流れゆく世界で、愛を謳う獣   作:鴉の子

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生活環境変わって忙しかったり、エルデの王を目指してたりしてたせいで遅れました……。



12話 Noisy Session/No Use in Crying!

 

 雲一つない青空、地平線近くに漂う白日からの陽光を受けてもなお、極寒の大気の中。まるで春先の陽気の中で街の中を歩くような気軽さで女が歩く。

 

 ここは南極、ボストーク湖中心部。現在気温-40℃の中、喪服なのか、黒いドレスに身を包んだ女、石楠七岐が一人、何故か凍ることすらない花束を抱えて佇む。

 

「やぁ、お母様。100年振りかな?」

 

 氷床の上に立つ、高さ2m程の黒い十字架。凍える風の中、一切風化する事なく、人が生まれたその頃から聳える未知物体(アノマリー)の一つとして、かつて南極を旅した数々の冒険家、あるいは研究者から、かつて磔刑にされた救世主のそれに準えて、こう呼ばれていた。ゴルゴダの黒十字(ゴルゴダオブジェクト)と。

 

「墓参りに来なかったのが100年くらい、いいじゃないか。どうせ何処にでもいるんだ、こういうのは気分の問題だろう?」

 

 十字架の下に花束を備える、一般的な、百合の花、オレンジ色のそれは少しの恨みを込めて。

 

「あんたのいなくなった世界は随分と楽しいよ。きっと、嫌いだと思うけど」

 

 十字架を撫でる、かつて、神が消えた日に作った墓標を。

 

「誰も彼も傷ついているし、全然いいことなんてないし、むしろ私が沢山傷つけちゃってるし!」

 

 にゃはははと、凍てつく風が吹き荒ぶ中、最初に造られた女が笑う。

 

「──────そろそろ、あんたみたいになる日が近いのかもな。……ああ、あとな、最近、面白い娘見つけてさ」

 

 煙草に火をつける、煙を吸い、吐き出す。ライターの炎は揺らぐことなく、パチンと閉じられるまで燃え続けていた。

 

「ヤドリギとトネリコで造られた、高き者の槍、その破片を心臓に受けて生きている。全くの偶然だけれども、その点だけでは()()()()()

 

 けらけらと鈴を転がしたような明るい声、まるで長い間会えなかった恋人に会うような、そんな声。

 

「私に人間(子供たち)を産ませたクソッタレのお母様。あんたはもう、本当に死ぬ。誰にも省みられることなく、たった二人の子供達だけに看取られて」

 

 吐き出された煙が、風雪に混じって消えていく。

 

「────心配するなよろくでなし、ついでに私も死ぬからさ。子供たちに嫌われてるのは、お前も私も同じだしな! ははは」

 

 雪原に笑い声が響く、空虚な、何処か悲しげな声が。笑い声は風に飲まれ、雪に消え、そして、女の姿も消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

「──編入試験?」

 

 ノーブルレッド達は、与えられた住居、高層マンションのペントハウスのバルコニーでBBQの準備を進めながら、突然の発言に首を傾げる。

 

「おう、ヴァネッサは好きな事してもらうとして、エルザとミラアルクにも学校通ってもらうから。あ、これ決定事項なので勉強間に合わなかったら脳に直接教科書のテキスト書き込んでやるから、よろしく」

 

 スキニージーンズに白いシャツ一枚のラフな姿をした石楠が煙草片手に言い放つ。

 

「は?」

 

「は? じゃないが? お前ら学校行ってないだろ?」

 

「いや、そうだけどよ……」

 

 肉を包丁で切りながら、串打ちをするミラアルクは困惑する。そもそも、目の前の女は一応、命の危機とか、クソみたいな環境から救って恩人ではあるが、勝手にこっちをボコボコにして完全な化け物の身体に進化させた奴である。

 

 お前ら正真正銘の怪物になったんだぜと教え込んでおきながら、普通の人間みたいに学校に通えとはどういう了見か、本当に意味がわからなかったのである。

 

「あ、化け物がなんで学校行くんだよって思ったな?」

 

「……いやまぁ、思ったけど。実際、行く必要ないと思うぜ?」

 

「だーめだーめ、そもそもお前らの大間違いを教えてやろう」

 

 ピッ、と煙草でミラアルクを指差して石楠は指摘する。

 

「お前達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……それは」

 

 ヴァネッサが言葉を濁す。それはあまりに身も蓋もない話だ。それが出来れば、苦労はしない、並外れた力や異形の形を持っているものがそう出来るはずがない。

 

「考えてもみろ? 銃で撃たれたら死ぬし、空も飛べないし、腕が取れても再生しないし、尻尾で高いところの物を掴めないんだぞ? お前達が今更人間に戻っていいことあるか?」

 

「いや、それは流石に暴論でしょう……」

 

 包丁で野菜を切りながらヴァネッサが理解できないと言う表情を浮かべた。

 

「何が暴論だよ、力があっても普通に暮らせたら別に文句ないだろー?」

 

「……それは、そうかもだぜ」

 

 ミラアルクの、怪物になる前の記憶が蘇る。なすすべもなく悍ましき拷問倶楽部の犠牲者に選ばれ、四肢を切り落とされ、モノのように売り飛ばされた日の事を。今ほどの力が有れば、あそこにいた下衆外道を皆殺しにすることも容易だったろう、と肉を串打ちしながら思う。それこそ、こんなふうに串刺しにして並べられたらよかったのに。

 

「そうそう、弱いと面倒ごとが多いんだから、今のまんま幸せに暮らせばいいのさ。という訳で失われた学園生活をエンジョイしなさい、9月ごろから編入な」

 

「こう、コネでなんとかなったり?」

 

「なりませーん、嘘、ぶっちゃけ裏口とか簡単だけどやらせてあげなーい」

 

「えー」

 

「えーじゃありません! お母さんそんな子に育てた覚えありませんよ! 見なさいエルザを、もう参考書探し始めてるからね!」

 

「だーれがお母さんだぜ、顔面ボコボコにしてきたくせに」

 

「教育でーす、嘘、ごめんちょっとは反省してる」

 

「ちょっとかよ! あ、炭に火つけとくと助かるぜ」

 

「着火剤ある?」

 

「そこにあるぜ」

 

「よしよし、あっやべ」

 

「のわ゛────!? 全部入れるとかバカか!? どうすんだぜこれ!?」

 

「しょ、消火!! 消化であります!」

 

 バケツに水を汲んでいたエルザが咄嗟に火にかけようとするが、石楠がそれを静止する。

 

「肉乗せちゃおうぜ、消すと面倒だし」

 

「折角の黒毛和牛を消し炭にするつもりなんだぜ!?」

 

「ふっ……ブラジルのギャングに習った調理法を教えてやろう、そーい!」

 

 そう言って彼女は燃え盛る直火の中にまだ切っていない肉塊を布で巻き。放り込み、大笑いする。しかも、慌てふためくエルザとミラアルクの二人を両腕で抱え込む始末である。

 

 わちゃわちゃとBBQの準備をしながら、将来の話について話し合う。ふと、3人の様子を見ながら、感慨深い思いがヴァネッサの胸に去来した。

 

 明日をも知れぬ化け物達が、もっと恐ろしい化け物に拾われて、気が付いたらこんな所で明日に怯えず暮らしている。

 

 なんだか、おかしくなってしまって笑みが溢れる。

 

「────ヴァネッサ、楽しいかい?」

 

 いつのまにか振り向いていた石楠の声が届く。いつものように、何処か遠くから見つめるような、優しい瞳がこちらを覗いている。

 

「ええ、昔よりもずっと」

 

「それはいい、人間やめた方が楽しいって言えるようになるのが一番だ!」

 

「……一番ではなくないかしら?」

 

「自分なりの幸せを見つけられたら一番! 難しいこと考えない!」

 

 脇に抱えたエルザとミラアルクを備え付けのプールに放り投げ、氷バケツの中に入れていたワインとグラスを手に取る。

 

「子供は焼けるまで水遊び! という訳でこっちは飲もうか」

 

「いいわね、どこのワ、イ……ン」

 

 

 

 ────その後、ワインのラベルを見て銘柄とその高価さにヴァネッサが卒倒しかけたのは余談である。

 

 

 

 

 

 BBQは恙無く終わり、石楠は帰路に着く。家、といっても世界中に住処を持ってはいるが、今の住まいはリディアンから程近い高層マンション最上階、“後輩”たちの住うペントハウスと同じデザイナーが建築したものだ。

 別に一軒家を買ってもいいのだが、『高いところに住むと夜に飛んでもバレにくいじゃん?』というのが彼女が高い場所を好む理由であった。

 

 家には至る所に無数の無駄な世界中の土産物、本物のシャーマンが彫ったトーテムに、由来不明の仏具や、シンプルに木彫りのクマなどが小綺麗に並べられている。

 どれにも埃はなく、掃除が行き届いているがどうしても雑多な印象が拭えない。

 

 リビング、ソファに寝転がりながら、TVから流れる映像をぼんやりと眺める。

 

 今日は行うべき授業もなく、暇な一日、“後輩“にちょっかいをかけるにはちょうど良い日だった。しかし、どうにもなにか嫌な予感がして早めに切り上げて自宅に戻っていた。

 

 ──────この嫌な予感というのは、高密度な情報流体で構築された、■■■■■としての高度な演算予測により弾き出される確度の高いものであった。

 

 無意識下で行われるものであれば、正確性は翌日の天気予報程度、との談である。

 

 つまるところ、大体は確実に厄介事が生じる。

 

 例えば、教え子の帰り道と、友人の危険な仕事がバッティングするとか。

 

『警報です、周辺でノイズが発生。近隣の住民は速やかに避難を行なってください。警報が解除されるまで、決して外に出ては……』

 

「おーやってら、最近派手だねどうも。フィーネの奴、またなんか……あ」

 

 石楠はカレンダーを見やる、風鳴翼CD発売日。

 

「…………………………やっば」

 

 周辺地図と、発生したノイズの分布をシュミレート、近隣のCDショップと下校からすぐ向かった場合の位置を導き出す。

 

「まずいまずいまずい、()()()()!」

 

 バルコニーへ飛び出し、地上63階の高さから迷わずに飛び降りる。

 

 ──────最速到達可能時間、演算。条件付け:周辺被害少。全部武装を省略し、空間制圧型殺戮形態(レイジング・グランティ)への変形が最適と判断。

 

()()()()()()()()()が最適解を算出する。聖遺物としての、最も冷静な部分。

 

「場所見つけるの合わせて、2.43秒。んー……多分死なないな、これ」

 

 自由落下で生じる風が頭を冷やす。落ちながら、全身が黒い粘性の液体に変わっていく。泥と呼称されるそれは、次第に形を変化させていく。

 

 背には翼竜を思わせるような羽と、現代的な戦闘機のような推進器の噴出口が。腕と、足は、竜のような爪が形成される。

 

「騒音注意だ、勘弁してくれ!」

 

 きゅおん、と甲高い音が鳴り響いた次の瞬間、青白い光を吐き出しながら加速する。

 0.001秒で音速を突破、物理法則を蔑ろにするような加速で全てを置き去りにする。

 周辺大気を対象とした高度な流体制御により最低限度、街を破壊しない程度に衝撃波を抑制したため本来のスペックの十分な加速は得られなかったが、近場の救助にはあまりにも過剰な速度であった。

 

 だが、都市上空を超音速飛行し、予測より随分遠くまで逃げたことに驚いた2.67秒後。

 沿岸部、工場地帯にて対象を捕捉、救助に入ろうとした、その瞬間。

 

 

 

 歌が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「──────── Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 

 

 

 

 

 

「──ズルいぜ。私の英雄ちゃん」




空間制圧型殺戮形態:レイジング・グランティ
要約:FGOのメリュジーヌ(本来なら大量のミサイルポッドなどがついてたりする)


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