数ヶ月後、2月受験シーズンを終え、順当に(実際はギリギリまで詰め込みまくる羽目になり流石の石楠も不安になる程だったが)合格した。
そして、石楠は春休みに突入した立花家で一家の一員の様に鍋をつついていた。
「時に響ちゃん、入学祝いは何がほしい?」
「入学祝いですか?」
「あら、悪いですよ……もうこんなにお世話になってるのに」
「んーいいのいいの、お金なんて使った方がいいんだよ。……あれ、そういやお父さんどうしたのさ」
「仕事中ー、あとちょっとしたら出てくるんじゃない?」
現在、一家の大黒柱である立花洸はそれまでの会社を辞め、在宅で可能な仕事に転職した。なお会社の筆頭株主は石楠だったりするのだが、今のところそれは誰にも気付かれていない。
「大変そうだねぇ、あ、煙草吸っていい?」
「ダメですよー壁紙が汚れるので」
煙草を取り出そうとした石楠の口に響が肉を摘んだ箸を突っ込む。あむ、とそれを食べると、緩い笑いを浮かべた。
「ちぇー、あ、そういえば響ちゃんって翼ちゃんのファンなんだっけ?」
「はい! 先生もそうなんですか?」
「いや、知り合いだからサインあげる」
「え゛」
「あ、なんか欲しいものある? 余程じゃなきゃそれにサイン貰ってくるけど」
「え、え、いや、え?」
困惑する響、突然の提案に脳の処理能力が追いついていない。というか、そんなの貰ったら使えないじゃん。と思考がぐるぐると空転する。
「じゃ、じゃあ今度新作CD買うからそれに!」
「発売前に貰ってこようか?」
「あ、それはダメです! ダメ! 発売日にお店で買うのも楽しいんですから!」
「むー……それじゃ結構後だなぁ、じゃあ先にこれあげる」
石楠は懐から黒いカードを一枚取り出し、手渡す。
「……何ですかこれ」
「カード」
「……何の?」
「クレジット、限度額無制限」
「「「──────」」」
「あれっ」
一家全員が絶句する。もしかしてジョークかな? という期待を込めた目線が送られるが、石楠は首を傾げたまま何も言わない。
「最近の若い子ってあんまり買い物しない……? おっかしいなーうちの奴らは色々好きなもの買ってたのに」
「いや、受け取れないよ先生!?!?」
「わっびっくりした、なんでよ」
「おか、お金大事!」
「いいよ別にそれくらい、家族カードだからあんまり酷かったらいつでも止められるし」
「「「ダメです!!!」」」
その後、石楠は一家総動員で何故か叱られ、しょんぼりした顔で炬燵に潜り込んだ。
「なぜぇ……」
捨てられた仔犬のような顔で蜜柑を響に口の中に放り込まれ続けている石楠を囲み、一同は苦笑いをする。
ライブ会場の惨劇以来、悪くなる一方だった家の状況を一変させた謎多き“先生”は、どこか子供っぽく、いつのまにか家に馴染んでいた。時々、先程のように妙な金銭感覚を見せることはあるが、しばらく家庭教師として通っていた事も合わせて、概ね立花一家には受け入れられていた。
無論、突飛な事をやる困ったちゃんとも思われているのだが。
「先生、うちの子に優しいのはいいんですがね、それはやり過ぎです。ちゃんとお小遣いもあげてますし、これから高校生ならバイトとかも始めるかもしれないでしょう? 金銭感覚を育てるのも大事なんですから……それに、これ以上お世話になる訳にはいきません」
響の母、立花真衣の最もな説教を受け、更に石楠の顔がしわしわにしょんぼりしていく。
「何も、与えるだけが良いわけじゃないのよナナちゃん」
追い討ちのように祖母である摩耶が淹れたお茶を渡しながら嗜める。石楠はしょげた顔でそれを受け取った。
「そうかにゃぁ……」
「そうよ、人間ってあんまりいっぱい貰うと潰れちゃうのよ。あなたのそれは……ちょっと大きすぎるわ? お世話になってる私たちが言うのも申し訳ないんだけれどね。たまには、私たちに恩返しくらいさせて欲しいわ?」
「…………大昔、おんなじこと言われたー、まだダメかぁ」
「ダメじゃないのよ、優しいことは悪いことじゃないのだけれど……少し不安になるわ? あなたに優しくしたい人もいっぱいいるのよ?」
「えー?
口に放り込まれるミカンの数が二つ目に突入したあたりでカラカラと石楠は笑う。
「ま、いいや。じゃああれだ、携帯電話とかどう? 契約とかの仕方も教えてあげるって事で。今度からは自分で契約出来るように」
「──それでも十分高価すぎますけれど……ああ、そんな顔しないでください私が悪いみたいじゃないですかぁ」
響のその言葉にさらに落ち込んだ様子を見せ、石楠はみるみる表情を曇らせていく。その様子は叱られた子供のようにも、子供に嫌われた母親のようで、響は妙に居心地が悪くなる。
「あ、じゃあ、バイト始めたら返すってことで! 壊爺が喫茶店のバイト雇ってくれるって」
「それじゃお祝いにならないじゃ〜ん……」
「これ以上は譲歩しませんよ! 本当に! もう十分お世話になってるんですから!」
「……半分! 返すの半分だけね!」
「えー」
「えーじゃない、お祝いだからこれで終わり!」
石楠は響の頬をむにむにと引っ張る、「むえー」と気の抜けた声を出す少女の姿を見て、皆が微笑んだ。
平和な、少し変わった団欒の風景、少女が失う筈だった物。
────英雄が生まれるまで、あと少し。
4月1日、入学式当日。
リディアン音楽院高等学科の入学式は、音楽に力を入れているだけあり、学生たちや教師陣による様々な催しがされる。
無論、在学生による新入生の為の合宿、音楽関係の教職員や芸能関係に進んだOGによる小ライブなどが例としてあがる。無論関係ない教員も多く、特に非常勤の講師などは殆どが関係ない。石楠も非常勤であるため、通常ならそうであるのだが……彼女は少々特殊なため、この行事に参加する。
教師としてではなく、“来賓”として。
私立リディアン音楽院は、私立でありながら学費が一般的な公立校と遜色ない程度に抑えられている。これは、財政界からの多額の寄付金と、シンフォギア装者の選出、 ならびに音楽と生体から得られる様々な実験データの計測を目的とした政府が補助金の名目で供出している予算のお陰である。
そして、こうして得られる運営資金、その3割を一人で供出しているのが石楠七岐であった。
石楠七岐は、欧州の経済崩壊にも関わらずに未だ全世界へ強い影響力を持つ
テンプル騎士団が母体だったり、有史以前から先史文明の遺産を巡って色々やっているのだが、ここでは割愛する。
それ以外にも、世界中に有形無形の無数の資産を分散、運用(人任せ)している彼女は、小国家予算程度の金額を好き勝手に動かせる。
しかし、面倒なCEOや資金運用は“娘”に任せ、本人は自由気ままに非常勤講師などをやっているのが彼女であった。無論、自身の金の出所は徹底的に隠蔽しており、この事実を知っている人間は、風鳴家、及び二課に所属している人間のみである。
── 何故このようなことが出来ているのか、と言うことに関しては、少々複雑な事情になるため、ここでは割愛する。
要するに、超絶お金持ちなので来賓として毎回この行事に参加させられていると言ったところだ。
させられている、とは言うものの本人も毎年ノリノリで参加するのが常であり、変なパフォーマンスをするのが在校生からすると名物になりつつあるのだが。
「で、ナナちゃん今度は何するの?」
早朝、学校に唯一存在する喫煙室、利用者を減らすためか教員室から遠く離れたそこに同僚かつ飲み友の漢文担当の非常勤講師、
「ふっ、なんだと思う?」
「あ、別にそう言う反応は面倒なのでいいです」
「なんでー!?」
「ナナちゃんがそう言う反応する時大抵やらかすじゃん」
フランス人のハーフであり、考古学者を行う傍ら教師をするという移植の経歴を持つ彼女と石楠は、若干周囲から浮いている非常勤ということでしばしばこのような雑談に花を咲かせていた。
二人とも音楽を志す者の多いこの学校で珍しい喫煙者、ということもあり、喫煙所はほぼ二人の休憩所となるのが恒例だった。
そんな場所で、楽しげに石楠は笑い、懐からスマートフォンを取り出す。そこには、やたらと気合の入ったダンスを練習する自身の動画が映されていた。
「ふっ、見るがいいこのアイドル衣装早着替えかつ5連続ガチダンスを」
「うわっ」
「は? なんだ? 失礼か?」
「身長176cm25歳(自称)のアイドル衣装に引かなかっただけ偉いと思う」
────なお、実際の年齢は+500万年くらいされる。
「は? このナイスバディに父兄も釘付けなんだが? 甘ロリ趣味のミニマムボディオタクの僻みか?」
「無駄にでかいおっぱい(B120)揺らして一部の好感度と不埒とか不健全とかいう保護者のクレーム集めて楽しいか?」
「胃を痛める理事長と校長が面白いから楽しい」
紫煙とともに嫌味を吐き捨てる同僚に石楠は満面の笑みで答える。
「ウケる〜てか衣装どうしたのさ」
「作った」
「お値段幾らよ〜言ったら作ってあげたのに」
「キリコっち忙しいじゃん、一昨日くらいもインターpむぐっ」
石楠の口が有峰の手に塞がれる。そして、その直後に強烈なデコピンが炸裂した。
「待てや待てや待てやナナちゃん? 幾らここでもそれはダメ? おーけぃ?」
「ムグムグ(おーけい)」
「よし、じゃあそろそろ準備しなきゃでしょ? 早く行って新入生一同をドン引きさせてきな!」
「ふっ、見惚れさせてやるとも!」
「無理だね、あ、谷間見せんなよ! いたいけな新入生の家族の性癖壊れるからな!」
グッとサムズアップをして小走りで喫煙所を出る石楠を見て、ゲラゲラと有峰は笑い……石楠が見えなくなったところで、すっと笑みが消える。
「────さて、ステージ下と床に仕掛けたカメラは……流石にスパッツは履かなかったら後で叱ってやるか……」
悲しい哉。変な教師は、一人ではない。
リディアンの入学式はオーケストラなどを招く、或いは実際に学生たちが自らの技術を披露する場として作られた巨大な多目的ホールにて行われる。
有り体に言えばデカい体育館なのだが、構造としてはある程度縮小された武道館に近いだろう。
そして、小、中、高、それぞれの各種学科の新入生はこのホールの客席へ、在校生や来賓、校長は中央のホールに設けられたスピーチ台へ。
校長や来賓は前年との差も時事問題の話題以外変わらぬつまらない文言を並べ立てており、新入生の幾人かも舟を漕いでいる。
苦痛にも等しい退屈な時間が1時間ほど過ぎると、眠気を払うような鮮烈な音楽がスピーカーから放たれた。
在校生によるパフォーマンスの時間である、選ばれた音楽系の部や、芸能科の生徒による煌びやかな踊りや、巧みな演奏により新入生は大いに楽しむ。中にはこの日のためにペンライトを用意しているような子もいた。
『これが君たちの未来だ』と言わんばかりの誘蛾灯のような煌びやかさに、次の番を待つ七岐は微笑む。その笑みは少々の嘲りと慈しみを持った、複雑なものだった。
「キラキラしてるよねぇ、わかるわかる、まぁ大抵は自分がキラキラしてることに気づかずに終わるんだよねぇ」
人は誰だって生きているだけで輝かしいのだと、そう信じている言葉だった。だが、大抵はその輝きに気づけずに、世界の放つ七色の光に飲み込まれていくとも、彼女は思っている。
「と、真面目なこと考えるのは後にして……と」
(ふふふ、見よ! この学校行事でギリギリ許される露出度を! 一応肌色タイツだし!)
ちなみに、高速早着替えには種も仕掛けなく、液状化した肉体に衣装をしまい、着替えたくなったら表出させ、外側を引っぺ剥がすという剛力で解決している。
「ふっ、見るがいいいたいけな新入生達! よ、アホな大人による超絶技巧を──!」
意気揚々とステージへ走り出す石楠、本気を出したアホのオンステージであった。
────ちなみに、ダンスは超一流(ツヴァイウィングの振り付け担当)だった為、会場は普通に盛り上がった。
一部の父兄はダンスのたびに揺れる部位に釘付けだったり、しなかったり。
・有峰霧子
年齢:24歳
身長:152cm
体重:秘♡密
誕生日:3/31
趣味:ギャルゲ、エロゲ攻略、ロリータファッション収集
好きなもの:いちご牛乳♡/高身長女子
血液型:B型
備考:女の子が好き
世界一金髪ツーサイドアップの似合う成人女性(生徒談)としてリディアンに名を馳せる名物教員。教員としても優秀で1〜3年生全員の古文を担当しており、受験対策もバッチリと評判。
低身長なので、よく生徒に見下ろされているが、その辺の子供より自分の方が可愛いので別にいいと思っている。
ご先祖に伝説的大怪盗がいたり、枕元にワルサーが置いてあったり、居合の達人だったりするが、ただの一般人である。
……一般人である。
最近、ラ○スシリーズ最新作の発売で無断欠勤をした。
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いやほんと、久しぶりの本編です、マジでスランプだったぜ。
次は1920年代編かなーという感じもありつつ、リディアン入学後のあれこれもやりたい、時間が足りない。
ナナッキーこと主人公の体型は大体アズー○レーン(概念)だと思っていいです。人間じゃないからどんなにデカくてもいい。
人間じゃないからクーパー靭帯も切れないぞ!