流れゆく世界で、愛を謳う獣   作:鴉の子

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(激遅更新)(言い訳不可)
黄雷のガクトゥーンとか……Far Cryとか……TRPGとか……私生活の変化とか色々あったが……無事更新!
繋ぎ回です、全然話動いてねぇな?


10話 御伽噺の後で

 

 ────先生は、変わった人だ。

 

 ある日突然、私の前に現れて、私の周りの何もかもを変えてしまった。

 

 痛いのも苦しいのも無くなったけれど、あの人が何を考えているか、いまいちよくわからない。

 慈善事業で色んなところでこんな事をやってる、というのは後で教えてもらったけれど。

 それがどうして、暇な時にはいっつも私のところに来るのか。

 

 本人に聞いても『んー? 気まぐれ!』としか答えないし、なんなのだろう? 

 

 まぁ、でも、優しい人には変わりない。旅行に連れ出してくれるし、来ると色んなところのお菓子をくれる。

 勉強を教えてもらう時、難しい問題が解けると何故かいつも小さなチョコレートを一つ渡してくれる。しかもちょっと高い奴。

 

 ────あれ? もしかして私、小さな子供扱いされてる? 

 

 いやいや、まっさかぁ。……でも、旅行中私の布団で寝てること多いもんな……本当に子供扱いされてる……? 

 

 今だって、何故か私を抱き枕にして涎を垂らして眠りこけている。うぇ、酒臭い……。

 

「すぅ……」

 

「先生〜暑いです酒臭いです離れて〜」

 

「むぅ〜」

 

 黒と白銀の混ざったツートンの長髪が私の体に覆い被さる。視界一杯にはいつもはそこにルビーの様な真っ赤で、綺麗な瞳をきらきらさせている顔が。

 

(近い……! うわぁ……美人だとは思ってたけど、可愛い……あとおっぱい大きい……! 大人だ……)

 

 流石に同性といえど、殆ど裸みたいな状態で抱きつかれると恥ずかしい。

 

 ──ん? 裸? 

 

 もう一度先生を見る。うん、いつもの顔だ。

 もうちょっと下を見る、おお、綺麗な肌。

 

「にゃあ゛────────ー!?!?」

 

「んむぅ……なんだよ、うるさいな……まだ朝食には早いだろう……」

 

「はだっ、は、はだ……」

 

「なに、壊れたオルゴールじゃあるまいし? どうした?」

 

「裸!!! 先生なんで裸で私のベットにいるんですか!?」

 

「訂正、ここはベッド一つしかないから私のベッドでもある。裸な理由は昨日はお酒を飲んで暑かったから、終わり」

 

 平然とした顔で起き上がり先生は言い放つ。よく見たら黒いレースのショーツ以外なんも着けてないこの人。

 

「ま、ままさか変なことしてないですよね!? ね!?」

 

「はっ」

 

 鼻で笑われた!? なんて人だ!? 

 

「ん〜からかっても面白そうだけど……セクハラになっちゃうからやーめた。先生クビになっちゃうし」

 

 裸になって教え子に抱きつくのはセクハラじゃないんですか? という疑問が浮かぶが、混乱の極みにあるため口から出てこない。

 

「あ、今日の行先、どうする?」

 

「ど、どうするって、何を?」

 

「グランドキャニオン行ってアリゾナででサボテン引っこ抜いて遊んで明日帰るか、ハワイ行くか」

 

「なんでサボテン引っこ抜くんですか……?」

 

「え、楽しそうだろう? それともテキサスでタンブルウィード見に行って西部劇ごっこする?」

 

「え、いや別に……」

 

「本場のタコスとチリコンカンがついてくるぞ」

 

「えー……ん〜じゃあ行きます」

 

「響ちゃん……君本当にご飯に弱いね……」

 

 失礼な、先生の連れてくるお店が全部美味しいのが悪いんだ。

 

「そんなことありませんー!」

 

「にゃはは、ごめんごめん。じゃ、シャワー浴びてくるから、本当に行先決めといてね?」

 

「さっきの三つから?」

 

「それ以外でも、今日は一日自由だからね、好きにするといいさ」

 

 そう言われても、困る。来たこともない場所に連れてかれて自由と言われましても……あ。

 

 ひとつ、やりたいことがあった。

 

「────オーロラ」

 

「オーロラ?」

 

「昨日、アラスカで雪合戦したじゃないですか。あの時、帰りの飛行機でちょっとだけ見れたんですよ」

 

「ちゃんと見たい?」

 

「はい! 綺麗だったので!」

 

 その瞬間、少しだけ先生の表情に翳りが差したような気がした。

 

 ──どうして? 

 

 何か、変なことを言っただろうか? そう思っているうちに二、三瞬きをすると、元の表情、いつも浮かべているちょっと怪しい笑顔に戻っていた。

 

 立花響(わたし)には、その意味がわからない。気のせいだったのかな? とその場で疑問を飲み込んだ。

 

「オーロラ、ね。キャンプ用具、用意しよっか」

 

 先生がそう言って電話をする、あれこれ準備をするのだろう。私はその間に荷物をまとめて自分の準備に取り掛かった。

 

 それを横目に見た石楠は、飛行機の準備を頼む。自分の荷物はほとんどない。携帯にカードと金貨数枚。これだけあれば世界中どこにでも行けるのが自慢である。

 

 

 

 

 

 ───石楠にとって、オーロラにいい思い出はない。無論、オーロラは太陽風のプラズマが地球の磁力線に沿って落ち、大気の原子が励起するだけの自然現象だ。

 

 だが、まだそれが戦乙女達の権能だった時代。空を舞う光は死者と聖者を分け隔てるヴェールだった。

 

 楽しげな姿をした目の前の少女(立花響)の姿に、ふと、()()を見てしまう。

 

『心配しないで■■■■■? オーロラの向こうに行ってしまっても……あなた、一人じゃないわ?』

 

 遠い記憶、遠く響く雷霆が、未だ幻想の物であった頃。忌まわしくも愛おしい記憶が、彼女の視界を埋め尽くした。

 

「────」

 

 目を閉じ、眼球、及び視覚に関する神経回路の()()()()を停止する。

 透明な眼球は、即座に自らの構成要素たる黒い泥と溶け、自身に還る。視界が遮断される。

 

 1秒にも満たない時間、幻影が消えたことを確認すると即座に再生する。問題は、なかった。

 

 視界は戻る、飛行機の準備は終えた。あとは、彼女を連れて行くだけだ。再生ヨシ、携帯のインカメラで顔を見る、うん、今日も美人! 

 

「オーロラを見たら、そのあとは?」

 

 振り返り、いつもの笑顔で聞いた。

 

「んー……もう帰ろうかなって。あ、でも、もうちょっとお土産とか買いたいかな……?」

 

 ふむ、お土産とな。ではこれだ。

 

「ふふふ、ではこのアメリカ特産のあんまり美味しくないお菓子シリーズをあげよう。昨日買った」

 

 古くからの友人のアナンシ君の教えである。現地のあんまり美味しくないお菓子はお土産としては割と盛り上がるぜと。

 

「美味しくないものだけなぜ……!?」

 

「ウケ狙いとしてはおすすめよー。それはそれとして美味しい特産品系は飛行機にどうせ勝手に積んでくれるし」

 

「えー、でもなんか、お菓子とかは自分で選びたいんですよぅ」

 

「じゃあ帰りにスーパーでちょっとしたものと、……他は空港で買おっか」

 

「はーい」

 

 さて、到着までは特筆することも無く。

 

 二人は無事アラスカのオーロラを眺めるのにちょうど良いロッジへと到着した。日が暮れるまでBBQをして、ホットココアなんかを飲みながら空を眺める。

 

 ゆらり、と薄緑色の輝きが空を走った。

 

「ん、来るね」

 

「え、本当!」

 

 ほんの少し、予兆のような煌めきの後、オーロラは空一面に広がって行く。星空を覆うような輝きを見て、キラキラとするような笑みで響は空を眺める。

 

 ──────さようなら! 

 

 声が、する。

 

 遠い昔に置いてきた、古い思い出の残骸が、旧い龍の頭に響く。

 

 ────悲しくもないのに、何故思い出してしまうのか。

 

 思わずため息を吐いてしまう、ここ数百年は思い出しもしなかった癖に、何故こんなことを思い出してしまうのか。

 

「──い──んせい?」

 

「先生?」

 

 教え子の声が聞こえた、

 

「ん、なんだい?」

 

「なんだか、怖い顔してましたけど……何かありました?」

 

「んー? 昔フラれた人のこと思い出してたの」

 

「え、なんですかそれ。詳しく聞きたい!」

 

「だーめ」

 

「えー」

 

「女の子はね、一つくらい胸に秘めた失恋があった方が可愛く見えるもんだよ。こういうのは明かさない方がいいの」

 

「そんなものですかね?」

 

「そんなものだよ」

 

 首を傾げる響の頭を撫でる。ストーブの火以外は冷たさしか存在しない雪原のロッジの中、唯一の温かみを持った人間。

 

「傷と秘密が多いほど、女の子は可愛くなるものだよ。まぁ、受け売りだけど」

 

 主にフィーネの。

 

 さて、そうして話したり、沸かしたコーヒーを飲んでいるうちに、オーロラはいつのまにか消えていた。30分ほど煌めいていただろうか、また少し待てば次のオーロラが来るかもしれないが、石楠はもうそれを見る気はあまりなかった。

 

「じゃ、私は寝る。まだ見るかい?」

 

「うーん、もう少し粘ってみます」

 

「そ、無理しないでね? 体冷やさないように!」

 

「はーい!」

 

 そう言ってベッドに潜り瞼を閉じる、別に閉じなくても意識を落とすことは出来るが、気分である。

 

 会話が途切れ、呼吸音とストーブの音だけが響く部屋。立花響は窓から空を眺める……フリをして、寝転んだ石楠の顔を見た。

 

 目を瞑り、ほんの数分で眠りこけた先生は、すぅすぅと子供のような寝息をたてていた。

 

 ────優しい人、でも、よくわからない人。

 

 私のひび割れた心に寄り添った、知らない人。白黒の変わった髪に、真っ赤な瞳をした綺麗な人。

 

「……なんで、そんなに優しいのかな」

 

 先生は好きだけど、ちょっとだけ、怖い。いつもみんなに優しい人だけど、私のそれはちょっと違う気がして。

 

 でも、自分の子供みたいに撫でてくれるその手はやっぱり優しくて、好きだった。

 

「──おやすみ、先生。また明日」

 

 

 

 そうして翌日、吹雪に巻き込まれて帰還不可能……などということもなく平和に帰国することになる。

 

 ちなみに、お土産は大量のお菓子と、何故か大量に渡され、サイズもぴったしな大量の服と靴(全て最高級品)だった。

 

 響は特に値段を知らないため、後日未来が値段を調べて卒倒することになったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────機内、防音、防諜された通話用の個室にて。

 

「あ、調〜♡元気してた〜? 切ちゃんとも仲良いかい? そう、良かった。ナスターシャに代わってくれる?」

 

 石楠は猫撫で声で電話越しに話しかける。

 

「やぁやぁ、アナスタシア、胃を交換して三ヶ月は経ってるけど、気分はどうだい?」

 

『あなたに心配されるほど弱ってはいません。それで、何の用ですか?』

 

 怜悧な少しばかり冷たさを含む声で返答が返る。

 

「ん、話が早い。近々うちのが事を起こすみたいだからさ、身の振り方とか考えた方がいいって伝えとこうかなって」

 

『────何をするかは、教えてくれないのでしょうね、あなたのことでしょうし』

 

「正確には、私も半分くらいしか知らなーい。なんか隠してるみたいだしね! ま、“神殺し”するってんだから身内にも隠したいことの一つや二つあるだろう?」

 

『……わかりました、伝えてくれるだけあなたにしては親切だと思っておきましょう』

 

「ああ、最悪失敗しても、あの子達は大丈夫さ。私が責任持って守るよ、私の“娘”もいることだしね」

 

『────調は、貴女のモノではありません』

 

()()()()()()()()、あの子の母も、その母も、()()()には違いない。そして、(みこと)も死んだ、だからあの子は私の娘だよ」

 

『────旧き母、大いなる龍、やはりあなたは……』

 

「あら、気持ち悪い?」

 

『いいえ、そうあるしか出来ないあなたを、変えられないのが悔しいだけです』

 

「相変わらずお人好しだねぇお前、ワルシャワで会った時からおんなじだ」

 

『いいえ、変わりましたよ。ただ、目の前のことと向き合っていればよかった少女だった日々が懐かしく思えます。……あなたは本当に変わらないままでいるというのに』

 

「生き方を変えられるのが人間(お前たち)の長所だろ? 私はいいのさ」

 

『────』

 

「辛そうな声を出すなよ、折角健康になったばっかなんだしさ。塩分控えて、長生きしなよ、ナーシャ」

 

 電話を切る、煙草に火をつけて目を瞑る。

 

 ────そういえば、私の3人娘(ノーブルレッド)は元気してるだろうか。

 

 日本まで、あと数時間。ふと、そんなことが気になった。

 

 

 




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