流れゆく世界で、愛を謳う獣   作:鴉の子

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真剣(マジ)遅れて謝罪(スイマセン)ッ!!!!!
ちょっと短いですが帰って来ました……


5話 萌芽する閃光、引き裂くは翳りか?

 どうして、世界はこんなにも不条理と不理解に満ち溢れているのか。まだ幼い心と、幼い肉体にはまだ納得も理解も出来ないだろうな、と石楠は少女の薄く金色がかった髪を撫でる。

 フィーネは多分、こういうのは嫌いだろうなだなんて感想がふと浮かんできた。あれは真面目にすぎるから、こういう事を愉しむ度量が存在しない。まぁそれは可愛げでもあるが、少しつまらないのは確かであった。

 

「……んぅ? あれ、ここは……?」

 

「ん、目が覚めた? お嬢さん(未来の英雄)

 

「あ、えっと、私……」

 

「怪我をしてこの喫茶店に逃げ込んできたのが大体数時間前、クラクラしたりとかはしない?」

 

「は、はい、あの、すいませんご迷惑お掛けして……」

 

 コートの内ポケットから眼鏡、もちろん伊達を取り出してかける。これは教師という役割(ロール)に精神を切り替える一種の儀式のようなもので、無垢な子供相手や、初対面の人間と会話するのに必ず行うルーティーンであった。

 

「子供がそんなこと言わない、子供は大人を頼るものなんだから、遠慮しなくていいの。何があったの?」

 

 努めて普段の高圧的とも取られかねない態度は抑える。この場にフィーネがいたら間違いなく大笑いしていただろうな、と益体もない事を思い浮かべた。

 

「えぇと、その、転んじゃって、あははドジですよね」

 

「はい、嘘つかない。転んでつくような傷じゃないでしょ、石でも投げられた?」

 

「…………はい」

 

「やっぱり、いじめ?」

 

「……」

 

「ああ、いいのよ言いづらかったら。ごめんね、そうだ、コーヒーでも……無理か、コーラとかどう?」

 

 無理に聞き出して嫌われるのは困ってしまう、これでも嫌われると傷つきやすいタイプなのだ。壊牙が持ってきた瓶のコーラの栓を指で開ける、コップに注ぐ。

 

「ありがとうございます……その、実は」

 

 ぽつり、ぽつりと少女は事情を話し始める。自分の名前は“立花響”であるということ、ライブ会場の事故から生還し、そのせいでいじめを受けているという事。家に居づらくなり、外に出て当てもなく歩いていたところを石を投げられ気がついたらここに居たということ。

 

「なるほどね……響ちゃんか、家は近いの?」

 

「ちょっと離れた所に」

 

「そっか、最近学校は行けてる?」

 

「いえ……未来にも、あ、私の親友なんですけど、その子にもあんまり会えてなくて……未来、今頃何してるのかな……」

 

「そっか」

 

 見たところ中学生、予想通り生還者に対する世間の迫害の被害者。しかし、彼女の()()()()()()()()、理不尽に苛まれながら傷ついた心身の奥に、確かに光が見て取れる。

 なるほど、勘は外れていなかった。なら早急に手元に引き寄せて、巻き込んでしまった方がいい、それに奏も無事を知ったら喜ぶだろう。

 

「響ちゃんと未来ちゃん来年は高校?」

 

「え? はい、そうですけど……」

 

「そうね、なら学校が辛いなら行くのはやめちゃいなさい」

 

「えっ? で、でも……」

 

「義務教育なら卒業させてもらえるし、高校からうちの高校に来るといいわよ、全寮制だし。知ってる? リディアンって」

 

「あ! 知ってます、ツヴァイウィングの翼さんが通ってる高校!」

 

「そうそう、私そこの教師やってるの。勿論、試験でズルとかはさせてあげられないけど、受験に間に合うように勉強教えるくらいなら出来るから、この喫茶店に来るといいわよ。店主も私の知り合いだし、はいこれ私の連絡先」

 

 懐から名刺を出し、手渡す。何種類かある名刺のうち、一番表向きの考古学者兼リディアンの非常勤講師のものを選んでおく。

 

「えっと……その……私、お金とかないですよ……?」

 

「────あ、そうか急にこんなこと言われたら詐欺だと思うか、普通」

 

 いきなり話を進めすぎて警戒されてしまったらしい、ならばこういう時は日頃の行いというものがモノを言う。二課に裏で手伝ってもらったノイズ被災者支援のためのNPO法人の名義で作っておいた名刺も渡しておく。国とも提携している極めて健全な組織の役員と言う名義はこういう場合では極めて便利である。

 なお、実態は石楠の使い道のないポケットマネーを人道的に有効活用してもらおうという身も蓋もない組織であり、そのため本人は金を出資、信用できる人間に実務を任せてノータッチという有様で、役員という肩書は実質飾りだった。

 

「こういうこともしてるからさ、放っておけないのよ」

 

 あながち嘘は言っていない、真実を明かしたとはとても言えないが。

 

「あ、ここテレビで見たことある……」

 

「そ、ネットで調べたら国のHPにも載ってるわよ、顔写真含めて。詐欺とかじゃないから、不安なら親御さんと一緒に決めなさいな」

 

 普段の口調を出来る限り隠し、丸くしようとするとフィーネ(了子)の口調が混ざるな、と石楠は内心で苦笑する。

 

「えっと……いいんですか? なんだか色々して貰っちゃうみたいですけど……?」

 

「ん? いいのよ、趣味だから」

 

「しゅ、趣味……」

 

「本当本当、歩ける? なんなら家まで送るけど」

 

「えっと……お願いします……そもそも此処、どこだかわかんなくて」

 

「あらま、迷子か、お家の住所とかわかる?」

 

「あ、はい」

 

 石楠が話を聞くと、意識が朦朧とした状態でフラフラとしばらく歩いていた為かいま自分がどこにいるかをわかっていなかった。

 幸い、住所はわかっていたため、送ることに問題はなかった。

 

「あ、でもヘルメット無いかも」

 

「そう言うと思いまして、こちらに」

 

 いつのまにか部屋に現れた壊牙がヘルメットを手渡す。

 

「……予備あったのか?」

 

「いえ、少しばかり疾走(ツッパシ)って参りました。あ、お代は頂きますので」

 

「おう、あ、そうそうさっきの件」

 

「……まだ良いでしょう、護身術の(てい)で基礎の修練を積みませんと」

 

「ん、まぁそうだな。ま、好きに頼むよ」

 

「ええ、気楽に教えるというのも中々ない経験で御座いますから。かつては習得できぬ者の扱いはそれはもう酷いものでありまして」

 

「ああ、修められなければ死ぬって奴? 今時流行らんぞ」

 

「ええまぁ、最近は緒川の方にも技術だけだからお伝えしてはおりますが

 

「ま、技だけ教えたって習得できる訳じゃないしな。ま、気長に頼むよ」

 

「ええ、忍華嬢にも同年代の友達が欲しかった所ですし。ちょうど良いでしょう」

 

「まだ友達いないの? あの娘」

 

「いる、事にはいるのですが……」

 

「ははーん? 男か」

 

「まぁ、そんなところでして」

 

「ようやくそんな時期か。 ま、いいやまた来るよ」

 

「ええ、お気をつけて」

 

 流麗な所作でお辞儀をし、見送る壊牙に手を振りバイクに跨る。後ろに乗った響に胴を掴んで離さないようによく言い含め、アクセルを鳴らす。

 

「よし、あ、飛ばすから気をつけて」

 

「へ?」

 

「喋ると舌噛むぞ、そーれっ」

 

 石楠の愛車、市販の大型スポーツバイクに数々の改造を施した、静止状態から時速100kmまでの加速時間僅か2秒のモンスターマシンが唸りを上げ加速を始めた。

 

「ひえっ!? うえええええ!?」

 

「ひゅーう!」

 

 道交法を全く無視したスピードとコース取りで目的の家へバイクは向かう。無論コーナリングは脚が擦れそうな程スレスレである。

 

「せ、石楠さん!? 信号!!」

 

「うん? 大丈夫大丈夫」

 

 石楠は()()()()()()脳にあたる部位で発生させた電磁パルスを架空炭素と位相境界面接合体で編まれた髪の毛を通して信号の切り替えを制御するユニットに干渉する。

 歩行者や走行している車が事故に遭わないよう、必要最小限の干渉で、自身が通るタイミングをちょうどよく青にするように演算、実行、これを数度繰り返し、計算通りにバイクの巡航速度を落とさないよう運転すればずっと最高速でいられるという理屈である。

 無論それだけで通れない障害もあるが、そこは運転テクニックでどうにかする。()()()()()()()()()()()()()()()()()()が事故を起こす可能性など無いに等しいので道交法は守りたい時に守れば良いという理屈であった。

 

「ほんとに大丈夫なんですかぁ!!?」

 

「少なくとも良い子は真似しない方がいいぞー」

 

「答えになってませんよ!」

 

 そうして公道を駆け抜けること十数分。二人は響の家にたどり着いた。

 そこはどこにでもある一軒家だったが、無数に貼られた不細工な貼り紙と落書きは不格好で少しばかり不快になるが、とりあえずは響を送り届けることを優先する。

 チャイムを鳴らすが返答がない、出払っているのか()()()()()()()()

 

「鍵持ってる?」

 

「あっ、あります」

 

 鍵を開け、響を家に戻す。両親は泣きながら彼女に駆け寄ると抱きしめた。その様子を笑顔で石楠は眺める。しばらくして落ち着くと立花夫妻はしきりにお礼を言う。恩と負い目を感じている、こういうタイミングが物事をゴリ押しするのには良いということを経験則から知っていた。

 

「ええと私こういう者なんですけど〜」

 

 伊達に長生きしているわけではない全力の営業スマイル。名刺を渡し、学校での諸々などを鑑みて支援をするという旨を懇切丁寧に解説、最後にお金はいらないということなどを伝える。返事は後でいいとは言っておいたが、反応を見る限り少し相談するだけで翌日には連絡が来るだろうということが石楠にはわかった。

 

「わかりました、少し家族で検討してみます」

 

「ええ、勿論、もし断られても何かしらで支援はさせて頂きますのでよろしくお願いしますね。じゃあ私帰るから。響ちゃん、じゃあね」

 

「あ、えっ、もう帰るんですか? お茶とか……」

 

「いいのいいの、いきなり押しかけちゃってるしね。それに用事もあるから」

 

 席を立ち、そそくさと家を出る。深々とお辞儀する響を横目に石楠は軽く手を振ると家を出た。ドアを閉め、外に出れば再度くだらない落書きや貼り紙が溢れているのが視界に入って来る。どうせ目に入っちゃったんだし、と紙を全て剥がし落書きはこっそりとペンキだけを極小の繊維である髪を使って削ぎ落とす。一通り片付け、両手いっぱいになった紙をくしゃくしゃにゴルフボール程まで圧縮しポケットにねじ込んだ。

 

「よしと、ゴミ掃除はスッキリするな、うん」

 

 いい気分になった石楠はぐっとノビをしてバイクの所に戻ると異変に気付いた、ピカピカに磨いていたボディが小一時間置いていただけでカラースプレーの餌食になっていたのである。

 

「……………………」

 

 ギリィと埒外の力でタングステンより硬い歯を噛みしめる音が周囲に響く。犯人はすでに逃げ去ったいるがそんなことは関係なかった、スプレーの渇き具合からまだ遠くには行っていないことを把握すると周辺に漂う匂いを辿った。シンナーの混じった体臭を確かに嗅ぎ分け、緩やかな足取りでそれを追っていく。辿り着いたのは小さなアパートの一部屋、部屋の奥からは確かに人のいる気配がする。間違いないな、と石楠は周辺の建物の監視カメラを一時的に信号を弄ったのと同じ要領で機能停止させる。

 

「お邪魔するぞ」

 

 ドアノブを小枝を折るようにへし折り、柔らかいスポンジを貫通させるように金属扉に指をねじ込んで開く。

 部屋の中を覗き込めば、突然の出来事に驚いた男女二人組の姿が見える。ふと、足元を見ると玄関には使用した跡のあるカラースプレが二本転がっていた。

 

「な、な、なに……!?」

 

「ん? ああ、さっき私のバイクに落書きしたのってお前達?」

 

「え、あ、いや……えっと」

 

「ああ、混乱してるみたいだな? じゃあこうしようか」

 

 そう呟いたその時、長髪がまるで生き物のように蠢いた。瞬く間に部屋にいた二人を縛り上げ拘束し、数本がそれら片割れ、女の頭蓋を貫通して脳の記憶領域に接続される。

 

「ひっ、あっ、ぎっ……!?」

 

「ああ、動かないでくれ。もし冤罪だったら無傷で返さなきゃ……ああ、もういいやなんでもないよ」

 

 嬉々として愛用のバイクに落書きをする二人の記憶を読み取ると脳内に挿していたそれを引き抜いた。拘束は解かないまま土足で部屋に入り込み、冷蔵庫から適当な飲み物を勝手に持ち出し、ソファーに座り欠伸をしながらそれを飲み始める。

 

「ああ、勝手に貰ってるよ。悪く思わないでくれ。 ん? 『どうしてこんな目に?』って顔をしてるな、聞きたいか?」

 

「ば、化物……なんで、なんでこんな、ちょっと落書きしただけで……」

 

「ああ、よくわかってるじゃないの。私の物を勝手に汚したね?」

 

 脚を組み、ケラケラと笑いながら石楠は答えた。女の方は怯え切っているのか、プルプルと震えて何も喋らない。

 

「そ、それは、そうだけど……でも、あんな家に来る奴だし「ちょっとくらいやっても怒らないと思った?」ひっ」

 

 突然立ち上がり、ニコニコと怖気すら感じる満面の笑みで石楠は男に近づいていく。頭をギリギリと音が鳴る程度に優しく掴むと子供に言い聞かせるような声音を使い始めた。

 

「私のものが汚れるなら、まだ許してやろうかなと思ってたんだよ。でもね、お前が軽率に汚したアレは、私の大切な大切な大切な人からのプレゼントだったんだ、わかる? それを汚されて怒らない奴がいないって、バカでもわかるよな? なぁ?」

 

「ご、ごめんな「ああ、謝って欲しいわけじゃないんだ」あがっ!?」

 

 ばきゃり、と顎の骨が強すぎる握力で粉砕され、頭蓋骨が軋み始めた。

 

「別に汚れは落とせばいいんだ、だからお前の謝罪も要らない。要するにこれは()()()()()簡単に言うと私刑と言うやつか?」

 

 男の体に巻きついていた髪の毛が蠢き、その先端を男の全身の血管に刺突する。体内を流れるパナケイアの組成を組み替え未知の毒素を生成、髪を構成する架空炭素繊維を通して浸潤、体内へ流し込む。

 

「ぃぎっ……あ゛ぅ……!?」

 

「全身に溶けた鉛を注ぎ込まれたみたいに痛いだろう? 実際それもやった事あるけど同じような反応だったよ」

 

「痛ぃ……は、はしゅ……」

 

「あ、それは無理。今投与した毒は全身の神経系に浸潤して残留する、つまりまぁ……死ぬまで痛がって貰うほかないな」

 

 顎を壊され、命乞いすら危うかった男が絶句する。全身の血管に無数の針が通っているかのような激痛がやまない中、のたうち回っていた。

 

(まぁ、嘘だが)

 

 実際は12時間程で消えるのだが、ここでは一応絶望感を演出する為の嘘をつく。実際は全身に激痛が走るだけで身体には一切の無害、安心安全な毒物である。

 

「で、お前の方だけど……どうしよ」

 

 片割れの女は一緒になって遊んでいた事に変わりはないが、別に自分でやったわけでも唆したわけでもないことはわかっているので処遇に困っていた。

 

「あ〜めんど、これでいいか」

 

 先ほどのように脳に髪の数本を差し込むと今度は多量の脳内物質に類似したものを流し込む。それは負の方向に感情をの振れ幅を酷く大きくする様に作用させるものだった。

 

「いや……私、なんてこと……うぇ、ゔぉろ」

 

「あれ、ん〜? 効きすぎたかな……まぁ、反省してるみたいだしいいか」

 

 最後にのたうち回る男と床に嘔吐し死にそうになっている女の記憶領域を軽く電磁パルスで混線させこの十数分の記憶を消す。一応、男の携帯を使い救急車を呼んでおくが石楠は特にその後の生死には興味がなかった。

 そうして最低限の証拠隠滅を施し、周辺の人間に見られぬよう立ち去りバイクの元へ戻る。

 吹き付けられたカラースプレーは体内パナケイアを塗装を溶かさないような性質を持った溶剤に変化させて噴霧、近くで買った雑巾で拭き取った。

 

「神様お手製の獣が洗剤吹き付けてバイク磨いてるって知ったらフィーネめちゃくちゃ笑うだろうな……」

 

 独り言を呟くと石楠はバイクに跨り、今頃フィーネと雪音、そして最近増えた化物見習い三人衆が待っている今のセーフハウスへ向かった。

 




「本日のニュースです。○○市にて○○日正午、男女二人が意識不明の重体で発見されました。現在命に別状はありませんとのことです。家のドアは破壊されており、なんらかの事件性があると見て警察は調査しています」

雪音「だってよ」

石楠「いや〜怖いね最近の治安は」
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