「という訳でこれが今回のお土産だ」
「儂、確かに面白いものとは言ったが、ここまで妙なものを連れてくるとは思わなんだ」
イタリアの騒動からしばらくして、石楠は鎌倉、風鳴邸にて風鳴訃堂の目の前に石楠の髪で編まれたワイヤーでグルグル巻きにされたノーブルレッドを転がし茶を啜っていた。
「何がという訳でだ!? 人を簀巻きにして勝手に話を進めるなだぜ!?」
「はいそこの吸血鬼、今解くから文句言わない。あと、お前達の立場を保証するにはこれが一番いいの、わかったらそこでションボリしてるわんこと、あらあらみたいなツラしてる奴と一緒に静かにしてなさい」
「わんこじゃないのであります……」
「私、あらあらって顔してたの……?」
こうなった顛末として、まずイタリアの騒動でノーブルレッドの3人を鎮圧した石楠がアダムに対してこんな会話をしたことが始まりであった。
『アダム、これ貰っていい?』
『構わないさ、別にね。ああそれと持って帰るのなら、外した方がいいと思うね、発信器は』
ノーブルレッドの体内には襲撃を支持した者の手によって発信器が埋め込まれていた。少々手荒な手段(素手)でそれを摘出されたそれは細かく調べれば米国の手によるものであるというのは明らかだった。
そもそもノーブルレッドに稀血とそれを輸血する環境を与えていたのは誰だったのか、そしてヨーロッパで騒動を起こしアダムとフィーネの両方の邪魔をする存在は現在エリア51を拠点としている米国の研究機関の
異端技術を扱う連中の中でもロスアラモスを拠点とするF.I.Sとは一線を画す、異端児とも言える狂気の集団、米国政府ですら完全な制御が難しい獅子身中の虫ともいえる彼らは世界中にその手を伸ばしていた。
パヴァリア光明結社による大規模粛清の混乱に乗じて非道な錬金術師の元から逃げ出した彼女たちはイドフロントの末端の仕事をさせられていた。
そのためあらゆる社会的な身分を持っておらず、そのままでは石楠が計画している“弄ってワクワク化け物もどきを本物にしてあげよう作戦”(命名:本人)をやるどころではないと判断した。そして彼女はその時80年来の友人、風鳴訃堂にお土産を持っていく約束をしていたことを思い出し、厄介事を任せることを思いつき現在に至る。
「で、施術が終わったらお前の好きに使っていいからさ、身分とかよろしく」
「うむ、承った。ちょうどこちらで使える人員も少なくなっていたところだったので喃、鶴咲の
「あの白髪頭ならいくらこき使っても倒れなさそうなもんだが……まぁいいや、とにかくよろしく」
「む、待てい石楠、そこの娘達の名は?」
「だってさ、ほら、自己紹介」
「……ミラアルクだぜ」
「エルザであります!」
「ヴァネッサよ」
「なるほど、良い名だ。ところで今晩一緒に食事でもど「ふんっ」甘いわ!」
一瞬で繰り出された石楠渾身のドロップキックを片腕で止める訃堂、齢100歳をゆうに超えているというのに腕の筋肉は鋼で編まれたかのように太い。
「このクソガキャア! 何人女口説きゃ気が済むんだ!? そのせいでアホほど八紘が胃を痛めてんだぞ!」
「フハハハハ! 男はいつであろうと美人を手にしたくなるもの! そしてこの儂は女に無理を強いたこともない紳士! 恥じることなどあらぬわ!」
二人のアホらしいやりとり、その裏で畳が割れて、障子が吹き飛ぶ惨状が起き、ノーブルレッドの3人は庭へ数人の家政婦と共に逃げ出していた。
「……私達、こんなのについてきて大丈夫なのでありますか……?」
「ま、まぁ大丈夫だぜ! 多分……」
「大丈夫よ、きっと。あの人、私達と同じだから」
ヴァネッサ達は敗北の後、石南と語りあった。『本物の化け物になる気はないか?』という誘いの真意や、なぜそこまで自分たちに肩入れするのか。
そう問うと石楠は『え、だって見てられないでしょ。 化け物が人間になりたいなんてさ、私も同じ事したけど辛くなるだけだぜ?』とだけ答え、詳しいことははぐらかしていた。しかしそのセリフは本当に信じられるものだとノーブルレッドの3人はなぜか確信していた。
当たり前のように“お前たちのしていることは辛いことだ”と断言するその様子は誤魔化しなどではないと確かに感じられたのだ。
「でもなぁ……あれ、どうするんだぜ?」
「止めに入ったら間違いなく死ぬのであります」
「んーお茶でも飲んで待ってましょうか」
「「賛成(だぜ)(であります)」」
自らを化け物の道に誘った張本人達が、大砲を撃ち鳴らしたかのような轟音が響き渡らせながら生身の拳をぶつけ合って戯れている様子を見ながら、暫くは話が進まなさそうだと3人は諦めていた。
「ぜぇー……ひゅー……また……腕を上げた喃……」
「お前が老けたんだろクソガキ……変身してないから疲れた……」
「あの、石楠? 終わったのかしら……?」
1時間後、息も絶え絶えで畳の残骸の上で寝転がる二人に近寄るヴァネッサ達3人。
「ん? ああ、ヴァネッサか、このバカの相手で話が止まっちゃったか、ごめんな」
「いえ、いいのよ、それで結局私たちはどうなるの?」
「殴り合いながら話したけど、風鳴が用意した一軒家に住んでもらうことになる、監視はつくけどな。その間に戸籍や諸々の手続きが済むのに一月、その間に施術を受けてもらうことになる」
「施術?」
「あー詳しくはそろそろ専門家が来るから、そっちに聞いてくれ……疲れた……」
「はぁ……?」
石楠がそういってゆっくりと立ち上がると、まるでタイミングを図ったかのようにいつのまにか直されていた障子戸が音を立てて開かれる。
「はぁーい! 呼ばれて飛び出す天才科学者櫻井了子とは私のことよー! 待った?」
「うわ」
「次その反応したら鼻の穴にレーザーメスねじ込むわよ」
「……すまん」
そこに現れたのはおそらく現在の地球上で最も異端技術に精通している科学者、櫻井了子もといフィーネであった。
「ふむふむ? なるほどなるほど……ああ、だからあなたが連れてきたのね」
「さっすが、見るだけでわかるか」
「当たり前よ、貴方で見慣れてるしね。さてじゃあ施術をついて説明するわね。まぁ簡単に言うと、血液を全部そこの寝転んでるのに流れてる血と交換するだけなんだけど」
了子の説明する内容は至極単純なものであった。要するにノーブルレッドの達の欠点の全ての原因は、肉体に使われているパナケイア流体が本物のパナケイア流体、かつてのあらゆる生物に適合する体液として開発され、生体型の聖遺物に汎用的に用いられた物の紛い物であるからということ。
本当のパナケイア流体自体の生成法は確立しているため、入れ替えは簡単だがいきなり全部を入れ替えるのは肉体の負荷的にも体内に入れてから置換されるスピード的にも無理であり、よって完全に治癒されるのには半年程度になるということ。これらを簡潔に丁寧に伝えられた3人は皆一様に喜びを示していた。
「つまり……私たち、もう何にも縛られずに生きていけるってこと……?」
「そうね、稀血を輸血する必要はなくなるわ、ただ、身体の性能はよりコンセプト通りになっていくでしょうね」
「つまり、より人間から離れていくということでありますか?」
「ええ、どうなるかはやってみるまでわからないけど、じゃ七岐ー連れてくから来なさいな」
「ん」
フィーネの声に石楠が立ち上がると、同様に先ほどまで倒れていた風鳴訃堂も起き上がる。吹き飛んでいた座布団を拾うとその場に座り込み、グッと伸びをしたかと思うと何かを思い出したかのようにフィーネとして所有するラボに向かおうとしていた一行を呼び止める。
「ちょっと待てい、少し二人で話がしたい、少し外に出てくれるかのう?」
「ん? ええ、いいわよ。じゃ七岐、先に向かってるわ」
ノーブルレッドの3人を連れて了子は屋敷の外へ出る。確実に荒っぽい運転に巻き込まれる3人の若干の不運を石楠は少しだけ悼んだ。
「それで
石楠は未だにかつての日本にいた時の旧い名前で呼ぶ彼に苦笑しながら振り返る。
「昨日会った分にはあんまり変化はないかな、奏がしばらく戦えなさそうな程度に負担をかけたことには落ち込んでるけど、致命的ではないとは思う」
「そうか、ならば良い。あまり落ち込んでいるようなら休暇の一つでも取らせてやりたいがそうもいかんし喃」
「あの子は仕事してる方が色々誤魔化せるタイプだとは思うがね。ま、
心配ならたまには自分から会いに行くこったな」
「カカカ! バカを言うな、ただでさえ自らが微妙な立ち位置なことはあの娘も気づいておろう。だから八紘に預けたのだ、あれに任せて居れば心配ない」
「お前の話をしてんだよ、死んだ
翼を生んだ数ヶ月後に亡くなった彼女の母親の名前を出すと、訃堂は渋い表情を浮かべた。
北条早苗、20年前風鳴訃堂という男がアメリカ諜報部との異端技術を巡った大騒動を引き起こした際、紆余曲折あり結ばれた、彼が当時既に亡くなっていた妻以外で唯一子を作った女性である。
「ふん、相変わらずお節介な化け物だ喃、お主。そこまで言うなら、手隙を見つけて土産でも持っていくことにするか」
「そうしておけ、姿見せればあの子も少しは元気出すだろ」
「うむ、ああそれと、最近米国の動きが妙なことは知っておる喃?」
「ああ、知ってる……というかこいつらがそうだった」
ノーブルレッドの三人を指差す石楠。
「こちらでもネズミ数匹が紛れ込んでおった。これは儂の勘じゃが、面白いことになるぞ? おそらく、世界を巻き込んだ何かが起こる。いやなに、最近はノイズばかりで人間はつまらんと思っていたが、中々楽しめそうなことになりそうとは思わんか?」
「お前もそうか、80年前とどっちが楽しめるとお前は思う? 私は多分お前と同じ感覚だと思うけど」
かつての大戦期、異端技術を巡って起こった血みどろの暗闘。その真っ只中で戦った二人の(彼らにとって)愉しい事を見極める嗅覚は同様の結論を出していた。
「恐らく今だ喃。儂も久々に動くかもしれん」
「だよなぁ、こっちの事情も込みだが、色々ありそうだ。 じゃ、その時はまた遊ぼうぜ、訃堂」
荒れ果てた広間を石楠は後にする、煙草に火をつけて屋敷を出る。いつの間にか出発してしまっていたノーブルレッドやフィーネ達の後を追いかけるか、と自前の車に乗り込み、エンジンに火を入れた所で携帯に連絡が入る。
『施術開始しちゃったから別に来なくて良いわよ〜護衛も要らないわ』
すぐさま返信を返す。
『貧弱科学者一人を獣の群れの中に? 冗談』
『もう
『……暫くして、裏切りの心配が無くなったら外すからな。マジで』
『やっぱりこういうのは嫌い?』
『もち』
携帯を閉じ、無くなってしまった予定をどう埋めるかを考え始める。やるべきことはなく、やりたいことも特に思いつかないとなると、定番なのは喫茶店か。そう決めると、車を走らせ行きつけの喫茶店に向かう。鎌倉の風鳴邸から車を走らせること暫く、リディアンの近く、学生達も時々勉強しにいくような静かな喫茶店に石楠はいた。
店の名は『まいるす』、店主の
「いらっしゃいませ……おや、石楠殿ですか、お久しぶりで御座います。お元気でしたか?」
「元気も元気さ、
「かしこまりました、ではいつもの席を空けておりますので、どうぞ」
片側に流したウェーブのかかった白髪に名家の執事のような佇まいをした一人の、老人が石楠を出迎える。彼が店主の花刃壊牙、齢94でありながらその佇まいは老いを一切感じさせず、手慣れた様子で珈琲を入れる。
その間にカウンターの一番端、店の最も奥、彼女の特等席に移動する。
平日の午前、昼時にはまだ早く、客も少なく軽快なジャズのレコードが流れる店内で石楠は用意されていた灰皿を傍に置き、紫煙を燻らせる。
「今日のブレンドコーヒーで御座います。今日の豆は少し酸味が強いので、気に入って頂けると」
「ん、ありがと。……うん、相変わらずコーヒーはここが一番だ」
「こちらこそ、いつも御贔屓にしていただいて有り難い。お陰様か、喫茶店にいる美人の噂で客足も増えまして」
「噂っつうか怪談だろ、あれ? 何年も姿が変わらない女の幽霊が喫茶店に出る〜って、まぁ幽霊じゃないの以外は正しいけどさ」
長年生きていて全く姿が変わらない女が通い詰める喫茶店、確かにオカルト好きには格好の餌食になりそうな店である。アホらしいと煙をため息と共に吐き出す。
「ホッホッホッ
壊牙はそういって小皿に乗った数枚のクッキーを渡す。それは小麦粉と卵、砂糖だけで作られたシンプルなクッキーだったが腕がいいのか珈琲に実に合う味であった。
「ああ、忍華か、最近は仕事も少ないだろう? 暇してるんじゃないか?」
「いえいえ巷の
「あー……すまん」
「……貴方も微妙な立ち位置で御座いますね、本来であれば間違いなく
「……段蔵には悪いと思っている」
「そこまで七岐殿が気に病む必要は御座いません。緒川家に義理を通す必要もあります」
「だが、それはそれとして、私を殺したいのはそうだろう?」
「ええ、理由はどうあれ無辜の民を脅かす者をブッ殺すのが我々の役目です故、ですがかつて長が敗北し、約定を結んだ以上、こちらの手出しのしようも御座いません」
日本の忍びには二種類いる、一つは緒川家を本流とする飛騨出身の隠忍の末裔。
関ヶ原の合戦以降その姿を消していたが、明治維新の後、日本政府に仕え、国家転覆を企てる国内外の敵と戦い続けた、いわば国家の暗部を一身に背負った存在。
そしてもう一つ、徳川の世、御庭番衆として太平の世を守るため、あらゆる悪人、怪異を抹殺した神賽段蔵率いる忍び衆、“暗刃”。
しかし先の大戦で、異端技術を巡った戦いの中で罠に嵌められその殆どが壊滅、しかしその後独自の戦闘技術を立ち上げた彼らは現代に何者にも仕えず人々を闇から守る忍びとして蘇った。無論ノイズを使役し、災禍を広げている石楠やフィーネらも彼らに命を狙われる対象ではあったが、かつてある一件で暗刃の長と争い、これを打倒した石楠が結んだ不可侵の約定が結ばれた。“お互いは決して敵対せず、またどちらかが窮地に陥る時のみ協力をする”という契約は忍を殺すことを望まず、本質的には人々を好んでいた石楠に対する信頼でもあり、暗刃を存続させるための保険でもあった。
「ようやくなんだ、それに、
「ええ、今の貴方はただの客で、私も喫茶店のマスターで御座います、それに貴方方のやる事は
「そうか、ん、灰皿交換してくれ」
「かしこまりました……おや?」
普段客が来ないこの時間に珍しくドアベルの音が鳴り響く。しかし奇妙な事に、互いに長身の二人の視界には入ってきたはずの客が見えなかった。はて、と二人が視線を下げると転がり込むように入ってきたのは一人の少女。
少女は頭に怪我を負っているのか、額からだらだらと血を流している、足取りはふらついており、数歩歩いたと思うとパタリとその場に倒れ込んだ。
「…………妙な縁だなぁ」
「言ってる場合では御座いませんな、すぐに手当てを」
「頼んだ、多分、知り合いだ」
ライブ会場の災害、その騒動の中生き残った者たちの中で最も印象に残っていた少女。名前は知らないが、胸に刺さる神殺しの残滓の気配は間違いなく同一人物であると石楠に告げていた。
「……額を切っているが命に別状はなさそうだな、倒れたのも脳震盪程度だ、脳内の出血はない、
「でしょうな、止血と消毒で十分でしょう。しかしこれは……投石による怪我でしょうか」
「あの事件の生き残りだ、この子がこうなったのは私のせいだな」
「────そうで御座いますか」
「謝らないぞ、それこそ私が死ぬしかない話だ」
「ええ、ええ、この壊牙、貴方のしていることは知っております故、憤ることもありません」
「ただの気休めだ、私が死ぬべき者な事には変わりないよ」
「いいえ、それでも。貴方は人がお好きでいらっしゃいますから、だから長も貴方を許しておいでなのです」
ライブ会場の惨劇の残した傷跡は大きい、被害はかなり抑えられたとはいえ、総死者数およそ6000人弱、逃げ惑う混乱の中で死んでいった者たちの遺族の怒りや、それを利用したマスコミの煽りを受け、生き残った人々への風当たりは厳しい。エスカレートした嫌がらせにより目の前の少女はこのような怪我を負って、たまたま目の前にあったこの場所に逃げ込んだのであろう。
無論、石楠はそういった相互不理解をも好むため、基本的にあまり何か罪悪感を感じることもないが、それはそれとしてあまり二次被害で人が死んでしまうのも本意ではなかった。長年溜め込んでいるだけで腐らせていた数々の財産、主に不動産や、骨董品、幾つか所有している後ろ暗い組織からの上前、それらの何割かを投入して雇用確保や、生活圏の移動など生還者への支援を行っていた。
それは石楠の個人的には個人の理不尽な情動は面白いので、特に迫害を止める気もないが、理由なく石を投げられる気持ちは
「──まぁ、気付くまではそういう事にしておきます哉」
「? なんだ、含みのある言い方だな」
「いえ、気のせいで御座いましょう」
「……そうか」
「とにかく、この子を寝かせてあげます哉。スタッフルームなら空いております故、そこに」
壊刃がカウンターの裏の扉を開ける、少女を抱き上げた石楠は中に入ると、大きめの簡素なソファーに少女をそっと横たえる。
「起きるまで私が面倒見るよ、暇だしね。ああ、それとさ、一つ提案があるんだけど」
「はい?」
「この子にあれ教えてよ、“暗刃”」
「────冗談にしては、笑えませんな」
帝都に潜む忍者、その名を冠する基本にして最強の拳、“暗刃”。かつての大戦後、物資の不足によりなす術なく外敵に貪られ、著しく数を減らした帝都の忍びが編み出した最強の殺人術、弾丸を模した象形拳を気の遠くなるほどの修練により磨き上げ、音速を超え、あらゆる現代兵器を超える刃へと研ぎ澄ます。その過酷な訓練とあまりに高い目標から才無き者は全て殺されると言う闇の刃、それが暗刃であった。
「いいや、本気も本気。多分ねぇ、この子、これから始まる色々に関係しそうな気がするんだよ」
少女の胸の中心、胸骨が存在するはずの部分をそっと撫でる。指先から伝わる感触は“同類”の気配、かつて己とミーミルか共に旅をした片目の神の持ち物、その残滓。
(稀代の名工、イーヴァルディの造りし槍、その破片、しかも見事に溶け合っている)
永い時の中、人間を見続けた獣の感じる僅かな予兆。
「この子、きっと化けるぞ? まぁ、話半分でもいいさ。 続きはこの子が起きてからだ」
「……この娘になにが降りかかると言うのです」
「さぁ?
「曖昧な……才覚のない者に暗刃を教えることは出来ませんぞ、修められなければ殺すが定め」
「あっはははは、随分古い脅し文句だ。お前がノウハウの構築ちゃんとしてるの知ってるんだぞ? それに、多分大丈夫さ。ダメだったらダメで私が貰うよ」
「……この子は、ただの子供で御座いましょうに」
「
慈悲深い笑みで、凄絶な感情を滲ませて石楠は言い放つ。
「この子はきっと必要になる、
「────長の次に付き合いの長い貴方です、そうなったらテコでも動きませんな。わかりました、同意が得られれば基礎の修練だけは確約しましょう」
「ん、すまない」
「いえ、無茶振りには慣れておりますから、では」
壊牙が部屋を出て、扉を閉める。片付けているのか、扉の向こうからはカチャカチャとカップの鳴る音が聞こえてくる。
静かな部屋の中、魘されている少女の頭を撫で、大昔に習った子守唄を歌う。親烏が山に帰る、たったそれだけの光景を唄うその曲が石楠はなんだか好きだった。
「さて、君はどうなるんだろうな? 出来れば、幸せになってくれると楽しいが」
だってほら、悲しい英雄譚は嫌いだろう?
ポツリとこぼした独白が、虚空に消えた。
忍者と極道はいいぞ(好きなものは放り込んでいくスタイル)