境界線上の神殺し   作:ノムリ

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葵・トーリ

 教師オリオトライと梅組生徒の体育授業という名の戦闘訓練を高みの見物をする人物が二人。中央前艦の艦首付近、黒い髪の自動人形。肩には“武蔵”と書かれた腕章をつけ彼女は、血の繋がらない弟分(朱唯)の活躍を映像記録をしながら眺めていた。

 

 マルゴットの砲撃が原因で生まれた煙から飛び出したのは、短刀を構えた朱唯。

 周囲に置かれていた貨物を収納しておくようの木箱を足場に跳び、壁蹴りで移動し立体的に動き、オリオトライを錯乱しながら攻め立てる。

「相変わらずちっこいのに良く動くね。武蔵さんは朝から掃除かい」

 武蔵は向かってくる人物、口に煙管を咥え老人“酒井忠次”の方を見ず、変わらず朱唯の戦いを見ている。

「酒井学長……何か御用ですか?――以上」

「いや、義理とはいえ息子(朱唯)の成長を見ておこうと思ってね」

 展望台となっているデッキに腰を下ろし、自分が拾ってきた子供、朱唯の姿を見つける。

 

 二人が静かに朱唯の戦いを見つめていると、オリオトライの長剣が朱唯の脇腹と捉えるが、長剣と体の間に短刀を滑り込ませ衝撃を緩和し、再度攻撃を仕掛けていた。

「短刀を得物としてから動きが酒井学長に似てきたと判断できます――以上」

「そうかな。子供は親に似るって言うしね」

 照れくさそうに笑う酒井に、冷たい視線を送る武蔵。

「別居してから他人行事が増えてきたことを酒の場で愚痴っていたこの親父は何を言っているのでしょうか――以上」

「ぶっ!?何で知っているの武蔵さん!」

 五歳くらいの幼かった朱唯の相手をあまりしてこなかった酒井は今になって義理とはいえ子供に親として接してもらえない苦悩に悩ま背れていた。呼び方すら、おじさんから酒井さんになり今では酒井学長となった。

 高等部に上がって現在では別居している状態だ、戸籍上保護者が聞いて呆れる関係である。

 一方で、酒井が世話をしていなかった間、姉のように文字を教え、勉強を見て、世話をしてきた武蔵さんを含む、八艦の名前を名乗る八人の自動人形たちは姉のように慕われている。

「思春期の娘に嫌われる父親の気持ちが分かるよ」

「嫌われるどころか相手にされてないと判断できます――以上」

 ガックシと分かりやすく落ち込む酒井にどこか勝ち誇った顔をしている武蔵さん。

 

 

@ @ @

 

 

 二人が話している間に、朱唯とオリオトライの一対一は接戦だった。

 朱唯は一撃でもクリーンヒットを食らえば終わり。

 同じく朱唯も一撃を当てられれば、出席点五点を手に入れられる。

 

「朱唯!いい加減諦めなさいよ!」

「だったら一撃当たれよ!五点寄こせ!」

 空中で回転して短刀と蹴り、裏拳をランダム繰り出す連撃に、床と壁を足場とした移動方は小柄な朱唯が狙いをつけられないようにしながら攻撃を与えられるように編み出した攻撃方法だ。

 とわいえ、少しづつ進んでいる以上、タイムリミットは迫りつつある。

 

「悪いけど、他の連中が到着する前に終わりにするわよ!」

 本日一番鋭い長剣の一撃が朱唯に振り下ろされた。

 朱唯は直感で察知した、あ、これ避けられない、とだから苦し紛れに左手で短刀を投擲、それを体を捻り蹴り飛ばし速度を増す。

 振り下ろされる剣を防ぐよりも、攻撃を当てる事優先した瞬間の判断だった。

「っかは!」

 振り下ろされた長剣は両手を交差することで防ぎ、長剣の重量を木製の地面に叩きつけられる。肺の中の空気が一気に抜け、足止めをしていた朱唯が居なくなったことでオリオトライは目的の品川へと足を進めよ僅かに後方に下がった時、コツン、と何か背中に軽く当たる感触があった。

 その正体は朱唯の投げた短刀―――ではなく少し前にマルゴットが砲撃に使用した弾の貨幣である。

 

「あ」

 オリオトライの気の抜けた声が漏れる。

「…あったり~」

 朱唯が短刀を投げて蹴りで速度を増したのはオリオトライを狙ってではない。

 オリオトライがフルスイングで飛ばした砲撃が床に着弾後暴発。投擲する道具として確保しておいた貨幣を回転に紛れて投げたものだ。

 勿論、避けられず、地面に転がっていたところを長剣が振り下ろされたものを視界の端に捉えた。

 攻撃を当てられないのなら、移動に紛れて自分から当たりに行くように仕向ければいいと思い。短刀は、貨幣を地面から空中に弾くために、蹴りは少し高めに貨幣を打ち上げられるように短刀の速度を増した、振り下ろされる長剣の攻撃によって生じる風を受けないように。あとは運だったが、上手くいったようだ。

 

 

 

@ @ @

 

 

「こらこら! 後からやってきて勝手に寝ない!」

 朱唯の運任せの悪足掻きを除いて一撃も食らうことのなかったオリオトライは、品川に到着。

 数十秒遅れる事梅組一同も到着。ほぼ全員が息切れをして座り込んでしまっている。

「朱唯、あんた、よく無事だったわね」

「死にかけた」

「あ、うん、ごめん!それじゃ気を取り直して」

 完全に無かった事にしたオリオトライである。

 

「うるせぇぞッ!何処のどいつだ!」

「ふひぃ!?」

 オリオトライの背にある建物から出てきたのは赤い皮膚に頭に二本の角を生やし、四本の腕を持つ魔人族。

 目の見えない鈴はその魔人族があげた大声にビックリして、ビクゥ!と体を震わせる。

「それじゃあ皆!今から実技を始めるわよ。魔神族の倒し方、よく見てなさい!」

「この前の高尾の地上げ、憶えてる?」

「ああ?そんなこといつまでも憶えてねぇなあ!」

「理由も分からずに殴られるのって大変よね」

 オリオトライも態度の悪い魔人族に食って掛かる。

 明らかな挑発に乗って、丸太のような腕を振りかぶり、オリオトライを潰そうとするが回避。

「いい?生物には頭蓋があり、脳があるの。頭蓋を揺らせば、同時に脳が揺れ、脳震盪を起こすわ!魔神族の頭蓋の揺らし方は───こうね!」

 拳を避ける動きを利用して長剣を振り、先端を魔人族の片角を打つ。

「そんで対角線上を素早く打つ!」

 白目をむき、膝を付く魔人族に留めの一撃として顎を打ち、完全に意識を狩り取った。

 意識を失った魔人族は地面に伏し、背後になるヤクザの事務所は速攻で扉をしめて施錠した。

「あ、警戒されたかな」

 そう呟きに、ヤクザの対応はまじがっていないとツッコミを入れたい所だ。

 

「おいおい皆。こんな所でなにやってんの?」

 その声の主は梅組の集団にはおらずもう少し後ろ、学院の制服を着て人混みを歩いていた。

 全員の視線が“総長 葵・トーリ”に集まっていき、住人たちは自然と左右に別れて道が出て行く。

 小脇には紙袋抱え、手には食べかけのパンを持ち、ゆっくりと進む。

「なんだよ皆? そんなに呼ばなくても俺、葵・トーリはここに居るぜ?しっかし、皆、奇遇だな。やっぱ皆も並んだのかよ?」

「ほうほう……話ハショると、授業サボって何に並んだって?」

「先生まじで、オレの収穫物に興味あんの!ほらこれ見えるか先生。今日発売のR元服のエロゲー“ぬるはちっ!”これ超泣かせるらしくて限定版が朝から行列でさ。俺、今日帰ったらPCにインストールして涙ポロポロしながらエロいことするんだ!」

 背中越しに紙袋から取り出した限定エロゲを見せるトーリ。

「あのさ……今先生が何言いたいのか分かる…?」 

「あ?何言ってんだよ先生!当たり前だろオレと先生の仲だぜ!?先生の言いたい事はしっかりと俺に通じてるぜ!」

「通じてるなら、君は今すぐこの武蔵から紐無しバンジーしなきゃいけないんだけどな」

「ええ!?オッパイ揉ませてくれるんじゃねえのかよ!」

「おいこら君、何か変なもの見えてない?」

「うん。今はこれだな」

 むにゅり、という効果音が聞こえてきそうな行動、トーリはオリオトライの胸を鷲掴みした。

 

「───あれ? これって攻撃が当たったことに?」

 ハイディがそんな事を言っているが、オリオトライを含めた梅組の生徒たちは誰も聞いてはいない。

「あのさみんな、ちょっと聞いてくれ。――明日、俺、コクろうと思うわ」

 

 

「「「……は?」」」

 梅組の反応は全員が同じだった。

 

「ンフフフ……この愚弟。いきなりオパーイ揉んだかと思えばコクり宣言なんて、エロゲを持って口にするセリフじゃないわね。だってコクる相手が画面の向こうにいるんですもの!」

「おいおい姉ちゃんッ! これはエロゲ卒業の為に買ってきたんだぜ? 明日コクるんだから、エロゲからおさらばしないとなッ!」

「じゃあ愚弟、その相手とやらをさっさとゲロっちゃいなさい!さあ!」

 

「ばぁかだな知ってるだろ───ホライゾンだよ」

 

 その名に全員が顔を伏せた。

 過去に共に並んで歩いて友人。今は無き友の名に。

 

「あの子は十年前に亡くなったでしょアンタの嫌いな後悔通りで――墓碑だって、父さんたちが作ったじゃない」

「分かってるよ、姉ちゃん。でも、もうその事から逃げねえから。コクった後、きっと皆に迷惑かけると思うんだ。俺、何もできねえから」

 

 

 

「トーリ?後ろ」

 朱唯を指で後ろ、後ろとさすと振り返ったトーリの傍に居たのは、怒りが頂点に達したリアルアマゾネスである。

「人間って、怒りが頂点に達すると音が聞こえなくなるんだけど…」

「おいおい先生。もう一度だけ言うぞ?今日が終わって、無事に明日になったら、俺、コクるんだ!」

 再度、宣言。

 そして宣言が終わったと同時にオリオトライの渾身の回し蹴りが、トーリの当たり事務所に大きな穴をあけた向こう側に大の字でトーリは壁にへばりついていた。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 多摩の中央付近、軽食屋である青雷亭(ブルーサンダー)の店の前のすぐ横で蹲る自動人形P-01sは店主に言われ、店の前に水撒きに使っていた柄杓で下水から出てきた珍妙な生物、黒くて丸い五センチほどの塊に水をかけていく。

 自己申告によれば藻らしい。

 黒藻の役目は下水処理役それゆえに匂うが、P-01sは気にせず水を浴びせていると後方でバタンという音がする。

 いつもの見慣れて光景に、いつも通りP-01sは、店主に報告した。

「店主、いつも通り正純様が―――餓死寸前です」

 

 

 

「餓死寸前はヤバいよ、正純さん。男子として通っているとはいえ、一応女の子なんだから。朱唯が店の前で倒れているのを担いできた時は焦ったもんさ」

「ぷはっ!以後、気を付けます」

 コップ一杯の水を飲み干し、一息つく。店主も慣れた対応である。

 

「いいって、これから生徒会の仕事?サボリじゃないよね?」

「Jud. 三河に着いたら、副会長として酒井学長を関所まで送り、今日は自由出席です。待ち合わせの前に母 の墓参りに行こうかと」

 

「そうかい、副会長さんも大変だね。そういや、親御さん、暫定議員の御偉いさんだっけ?正純さんも卒業後はそっちに?」

「ええ、まあ……そのつもりです」

 店主は空になった正純の前に置かれたコップに水を注ぎ、彼女自身も前に腰かけた。

「だったら、生徒会長になればよかったのに。総長はともかく、生徒会長だけでも」

「……生徒会長には総長である葵・トーリが立候補したので。武蔵の住人たちにとっても、三河から転校して一年の私よりも武蔵生まれの彼の方が人となりを知ってるでしょうし……」 

「でも、あれは馬鹿だよ。朱唯もよくあんなの手助けをするもんだよ」

「朱唯とは葵は幼馴染と聞いています」

 店主は頷き、昔を思い返しながら話した。

「酒井学長がどっかから、あの子を拾ってきたのはいんだけ、まだ若かったからね。相手をしない事が多くてさ、そん時に葵とホライゾンが手を引っ張って来てね。よくうちのパンを美味しいって言いながら食べてたよ。よく食べるのに小さかったけどね、今も小さいけど」

 

「そんな昔からの付き合いなんですね」

「そうだね、あの子は何処か変わった子だよ。ちょっと抜けてる癖に勘だけは良くて、鼻が利くっていうのかな、動物みたいな所もあったね。正純さん、いつでもいいからさ“後悔通り”のことを調べてみたらどうだい?もし正純さんが、トーリや朱唯、皆ともう一歩近づきたいと思ってるなら」

 

「後悔通り……ですか」

 場所としての名前は知っている正純は、なぜ店主がその名を出したのか、今はまだ分かっていなかった。

 

 

 

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