽつりと二人に言葉を零す。

 

「さっきはごめんね、覗く気なかったんだ。薪を持って帰るときたまたま視界に入っちゃって、そのまま見ちゃってた……声かければよかったんだけど、何だか掛けづらくって……邪魔しちゃいけないって思ってたんだと思う……でも普通に見とれちゃってたんだ二人に」

 

リンは自分でも良く分かっておらず、あの時の状況をそのまま語っていた。

かなり恥ずかしいことを言ってるのだが、枝を削ることに夢中になってるせいなのか珍しく饒舌に喋るリン、それだけ衝撃的だったのかもしれない。

 

「あはは、わたしたちは全然気にしてないよ。ねぇ、蛍ちゃん」

 

「うん、全然大丈夫だよ。普段でも二人の世界に入ってるとか言われることあるしね」

 

「もー、蛍ちゃん。誤解招くようなこと言わないでよ~」

 

(誤解っていうか、この二人は学校でもこんな感じなんだろうな)

 

仲の良い二人を想像してリンはなんだか気持ちの暖かさを覚えていた。

女の子同士で仲が良いのは悪いことじゃない、むしろギスギスするより全然良かった。

 

「よし、こんなもんだね。さて次は」

 

リンは傍らに置いていたB6サイズ程度の金属プレートを袋から取り出して手に取った。

それを展開させ組み合わせて台座に乗せると、小さなローテーブルの上に置いた。

 

「そして上蓋を乗せると……じゃーん! メタル賽銭箱の完成ですっ!!」

 

最後はなぜかなでしこが手に取って商品紹介をしていた。

 

「お賽銭箱なの? それ」

 

蛍が興味の目でそれをしげしげと眺めていた。

金属製のそれは表面加工が施しており顔が映るほどに綺麗に磨きこまれていた。

大きさの割には高級感がありそうに見える。

なでしこから実際に手渡されて持ってみて、更に驚いた。

500グラムほどはあるのだろうか? 見た目以上の重量感があり、手にずっしりとした確かな手ごたえを伝えてくる。

 

その危うい持ち方に思わずなでしこが手を差し伸べる。

 

「気を付けて蛍ちゃん。これはキャンプ神しまりん様の大切なお賽銭箱なんだからねっ」

 

「しまりん様って……」

 

燐はしゃがみ込んで木くずを集めているリンをちらっと見た。

視線を感じて体をびくっとさせたリンだったが、目が合うと無言のまま首を左右に振って否定の意を示していた。

 

「こうやってお賽銭をあげて、しまりん様にお願いするんだよっ!」

 

なでしこはテーブルの上にメタル製の箱を置くとおもむろに五円玉を取り出し、二拍手をして神頼みの作法をとった。

 

「しまりん様どうか我らをお助けください、しまりん様……」

 

両手を合わせて目を閉じるとなでしこは、賽銭箱に向かって何やらぶつぶつと拝み倒している。

それを見た蛍も何と無しにポシェットからお金を取り出して賽銭箱に入れると、なでしこと同じように拝んでみた。

 

「わたしたちをここから脱出させてください。しまりん様……」

 

それを見たしまりん様──こと志摩リンはほとほと呆れかえり、はっきりと聞こえるような深いため息をついていた。

 

(なでしこのやつ、()()これをやるのか……今度は蛍ちゃんにまで伝染(うつ)っちゃったじゃないか)

 

「ご、ごめん。拝まれても私にはどうしようもないよ、大したこと出来ないし……っていうか、なでしこはこれが何か分かってる癖に紛らわしいことをするなよ……」

 

リンはまず蛍に頭を下げて謝罪すると、今度はなでしこを少し軽蔑な目で嗜める。

今の状況には相応しくない冗談だったから。

 

「ふぉふぉふぉ、さっきのお返しじゃよリンちゃん」

 

なでしこは素知らぬふりでの表情で開き直っていた。

なかなかに強かな少女であった。

その強気の態度にリンはぐぬぬと歯噛みをしていた。

 

「ん? じゃあこれ、お賽銭箱じゃないの? だったら?」

 

なでしことリンのやり取りに一人取り残される蛍。

この箱の使い道がイマイチ分かっていないようだった。

 

「蛍ちゃん。これはね、この中に炭や薪を入れて、焚き火をするための道具なんだよ。キャンプ場では直で焚き火NGなとこもあるから、こういうのを使う必要があるんだよね」

 

見かねた燐がフォローを入れる。

燐自身は持っていなかったが、従兄の聡が似たようなものを冬の登山に持っていっていたので知っていたのだ。

もっとも雪山の登山には一緒に連れて行ってもらったことはなかったのだが。

 

「さらにこの鉄板を上に被せるとグリルにもなるし、他にも金網なんかもあって、これだけで焼肉も料理も出来ちゃう優れものなんだ。小さくて可愛いのに持ってると凄く便利なんだよね」

 

燐は蛍にもわかりやすいプレゼンをする。

実際燐はこの手の説明を蛍にするのが好きだった。

蛍に色々なことを話して、それを含めて自分に興味を持ってもらう、そんな蛍の様子をみるのがとても好きだった。

 

そのあまりに丁寧な解説は持ち主であるリンも目を丸くしていた。

 

(燐ちゃんトレッキングをしてるって言ってたけど、こういうのも当然詳しいのか)

 

燐の多芸さに羨望の眼差しを向けるリンだったが、同時に燐と一緒にキャンプをしてみたい気持ちもあった。

 

斎藤と野クルメンバーも含めた周りの連中はそこまでアウトドアに詳しくなく、リンが色々教えることが多かった、引率の先生でさえそうであったのだから。

 

それはそれで教える楽しさはあるのだが、不満がないわけでもなかった。

 

たまには同知識の”分かっている”誰かと一緒にキャンプを満喫したい、そうは思っても自分以上にアウトドアを知っている身近な人間は祖父以外はいなかった。

その祖父とも最近はめっきり会うことすら減って、いつのまにかソロキャンプばかりになっていたのだが。

 

でも燐──込谷燐とならばお互いに教えたり教えられたりの充実したキャンプが出来そうな気がしていた。

 

燐は自分と違ってアウトドア趣味を隠そうとはせず、普段の学生生活でも制服の下に長袖のアンダーウェアを身に着けて、トレッキングシューズとバックパック姿で登校しているらしい、本人が言うのだから間違いはないだろう。

 

初めて燐の姿を見た時はちょっと変わってる子と思ってはいたけど、よくよくみると良い感じのコンストラクトになっていて自然な感じがしてくる。

 

そんな燐とならトレッキングついでにキャンプなんてのも楽しく出来そうで、そのことを想像するとちょっと胸が高鳴ってきた。

 

 

「……ちゃん、リンちゃん、どうしたの? 火起こしするんじゃないの?」

 

燐が少し心配そうに顔を覗き込んできた。

 

「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてたみたい……火、つけなきゃね」

 

リンの意識はこの異常な世界から離れて、その後の楽しい可能性に向いていた。

すでにこの世界から意識だけは抜け出せているのかもしれない、それぐらいここでの事はもう考えたくはなかった。

 

(その為にも今出来ることやっておかないとね)

 

リンは誰にも聞こえないような小声でぼそっと呟くと、削りに使っていたナイフの柄の部分を取り外す。

すると柄の先には細い金属製の棒が取り付けており、それを片手に持ってナイフの背に当てると勢いを付けて何度か擦った。

 

耳を刺すような音が響くと同時に、ぱっと閃光のような火花が飛び散って、木製の花に幾重にも降り注ぐ。

それは線香花火のよりも色濃く、熱い、光のシャワーだった。

 

その雨を受けて、木の花に炎の花が咲き誇った。

火が木全体に回らないうちに、茎の部分を持ってすばやくメタル製の焚き火台のなかに次々と投げ入れる。

箱の中で広がって暴れる炎に構う事なく、残った木くずも居れて、さらに火のついてない太い薪を無造作に突っ込んだ。

 

箱からははみ出てはいたが、火の勢いはより強くなっていく。

それでも金属製のプレートのおかげで異様に燃え広がることはなかった。

 

緑のトンネルの中で焚き火の細い煙がまっすぐに立ち昇る、それは無風状態を表していた。

 

四人は何も言わず、緑の天井へと延びていく煙を見上げていた。

出口を求めて、広がり続けると思われた煙だが、木々で出来たカーテンの隙間を見つけたのかそこから外へと吸い込まれるように消えていった。

 

自分達もこのように細い隙間の中から脱出できないだろうか?

この煙が出口を教えてくれればいいのに、なでしこはそう願ったが、煙は上に伸びるばかりでどの方角にも揺らいでくれなかった。

 

 

緑のトンネルの中は薄く発光してるみたいな淡い明るさがあったのだが、焚き火の赤い炎が立ち昇った途端、周囲が暗くなったかのように感じられていた。

理由は分からないが、今が夜であることをはっきりと意識できるようになった。

 

少女達は焚き火の前に集まって、雨に濡れた体を焚き火で乾かすことにする。

周りは自分達のほかに誰もいるはずがないのに何故か遠慮しあって、誰も服を脱がなかった。

 

(やっぱりさっきの事、みんな気にしてるんじゃん……)

 

燐は今更ながら恥ずかしさが込み上げてきていた。

だが表情には出さず、皆と同じように焚き火を囲んで黙って座り込むことにした。

顔が少し火照ってきているのは焚き火に照らされただけ、だと思う。

 

なでしことリンはそれぞれキャンプ用の椅子を持ってきていたのだが、あえて使わずに、燐と蛍がしてるように線路に小さいシートを敷いてそこに腰かけていた。

 

そういえばこうやって火を囲むのも久しぶりなような気がしていた。

小平口町のキャンプ場では火起こしする前にあのゾンビが現れたのだからそれどころじゃなかったし、逃げ回ってる最中に雨は降ってくるしで到底無理だったな。

 

それにしても……火をみるとなんでこんなに落ち着くんだろう。

今までの出来事が嘘のようにリラックスできている、初夏なのにこの炎の温かさが湿った空気と混ざり合ってて丁度よかった。

 

「そういえばさ」

 

それまで黙っていたなでしこが口を開く。

炎がその華奢な体躯の影を線路へと伸ばしていた。

 

「ここって廃線の線路、なんだよね……列車とか、来るはずはないよね?」

 

自分でも疑り深いなあと思いながらもなでしこはその疑問を口にしていた。

何となく言ってみただけで深い考えなどなかった。

線路にそっと手を這わせてみても、長い間使われてないことが見て取れるほどに朽ちていたのでみんなに笑われちゃうかな、なでしこはその程度しか考えてなかったのだ。

 

でもその何気ない質問は燐と蛍に動揺を与えていた。

言ってもいいものかどうか顔を見合わせて迷いを見せる二人。

 

それを見てやれやれと言った感じでリンが代わりに答える。

 

「あのさ、なでしこ。落ち着いて聞いてほしいんだ」

 

「うん?」

 

やや勿体ぶった言い方をするリンになでしこが不思議そうな声をあげる。

電車が通過した後はどうみてもなさそうなのに、何を言おうとしているのだろう?

 

「どうやら前に一度だけ電車が通過したことがあるんだって。その時はたまたま木の根っこの隙間に逃げることが出来たみたいなんだ」

 

そうだよね、とリンが二人に小声で尋ねると、蛍と燐は深く頷いた。

その真剣な眼差しは、みんなが嘘を言っていないことの証明となっていた。

だからなでしこは激しく動揺してしまう。

 

「ふえぇぇぇ! じゃ、じゃあここでのんびりしたら轢かれちゃうよぉ! は、早く先へ行こうよぉ?!」

 

そのやり取りをみたなでしこは居ても立っても居られず、思わず立ち上がった。

ここだって安全じゃないのだったらぐずぐずしちゃいられないはず、それなのに動いてくれない三人がもどかしかった。

 

「あ、待ってなでしこちゃん。多分……もう大丈夫だと思うから」

 

「な、どうして蛍ちゃんっ!?」

 

なでしこが何か行動を起こす前に、蛍がやんわりとした口調で引き留める。

パニックでどうにかなりそうななでしこだったが、焚き火越しに蛍の落ち着いた顔を見るとそれ以上何も言えず立ち尽していた。

 

「あの時、逃げるのに夢中でわたしはハッキリと見えなかったんだけど、多分あの列車、白い人影が乗っていたんだと思う」

 

「う、うん」

 

蛍の優しい語りに誘われるように思わず相づちを返すなでしこ、それはその真意が早く知りたいゆえの焦りがあった。

 

「この世界はね、圧縮してるんだって、正直意味は良く分かってないの。でもね、多分だけど色んなものが一ヶ所に集中していくって意味だと思ってるの。列車を使うってことは遠くから来てるってことでしょ? 世界が縮んでいったら単純に距離が縮まるからそんなのを使わなくても行けるってことじゃないかなって……だから、二度目はない気がするんだ」

 

蛍は自分の想いを一つづつ考えながら口にしていく。

自分の頭の中であれこれ考えるのは好きなのだが、それを言葉として紡ぐのは正直苦手だった。

所謂口下手なのかもしれないが、それでも伝えておきたかったのだ、なるべく自分の言葉で丁寧に。

 

「それにね、なでしこちゃん。いちおう対策はしてあるんだよ」

 

蛍の説明を聞いていた燐は話が終わるタイミングで口を出す。

 

「対策?」

 

「うんうん。この場所から更に前の、なでしこちゃんが寝てたとこよりももう少し先に戻ったろころにねロープを結んでおいたの、鈴も一緒に着けてね。もし列車が通過したら鈴がなって教えてくれるってわけ。これはねリンちゃんのアイデアなんだ。鈴もリンちゃんが貸してくれたんだよ」

 

燐は人差し指と親指を立てて、いいね! ポーズを取った。

あの時の燐はなでしこを様子を見に行っただけでなく、その場所より離れた所にロープをかけて戻ってきた時になでしこの声を聴いたのだ。

 

「でも良いの? あの鈴大事なものだったんじゃない?」

 

蛍が少し申し訳なさそうに声を掛ける。

 

「ああ、平気だよ。よくお土産屋さんで売っているクマ避けのやつだしね」

 

リンが渡した鈴は北海道あたりの定番土産の一つで、クマを避ける為に鳴らすという代物だった、だが効能の程は良く分かってはいない。

 

(そんなもの鳴らす暇があるなら逃げたほうが良い気がする)

 

そう思ってはいたが、なぜか今回のキャンプには持ってきていた。

しかも相手はクマよりも質の悪いゾンビなのだから尚の事意味はなかった。

 

「なぁんだ、じゃあ安心だねぇ」

 

なでしこは素直に受け取って再び焚き火の前に座りこんだ。

 

……何かがおかしい気がするよ……。

 

(あ! ということはもしあの時列車が来てたら……)

 

なでしこはそのプロセスを理解しようと頭を巡らせる。

 

列車が仮に来ちゃった場合、鈴が鳴りその音でみんなは逃げる準備をするけど、私はその音で目を覚ますだけ。

私が必死に逃げてる間にみんなは更に安全なところまで逃げられる……私だけ逃げ遅れて潰れちゃうかも……。

 

「ん──」

 

なでしこは立ち上る煙を見ながらある結論を導きだす。

再び立ち上がるなでしこ、そして……。

 

「ひ、酷いよぉ! 私、カナブンじゃないもん!」

 

ぱちぱちと焚き木が燃える音が香ばしく響いていた。

そんな荘厳とした中でなでしこの言っている意味が分かるものなど誰一人いなかったのだ。

 

だが、あまりにも可哀そうなのでリンがツッコミをいれる、それが出来るのはリン一人だけだった。

 

「それを言うならカナリアだろう」

 

「あっ! そ、そうとも言うね。酷いよリンちゃん私をカナリア代わりにするなんて! ピーピー!」

 

過ちを指摘されて手を振って慌てるなでしこ、それでもカナリアの真似をして抗議をしていた。

 

(カナリアってそんな鳴き声だったか?)

 

リンはこれ以上なでしこに突っ込む気力はなかった。

 

「ごめんね。もっと早く起こしてあげればよかったかもね」

 

燐が代わりに謝罪する。

横を通るときにすこし迷ったのだが、無下に起こすのもかわいそうと思って放置していたのは確かだった。

 

「燐ちゃん1号は悪くないよっ! 悪いのはリンちゃん2号だよっ! 2号は悪に魂を売ったブラック2号になったんだねぃ。さすがの私でも気づかなかったよっ!」

 

リンを指差しながら、再びあの設定を持ち出してくるなでしこ。

なでしこ設定だとそろそろ中盤あたりになるのだろうか?

 

「またそれか、そろそろ必殺技を考えたほうがいいかもな」

 

リンは何やら怪しい手の動きを見せてくる、この茶番劇に割と乗り気のようだ。

それを見たなでしこはむむっとわざとらしい反応をみせる。

 

「あ、あれはまさかダークネス……いや、2号にそんな芸当が出来るわけがない! だったらどうして……ま、まさか邪神(フモトカイザー)の力を開放したのかっ! あの力は危険だ闇のキャンプに飲み込まれるぞっ!」

 

焚き火を囲んでの妄想ヒーローショーが始まってしまった。

乾いた笑いしか出せない燐に、いつの間にか隣に寄ってきていた蛍がそっと耳打ちをする。

 

「ねぇ、燐。いつまで続くのかなあこれ」

 

「うん……いつまでだろうね……」

 

焚き火の温かさが招いたことなのか、リンとなでしこは童心に帰ったように楽しんでいた。

その様子に肩を寄せ合ってその様子を微笑みながら見守る燐と蛍。

それぞれ対照的な楽しみ方だった。

 

 

 

星も通さない漆黒の夜の世界で、焚き火の炎だけが生命を感じさせた。

この炎は永遠のものではない、いつかはやがて尽きるだろう。

それは少女達の行く末とよく似ていた。

強く、激しく、そして儚くも美しい少女達。

 

でも輝きは最後まで失いたくない、その先に何かがある気がするから。

 

 

…………

 

……

 

 

 

「ねぇ燐。さっきの続きしよっか?」

 

「えっ?!」

 

 

 

 

 







──青い空のカミュ販売一周年おめでとうございます!!──


長いようで短い一年でしたねぇ。でもこのゲームのおかげで一年間色々ありましたけど楽しく凄く事が出来たなあ。初めはとても辛いゲームだったのに、いつの間にかプレイ時間が日々のルーティーンに組み込まれてしまって余程の事がない限りは欠かさず少量の時間でもプレイしてますよー。ここまで一つのゲームをやり続けることってネットゲーム以外じゃあまりなかったですねぇ。なにかここまで好きにさせるのでしょうか? 全く分かりません。
でも超好きだからしょうがないなぁこれは。

おおお、どうやら公式も更新してくれるみたいですねー。
実はこれまで公式にはあえて触れないでおいたのです。ハッキリとした理由はあるのですが、それを書くことは出来なかった……完全に個人的なことですし。
でもでも更新してくれるのはとてもとてもありがたいです。
ありがとうございます〆鯖コハダ先生。
一周年を祝うのが自分だけじゃなくてホント良かったですよー。

★トップ絵更新されてましたねー。なんか大人っぽい感じの二人に見えます。
背景をメインに置くことでスケールの大きさを感じさせて壮大な世界観と二人の切ない関係が絵面から伝わってくるようで……。
すみません、この手の褒め方が良く分かってないです。(小並感)とつけておけば許してくれるかな?
美麗なイラストありがとうございます、完全に俺得です。

そういえばドラマのゆるキャン△ も終わっちゃいましたねぇ。
正直誰得な企画なんだろうとは思いましたが、すっかり楽しみで最後まで見ちゃいましたよ。
クリキャンの11話、12話はちょっとドラマオリジナル展開が強かったかなとは思いましたけど、最後の原付で富士山に向かうシーンで不覚にもうるっときちゃったり。
バイクや車が走り去ってエンドロールに向かう演出って割と好きだなぁ、そんなに多くはないですけれど。

エピローグのオリジナルパートは、なでしこがすでにガスランタンを所有していたので、単行本7巻のソロキャンプに行くなでしことそれを影ながら見守るリンの直前の様子を再現したものっぽいですね。

なんだかんだでゆるキャン△ 熱が再燃したのはドラマ版のおかげなので食わず嫌いしないで良かったなあ、と思ってます。
2期は評判と新型ウィルス次第といったところでしょうか、それでもアニメ2期よりは後だとは思いますけど。


結局オリンピック延期決定しましたねー。これで今年の抱負で立てたフラグを3月で全て消化してしまいました……。
前作の最終話のあとがきのとき、年寄り臭いこと書いちゃったかなーとか思ってたのにまさかこんな事になるとはねぇ……。

2020年これからは先が全く読めないですね。せめて楽しく健康的な要素はまだ残ってて欲しいぞ。

でもうちの県、感染者多いんだよねぇ……全く、碌なものじゃないですよー。

さてさて、愚痴っぽくなりましたが、青い空のカミュ発売一周年という素晴らしい日に立ちあえてよかったです。でも結局発売一周年までには終わらせられなかったなあー。4月中には何としても完結したいぞー。

ではではー。
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