拝啓、未来へ……テスト勉強大変でしょうか? 私は先生に教わって大体終わって余裕が出て来たところです。最近は護身術の授業も割と楽しいです、手先だけで木の板くらいなら割れるようになりました。
「フィーネ、アメリカ土産何欲しい?」
『要らない』
「りょ!」
『りょ! じゃないわよバカ、何してるのあなた』
「写真送るよーほれ」
私は今何故かアラスカにいます……そして七岐先生と雪合戦していました。
そして目の前で雪まみれで友人に写真を送っているはちゃめちゃな先生を死んだ目で見ながら、なんか怒涛の展開だけど楽しいな……と、なっています。
「……なんか、すっごい豪華な休日なのかなぁ? どうなんだろう……?」
「響ちゃーん! これ終わったらメインの方までロブスター食べに行くから!」
「え゛ロブスター! 食べたことないんですけど美味しいんですか!」
「モチ!
「行きましょう!」
「いいぞ〜楽しそうな顔する君は好きだぜ!」
────事の始まりはつい先日、七岐が金曜日の夜、本場のピーカンパイを食べたいと思い立ったしたところまで遡る。
「ひっびきちゃ〜ん! アメリカ行くぞ!」
「────へ?」
立花響は相変わらず学校ではいじめられていたため、最近ではあまり登校はしていなかった。そのため、その分の勉強は七岐が教えるという形を取っていたが、ここ数日はノーブルレッドの合宿があるため七岐が不在。
渡された宿題の自習と音楽鑑賞や未来との通話くらいしかやる事がなく手持ち無沙汰に過ごしていたのだ。
そんな久しく得られた平穏な日々を過ごしていた矢先である。世は週末、響も未来と買い物にでも行こうかと思っていたところに“先生”の襲来である。
両親を勢いで説得するとあれよあれよと荷物を纏めさせられ、七岐の愛車
しかも何故か普通の旅客機ではなく、(フィーネの)プライベートジェットを借りてアメリカへ。無論最新鋭の異端技術が盛り込まれた最高の機体である。
日帰りでアメリカ旅行が可能なそれを使い紐育に土曜の明朝に到着。
その後七岐の馴染みのホテルであるコンチネンタルホテルに
その後ホテルで夕食を済ませ、ウイスキーを一瓶飲み干した七岐が寝落ち。
最高級スイート並の豪華な部屋で落ち着かずにいたところを寝相の悪い七岐に抱きつかれ酒臭いやら大人の女性に抱きしめられている状況に照れるやら大変なことになるなど、幾らかの問題がありながらも就寝。
そして翌日、『NY観光だ! スパイディ好きかい? エンパイアステートビルの上からの景色を見せてあげよう!』とどうやって許可を取ったのかヘリで屋上まで移動させられる。
正直この時点で響は『この先生もしかしてなんかヤバい人なんじゃないか?』『何処からこんなにお金が出てくるの……?』と若干不安になっていたが、その度に口に美味しいピザを突っ込まれ、細かいことを考えるのをやめた。
その後、気がついたら寒冷地用のダウンや登山用シャツまで用意されまた飛行機で移動。現在アラスカで雪合戦の後メイン州に移動してロブスターを食べに行くとかいう意味不明な状況になっていた。
「先生、もしかしてめちゃくちゃお金持ちですか?」
「うん? そうだよ? 非常勤講師なんて遊びでやってるに決まってるじゃん」
「えー……遊びで先生やってる人に私勉強教わってるんですか……?」
「あ、心配しなくてもおよそ人間が解ける学校の勉強なら大体わかるから。先生昔ギリシャの数学者に論文添削してもらった事あるし」
「添削して貰っただけで出来るかとは言ってないじゃないですか」
「大丈夫大丈夫、あいつ間違い指摘できなくてイラついてて、ダメ押しに煽ったらクソキレててめちゃくちゃ面白かったよ」
嘘ではない。実際古代ギリシアで秘密主義を拗らせたピタゴラスを煽り、嫌いな炒り豆を投げまくった結果キレた彼に追いかけ回された実績があるのだ。
「あ、ギリシャで思い出しました! この前の社会の課題、教科書と全然違いましたけど」
「いやほら、高校受験の為なら教科書とか無視してやった方がいいし。まぁリディアン一般科目の試験簡単だからあんまり意味ないけど」
「意味ないじゃないですか〜〜〜!」
「いやほら、為になるよ? 具体的には入学してから私の授業のノート取る必要なくなるし」
「マジですか」
「マジマジ」
「じゃあやります」
先取りして勉強させられているだけなのだが、朝三暮四というのはこのことだろうかと七岐は思った。
「……ところで、なんで私連れてきたんですか?」
「え、暇そうだったから」
「……それだけ?」
「うん? そうだよ? こっちに用事あってさぁ、じゃついでにNYでピーカンパイが食べたくなって……で、一人で行くの寂しいから今学校行ってない暇な響ちゃんを連れてこうかなって」
「今度は未来も連れてって下さいよーさっき電話したら凄い心配されちゃいました」
「君のこと本当に大好きだねぇ……いい子だね?」
「はい! 私の大事な人ですから!」
「……そっか」
暇だったから連れてきた、というのは嘘ではない。実際急にアメリカンな食べ物が食べたくて突発的にフィーネの飛行機を借りたのは本当である。
しかし半分くらいは“護身術”がどの程度出来てるのかなーというのが気になって雪合戦に連れ出したのだ。
立花響を預けた、喫茶店のマスターは日本に存在する忍者の系譜の一つ“帝都八忍”最強の男である。
そも日本には現在大きく分けて三つのグループに分かれて忍者が存在している。代表的なものは豊臣秀吉に仕えていた飛騨忍群の末裔であり、現在は明治政府の発足と共に政府隠密として宮仕えとなった“緒川家”。
かつて西洋化生を率いたタウロス双生児と戦い、「サンクチュアリ作戦」を阻止するなど規模においては現在最大の忍者組織である。
もう一つは幕府に仕えていた伊賀、甲賀、そしてその後吉宗の代から現れた御庭番の流れを汲む忍者達が明治政府の樹立後緒川家と立場を入れ替える形で没落しかけるものの警察組織へと流入、現在では“公安0課”と呼ばれる殺しのプロ達だ。
両者はかつての幕府に関するイザコザから未だに確執が深い(実際には公安0課が一方的にライバル視しているだけだが)。
そして、そのどちらにも属さない“帝都八忍”。
総勢僅か“8人”という組織規模としては最小の組織だが、忍者一人で軍をもってしてなおまだ不足という圧倒的個人武力によってたとえ相手が国であろうとも、民を護る為に動く独立組織である。
その性質上、法で裁けぬ悪を誅殺することも厭わないため政府としては犯罪組織の分類とされている。
なお他にも風魔一族の末裔が現在でも存続しているが、彼らは忍ではなく半魔の道を行ったため忍として数えられていない。
まぁつまるところ、立花響には無理を言って世界最強の忍者の技をこっそり無自覚に仕込んでいるわけである。才能があるのか、気がつけば体捌きも中々なものだしいい感じである。
これならば、心臓に食い込む
七岐は気に入った娘を
「先生? 何か考え事してます?」
「うん? いや、別に? あ、飛行機来たよ」
「……先生、私よく知らないんですけどあれってこう、軍人さんが使うやつじゃないんでさか……?」
やってきた“飛行機”は現在米軍にて正式採用されている最新型の垂直離着陸機、通称スワローテイルであった。異端技術を解析、応用する事で現代技術で作れる最高峰の航続距離と積載量、安定した飛行速度を持つ名作機である。
なお、その値段一機150億円。
「ああこれ? この前
「今すごい事言いませんでした!? あと私未成年ですけど!」
「冗談冗談、じゃあ行こっか!」
そうして乗り込むと目的地へと向かう、何せ休みは幾らでもあるのだ。折角だから中西部の荒野とかで西部劇ごっこしたり、ハリウッドの看板を見に行ったりと色々と遊びがいがある。
ふむ、となるとやっぱりもうちょっと遊びたくなる訳で。
「うーん響ちゃん、一週間くらい旅行するかい?」
「え゛っ、着替えとか持ってきてないですよ!? あと勉強は!?」
「勉強? ぶっちゃけリディアンって偏差値そんな高くないので如何とでもなるなる」
「そうなんですか!?」
無論、別にリディアンが著しく色々とよろしくない(迂遠な表現)学校だという訳ではない。シンフォギア装者の候補を集める為、適合率が高い人間を全国から集める都合上集められた成績は上から下までいる訳である。そのため勉学周りはある程度の幅を持たせていないと色々と不都合が生じるのだ。あとそのためか推薦枠がめちゃくちゃ多い、ねじ込もうと思えばいくらでも捻じ込めるくらい多い。
「国立で色々と緩い学校だかんねー。あ、歌上手くない子は大変だからあんまり入らないけど」
「そうなんですね……いやでもそういう問題かなぁ……?」
「まぁほら、気分転換だと思ってさ。今まで色々大変だったんだしご褒美だと思って」
「うーん……私だけこんな楽しくていいのかな……? 家族も連れて行きたかったような」
「あ、じゃあ今度ハワイ旅行のチケットとか用意しとこうか? えーと確か顔パスで予約できるスイートが何個か……」
「いやいやいやそこまでしてもらうのは悪いというか」
「家族も連れて行きたいって言ったじゃん?」
「言いましたけどぉ!」
この人、優しいけど全然加減を知らない人だぁ! と内心で響は叫んだ。
同日、日本にて。
「はぁ……あの馬鹿、気に入った子がいるとすぐ構い倒すんだから」
2課本部にて、櫻井了子ことフィーネは友人が突然国を離れ、何やら最近お気に入りらしい娘を連れて遊び呆けていることに頭を抱えていた。
「ノーブルレッドの3人の調節もまだなのに、何してんのかしらあいつは……」
彼らの体内に流れ、人と魔を融合するパナケイア流体を七岐の体に流れるより高純度なもの、とある平行世界では
しかし、本来ならば彼女達はより怪物として進化する筈だったのだ。彼女達の身体の形象崩壊を防ぐための緊急処置的な施術しか行えなかった為、本来のスペックを発揮するためのより高濃度のパナケイア流体を投与する必要があったのだが……。
「きっちり試験管三本用意して行きやがったわねあのアホ、試薬は調製失敗した時のために多めに用意しなくちゃいけないの分かってないのかしら? というかこれ私じゃなくて
昔からの友人だが、あの気分が乗ったら最低限の用事だけこなしてすぐ遊びに行ってしまう悪癖にはほとほと困らされている。まぁいつものことなので、別に怒ってはいないがそれはそれとして疲れてしまう。
「あ〜〜〜クリスに会いたいわ……それかソネットと飲みにでも行こうかしら……」
悪いことの黒幕やりながら生活するのだって楽じゃないんだから……フィーネはため息をついた。
〜ある日の電話〜
『アダム〜うちのフィーネがやらかすしれんから万が一の時はよろしくな』
『大分やらかしてるだろう、既に。ライブ会場のそれは正直どうかと思うよ、僕は』
『しょうがないだろ、楽しかったし』
『好きだけど嫌いだね、君のそういう所は』
『すまんにゃ〜』
『謝るべきは僕ではないよ、我が親友』
『……いや、遺族のケアはちゃんとしてるよ、うん』
『神に懺悔などしないけどね、我々は。それでも悔いは持っておくべきさ、君は特に』
『無理♡』
スマートフォンに表示された冗談めかしたメッセージを見て、アダムは寂しげな表情を浮かべ彼方にいる親友を思った。
「…………愉しめなければ壊れる君を救えないんだね、僕は」
アダムはその日、