流れゆく世界で、愛を謳う獣   作:鴉の子

8 / 15
ノーブルレッドをいじってたら長くなったのでその1です。
作者はノーブルレッド大好きだよ!ミラアルクが一番好き、リアクション良さそうだからね。


6話 ノーブルレッドの受難 その1

 六話

 

 ちょっとした人助けをした数日後、石楠は風鳴家の私有地の山林深くでノーブルレッドの3人と共にいた。

 

「はい、では昨日の施術で成り損ないから化け物初心者になったお前達に指導を開始しまーす」

 

 ヴァネッサは紫、エルザとミラアルクは赤の三本線のジャージ、いわゆる芋ジャーを着せられて石南の前に立たされている。

 

「…………なんでジャージでなんだぜ?」

 

「そりゃお前“先生”と“生徒”ならジャージと相場が決まってるだろう。あ、そっかお前らそういうのも知らんか、すまんすまん」

 

 同じく小豆色のジャージ姿でケラケラ笑いながら準備運動をしている石楠、後ろには何故か忙しいはずの風鳴訃堂が作務衣姿で木刀を持ち仁王立ちしている。

 なんとも言えない奇妙な光景にノーブルレッドの3人は共に“帰っていい?”という思いを一つにしていた。

 

「む、そこのヴァンパイア(仮)! 今帰りたいとか思ったろうが無駄だ。お前達の首に埋め込まれた特殊チップにより、逃亡した場合全身が面白おかしい色になって、その上変顔晒しながら痙攣する羽目になるぞ」

 

「何故そんな無駄に残酷な所業を!? 爆発とかじゃないんだぜ!?」

 

「折角連れてきた後輩を死なすのは可哀想だろ? でも一応首輪は必要となったので〜じゃあ折角だから楽しいことにしてやろうかと」

 

「「「私達は全然楽しくない(わよ)(んだぜ)(であります)!?」」」

 

「お〜いいツッコミだ、やはり新鮮味があると違うな。最近雪音のやつは塩対応でつまらんし。あ、ちなみに色が変わるのは嘘だ、変顔で痙攣するのは本当」

 

「そこじゃないんだぜ!?」

 

「ではこれからやることを説明するぞー」

 

 ぜぇはぁとツッコミが追いつかなくなり若干疲弊しているノーブルレッドの3人を無視して石楠は話を進める。木刀を素振りして剣圧で大岩を叩き斬っている風鳴訃堂に声を掛け、素振りをやめ横にやって来た訃堂と肩を組み、満面の笑顔で宣言した。

 

「私と訃堂の二人が手加減しながらちょっと殺す気で追いかけるので、全力で逃げるだけ。簡単だろ?」

 

「うむ、ちなみに真剣は使わん。この木刀と素手のみという条件をつけておく、死ぬ気で励むべし!」

 

 人間辞めている化け物と、真正の化け物二人に追いかけられるという苦行としか思えない内容に顔を蒼ざめさせながらヴァネッサは当然の疑問を問うた。

 

「……あの、死なないかしら?」

 

「大丈夫だ、今のお前達なら首から上さえ無事なら生き残る」

 

「何も安心できないのでありますが!?」

 

「殺す気か!?」

 

「シャラッ〜プ! そういう“死ぬんじゃないの〜? ”とか“安全第一に”みたいな考えが適用される生き物じゃないことを叩き込むというのが今回の趣旨です。あと今口ごたえした奴は全員今日の夕飯を昨日雪音が失敗したシャバシャバで絶妙に美味しくないシチューに変えてやるからそのつもりで」

 

 問答無用で始まる地獄のブートキャンプ、ノーブルレッドに明日は来るのか。3人がそんな不安に苛まれながらも、無慈悲に準備は進んでいく。全員に配られる時計、そこにはあらかじめ5時間というタイマーが設定されており、それが鳴るまでは何がなんでも逃げ続けなければいけない。

 

「範囲はこの山一帯、GPS見れば範囲は分かるからよく見ておくこと。あと最初の30分私たち二人は動かない、その間に好きに逃げるなり作戦を立てるなりするといい。よし、始め」

 

 パンパンと手を叩くと、全速力で逃げ出すノーブルレッド。石楠は必死の形相で逃げているのを滑稽に感じ、ニヤニヤと笑いながらそれを眺める。

 

「さて、奴らどう出ると思う? 若旦那」

 

「やめよ、若旦那という歳でもあるまい。ふむ、彼奴ら程度の力ならば、手前の山の尾根を越えて向こうの山に陣取る……といった所か」

 

「ま、上を取ってくるだろうな。煙草いるか?」

 

「いらぬ、翼にいい加減止めよと釘を刺されてな」

 

「────なんだお前、話したのか」

 

 きょとんとして訃堂の方を向く石楠、苦笑するこの国で最も化け物に近しい男を怪訝そうな目で見遣った。

 

「お主に言われた後すぐにな。何、拙速を尊んだまでよ」

 

「ふーん、で、何話したんだ?」

 

「他愛のないことばかりよ、身体の調子はどうだ、友達は出来たかだの聞いておったら逆にこちらの心配をしおったわ、『いいお年なのですから煙草はいい加減……』とは! ……いやはや子供が大きくなるのは早い、娘は初めてだからか余計に喃」

 

「ふっ……ははははは、お前の身体の心配? あの子そんなこと言ったのか! くっ、ははは!」

 

 世界でも屈指の化け物相手に言うこと欠いて“煙草やめろ”と言った少女の姿を思い浮かべて石楠は笑い続けている。

 

「あー笑った、久しぶりに笑った。で、煙草やめたと? お前も人の親だね、良いことだよ」

 

「娘に言われれば仕方あるまいよ、お主こそ雪音嬢とはどうなのだ」

 

「どうって、あの跳ねっ返り娘は相変わらずだよ。もう母親と父親に全然似てない。この前二人のコンサート連れてった帰りにみんなでフレンチ行ったら、食べ物溢すわ間違えてワイン飲むんでベロベロになるわの大惨事」

 

 苦笑しながら煙草をふかし、石楠は楽しげに話す。

 

「……お主の責任ではないか?」

 

「違いますーフィーネの責任ですー」

 

「典型的な責任転嫁だ喃。まぁ、お主らあの娘がいなかったら一生部屋を片付けんからの、苦労しておる……」

 

「いや私らに育児は無理、もうはっきりわかった事実だこれは……最近あいつも忙しそうだしな」

 

 煙草の煙と共に深い溜息を吐き出すと手元の時計を見やる。残り15分といったところか、山の稜線から感じる気配を捉え続けながら欠伸をする。すると横で素振りを続けながら会話をしていた訃堂が、ピタリとそれを止めている事に気がつき視線を向ける。

 

「……おお、怖い顔。残念ながら忙しい理由はしらないよ、必要なこと以外は聞かないことにしてるからな」

 

「あの女が忙しいととなれば企み以外あるまい、幾らお主といえど我が国に害なすならばその企みは潰さねばならぬが」

 

 険しい顔でこちらを見つめてくる訃堂に胡散臭い笑顔を返して石楠はふいと空を見上げる。

 

「今更だなぁ、ま、その時までは精々頑張ってくれよ? 私はあの子(フィーネ)の味方しなくちゃいけないからさ。止めるなら、私の知らないところでやってくれ」

 

「お主なぁ……まぁ良い、そろそろ時間じゃ」

 

「っともうか。さて、軽く揉んでやりますか」

 

「軽く“揉んで”やっても構わんと?」

 

 ニヤリと軽薄な笑みを深々とシワの浮かんだ顔に浮かべる訃堂、その表情はどこか若々しさを感じるもの……要するにスケベジジイの顔であった。

 

「……軽度のセクハラまでなら許してやるよエロガキ」

 

 ニタリと笑った直後、石楠の全身は黒い泥の様なものに包まれる、が、常の戦闘形態の裂口を開いたのっぺらぼうではなく、顔だけは生身の姿で全身に有機的な装甲を展開する。

 

「あ、捕まえた数で負けた方が罰ゲームな。お前のセラーの日本酒で一番高いの貰うから」

 

「ならば儂はお前の家の棚にあるコニャックで一番高価なものを頂こうか」

 

「よしきた、今度暇な時教えろ。負けた方二人で空けるぞ」

 

呵呵呵(かかか)! いいだろう、では先に行かせて貰おう!」

 

 言うが早いか、目の前から消えていく訃堂を笑顔で見送ると石楠は笑みを浮かべながらゆっくりと歩き始めた。

 

 所変わってノーブルレッドの三人は現在山の山頂付近にて肩を組み作戦会議を行なっていた。三人の胸の内にある“ぶっちゃけ作戦とか立てても無理なんじゃね? ”という思いを押し留めどうにかこの虐めを切り抜けようという算段を立てる。

 

「いい、まともに戦ったら100回やって100回負けるわ。どうにか時間ギリギリまで逃げるのよ」

 

「そりゃあ賛成だけどよ……相手が悪すぎるんだぜ」

 

「罠を張るというのはどうでありますか?」

 

「罠って言っても何を……」

 

 ジャージ着せられて最低限の物(エルザのテールユニットなど)だけを持たされ山に放り出されただけの三人に装備などあるはずもなく、あるとすれば自らの能力のみ……というところに思考が及んだところで、あ、と三人が同時に声を上げる。

 

「私達、もう別に能力使うのに消耗気にしなくてもいいのね……」

 

「むぅ、実感ないんだぜ」

 

「では! わたくしめにいい考えがあるのでございます!」

 

 ごにょごにょと相談を始める三人。すでに15分が経過、残り時間はわずかである二人がこちらにたどり着く時間を鑑みても用意されている時間はおよそ20分程度。用意できる罠もできるだけ簡素でなおかつ時間稼ぎに決定的な効果を持つ必要がある。思案、構築、逃げるためという消極的なそれでも本人たちにとっては真剣(マジ)なのである。15分間の決死の準備ののち完成した領域に閉じこもる。相手側は強者故確実に踏み込んでくれる、と判断しての待ち伏せである。

 息を潜め、地に這い、相手を待つ。ざく、ざくと土を踏み締める音が響く、しかし焦らず、三人は好機を待つ。

 罠の張り巡らされた空間に敵が入るまで、耐える。たとえ猛烈な剣気に晒され、今すぐにでも逃げ出したくなるような気持ちを抑えて、遂にその時がやって来る。

 

「ミラアルクちゃん! いま!」

 

「おうともなんだぜ!」

 

 虚空から聞こえる声、霧と化していたミラアルクの肉体が極小の繊維となって木々の合間を走る。吸血鬼としての性能を完全に発揮したミラアルクはその身体分の質量、自在の形態変化を可能としている。その力で()()()()()()使()()()糸による結界を形成、並の人間なら鋼鉄を切断するほどの鋭さを持ったその罠に踏み込んだのは木刀を片手にした訃堂であった。しかし動けば裂かれるという状況においてこの男はいたって冷静であった。

 

(即席だが、人間の肉体なら確実に傷つき、少なくとも拘束は出来るはずなんだぜ……! 多分……きっと……!)

 

 微妙に確信の持てないまま、三等身程の姿に縮んだミラアルクが空中で様子を伺う。そして眼下で糸に囲まれた訃堂がニヤリと笑うのを見て若干の諦めと共に失敗を悟った。

 

「ふん、この前化生に成ったにしては上出来だが……甘いわ!」

 

 最小限の踏み込みにより衝撃を発生させ、地面を揺らす。木々に張り巡らされた糸がその衝撃により僅かに撓んだその隙間を縫い、糸を足場に上空へと()()()()()()のだ。

 

「━━━━インチキなんだぜ!?」

 

 咄嗟に糸を霧の状態へと変化させ足場を消失させるがもう遅い、木刀による突きは裂帛の気迫をもってして打ち込まれ、ミラアルクの肉体は爆散する。

 

(マジで人間かこいつ!? だが、掛かったな!)

 

 飛散する肉体をどうにか再構成しながら、ミラアルクは内心でほくそ笑んだ。空中に躍り出た訃堂の体を肉体の半分を使い()()()()()()()で包み込む。

 

「食らいなさいっ!」

 

 そして、完全に無防備になった所へ光学迷彩によって隠れていたヴァネッサによる高密度のミサイル弾幕が襲いかかる。

 エルザが即席で考えた罠、地上に張り巡らせせた糸で動きを止めると思わせ、中空のミラアルクを囮にし、無防備になった相手を攻撃する2段の囮作戦であった。

 

「ぬぅ!」

 

 より高度に拡張された義体から繰り出されるミサイルの群れは一つ一つが対艦ミサイルと同等の威力を持つ。そしてそれらの弾頭を全て人体に対して最も有効的な焼夷弾に換装している。

 無論、それだけでどうにかなるという考えは既になく、良くて重傷を負わせる程度、最悪の場合何かしらの手段で突破される可能性は大いにあることをヴァネッサは理解していた。それ故に彼女のこの攻撃も後への布石に過ぎない。

 

「エルザ! 頼んだわよ!」

 

「━━━━任されたであります!」

 

 爆炎の中を4本の尾を生やした獣が疾走する。複数装備されたテールアタッチメント、様々な状況に対応できるようにと新たに増設されたそれを駆使して()()()()()

 ノーブルレッドの中でも空間戦闘能力が欠如していたエルザに施された強化改造、瞬間的に時空を歪ませ空間を掴む、異形の歩法であった。

 鋼鉄の顎、更なる改造により犠牲者を磨り潰す回転ノコギリが内部に無数に仕込まれた大顎が爆炎を切り裂き、訃堂の身へ襲い掛かるその瞬間。

 

「────甘いのう」

 

「──は?」

 

 4本のテールアタッチメント全てが瞬時に切り払われ、軌道を逸らされる。そして目の前には作務衣が少し焦げただけの訃堂が拳をワンインチパンチの要領でエルザの正中に叩き込む。

 

「────ひぎっ!?」

 

 肺の空気を叩き出され、無防備になったエルザを蹴り飛ばし、その勢いで地上のヴァネッサに訃堂は襲い掛かる。

 

「憤ッ!」

 

 重力と化物じみた膂力が合わさった一撃をヴァネッサはどうにか回避、即座にその場から離脱、空へ飛び上がる。

 

「なんて出鱈目……!」

 

呵呵呵呵(かかかか)! 焼夷弾の対策など、大昔に済ませておるわ。肺に炎が入らねば安泰よ!」

 

「意味不明よ!?」

 

 こうして用意していた手札を全て切り、ノーブルレッドは風鳴訃堂と正面切って戦う羽目となった。

 

 ────そして、その光景を少し離れた場所から眺めているものが一人。

 

「んふっ、めっちゃ頑張ってて笑える。んー……まだまだ面白くなるか? ……よし! 久しぶりにあれやろ!」

 

 軽く息を吸い、足でトントンと地面を叩き軽く背伸びをする。数秒後、石楠の腹部が急速に膨れ上がる。

 

「おぇぶっ!? やべやべやべ作りすぎたおぇっ」

 

 薄いピンクの口紅を手につかないように口を押さえながら石楠はうずくまる。さながら夜の街で見かけるような酔っ払いのような姿だが、その実態はそんなものではない、悍ましいものである。

 先程膨らんだ腹の中に蠢いているものは食物、あるいは臓器ではなく、()()()()()()()()()()()

 

「おぇぇ、久しぶりに造ったから加減間違えた……失敗したらここ焼かないといけなくなるからな……危ない……」

 

 黒い液体を口の端から垂らして石楠は膨らんだ腹を抑えて、グッと力を込めそれを元の形に戻していく。そして2、3度押し込んで、完全に戻ったことを確認するとふぅ、ため息をついた。

 

「ではでは、ちょっかい掛けさせてもらうぞ、後輩?」

 

 石楠はゆっくりと口を開く、そこからはキチキチと硬質のものが擦り合わされるような音が鳴る。そして、口の端から節足動物の脚に似た黒いものが次々と飛び出し、体を伝ってぞろぞろと這い出す。その数はおよそ数千匹、足元の地面はこの異形の体で埋まり見えなくなるほどである。

 

「「「血vgsd#yw鳴tvsml殺機? ギチ! ちyqm%#ば!?! ん! mhw#dt?!」」」

 

「はいはい、落ち着けー」

 

 パンパンと手を鳴らして口から湧き出し、足元に群がる無数の異業に声をかける。蟋蟀(コオロギ)に似た節足動物のような見た目だが、体は兎ほどの大きさで全身は光を呑むような黒で染まり、ギチギチと不快な音を全身から鳴らし続けている。一見すると黒いだけの虫のようだが、口に当たる部分は細い触手が集まりグニグニと蠢いており、翅にあたる部分は硬質の金属のような光沢と鋭さを持つ。また蟋蟀では腹にあたる部分から本来あるはずのないもう一対の脚が生えているなど、極めて奇怪な外見だった。

 

「視覚と聴覚と触覚はある? ない奴はいる? あ、お前はだめか、こっち来な……よしよし直った」

 

 群れの中から数匹が石楠の手元に飛び、寄ってくる。彼女はそれを鼻歌混じりにぐちゃぐちゃと音を立てながら握り潰すと、パッと手を離す。そこには先程と変わらぬ姿の虫が存在していた。心なしか少し嬉しげに虫は跳ね回ると群れに戻っていく。

 

「じゃお前たちは全員ちょっと遠くの方で見える()()を襲ってな? バーっと行ってわーっと襲い掛かれ、あ、でも女の子3人は殺しちゃダメよ? わかった? ダメな奴はもっかい説明するけど」

 

「「「yqjdj58ゆm#:[njいvdqw#じvhmょ」」」

 

 群れは耳を劈くような大きく猥雑な声で返事をする。およそそれはまともな生命体の出すような音ではなかったが、石楠はその声に対して小さな子供をあやすような笑顔を見せる。

 

「よしよし、じゃ行ってらっしゃい。あ、訃堂は殺す気で行っても多分負けるから気にしなくていいぞ?」

 

「「「vm€#いt#xtpmu/&z#a殺ii!!」」」

 

「おー元気いっぱい、頑張れよー女の子は殺しちゃダメだからなー」

 

 異形の群れが唸りを上げて進む、蝗害の様な黒い嵐はそれとは異なり木々の群れを幾何学的な軌跡で掻い潜りながら山の山頂付近で争う四者の下へ近づいていく。

 

 

 一方その頃ノーブルレッドは、ミラアルクが接近戦を仕掛け、反撃で爆散している隙に残りが火器とテールアタッチメントによる遠距離攻撃をねじ込むという戦法でどうにか訃堂を抑え込んでいた。正確には、遊ばれているという状況を受け入れていた、というのが実情ではあったが、それでもタイムアップまでの時間稼ぎに成功していることに間違いはなかった。

 

「本当に人間かよっ!?」

 

「なんでガトリングガンを弾けるのよ……」

 

「────不味いであります、テールがもうボロボロで、わたくしめの継戦はもう……」

 

 両者無傷ではあるものの、全力で攻撃し続けその全てを捌かれているノーブルレッドと、最初の一撃以外は一切の攻撃を入れずに()()を続けていた訃堂とでは精神的疲労の度合いがあまりにも差があった。

 

「もう終わりか喃?」

 

 ニヤリと悪戯小僧のような笑みを浮かべた訃堂が空いた左手をワキワキとさせながらにじり寄る。

 

「…………すっごい嫌な予感がするんだぜ」

 

「奇遇ねミラアルクちゃん、私もよ……」

 

「うへぇという感じなのであります」

 

「いや何ちょっと触るくらいええじゃ────いかん、お主ら離れろ!」

 

 訃堂が咄嗟に山の麓の方向を向き、全力で木刀を振り下ろす。

 

「あのバカが、此奴らを殺す気か!」

 

 そして中空に生じるのは真空の刃、木々をすり抜け隣の山へまで抜けていく大気の空白が乱気流を巻き起こし、迫りくる異形の群れを叩き落とす。

 

 ────が、その程度で止まらない。

 

 地に落ちた群れはすぐさま体勢を戻し、また飛び上がる。時速400km、拳銃弾に匹敵するスピードで飛翔するそれらは突然の事態に驚き、隙を見せていたノーブルレッドへと襲い掛かった。

 

「へ、ちょっ……ガっ!? 痛っ……ひっ!?」

 

 まず最初にやられたのは前衛として最も訃堂の近くにいたミラアルク。高速で飛翔したそれの衝撃は軽く、一瞬拍子抜けしたが、貼りついたそれが触手を広げて腹に食らいついた痛みで思考が嫌悪と恐怖に染まる。

 

「っ゛う……離れ、ろっ!」

 

 ベリベリと肉の剥がれる音とともにソレは引き剥がされる。そして剥がされたその姿にミラアルクは絶句した。

 

 触手の塊を掻き分けた中、そこにあったのは()()()であった。

 

「btvatdtav##vadz(omh!!」

 

 ケタケタと人語を話すべき口から意味のわからない言語と笑い声を吐き出す異形、それはノーブルレッド全員の嫌悪感を抱かせるに十分なものだった。

 

「なんでありますか……これ……」

 

「────七岐だ、あれの分体のようなものよ。あれはラハムと呼んでいた」

 

『そのとおーり! 訃堂には懐かしいかな?』

 

 異形、ラハムの一匹から突然石楠の声が響く。

 

「お主、此奴らを殺す気か?」

 

『私がなんで可愛い後輩殺さなきゃならないのさー? あの子たちは死なない程度にって命令してるとも』

 

「…………儂は?」

 

『ノーカン♡頑張れ〜あ、このメッセージを伝えた個体は速やかに爆散します、気をつけてね?』

 

 その宣言通りにスピーカー代わりだった個体は爆発四散し黒い飛沫となってあたりに飛び散る。

 

「あやつ……ならば気が変わった。ノーブルレッドよ」

 

「はいであります!」

 

「あの馬鹿の差し金を全部潰すまでは手伝ってやろう、そのかわりここから逃げ出したら頭から叩き割る」

 

「「「えっ」」」

 

「気張れぃ!! さもなけば死ぬぞ!!」

 

「「「は、はいぃ(なんだぜ)(であります)!!」」」

 

 ────第二ラウンド開始♡────

 

 ふざけたニヤケ顔でそう宣言する女の姿が全員の脳裏に過り、心は一つとなる。

 

((((あの女許せねえ(であります)(んだぜ)(わ)))))

 

 

 




七岐先生メモ

・吸血鬼について

『吸血鬼な〜もうだいぶ減ったからなあいつら、一昔前にすげぇ増えたけど。7、80年くらい前にドイツで色々あってわらわら増えちゃってさ、もう大惨事。最終的にほぼ全員一人に“纏まっちゃったけど”、すごいぜ?当時の人口の70分の1が吸血鬼になってな、いやーもうてんやわんやよ、あれは死ぬほど面白かった」

・フランケンシュタインの怪物について

『フランケンシュタインの怪物?あーヴィクターのバカが作ったやつ?あの娘なー可愛いかったなー!ちょっと言動はアホっぽいんだけど凄く聡い子でね、今は北極圏でトナカイとフラフラしながら暮らしてるよ?グリーンランドとか行けば会えるんじゃない?』

・人狼について
『んー伝承じゃない元々の人狼ってのはな、空を走るんだ。霧の体に、不死の肉体、嵐の夜に現れる正真正銘の化け物……ま、吸血鬼にお株を奪われてからは大人しくなったがね。もう殆どいなくなっちゃった、幾らかの生き残りが黒い森の奥地の隠れ里とか、そこら辺の街に紛れ込んでたりしてるくらいかな」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。