境界線上の神殺し   作:ノムリ

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旧友との酒

 正純と別れて関所からある程度進み。林の中で、自分を呼び出して旧友と再会していた

 男二人と女子一人の三人が立っている。

 

「松平四天王の、榊原・康政殿と本多・忠勝殿の御二人がお出迎えとは。井伊の奴はどうした?」

 

 旧友の二人の姿はそこにあるが、もう一人井伊・直政という人物がいると思っていたが、酒井の予想に反して姿は無い。それについて、二人に問う。

 

「…酒井君、実は――」

「榊原、井伊については他言無用だ」

 

 榊原の台詞を遮るように、台詞を被せてくる忠勝。

 え、何、秘密なの?なんか疎外感を感じちゃうな~、と気の抜けたリアクションを取りながら、顎を撫でる酒井。

 

「―――見せろ」

「は?見せろって、だっちゃんが言うと大抵、碌なことにならない――」

 

 酒井の台詞が終わる前に、忠勝の隣に立っていた髪を結んだ少女が、鞘から抜かれて刀を両手に握り動いた。

 無駄のない動きで素早く迫ってきた少女から目を離すことなく、酒井は腰から短刀を抜き構える。

 少女にあって、酒井の無いものは、武器のリーチだ。

 刀は近接武器のイメージも強いが、超至近距離、一定の間合いが無くては振ることすら満足に出来ない。相手よりも自分が速いなら、自ら速度と距離を調節することで、その間合いを生み出し攻撃をしかける。

 対して、酒井にあって、少女に無いもの、それは経験、圧倒的な実戦経験の差がこの勝敗を分けた。

 敵の動き、視線、武器の種類、次の行動、目的、を視覚情報と感覚によって“力”ではなく“技”で補う。

 

「ぺたり」

 

 握っていた短刀を手放しするりと手を少女の尻に向かって伸ばした。

 数秒の間。

 

「――あぁあああああああああああ!」

 少女の口から驚きと羞恥を孕んだ叫びが森に響き渡った。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 

「明日は楽しい日になると思わない?ガっちゃん」

 金色の六翼を左右に揺らしながら、手押し車を押して歩くマルゴット。

 顔の傍で展開した魔術陣を通して、別の場所で同じ仕事をしているナルゼにお喋りの相手をしてもらいながらながら、着々と荷物を減らしていく。

 

『そっちはどう、マルゴット』

「あと少しかな、急ぎの荷物が一つだけあるから届ければ終わりかな。ねえ、ガっちゃんそこから、喜美ちゃん見える?」

『……Jud. 今武蔵野なんだけど……よく見えるわよ。ていうかあの階段から一歩も動いてないわね』

「喜美ちゃんが動いてないって事は、ソーチョーも動いてないってことだよね」

 

 階段の会議が終わる時に、後悔通りへ行く、と十年振りに言いだしたトーリを見守る為に残った喜美。

 その姿がいまだ階段にあるということは、トーリはまだ後悔通りに足を踏み出すことが出来ていないということだ。

 

『てっきり、朱唯も残ると思ってたわ』

 

「寧ろ、幼馴染だからじゃないかな。見なくてもちゃんと行ける、って分かってるから買い出しにいったのかも」

 

『そうかもね、アイツらラブラブのカップルみたいに理解し合ってるくらいだし』

 

「階段でのクサイ台詞も信頼からだよね。ほんと、仲いいよね」

 

『羨ましい?』

 

「ちょっとだけね、でも、ナイちゃんたちもしゅーくんとは仲いい方だと思うけどな」

 

『朱唯は、難聴系鈍感主人公というよりは、好意を分かってて流してるって感じがするわ。喜美も、浅間も、ミトルダイラも結構、解りやすくリアクションするじゃない。前に二人で抱き着いた時だって、顔を真っ赤にして恥ずかしがってくらいだし』

 

「あれは良かったね。結局、しゅーちゃんが暖かくて三人で日向ぼっこしながらお昼寝しちゃったしやつ」

 二人が考えた末に行動に移したアプローチ方法はシンプルに二人で抱き着く作戦だった。

 日向ぼっこしていた朱唯に抱き着くだけ。

 腕に体を絡ませて無理やりにでも意識させたら、予想に反して解りやすい反応をしていた。

 

『マルゴット、そろそろ配達は終わった?』 

「最後はこれかな、急ぎ最後の荷物なんだけど生徒会宛でね?配送票に思いっきり“絶頂っ!ヴァージンクイーン・エリザベス初回版”って書かれるんだけど、これ、間違いなくソーチョーだよねぇ?」

 

『……しんみりしたいのか突っ込みたいのかどっちかにしなさいよ。あの男…朝のエロゲが最後だって言ってなかったかしら?』

 やはりあの変態がエロゲを手放すのは無理だと言うことが一日も経たずして証明されてしまった。

 

「包装紙でカモフラージュしてあるけど、配送票でミスったよね」

『今頃、エロゲを買ったって武蔵の住人は驚きもしないのに、なんでそんなところで恥ずかしがってるのかしら』

 二人して、溜息混じりの呆れ笑いを浮かべていると、

 

「あ、セージュン」

 手押し車を押しながら歩ている、マルゴットの前に酒井学長の見送りを終えた正純が通り掛かった。

 

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 急に名前を呼ばれてビクッ!と声の聞こえた方を見ると、同じクラスの双嬢の片割れが手押し車を押していた。

 

「こんなところでセージュンに会うなんてねー、どうしたの?」

 

「ああ、三河からの帰りでな。これから後悔通りのほうへ行ってみようと思って」

 

『マルゴット?正純が居るの?だったら、夜の幽霊祓いの事とその荷物頼んじゃえば』

 マルゴットの横に展開されて魔術陣から聞こえてくる、ナルゼの声。

 

「今日の夜、ソーチョーが学校で幽霊祓いするんだけど、セージュンも来る?」

 

「…いや、うちは村山のほうにあるから夜に教導院のある奥多摩にいこうとしたら夜番の番屋を通ることになる。そうなれば父に迷惑が掛かるから」

 

「そういえば、セージュンのお父さんで暫定議員の偉い人だっけ?なら、そんなセージュンにプレゼント!」

「まあ、そんな感じ―――なんでこんなものが生徒会宛に!?」

 思わず、配送票の書かれて文字を見て、叫んでしまった。

 なにせ、生徒会宛の届け物がエロゲなのだから。

 いくら、変態とバカと守銭奴といえど……いや、買う奴が生徒会長だったな。

 

「文句はソーチョーにお願いね。今は多分後悔通りに居ると思うから、それに、セージュンって――」

 マルゴットの話を遮るように高らかになったラッパの音。

 上を見上げると、上空をいくつもの人影が駆け抜けていく。 

  

「今度は負けねぇ!早く上がって来いよ“双嬢”!」

 そのうちの一人が、マルゴットをサングラス越しに見ながら、声を掛ける。

 

「じゃあ、セージュン。荷物よろしくね!」

 それだけの言葉を残して。箒に跨り、上空へと舞い上がって行った。

 数秒で、正純の手の届かない高さへと昇り、横を飛ぶ走り屋たちと並走して飛んで行ってしまった。

 

「…行くか」

 荷物を脇に抱えて再び一人となった

 

 

@ @ @

 

 

 

 見知った間柄

 

 顔を合わせれば昔の話

 

 酒を交えれ盛り上がる

 

 戻れぬ過去に思いを馳せて

 

 配点《旧友》

 

 

「やるなぁ、酒井!お前、昔と一緒で戦っている相手の尻触るかよ!」

 お猪口を片手に向かいに座る酒井に向かって、忠勝は学生時代から同じことをしていた、と指摘する。

 

「普通はな、久しぶりに顔を合わせた旧友に娘を仕掛けるさせないんだよ。二代だっけ?強くなったもんだ」

 アハハ!酒が入って高くなったテンションのまま懐かしい、最後は見たのはいつだったか、と思い返しながら笑う。

「父上、改めてご紹介を」

「俺?酒井・忠次ね。松平四天王の実質のリーダー、学生時代は松平・元信公が学長兼永世生徒会長だったから俺は総長で、君のお父さんが特攻隊長」

「副長って言えよ馬鹿野郎!」

「井伊が副会長で、この榊原がまた口先だけの男でな!」

 横目で斜めに座っている、お猪口を傾けている榊原を見ると、ブー!と酒を噴き出した。

「そんな事は無かったのですぞ。書記で、文系としの能がありましたした」

 一人でキメ顔をしている榊原を放置して、酒井は二代に声を掛けていた。

 

「ダ娘君、うちの教導院来ない?君みたいな、かなり欲しいなあ俺。本田・正純も居るよ、憶えてる?」

「正純とは中等部以降、あまり顔を合わせる機会がありませんが、武蔵では副会長をしているとか」

「そうそう、だから、うちに来ない?」

「そう言われるとは、光栄で御座るな」

「待て、酒井」

 酒井の勧誘に待ったを掛けたのが、父の忠勝だった。

「二代には、いま三河の警護隊の総隊長を任せている」

「へぇ、極東で唯一聖連に存在を許された武装戦力の総隊長か」

「実はな、二代はこれから武蔵の為に、安芸(あき)までの回廊の安全を調べる任務で先行艦で三河を出るんだが、安芸まで行ったら、その後は好きにしと言ってある」

「好きにしろって――」

「父と決めたことに御座る。全部、拙者が判断しろと」

「だから酒井、誘いたいなら、そのとき誘え。二代が武蔵やお前に必要だと思ってなら加わるだろうさ」

 さっきまでの酒を飲んで顔を赤くしていた顔とは違う、それは父親としての旧友の顔だった。

 その事に、何処か寂しさを感じながら煙管に火を入れる。

 

「これから世が動く。娘くらいは、自由にさせてやりたくてな……お前も一応は義理とはいえ息子を持つんだ分かるだろ?」

「―――そうか、東国無双といわれた本多・忠勝の選んだ逸材が旅立つか……西では西国無双の立花・宗重が三征西班牙(トレス・エスパニア)襲名されたと聞く」

 

 思い出話は一時のみ、その後はいくら酒を飲もうと現実の話に戻されてしまう。

 過去よりも現在、そして未来を考える話ばかりだ。

 

 この場には居ない、義理の息子の朱唯はこれから何処へ向かうのか、と煙管を吸いながら考えていると、忠勝の向こう側、通路を歩いてきた自動人形を見て思わず声を上げてしまった。

 

「げぇ!?鹿角!」

「Jud.どなたかと思えば酒井様ですか」

 

 鹿角と呼ばれて自動人形は、呆れような目で酒井を見つめる。

 

「相変わらずこの女、ダっちゃんとこ?」

「しょうがねえだろ。コイツが一番、女房の料理再現できるし、太刀筋も再現できるし、礼儀作法とかも人に教える分には問題ねえしな」

「現在は私が二代様の基本師範を勤めております。二代様も年頃の女性ですが、忠勝ときたら一緒に風呂に入ろうとか、焼き肉に行こうとかいろいろ駄目ですので。忠勝様そろそろ準備を」

 鹿角は一礼して、来た道を戻り。それにそれに続くように、二代も立ち上がった。

「――では、我はここまでだ。しっかりやれよ」

 その言葉、総長をなのか、父親をなのか、それとも両方の事なのかと、酒井は言葉の意味を噛みしめていた。

 

 

 

 先に出て行った忠勝に続いてお店の外に出た酒井と榊原。

 外は既に夕暮れとなり、空が茜色に染まっている。

 二人だけになり、酒井は今まで聞きたかった事を榊原に質問する。

 

「榊原、聞きたいことが二つある。一つは井伊の事だ、何か用事での出来たのか、それともアイツに何かあったのか…。もう一つは、P-01sって自動人形がいる、先年に三河から来たんだがあれはなんだ?」

 聞かずには、いや聞かなくてはいけないことだ。

 旧友は来ない理由と、死んだ少女にそっくりにな自動人形について。

 

 

 


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