境界線上の神殺し   作:ノムリ

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授業

 

 オリオトライの授業は基本必罰主義。

 1:授業する。

 2:解答者に質問する。

 3:答えられなかったら授業点数は引かれずに厳罰が下る。通称“処刑”

 4:答えられたら、申告していた厳罰に応じて授業点数が得られる。

 分かりやすく説明するなら、通常通り授業を受けて、質問されたら答える。

 答えられなかったら、月始めに自分で決めた罰ゲームをやることになる。

 答えられたら、罰ゲームの内容によって点数が貰える。

 ここで重要なのが厳罰つまり罰ゲームの内容をどうすか、といことだ。内容が軽すぎると野次が飛び。協議次第では罰ゲームが十倍に加算される。

 罰ゲームの内容が厳し分だけ答えられた時の見返りに点数も多くなる。ハイリスク・ハイリターンというわけだ。

 さらに、彼女の授業には教師の代わりに内容を説明する“ご高説”というものがあり、此方は間違っても厳罰は受けなくてもいい。

 因みに、罰ゲームには他人の名前も出すことも良しとされる。

 

 オリオトライは誰にするかを生徒たちに視線を向けると大半が生徒が視線を逸らす。

 ご高説は本日、先生が授業でやる内容を代わりにする、予習をしてきたか、前から知っていたということが無い限りまともなご高説は出来ず、恥をかく。そもそも梅組の生徒で真面目に授業を受けている生徒の方が少数だ。

 

「じゃあ鈴。知ってることだけでいいから、先生の代わりに“重奏統合争乱(じゅうそうとうごうそうらん)”についてよろしく」

「J、Jud.ご、ご高説はですよね」

 鈴は席を立ち、皆が理解しやすいように、嘗て極東日本と呼ばれた国の地図を鳥居画面に表示。重奏統合争乱についての説明を始めた。

 

「む、昔、世界は、現実側の神州と、別空間に、コ、コピーした重奏神州に、わか、分かれていました……現実側の神州には信州の民、重奏神州には、世界各国の民が……住み、お互い、に仲良くしていた、と思うんです…けど…」

 たどたどしくもしっかりと要点を抑えて説明をしていく鈴。 

「いいわよ、その調子で続けて」

 

「おーい!ベルさん心配すんなよ。ヤバくなったら代わり俺が殴られてやるし、朱唯が守ってくれるって! 少なくとも俺は、エロゲの最初の分岐点まで進めるまで死ねえから!」

 窓際に座り、授業用意だけを出して太陽を見つめてボー、としていた朱唯が「え、俺?」と関係ないところで自分の名前が出たことに反応していた。

 

「おいこら君、死亡フラグみたいなこと言わない。てか何ちゃっかりアンケート用紙に書き込んでるわけ?」

 トーリの手には今朝、小脇に抱えていた“ぬるはちっ!”の中に入っているアンケート用紙に住所、名前を書ききり、あとは送るだけの状態になっている。

「なんだよ先生!会員特典欲しいだけなんだから放っておいてくれよ!」

 

「静かにしろ、トーリ」

 ボケとツッコミの会話という授業妨害に、静かに声を荒げたのは教室前方に座るシロジロ。顔には出さずややご立腹に―――。

 

 

「仕事中だ」

 の一言。

「あのね、シロくん。今、授業中でもあると思うんだけどな」

 隣に座るハイディがシロジロに言うが聞き流す。

「やはりおかしい、三河からの荷物が来るばかりでこちらへの発注が無い」

 鳥居画面と睨めっこしながら荷物の不自然さに頭を悩ませているシロジロ。

 

「ねぇ、ガっちゃん。ここのネームってこんな感じ?」

「そこはもう少し暗くでお願いできる?」

 ナルゼの描いている同人誌のネームの手伝いをしているマルゴトット。

 

「うるさいよ君ら。……執筆の最中だ」

 ネシンバラは机に原稿用紙を広げて小説を執筆している。

 

 クラスの大半は授業を聞いてはいない。

 オリオトライは仕方なという顔をしながら通路を挟んだ隣に座る浅間に声を掛けた。

「しょうがない、浅間、鈴を手伝ってあげて。朱唯黙らせて」

「Jud.それは実力行使で?」

「そうよ」

 分かった、と腰に下げた短刀を鞘ごと取り外し、コン、机の上に置く。

 今朝大活躍を果たした短刀を見て、机の上に広げていた授業に関係のない物を素早く支配、鳥居画面を閉じ、全員が鈴のご高説を代演して読み上げる浅間の声に大人しく耳を傾けた。

 

「それじゃ鈴さん。私が代わりに読み上げますから、文面をお願いできますか?」

 

「あ、はい。お、願いします!」

 

「すべては、南北朝戦争です。当時、神州と呼ばれた極東の地に、二人の帝の代理人が存在し、争った戦争です。聖譜歴一四一二年に、その戦争のなかで地脈を制御していた神器が失われ、支えられていた重奏神州は地脈の制御を失って、こちら側、神州に落ちてきました。落ちた世界は半分以上が崩壊消滅しており、残った部分は神州側に上書き合体。その部分は現在神州に重奏領域が誕生しました。そして、重奏神州に住んでいた人々は神州に移り、事件の責任を追及。各地で争いが起きました。これが重奏統合争乱です」

 

「はい、ありがと。次回も鈴に頼もうかしら」

 という言葉に椅子に座ると、緊張から解放されふぅと息を吐いた。

「はい!じゃあ皆、注目!今夜は俺の告白前夜祭ってことで騒ぎます!場所は―――」

「金の掛からないとこにしろ」

「なら此処だな!ついでに肝試しもすっか!」

「あの、トーリ君、それはちょっと洒落にならないかもしれないです。今、去年に比べて怪異の発生率が上がっていますから」

 トーリの肝試しに待ったを掛けたのは、浅間だった。

「じゃあ幽霊祓いしようぜ!」

「んー…実は先生もそろそろかなって思って、宿直入れておいたのよね。それはそうとトーリ。とりあえず君『厳罰』ね?」

 

「ほえ?」

 なぜ?という顔しながら首を傾げるトーリ。

 

「さっきの鈴のご高説、北朝の独裁が始まったのは一四一二年じゃなくて一四一三年なの。チョイミスね。まあ、その後の説明で十分挽回できたし、鈴はオッケー。そもそもご高説で失敗しても厳罰はないしね」

 で~も~、とオリオトライは教師が生徒に向けるべきでない悪い笑顔を浮かべ。

 

「殴られるなら俺が代わりになるって言ったバカがいたわよね?…トーリの今月の自己申告厳罰は『朱唯と脱ぐ』」

「あはん!」

 トーリの頭部側面に鞘に入ったままの短刀が激突した。

 

 

@ @ @

 

 

 

「武蔵の民も冷たいッ! 東くんが帰ってきたというのに、麻呂以外の迎えがないとは…」

「いえ、余も静かな方が良いし、それに聖連からも騒ぐなと言われてたので」

 

 授業中の廊下を歩く二人組

 金髪の中年は、頭には金の王冠、白いタイツに金の装飾があちこちにある、腕につけた腕章には“教頭兼武蔵王 ヨシナオ”の文字。

 その隣を歩くのは、旅行カバンを手に歩く梅組の一員“東”。

 

 二人は梅組の教室前に到着した。ヨシナオが扉に手を掛けようとした時、中から声が聞こえてきた。

 

『おいおい皆!朱唯の体だけじゃなくて、俺も見てくれよ!俺なんて全裸だぜ!」

 

 

『『『『……はっ(鼻笑)』』』』

 

『鼻で笑うとか流石に酷くね!?』

 

『うるさい馬鹿者!お前の全裸と違って、朱唯の半裸は金になる。写真一枚でいくらすると思っているんだ!』

『ちょっと愚弟、そこどきなさい!朱唯の上半身が見えないじゃない!具体的には、中性的で女の子みたいな顔して白い肌に六つに割れた腹筋と無駄のない筋肉に、いつか賢姉が抱かれる予定の上半身が!」

『ガっちゃん、凄まじい速度でスケッチしてるね』

『当たり前よマルゴット。朱唯の半裸なんて、そうそうスケッチするチャンスないんだもの!』

 

 中から聞こえてくるのは、授業中とは思えない会話。

「貴様!神聖なる学び舎で一体何を!」

 流石に我慢の限界を迎えたヨシナオは勢いよく扉を開けた。

 

「おー!麻呂に東じゃねぇか!どうしたんだよそんなところに突っ立って!」

 教室の中の光景を説明するならカオスという言葉以外には無い。

 

 黒板の前で全裸にコカーンのみゴッドモザイクで隠され、あとは生まれたままの姿のトーリ。隣には、白い肌ながら六つに割れて腹筋が男らしさを醸し出す朱唯。

 

 二人のというか、主に朱唯の半裸を写真に収めて商売する気満々のシロジロとハイディの守銭奴夫婦に、一人卑猥な言葉を連呼する喜美、残像が見える速度でスケッチを行うナルゼ。

 

 見事にカオスが空間が出来上がっていた。

 

 

@ @ @

 

 

 呼んでも返事は返ってこない

 

 姿を見たくても見る事は出来ない

 

 触れたくても触れられない

 

 配点《亡き人》

 

 

 

 

「こんな所でお前と会うとはな。P-01sは掃除か?」

 声の主は正純。

 

「Jud.ここの掃除は日課にしております」

 墓所の周りに生えている雑草を抜く作業を二人でしていると、ホライゾンは溜まった雑草を側溝に持っていくと蓋が持ち上がり黒藻が顔を出して。

『ばれてない?いけそう?』

「バレておりません。いけております」

 バレてるぞ!という言葉を、正純は口には出さずに心に留めておくことにした。

 

「正純様は、よくこちらの墓石の手入れをなさってるようですが」

「ああ、あぁ、母の――と言っても、遺骨もなにもないから、形見の品を入れているだけなんだが……自動人形は『魂』から生まれてくるから、母親なんて分からないか」

「Jud.ですが、率直に申しまして、正純様はお母様がお好きなのですね」

 

 そう、なのか、なのかもな。

 他人に言われて、初めて自分の心の理解する時も人間はある。

 

「そうだな、大好きだったんだ」

 少し会話に間が空き、自然と正純の口は語り出した。

 

「私は、もともと三河に居たんだ。三河の君主、松平には二つ(・・)の本多が必要だとされていた。一つは、松平四天王の一角である『本多 忠勝』を筆頭とする()の本多家。そしてもう一つは、『本多 正信』を筆頭とする()の本多家。私の父は、その正信を襲名しようとしたが、適わなかった。父に代わって私が正信の子、正純を襲名しようとしたのだが、それも叶わなかった」

 

 襲名の為に男性化の手術を受け、まず胸を無くし、性別を変えるための手術を受けようとした。

 しかし、突然、松平家が家臣の人払いを行ったため、その手術を受けることはなかった。

 正純の家を含めた多くの家臣が左遷や役の免除を受け、それ以降は自動人形が担当するようになり、目標を失った正純の父親は武蔵に、三河に残った母親は去年、『公主隠し』と呼ばれる神隠しにあって姿を消した。死体も残ることはなく、残ったのは喪失感だけだった。

 

「ほんと…なんでだろうな……失ってばかりだ…」

 

 溢れてくる涙。

 ポツ、ポツ、と地面に痕をつけていく。

 組んだ腕に頭の乗せて溢れる涙を隠す。

 

「いつも男性の服を着ていらっしゃったのは、正純様の趣味ではなかったのですね」

 

『『づか?づか!』』

 黒藻も何処からか仕入れてきた知識を連呼。

 

 涙を拭い、酒井学長の待ち合わせに向かうべく立ち上がると、武蔵と並んで飛ぶ一隻の艦。

 艦の側面、三つ葉葵の家属紋章。

「松平 元信公の船か」

 

『やあ、久しぶりだ武蔵の諸君!――三河の当主、松平元信だ。先生と呼んでくれ!』

 外部拡声器から聞こえてくる、男の声。

 鳥居型の巨大な表示枠(サインフレーム)が現れた。映ったのは、艦橋をバックにして立つ帽子をかぶった男。

 

『今夜は私の方で面白い物を用意してある。夜に、三河の方を見ているといい。ちょっとした花火とサプライズを用意してある。では―――本日の授業はまずこれにて』

 この夜の花火とサプライズが、世界を大きく動かすなんて誰も思ってはいなかった。

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